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2019年6月 薬理学基本コース
70 気分は出店
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そして2日後、6月8日土曜日。
朝9時30分に阪急皆月市駅の改札前に向かった僕は早速彼女の姿を見つけた。
「おはよう、待った?」
「おはよ。うちもさっき着いたばっかやで」
普段のカナやんは地味な色合いのファッション(といっても高級そうなブランド)でまとめているが今日は清純さを感じさせる水色のワンピースを身にまとっていた。
4月に彼女の実家に行った時も着ていた気がするのでこれは男友達と二人で会う時の勝負服的なやつかも知れない。
「じゃあ行こうか。そんなに長々と見て回る所なさそうだけど、早めに切り上げたらカラオケでも行く?」
「うん、うちも後でどこか行きたいわ。また相談しよな」
カナやんはそう言うと僕と肩を並べて歩いた。
出店の飲食物はお祭り価格でそこそこ高いので、後で映画行きたいとか言われなければいいなあと思った。
火祭の会場は本部キャンパス敷地内の一画にある広場で、第二キャンパスのグラウンド全面を使用する大学祭と比べるとやはり規模が小さい。
1回生を対象とした新歓イベントは出店の撤収後に行われるしそれ以外の催しも特にないので、今日やることは出店をいくつか回って後輩と話すぐらいだった。
「おはよー、皆元気しとる?」
「あっ、生島先輩。来て頂いてありがとうございます」
カナやんの後に付いて陸上部の出店を覗きに行くとそこでは1回生がお好み焼きを作っていた。
「へえ、陸上部なのにたこ焼きじゃないんだ」
素朴な疑問を口にすると、
「たこ焼きは大学祭でうちが作るから、火祭ではお好み焼きを出してるねん」
陸上部特有の事情を教えてくれた。
実家が粉もんチェーンであるカナやんが作るたこ焼きは絶品だが入部したばかりの1回生では真似できないだろうし、大学祭だけの目玉商品という扱いにするのも上手い戦略だろう。
「でもお好み焼きの上手な作り方も生島先輩に教えて頂いたんですよ。具材の選び方も生地のレシピも先輩のアドバイス通りに作るだけですごく美味しくなったんです」
「凄いね、カナやんのおかげで大人気だ」
傍にいたちょうど手が空いているらしい1回生女子が僕に事情を教えてくれた。
今は出店の裏から1回生に話しかけているが、表の方を見ると本学学生や制服を着た皆月中高の生徒が列を作っていた。
「ところでそちらの方は?」
1回生女子は興味津々といった様子で僕のプロフィールを尋ねた。
「この子はうちの同級生の白神君。部活はちゃうけど学生研究仲間やねん」
「そうなんですね。あっ、もしかして……いや何でもないです」
4月末にカナやんを泣かせた噂は1回生にも広まっていたのか、1回生女子は何かを言いかけて慌てて口をつぐんだ。
「カナやんは優しくて真面目な女の子だから後輩にもそうだと思うよ。また大学祭では助けてあげてね」
「もちろんです! あの、良かったら後で買っていって貰えません?」
予想通りのお願いをされて僕は当然のように頷いた。
それから出店の表に回ってカナやんと1つずつお好み焼きを買い、後は剣道部のポップコーン(2人でシェア)、林君つながりでラグビー部の焼きそば、ヤミ子先輩と柳沢君つながりで写真部のラムネ(飲み物の方)をそれぞれ買った。
1回生が少ないからか壬生川さんの女子バスケ部、剖良先輩の弓道部、マレー先輩の文芸研究会は出店を開いていなかった。
「お疲れ。もう回る所はないかな?」
友達や研究医養成コース生の先輩方のいる部活はほとんど回り終えて、僕らは建物の壁によりかかってラムネを飲んでいた。
「せやね。後は……あっ、ヤッ君の東医研がまだやわ。多分今日はパンケーキ売ってるはず」
事前にある程度リサーチしていたのか、カナやんは東医研の出店について把握していた。
「ちょうど最後のデザートになるし、行ってみる?」
「うん、うちもそれぐらいで丁度ええわ。よろしく」
ラムネを飲み干すと僕らは瓶を所定のごみ捨て場に捨ててから東医研の出店へと歩いていった。
その途中、僕らは真っ黒な学ランを着た高校生らしきグループが広場の真ん中に屯しているのを目にした。
「こんなちっちゃい大学の学園祭やけど、食いもんの質は中々やな!」
「まあ確かになあ。さっきから食ってたら眠なってきたわ」
4名の男子高校生は広場の中央にヤンキー座りして大声で話しており、内1名に至っては言葉の通り広場に寝転がり始めた。
学外の人が来るのは勝手なのだが両側に出店が並んでいるため狭くなっている広場の中央を占拠されると迷惑だし、何よりあまりガラがいい高校生には見えない。
「ちょっとあんたらな、むぐぐ」
「カナやん、やめといた方がいい」
脊髄反射のごとく高校生を注意しようとしたカナやんに、僕は咄嗟に口を塞いでその場を離れた。
そそくさと歩いて手近な建物の裏まで来ると僕はカナやんを解放した。
「はあ、はあ、どしたん白神君」
突然口を塞がれ連行されたからかカナやんは顔を赤くして聞いてきた。
「ああいう人をちゃんと注意できるのは偉いけど、カナやんみたいな女の子が危ない思いをする必要なんてない。今すぐラグビー部を呼んで教務課の人にも通報しに行くからここで待ってて。絶対勝手に注意しに行っちゃ駄目だよ」
つとめて冷静にそう伝えると、
「……うん。ありがと、白神君」
カナやんは少し落ち着いた表情で答えてくれた。
朝9時30分に阪急皆月市駅の改札前に向かった僕は早速彼女の姿を見つけた。
「おはよう、待った?」
「おはよ。うちもさっき着いたばっかやで」
普段のカナやんは地味な色合いのファッション(といっても高級そうなブランド)でまとめているが今日は清純さを感じさせる水色のワンピースを身にまとっていた。
4月に彼女の実家に行った時も着ていた気がするのでこれは男友達と二人で会う時の勝負服的なやつかも知れない。
「じゃあ行こうか。そんなに長々と見て回る所なさそうだけど、早めに切り上げたらカラオケでも行く?」
「うん、うちも後でどこか行きたいわ。また相談しよな」
カナやんはそう言うと僕と肩を並べて歩いた。
出店の飲食物はお祭り価格でそこそこ高いので、後で映画行きたいとか言われなければいいなあと思った。
火祭の会場は本部キャンパス敷地内の一画にある広場で、第二キャンパスのグラウンド全面を使用する大学祭と比べるとやはり規模が小さい。
1回生を対象とした新歓イベントは出店の撤収後に行われるしそれ以外の催しも特にないので、今日やることは出店をいくつか回って後輩と話すぐらいだった。
「おはよー、皆元気しとる?」
「あっ、生島先輩。来て頂いてありがとうございます」
カナやんの後に付いて陸上部の出店を覗きに行くとそこでは1回生がお好み焼きを作っていた。
「へえ、陸上部なのにたこ焼きじゃないんだ」
素朴な疑問を口にすると、
「たこ焼きは大学祭でうちが作るから、火祭ではお好み焼きを出してるねん」
陸上部特有の事情を教えてくれた。
実家が粉もんチェーンであるカナやんが作るたこ焼きは絶品だが入部したばかりの1回生では真似できないだろうし、大学祭だけの目玉商品という扱いにするのも上手い戦略だろう。
「でもお好み焼きの上手な作り方も生島先輩に教えて頂いたんですよ。具材の選び方も生地のレシピも先輩のアドバイス通りに作るだけですごく美味しくなったんです」
「凄いね、カナやんのおかげで大人気だ」
傍にいたちょうど手が空いているらしい1回生女子が僕に事情を教えてくれた。
今は出店の裏から1回生に話しかけているが、表の方を見ると本学学生や制服を着た皆月中高の生徒が列を作っていた。
「ところでそちらの方は?」
1回生女子は興味津々といった様子で僕のプロフィールを尋ねた。
「この子はうちの同級生の白神君。部活はちゃうけど学生研究仲間やねん」
「そうなんですね。あっ、もしかして……いや何でもないです」
4月末にカナやんを泣かせた噂は1回生にも広まっていたのか、1回生女子は何かを言いかけて慌てて口をつぐんだ。
「カナやんは優しくて真面目な女の子だから後輩にもそうだと思うよ。また大学祭では助けてあげてね」
「もちろんです! あの、良かったら後で買っていって貰えません?」
予想通りのお願いをされて僕は当然のように頷いた。
それから出店の表に回ってカナやんと1つずつお好み焼きを買い、後は剣道部のポップコーン(2人でシェア)、林君つながりでラグビー部の焼きそば、ヤミ子先輩と柳沢君つながりで写真部のラムネ(飲み物の方)をそれぞれ買った。
1回生が少ないからか壬生川さんの女子バスケ部、剖良先輩の弓道部、マレー先輩の文芸研究会は出店を開いていなかった。
「お疲れ。もう回る所はないかな?」
友達や研究医養成コース生の先輩方のいる部活はほとんど回り終えて、僕らは建物の壁によりかかってラムネを飲んでいた。
「せやね。後は……あっ、ヤッ君の東医研がまだやわ。多分今日はパンケーキ売ってるはず」
事前にある程度リサーチしていたのか、カナやんは東医研の出店について把握していた。
「ちょうど最後のデザートになるし、行ってみる?」
「うん、うちもそれぐらいで丁度ええわ。よろしく」
ラムネを飲み干すと僕らは瓶を所定のごみ捨て場に捨ててから東医研の出店へと歩いていった。
その途中、僕らは真っ黒な学ランを着た高校生らしきグループが広場の真ん中に屯しているのを目にした。
「こんなちっちゃい大学の学園祭やけど、食いもんの質は中々やな!」
「まあ確かになあ。さっきから食ってたら眠なってきたわ」
4名の男子高校生は広場の中央にヤンキー座りして大声で話しており、内1名に至っては言葉の通り広場に寝転がり始めた。
学外の人が来るのは勝手なのだが両側に出店が並んでいるため狭くなっている広場の中央を占拠されると迷惑だし、何よりあまりガラがいい高校生には見えない。
「ちょっとあんたらな、むぐぐ」
「カナやん、やめといた方がいい」
脊髄反射のごとく高校生を注意しようとしたカナやんに、僕は咄嗟に口を塞いでその場を離れた。
そそくさと歩いて手近な建物の裏まで来ると僕はカナやんを解放した。
「はあ、はあ、どしたん白神君」
突然口を塞がれ連行されたからかカナやんは顔を赤くして聞いてきた。
「ああいう人をちゃんと注意できるのは偉いけど、カナやんみたいな女の子が危ない思いをする必要なんてない。今すぐラグビー部を呼んで教務課の人にも通報しに行くからここで待ってて。絶対勝手に注意しに行っちゃ駄目だよ」
つとめて冷静にそう伝えると、
「……うん。ありがと、白神君」
カナやんは少し落ち着いた表情で答えてくれた。
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