44 / 338
2019年5月 生理学基本コース
44 気分は愛媛県松山市
しおりを挟む
「まあ、そろそろメインの話題に入りましょうか。……えーと、何から話せばいい?」
こっちが聞きたい。
と言いたくなる気持ちを抑えて僕はとりあえず最も気になる話題を切り出した。
「あのー、壬生川さんはどうして僕が通ってた中学校を知ってるの? 友達にも出身中学の名前までは教えてないし、あの頃も剣道部員だったとか彼女はいなかったとか一体誰に聞いたの?」
恐る恐る尋ねると、彼女は軽くため息をついてから口を開いた。
「面倒だから言うけど、あたしと中学校で同級生だったの覚えてない? 壬生川なんて名字は珍しいしファッションは変わったけど整形とかはしてないから、そのうち気づいてくれると思ってたんだけど」
「ええっ、そうなの!?」
かなり本気で驚いた。
壬生川さんというと京都府内の女子校出身のゴージャスなお嬢様で、県庁所在地といっても四国の愛媛県松山市という田舎出身の僕とは住む世界が違うと思っていた。
「あたしはあんたと同じ松山で生まれて中学校卒業まではそこで育ったんだけど、高校教師だったお父さんが大阪の予備校で働くことになったから一家で枚方に引っ越したの。お父さんは幸い人気講師になって海内塾の大阪校で数学を教えてる。まあ、あんたは知らないかもね」
「そうなんだ。海内塾の大阪校っていうとかなり有名な先生なんだね」
大手予備校である海内塾には参考書と模試以外で縁がなかったので詳しくは知らないが、同級生の中には壬生川さんのお父さんに数学を教わった人もいるのかも知れない。
「中学時代の同級生と大阪の単科医大で再会するなんて思わなかったから入学式であんたの名前を聞いた時は驚いたわ。ずっとああいうファッションにしてたから気づかれなかったのかなと思って昔みたいな格好に戻してみたけど、無駄だったみたいね」
「うん。色々ごめん……」
普通に事情を話せばよかったのではとも思うが、彼女には彼女で僕から気づいて欲しい気持ちがあったのだろう。
「今の格好も十分似合ってると思うけど、壬生川さんはどうしていつもゴージャスなお嬢様みたいにしてるの? もしかして大学デビュー?」
地方から都会の大学に出てきたことをきっかけにファッションを一新する、いわゆる大学デビューをする学生は男女を問わずたまに見かけるので壬生川さんもその一人なのではないかと考えた。
「大学デビューじゃなくて高校デビュー。引っ越してきたのと同時に高校受験して京都の立志社女子高校に入ったんだけど、あそこは幼稚園から大学まで一貫のお嬢様学校だから最初は全然友達に馴染めなくて。ファッションを友達に合わせて美容院とかエステにも通ってゴージャスな格好にしたら、どうにか浮かないようになったの。ただ、大学生になってからもそのままになっちゃって」
「エスカレーター式の学校に途中から入るのも色々大変なんだね……」
僕は小中高大と一度も内部進学をしたことがないので分からないが、一度できた友達の輪や学年の雰囲気に部外者が割り込むのには苦労があるのだろう。
「僕は父親が開業医で母親も薬剤師だったから医学部を目指したけど、話を聞く限り壬生川さんのご両親は医療職じゃないよね。昔教えて貰ってたら申し訳ないけど、もしかしてお祖父さんやお祖母さんがお医者さんだったとか?」
壬生川さんのお父さんは紛れもなく教師だし夫の転職に伴って一緒に引っ越せるということはお母さんも医師や歯科医師、あるいは薬局を経営する薬剤師ではないのではと推測した。
医療職でも看護師さんや臨床検査技師さんなら職場を変えやすいが、その場合は娘をあえて(二浪してまで)医学部医学科に行かせる理由がないように思った。
「もっともな疑問だと思うけど、母方のおじいちゃんは伊予大学の数学科の教員でおばあちゃんは中学校の理科の先生。父方の祖父母も医療関係者じゃないしお母さんはピアノ教室の先生。聞いての通り教師だらけの家系で、お医者さんは遠い親戚にしかいないそうよ。……それなのに、あたしがここに来た理由はね」
壬生川さんはそう言うとウーロン茶(50%)が入ったコップをテーブルにドンと叩きつけ、
「お父さんの見栄と、あたしの意地よ」
