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僕の猫
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産まれたときに多分両親は気付いていた。
ニコラがアルファの中でも極めて強い部類のアルファであることを。
オメガの中でも自分でフェロモンを操ってアルファを傅かせるような「上位オメガ」などと呼ばれるタイプがあるのだが、アルファも生まれ持ったオーラのようなもので互いの強さを理解できる。
極めて強いアルファとして生まれたニコラにとっては、両親ですら近寄りがたい雰囲気を漂わせていた。相手が恐れているのが分かるからこそ敏感なニコラは両親すら近付けず、ただ一匹母親の飼っていた巨大なメインクーンのジェルマンだけを愛していた。
あまりにニコラのオーラが強すぎるので両親はニコラがオメガに恐れられて一生結婚もできなければ恋愛もできないのではないかと感じていた。相手の恐怖を敏感に感じ取るニコラは、自分を恐れる相手に心を許すことがない。
4歳で愛猫のジェルマンが死んでしまった後は、悲惨ともいえる結果となった。
それまではジェルマンがずっと側にいてくれたので食事もしていたし、眠ってもいたのだが、眠らない食べないようになったニコラは目も落ちくぼんで顔色も悪くなって、一時期は死を危ぶまれた。
点滴の針を細い手首に刺してどうにか栄養を取らせて両親は生き永らえさせようとしたが、本人に生きる意志がないものを生きさせることほど難しいことはない。
胃にチューブを通して栄養を摂取させるかと悩んでいたときに、両親が耳にしたのがあるオメガのことだった。アルファを好き勝手に食い散らしているオメガがいて、その実家が借金で倒産してそのオメガも闇のオークションにかけられて、男娼になるか臓器売買のブローカーに売られるかという状況。
両親は彼がいわゆる「上位オメガ」と呼ばれる発情期もフェロモンも操れる部類のオメガではないのかと考えていた。
極めて強いオーラを持つがために本能的に周囲に恐怖を抱かせてしまう幼いアルファと、発情期もフェロモンも操れるアルファよりも上位種と言われる「上位オメガ」、この二人ならばなんとかなるのではないか。
借金を全て肩代わりする形で、両親は偶然としては運命的な愛猫と同じジェルマンという名前のオメガをニコラの元へ送った。
初めて会った瞬間から、ニコラにはジェルマンが今まで周囲にいた人物とは違うことに気付いていた。幼いが故に制御しきれないアルファの強いオーラに気付いてもいないようなジェルマン。
亡くしてしまったこの世で一番愛していた愛猫のジェルマンが帰って来たかのようだった。
「僕の猫……逃がさない」
出会ったときから心は決まっていた。
両親がジェルマンとニコラの結婚を勧めるのも、年の差など関係なく、ただただジェルマンがニコラの強いオーラに耐えうる非常に希少なオメガだったからだ。
「僕の猫、愛してる。僕の腕に堕ちてきて」
15歳の誕生日を迎えてニコラは自分の部屋で願っていた。
単純にジェルマンを抱いて溺れさせるのは簡単だ。そうできる地位と財力がニコラにはあったし、ニコラの両親もそれを望んでくれていた。
それでも、自分から堕ちて来てくれなければ意味がない。
精通を迎えた12歳の日にも、ジェルマンを誘惑しつつも最後までは与える気はなかった。ジェルマンの手以外気持ち悪くて触れられないニコラにとっては、ジェルマンを逃してしまえば二度と自分が番を得られる機会はないのだろうと勘付いていた。
無邪気なまでにニコラを子どもとして大事にしてくれるジェルマンの全てを暴いて自分のものにしたくてたまらなかったことか。
ジェルマンが攫われた日には脳髄が焼けるかと思うくらい腹が立った。どれだけ強いアルファのオーラでこれだけ牽制していても、実際のニコラは小さくてか弱い。攫われた車を追いかけて行っても転んでしまって追い付くことすらできなかった。
あの口惜しさがニコラに火を着けた。
絶対に逃げられないようにジェルマンを追い詰めて、自分の腕の中に閉じ込めてしまおう。心に決めた日。
「我慢できなくなるから」
そう言って精通を迎えた後にわざとニコラはジェルマンに触れずに焦らしていた。たくさんのアルファとこれまで遊んだのかもしれないが、そんなのはただの遊びでしかない。ニコラにだけは本気で溺れてもらわなくてはいけない。
15歳の誕生日に素っ気なく「おやすみなさい」を言ってジェルマンを部屋に帰した後で、シャワーで身体を冷やして熱を冷まそうとするジェルマンは明らかに発情期になっていた。本人は気付いていないようだがフェロモンと発情期を操れるジェルマンは、ニコラを求めると自然と発情期が来てしまう身体になっていた。
これも長年焦らしたおかげだった。
バスルームから出て来たジェルマンを逃がすつもりはなく冷たく冷えた手を握って引き留めた。体格差があるから逃れようとすれば逃れられるはずなのに、ジェルマンはニコラに乱暴なことは一切しない。
攫われたときには相手の一物を噛んで逃げるようなことまでする気の強さのあるジェルマンがニコラの前では骨抜きになっているのが可愛くて堪らない。
「冷たい……こんなに冷えて、なにをしてたの?」
「あ、暑くて、シャワーの温度を下げていただけです」
「甘い匂い、漏れてるよ?」
充満するフェロモンを嗅ぎ取ったニコラに、ジェルマンの瞳が揺れて戸惑いを見せる。一度突き放しているのだからニコラに縋るのは大人のプライドが許さないのだろうか。何よりもジェルマンは経験豊富なオメガだった。
「ニコラ……」
「どうしたの、ジェルマン?」
名前を呼ばれて愉悦に浸りながらニコラはジェルマンを追い詰めていく。核心はジェルマンが口にしなければ与える気はなかった。
「欲しい……」
それだけで許す気もない。
完全にニコラの腕の中に堕ちて来なければ、ニコラも9年も待ち望んだ意味がない。
「なにが、欲しいの?」
「ニコラが……」
「僕に、何をして欲しいの?」
さぁ、堕ちて来い。
美しい笑みの裏側にニコラがこれだけの執着心を抱いていたことにジェルマンは気付いてもいないだろう。
チョーカーを外してうなじを晒したジェルマンは今にも崩れ落ちてニコラの前に跪きそうになっていた。
「ニコラのものに、して欲しい」
あぁ、やっと僕の猫を僕だけのものにできる。
歓喜と共にニコラはジェルマンの手を引いた。
「素直だね、ジェルマン」
良い子。
こうして、ニコラは自分だけの愛する猫を手に入れた。
初めての性交で赤ん坊ができたのもある意味計算通りだった。
ジェルマンの年齢からしてみれば出産はできるだけ早い方が良い。
なによりも子どもができれば世間的にもジェルマンをニコラの相手として認めざるを得ない現状がある。
ジェルマン以外ニコラの人生には必要がない。
きっとジェルマンが死んでしまえば後を追うように食事も摂れなくなって、睡眠もとれなくなる自分しか想像できないニコラだった。
死が二人を別つまで、ではなく、死すらも二人を別つことはできない。
人生を共にするただ一人の相手。
それを運命と言わずしてなんというのだろうか。
ニコラがアルファの中でも極めて強い部類のアルファであることを。
オメガの中でも自分でフェロモンを操ってアルファを傅かせるような「上位オメガ」などと呼ばれるタイプがあるのだが、アルファも生まれ持ったオーラのようなもので互いの強さを理解できる。
極めて強いアルファとして生まれたニコラにとっては、両親ですら近寄りがたい雰囲気を漂わせていた。相手が恐れているのが分かるからこそ敏感なニコラは両親すら近付けず、ただ一匹母親の飼っていた巨大なメインクーンのジェルマンだけを愛していた。
あまりにニコラのオーラが強すぎるので両親はニコラがオメガに恐れられて一生結婚もできなければ恋愛もできないのではないかと感じていた。相手の恐怖を敏感に感じ取るニコラは、自分を恐れる相手に心を許すことがない。
4歳で愛猫のジェルマンが死んでしまった後は、悲惨ともいえる結果となった。
それまではジェルマンがずっと側にいてくれたので食事もしていたし、眠ってもいたのだが、眠らない食べないようになったニコラは目も落ちくぼんで顔色も悪くなって、一時期は死を危ぶまれた。
点滴の針を細い手首に刺してどうにか栄養を取らせて両親は生き永らえさせようとしたが、本人に生きる意志がないものを生きさせることほど難しいことはない。
胃にチューブを通して栄養を摂取させるかと悩んでいたときに、両親が耳にしたのがあるオメガのことだった。アルファを好き勝手に食い散らしているオメガがいて、その実家が借金で倒産してそのオメガも闇のオークションにかけられて、男娼になるか臓器売買のブローカーに売られるかという状況。
両親は彼がいわゆる「上位オメガ」と呼ばれる発情期もフェロモンも操れる部類のオメガではないのかと考えていた。
極めて強いオーラを持つがために本能的に周囲に恐怖を抱かせてしまう幼いアルファと、発情期もフェロモンも操れるアルファよりも上位種と言われる「上位オメガ」、この二人ならばなんとかなるのではないか。
借金を全て肩代わりする形で、両親は偶然としては運命的な愛猫と同じジェルマンという名前のオメガをニコラの元へ送った。
初めて会った瞬間から、ニコラにはジェルマンが今まで周囲にいた人物とは違うことに気付いていた。幼いが故に制御しきれないアルファの強いオーラに気付いてもいないようなジェルマン。
亡くしてしまったこの世で一番愛していた愛猫のジェルマンが帰って来たかのようだった。
「僕の猫……逃がさない」
出会ったときから心は決まっていた。
両親がジェルマンとニコラの結婚を勧めるのも、年の差など関係なく、ただただジェルマンがニコラの強いオーラに耐えうる非常に希少なオメガだったからだ。
「僕の猫、愛してる。僕の腕に堕ちてきて」
15歳の誕生日を迎えてニコラは自分の部屋で願っていた。
単純にジェルマンを抱いて溺れさせるのは簡単だ。そうできる地位と財力がニコラにはあったし、ニコラの両親もそれを望んでくれていた。
それでも、自分から堕ちて来てくれなければ意味がない。
精通を迎えた12歳の日にも、ジェルマンを誘惑しつつも最後までは与える気はなかった。ジェルマンの手以外気持ち悪くて触れられないニコラにとっては、ジェルマンを逃してしまえば二度と自分が番を得られる機会はないのだろうと勘付いていた。
無邪気なまでにニコラを子どもとして大事にしてくれるジェルマンの全てを暴いて自分のものにしたくてたまらなかったことか。
ジェルマンが攫われた日には脳髄が焼けるかと思うくらい腹が立った。どれだけ強いアルファのオーラでこれだけ牽制していても、実際のニコラは小さくてか弱い。攫われた車を追いかけて行っても転んでしまって追い付くことすらできなかった。
あの口惜しさがニコラに火を着けた。
絶対に逃げられないようにジェルマンを追い詰めて、自分の腕の中に閉じ込めてしまおう。心に決めた日。
「我慢できなくなるから」
そう言って精通を迎えた後にわざとニコラはジェルマンに触れずに焦らしていた。たくさんのアルファとこれまで遊んだのかもしれないが、そんなのはただの遊びでしかない。ニコラにだけは本気で溺れてもらわなくてはいけない。
15歳の誕生日に素っ気なく「おやすみなさい」を言ってジェルマンを部屋に帰した後で、シャワーで身体を冷やして熱を冷まそうとするジェルマンは明らかに発情期になっていた。本人は気付いていないようだがフェロモンと発情期を操れるジェルマンは、ニコラを求めると自然と発情期が来てしまう身体になっていた。
これも長年焦らしたおかげだった。
バスルームから出て来たジェルマンを逃がすつもりはなく冷たく冷えた手を握って引き留めた。体格差があるから逃れようとすれば逃れられるはずなのに、ジェルマンはニコラに乱暴なことは一切しない。
攫われたときには相手の一物を噛んで逃げるようなことまでする気の強さのあるジェルマンがニコラの前では骨抜きになっているのが可愛くて堪らない。
「冷たい……こんなに冷えて、なにをしてたの?」
「あ、暑くて、シャワーの温度を下げていただけです」
「甘い匂い、漏れてるよ?」
充満するフェロモンを嗅ぎ取ったニコラに、ジェルマンの瞳が揺れて戸惑いを見せる。一度突き放しているのだからニコラに縋るのは大人のプライドが許さないのだろうか。何よりもジェルマンは経験豊富なオメガだった。
「ニコラ……」
「どうしたの、ジェルマン?」
名前を呼ばれて愉悦に浸りながらニコラはジェルマンを追い詰めていく。核心はジェルマンが口にしなければ与える気はなかった。
「欲しい……」
それだけで許す気もない。
完全にニコラの腕の中に堕ちて来なければ、ニコラも9年も待ち望んだ意味がない。
「なにが、欲しいの?」
「ニコラが……」
「僕に、何をして欲しいの?」
さぁ、堕ちて来い。
美しい笑みの裏側にニコラがこれだけの執着心を抱いていたことにジェルマンは気付いてもいないだろう。
チョーカーを外してうなじを晒したジェルマンは今にも崩れ落ちてニコラの前に跪きそうになっていた。
「ニコラのものに、して欲しい」
あぁ、やっと僕の猫を僕だけのものにできる。
歓喜と共にニコラはジェルマンの手を引いた。
「素直だね、ジェルマン」
良い子。
こうして、ニコラは自分だけの愛する猫を手に入れた。
初めての性交で赤ん坊ができたのもある意味計算通りだった。
ジェルマンの年齢からしてみれば出産はできるだけ早い方が良い。
なによりも子どもができれば世間的にもジェルマンをニコラの相手として認めざるを得ない現状がある。
ジェルマン以外ニコラの人生には必要がない。
きっとジェルマンが死んでしまえば後を追うように食事も摂れなくなって、睡眠もとれなくなる自分しか想像できないニコラだった。
死が二人を別つまで、ではなく、死すらも二人を別つことはできない。
人生を共にするただ一人の相手。
それを運命と言わずしてなんというのだろうか。
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