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本編
8.強いコマンド
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フランスに行くための準備を手伝ってほしいとアリスターにお願いされたので、リシャールは張り切って自分の知っている店を紹介した。自分の都合でフランスに連れて行くのだから支払いは全部リシャールが持つつもりだったが、アリスターはそれを許さなかった。
外見ではなく努力を認めてくれる上に、お金目当てでもない。
これまでの遊び相手とは全く違うアリスターにリシャールはますます惹かれて行った。
夕食を食べた後で順番にシャワーを浴びて、パジャマ姿になったリシャールとアリスターがソファで寛ぐ。
シャワーの後の水分補給をしていたアリスターがグラスをローテーブルに置いてリシャールを見た。
「リシャールは強引なところがないよな」
「そうかな?」
「Domっていえば、躾とお仕置き、その後のアフターケアみたいなイメージしかないのに、リシャールは全部がアフターケアみたいで心地いい」
言われてみればリシャールはSubに躾を施したり、お仕置きをしたりするタイプではない。
どちらかと言えば、そういうのは苦手な方だ。
「僕はSubを甘やかしたいからなぁ。躾けたいとかお仕置きしたいとか、そういう欲求は薄いタイプかな」
「俺も躾けられたいとか、お仕置きされたいとかはあまり思わないもんな。リシャールとは相性がいいのかもしれない」
これだけ相性がいいのならば、最後までしたらどれだけの快感がもたらされるのだろう。DomとSubのプレイには性的な要素がどうしても絡んでくる。それがなければ成立しないわけではないが、できればリシャールはアリスターに抱かれたかった。
アリスターをコマンドで導いて、リシャールを抱かせたらどれだけ気持ちがいいのだろう。これまでにリシャールを抱ける相手とのプレイで、リシャールの体は抱かれる快楽を知っていた。
最後までしないという約束はいつまで有効なのだろう。
「アリスター、前に聞いたけど、僕のこと抱けるって言ったよね?」
「言った」
「もしアリスターの気持ちが変わって最後までしてもいいと思うことがあったら、僕に教えてほしい。僕はアリスターとならしてもいいと思ってる」
告白のつもりも兼ねて真剣な眼差しで伝えると、アリスターは返答に困っているようだった。急に最後までしたいとか、抱いてほしいとか言われても戸惑うだろう。
「返事は気持ちが決まったらでいいよ」
それで話は終わりにして、リシャールはアリスターとのプレイを始めることにした。
「ちょっとだけ、お仕置きっぽいことしてみる?」
「リシャールがしたいなら」
信頼されているのは感じているので、悪戯っぽく囁くとアリスターは耳を赤く染めながら頷いてくれた。
「それじゃ、『跪け』」
コマンドを口にすると、アリスターがぺたんと床の上に座り込む。顔を真っ赤にしているアリスターの下半身が反応していることに気付いて、リシャールはアリスターに手招きする。
「『上手』だったよ。『いい子』だね。『おいで』」
膝の上に抱き上げるとアリスターは反応している下半身を隠そうとしているようだ。
「最後までしないから、そこ、解放してあげていい?」
「り、リシャール……」
「『見せて』、アリスター」
耳元で甘く囁きつつ、リシャールはアリスターの欲望を手で開放してやった。
解放されて脱力してリシャールの体に寄りかかりつつ、アリスターが聞いてくる。
「リシャールのは、しなくていいのか?」
「僕は平気。アリスター、疲れたでしょう。休んでいいよ」
抱き上げてアリスターをベッドまで運んで、リシャールはシャワーで自分の熱を冷ました。
ベッドに戻るとアリスターは眠っていた。
二回目のプレイのときに泊まってから、アリスターはリシャールの部屋に泊まることに抵抗を覚えなくなったようだ。
「アリスター、好きだよ」
囁いて、安心して眠っているアリスターの頬にキスを落として、リシャールもベッドに入る。
キングサイズのベッドは成人男性二人が寝ても十分な広さがあった。
翌朝、朝食を作ってアリスターを送り出し、リシャールも仕事に向かった。
そろそろフランス行きも近い。