力強く言った。
こっちが聞きたい。
と言いたくなる気持ちを抑えて僕はとりあえず最も気になる話題を切り出した。
「あのー、壬生川さんはどうして僕が通ってた中学校を知ってるの? 友達にも出身中学の名前までは教えてないし、あの頃も剣道部員だったとか彼女はいなかったとか一体誰に聞いたの?」
恐る恐る尋ねると、彼女は軽くため息をついてから口を開いた。
「面倒だから言うけど、あたしと中学校で同級生だったの覚えてない? 壬生川なんて名字は珍しいしファッションは変わったけど整形とかはしてないから、そのうち気づいてくれると思ってたんだけど」
「ええっ、そうなの!?」
かなり本気で驚いた。
壬生川さんというと京都府内の女子校出身のゴージャスなお嬢様で、県庁所在地といっても四国の愛媛県松山市という田舎出身の僕とは住む世界が違うと思っていた。
「あたしはあんたと同じ松山で生まれて中学校卒業まではそこで育ったんだけど、高校教師だったお父さんが大阪の予備校で働くことになったから一家で枚方に引っ越したの。お父さんは幸い人気講師になって海内塾の大阪校で数学を教えてる。まあ、あんたは知らないかもね」
「そうなんだ。海内塾の大阪校っていうとかなり有名な先生なんだね」
大手予備校である海内塾には参考書と模試以外で縁がなかったので詳しくは知らないが、同級生の中には壬生川さんのお父さんに数学を教わった人もいるのかも知れない。
「中学時代の同級生と大阪の単科医大で再会するなんて思わなかったから入学式であんたの名前を聞いた時は驚いたわ。ずっとああいうファッションにしてたから気づかれなかったのかなと思って昔みたいな格好に戻してみたけど、無駄だったみたいね」
「うん。色々ごめん……」
普通に事情を話せばよかったのではとも思うが、彼女には彼女で僕から気づいて欲しい気持ちがあったのだろう。
「今の格好も十分似合ってると思うけど、壬生川さんはどうしていつもゴージャスなお嬢様みたいにしてるの? もしかして大学デビュー?」
地方から都会の大学に出てきたことをきっかけにファッションを一新する、いわゆる大学デビューをする学生は男女を問わずたまに見かけるので壬生川さんもその一人なのではないかと考えた。
「大学デビューじゃなくて高校デビュー。引っ越してきたのと同時に高校受験して京都の立志社女子高校に入ったんだけど、あそこは幼稚園から大学まで一貫のお嬢様学校だから最初は全然友達に馴染めなくて。ファッションを友達に合わせて美容院とかエステにも通ってゴージャスな格好にしたら、どうにか浮かないようになったの。ただ、大学生になってからもそのままになっちゃって」
「エスカレーター式の学校に途中から入るのも色々大変なんだね……」
僕は小中高大と一度も内部進学をしたことがないので分からないが、一度できた友達の輪や学年の雰囲気に部外者が割り込むのには苦労があるのだろう。
「僕は父親が開業医で母親も薬剤師だったから医学部を目指したけど、話を聞く限り壬生川さんのご両親は医療職じゃないよね。昔教えて貰ってたら申し訳ないけど、もしかしてお祖父さんやお祖母さんがお医者さんだったとか?」
壬生川さんのお父さんは紛れもなく教師だし夫の転職に伴って一緒に引っ越せるということはお母さんも医師や歯科医師、あるいは薬局を経営する薬剤師ではないのではと推測した。
医療職でも看護師さんや臨床検査技師さんなら職場を変えやすいが、その場合は娘をあえて(二浪してまで)医学部医学科に行かせる理由がないように思った。
「もっともな疑問だと思うけど、母方のおじいちゃんは伊予大学の数学科の教員でおばあちゃんは中学校の理科の先生。父方の祖父母も医療関係者じゃないしお母さんはピアノ教室の先生。聞いての通り教師だらけの家系で、お医者さんは遠い親戚にしかいないそうよ。……それなのに、あたしがここに来た理由はね」
壬生川さんはそう言うとウーロン茶(50%)が入ったコップをテーブルにドンと叩きつけ、
「お父さんの見栄と、あたしの意地よ」
力強く言った。
0
お気に入りに追加
27
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる