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2019年3月 解剖学基本コース
8 さっちゃんの免疫染色教室 基礎知識編
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たんたかたかたかたんたんたん♪
たんたかたかたかたんたんたん♪
解剖学ガール、さっちゃんの免疫染色教室です。
今年で22歳というと4年制大学なら卒業間近ですが、多浪生が多い医学部医学科ではこれでもガールと呼ばれる年齢です。
免疫染色ってどういう染色法なの? 免疫ってどういう意味? そもそも何を染めるの?
まずはこういった疑問にお答えしてから、免疫染色のやり方を丁寧に解説していきます。
免疫染色は解剖学、病理学をはじめとする様々な医学研究で用いられている染色法で、組織の形態観察のために用いられるHE染色(ヘマトキシリン・エオジン染色)と並んで最もメジャーな染色法です。
大前提として、医学研究における染色とはヒトやマウスなどの生物の組織を様々な色に染めることを指します。
医学研究は結局のところヒトの利益のためにあるので対象となるのは哺乳類の動物が多いですが、動物以外にも細菌を染めるグラム染色や真菌を染めるグロコット染色などがあります。
ヒトやマウスの身体は無色透明ではありませんが、プレパラートのスライドグラス上に敷かれた組織(標本)は数~数十マイクロメートル単位の厚さに薄切されているので顕微鏡で見てもほとんど無色透明にしか見えません。
マイクロメートルはミリメートルの1000分の1の長さなので、とても薄く切られているということが分かると思います。
無色透明の標本を様々な色に染めることで初めて顕微鏡による詳細な観察が可能となるのです。
ちなみにプレパラートは高校までの理科の実験でもよく用いられますが、医学研究に用いられるプレパラートの作製にはそこそこ細かい手順が必要になります。
これについて説明すると文字数が大変なことになるので今回は省略します。
一つだけ言っておくと、プレパラートは染色以前に作製するだけでも結構な手間がかかるのでこれを読んでいる医学生の皆さんは実習中に破損させないよう気を付けてください。
実習担当の先生にオタク趣味があれば即座に「プレパ! プレパ! 割れてバリバリ」と歌えば笑って貰えるかもですが、結局は怒られるので無駄です。
閑話休題。
それでは免疫染色の説明に入ります。
免疫染色とは「動物の生体内の免疫学的な仕組みを応用した染色」という意味で、HE染色のように免疫という試薬を用いる訳ではなくグラム染色のように免疫さんが発明した染色法という意味でもありません。
動物の身体には免疫という生体防御システムが備わっており、体外から侵入した病原体をある程度排除できるようになっています。
このシステムを一から解説すると文字数が(以下略)なのでやはり省略します。
免疫の成立に重要な生体物質として抗体というものがあり、その本体は免疫グロブリンという蛋白質です。
抗体は特定の物質に対してのみ結合する性質(抗原特異性)を持ち、抗体が結合する物質は抗原と呼ばれます。
そして免疫染色の発想は免疫というシステムのうち抗体と抗原の反応に着目したものです。
染色したい細胞の表面に抗体を結合させ、その抗体にさらに別の抗体を結合させ、それを特殊な試薬で発色させることでターゲットとなる細胞を染めるのです。
この場合は染色したい細胞の表面にある特定の物質が抗原に相当し、
特定の物質(=抗原)に結合する抗体 → 一次抗体
「特定の物質(=抗原)に結合する抗体」(=一次抗体)に結合する抗体 → 二次抗体
というように区別されます。
一次抗体は抗原に対する抗体であると同時に二次抗体に対する抗原でもあると言えます。
主に形態観察のために行われるHE染色では組織を構成するすべての細胞が一定のパターンに染め分けられますが、特定の種類の細胞だけを目立たせることはできません。
「膵臓ランゲルハンス島のβ細胞だけを染めたい」「腎臓の水輸送蛋白だけを染めたい」といった場合に免疫染色が有効になります。
今回は初心者へのオリエンテーションとして、細胞の増殖能を反映するマーカーである蛋白質「Ki-67」を染めてみます。
細胞増殖が盛んな大腸の上皮はKi-67でよく染まるので分かりやすいようにマウスの大腸のプレパラートを使います。
ここでは免疫染色の代表的な技法であるPolymer法を用いますが、実際には他にも様々な技法があります。
また、同じ技法でも内容の詳細は研究者によって異なるため私が説明する手順はあくまで一例に過ぎません。
必要になる試薬や備品から見ていきましょう。
試薬:
・一次抗体希釈液(ラビット由来Ki-67一次抗体)
・二次抗体試薬(マウス組織・ラビット一次抗体専用)
・キシレン
・純アルコール
・緩衝液(界面活性剤入り)
・緩衝液(界面活性剤なし)
・塩基性キレート剤水溶液
・過酸化水素加メタノール
・脂溶性発色剤
・退行性ヘマトキシリン
・塩酸アルコール
備品:
・ペーパータオル
・キムワイプ(紙製のウエス)
・染色瓶(多数)
・ピンセット
・各種のマイクロピペット
・マイクロピペット専用チップ(多数、使い捨て)
・プレパラート用バスケット
・湿潤箱
・水平器
・IH対応の圧力鍋
・IHクッキングヒーター
・浅めのバケツ
・ストップウォッチ
・光学顕微鏡
・蒸留水生成装置
・封入装置
頭が痛くなってきましたが、免疫染色では様々な種類の試薬と備品を使うことになります。
それでは満を持して免疫染色の手順を簡潔に説明していきます。
と言いたいのですが、免疫染色の説明だけで結構な文字数を消費してしまったので具体的な手順の説明は次回にします。
また会う日まで、ごきげんよう。
たんたかたかたかたんたんたん♪
解剖学ガール、さっちゃんの免疫染色教室です。
今年で22歳というと4年制大学なら卒業間近ですが、多浪生が多い医学部医学科ではこれでもガールと呼ばれる年齢です。
免疫染色ってどういう染色法なの? 免疫ってどういう意味? そもそも何を染めるの?
まずはこういった疑問にお答えしてから、免疫染色のやり方を丁寧に解説していきます。
免疫染色は解剖学、病理学をはじめとする様々な医学研究で用いられている染色法で、組織の形態観察のために用いられるHE染色(ヘマトキシリン・エオジン染色)と並んで最もメジャーな染色法です。
大前提として、医学研究における染色とはヒトやマウスなどの生物の組織を様々な色に染めることを指します。
医学研究は結局のところヒトの利益のためにあるので対象となるのは哺乳類の動物が多いですが、動物以外にも細菌を染めるグラム染色や真菌を染めるグロコット染色などがあります。
ヒトやマウスの身体は無色透明ではありませんが、プレパラートのスライドグラス上に敷かれた組織(標本)は数~数十マイクロメートル単位の厚さに薄切されているので顕微鏡で見てもほとんど無色透明にしか見えません。
マイクロメートルはミリメートルの1000分の1の長さなので、とても薄く切られているということが分かると思います。
無色透明の標本を様々な色に染めることで初めて顕微鏡による詳細な観察が可能となるのです。
ちなみにプレパラートは高校までの理科の実験でもよく用いられますが、医学研究に用いられるプレパラートの作製にはそこそこ細かい手順が必要になります。
これについて説明すると文字数が大変なことになるので今回は省略します。
一つだけ言っておくと、プレパラートは染色以前に作製するだけでも結構な手間がかかるのでこれを読んでいる医学生の皆さんは実習中に破損させないよう気を付けてください。
実習担当の先生にオタク趣味があれば即座に「プレパ! プレパ! 割れてバリバリ」と歌えば笑って貰えるかもですが、結局は怒られるので無駄です。
閑話休題。
それでは免疫染色の説明に入ります。
免疫染色とは「動物の生体内の免疫学的な仕組みを応用した染色」という意味で、HE染色のように免疫という試薬を用いる訳ではなくグラム染色のように免疫さんが発明した染色法という意味でもありません。
動物の身体には免疫という生体防御システムが備わっており、体外から侵入した病原体をある程度排除できるようになっています。
このシステムを一から解説すると文字数が(以下略)なのでやはり省略します。
免疫の成立に重要な生体物質として抗体というものがあり、その本体は免疫グロブリンという蛋白質です。
抗体は特定の物質に対してのみ結合する性質(抗原特異性)を持ち、抗体が結合する物質は抗原と呼ばれます。
そして免疫染色の発想は免疫というシステムのうち抗体と抗原の反応に着目したものです。
染色したい細胞の表面に抗体を結合させ、その抗体にさらに別の抗体を結合させ、それを特殊な試薬で発色させることでターゲットとなる細胞を染めるのです。
この場合は染色したい細胞の表面にある特定の物質が抗原に相当し、
特定の物質(=抗原)に結合する抗体 → 一次抗体
「特定の物質(=抗原)に結合する抗体」(=一次抗体)に結合する抗体 → 二次抗体
というように区別されます。
一次抗体は抗原に対する抗体であると同時に二次抗体に対する抗原でもあると言えます。
主に形態観察のために行われるHE染色では組織を構成するすべての細胞が一定のパターンに染め分けられますが、特定の種類の細胞だけを目立たせることはできません。
「膵臓ランゲルハンス島のβ細胞だけを染めたい」「腎臓の水輸送蛋白だけを染めたい」といった場合に免疫染色が有効になります。
今回は初心者へのオリエンテーションとして、細胞の増殖能を反映するマーカーである蛋白質「Ki-67」を染めてみます。
細胞増殖が盛んな大腸の上皮はKi-67でよく染まるので分かりやすいようにマウスの大腸のプレパラートを使います。
ここでは免疫染色の代表的な技法であるPolymer法を用いますが、実際には他にも様々な技法があります。
また、同じ技法でも内容の詳細は研究者によって異なるため私が説明する手順はあくまで一例に過ぎません。
必要になる試薬や備品から見ていきましょう。
試薬:
・一次抗体希釈液(ラビット由来Ki-67一次抗体)
・二次抗体試薬(マウス組織・ラビット一次抗体専用)
・キシレン
・純アルコール
・緩衝液(界面活性剤入り)
・緩衝液(界面活性剤なし)
・塩基性キレート剤水溶液
・過酸化水素加メタノール
・脂溶性発色剤
・退行性ヘマトキシリン
・塩酸アルコール
備品:
・ペーパータオル
・キムワイプ(紙製のウエス)
・染色瓶(多数)
・ピンセット
・各種のマイクロピペット
・マイクロピペット専用チップ(多数、使い捨て)
・プレパラート用バスケット
・湿潤箱
・水平器
・IH対応の圧力鍋
・IHクッキングヒーター
・浅めのバケツ
・ストップウォッチ
・光学顕微鏡
・蒸留水生成装置
・封入装置
頭が痛くなってきましたが、免疫染色では様々な種類の試薬と備品を使うことになります。
それでは満を持して免疫染色の手順を簡潔に説明していきます。
と言いたいのですが、免疫染色の説明だけで結構な文字数を消費してしまったので具体的な手順の説明は次回にします。
また会う日まで、ごきげんよう。
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