アリスターは一週間遅れてやってくるが、リシャールは先にフランスに行っておかねばならなかった。
「首輪を贈るべきかな」
「クレイムするのか?」
仕事の前のメイクの時間にぽつりと呟くとマネージャーのマクシムが驚いた声を上げる。
「でも、首輪、好きそうじゃないんだよね」
これまでに相手をしたSubとアリスターは明らかに違っていた。
お仕置きされたい、躾けられたいというのがSubの本能で、それに応えるのがDomなのだと言い聞かせてリシャールもプレイしていたが、アリスターはお仕置きも躾もそれほど好きな様子ではない。
『跪け』なんていう強いコマンドを使えば反応はしてしまうようだが、あれがアリスターを満足させたかはよく分からない。もしかすると嫌だったかもしれないなんて考えると、リシャールは後悔の念でいっぱいになってしまう。
「好きなんだけどなぁ」
自覚した思いをリシャールはプレイを通して伝えているつもりだった。アリスターのことを「大事なひと」と言ったり、自分のできる範囲で楽しませて満足させているつもりではある。
それでも、アリスターに全然通じていない気しかしなくてリシャールも困ってしまう。
「好きなのが伝わってないのか」
「そう。だから首輪を贈ったら伝わるかと思ったんだけど、彼、嫌いそうなんだよね」
普通のSubとは少し違う感性を持っているアリスターは首輪をつけることをよしとしないイメージがあった。首輪を贈れれば話は早いのだが、相手に嫌がられてしまえばどうしようもない。
「こういうときってどうすればいいんだろうね」
「リシャールがDomじゃなくて、相手がSubじゃないなら、指輪を贈って結婚っていうのもあるんだろうけど」
「結婚かぁ」
DomとSubの間ではクレイムという首輪を贈る正式なパートナーになるという契約が結婚と同等に扱われている。プロポーズして結婚したとしても、クレイムが成立していないならば、リシャールとアリスターは正式なパートナーではないのではないだろうか。
結婚で話が済まないのがDomとSubの複雑なところなのだ。
「リシャールの調子がいいのは確かだし、相手とは相性がよさそうだし、フランスにも来てくれるっていうんだから、嫌われてはないんじゃないか」
「そうだといいんだけど」
美しく外見を保つためにリシャールは常に努力しているが、外見以外で自分に取り得はないという劣等感も抱えていた。アリスターがリシャールを愛してくれないのはリシャールの方に原因があるのではないだろうか。
考え出すと落ち込んでしまいそうだったので、リシャールは首を振って仕事に集中した。
仕事を終えてマンションに戻ると、エントランスの入り口に誰か立っているのに気付く。
ストーカーになった元マネージャーだ。前に部屋に入られてから、接近禁止命令が出ていて、リシャールの前に現れなくなったと思っていたのに、諦められていないようだ。
素早く警察に連絡して駐車場の車の中で待っていると、アリスターが来てくれた。
「逃げられたけど、中にまでは入られてなかったみたいだな」
「アリスター、仕事は?」
「これが俺の仕事だよ」
「そうだった」
科学捜査班ではあるがアリスターも刑事の資格は持っている。リシャールのことを心配して駆け付けてくれたのだろう。
「実際には、これからが仕事かな」
ストーカーになった元マネージャーがどこに逃げたか、残された手掛かりでそれを突き止めるのが仕事だとアリスターは言っている。
「来てくれてありがとう。好きだよ」
「す、好き!? い、いや、仕事中だからな」
お礼を言っただけなのに、アリスターは慌ててリシャールから離れていく。
アリスターを追いかけてリシャールは警察官の中に入って行った。
外見ではなく努力を認めてくれる上に、お金目当てでもない。
これまでの遊び相手とは全く違うアリスターにリシャールはますます惹かれて行った。
夕食を食べた後で順番にシャワーを浴びて、パジャマ姿になったリシャールとアリスターがソファで寛ぐ。
シャワーの後の水分補給をしていたアリスターがグラスをローテーブルに置いてリシャールを見た。
「リシャールは強引なところがないよな」
「そうかな?」
「Domっていえば、躾とお仕置き、その後のアフターケアみたいなイメージしかないのに、リシャールは全部がアフターケアみたいで心地いい」
言われてみればリシャールはSubに躾を施したり、お仕置きをしたりするタイプではない。
どちらかと言えば、そういうのは苦手な方だ。
「僕はSubを甘やかしたいからなぁ。躾けたいとかお仕置きしたいとか、そういう欲求は薄いタイプかな」
「俺も躾けられたいとか、お仕置きされたいとかはあまり思わないもんな。リシャールとは相性がいいのかもしれない」
これだけ相性がいいのならば、最後までしたらどれだけの快感がもたらされるのだろう。DomとSubのプレイには性的な要素がどうしても絡んでくる。それがなければ成立しないわけではないが、できればリシャールはアリスターに抱かれたかった。
アリスターをコマンドで導いて、リシャールを抱かせたらどれだけ気持ちがいいのだろう。これまでにリシャールを抱ける相手とのプレイで、リシャールの体は抱かれる快楽を知っていた。
最後までしないという約束はいつまで有効なのだろう。
「アリスター、前に聞いたけど、僕のこと抱けるって言ったよね?」
「言った」
「もしアリスターの気持ちが変わって最後までしてもいいと思うことがあったら、僕に教えてほしい。僕はアリスターとならしてもいいと思ってる」
告白のつもりも兼ねて真剣な眼差しで伝えると、アリスターは返答に困っているようだった。急に最後までしたいとか、抱いてほしいとか言われても戸惑うだろう。
「返事は気持ちが決まったらでいいよ」
それで話は終わりにして、リシャールはアリスターとのプレイを始めることにした。
「ちょっとだけ、お仕置きっぽいことしてみる?」
「リシャールがしたいなら」
信頼されているのは感じているので、悪戯っぽく囁くとアリスターは耳を赤く染めながら頷いてくれた。
「それじゃ、『跪け』」
コマンドを口にすると、アリスターがぺたんと床の上に座り込む。顔を真っ赤にしているアリスターの下半身が反応していることに気付いて、リシャールはアリスターに手招きする。
「『上手』だったよ。『いい子』だね。『おいで』」
膝の上に抱き上げるとアリスターは反応している下半身を隠そうとしているようだ。
「最後までしないから、そこ、解放してあげていい?」
「り、リシャール……」
「『見せて』、アリスター」
耳元で甘く囁きつつ、リシャールはアリスターの欲望を手で開放してやった。
解放されて脱力してリシャールの体に寄りかかりつつ、アリスターが聞いてくる。
「リシャールのは、しなくていいのか?」
「僕は平気。アリスター、疲れたでしょう。休んでいいよ」
抱き上げてアリスターをベッドまで運んで、リシャールはシャワーで自分の熱を冷ました。
ベッドに戻るとアリスターは眠っていた。
二回目のプレイのときに泊まってから、アリスターはリシャールの部屋に泊まることに抵抗を覚えなくなったようだ。
「アリスター、好きだよ」
囁いて、安心して眠っているアリスターの頬にキスを落として、リシャールもベッドに入る。
キングサイズのベッドは成人男性二人が寝ても十分な広さがあった。
翌朝、朝食を作ってアリスターを送り出し、リシャールも仕事に向かった。
そろそろフランス行きも近い。
アリスターは一週間遅れてやってくるが、リシャールは先にフランスに行っておかねばならなかった。
「首輪を贈るべきかな」
「クレイムするのか?」
仕事の前のメイクの時間にぽつりと呟くとマネージャーのマクシムが驚いた声を上げる。
「でも、首輪、好きそうじゃないんだよね」
これまでに相手をしたSubとアリスターは明らかに違っていた。
お仕置きされたい、躾けられたいというのがSubの本能で、それに応えるのがDomなのだと言い聞かせてリシャールもプレイしていたが、アリスターはお仕置きも躾もそれほど好きな様子ではない。
『跪け』なんていう強いコマンドを使えば反応はしてしまうようだが、あれがアリスターを満足させたかはよく分からない。もしかすると嫌だったかもしれないなんて考えると、リシャールは後悔の念でいっぱいになってしまう。
「好きなんだけどなぁ」
自覚した思いをリシャールはプレイを通して伝えているつもりだった。アリスターのことを「大事なひと」と言ったり、自分のできる範囲で楽しませて満足させているつもりではある。
それでも、アリスターに全然通じていない気しかしなくてリシャールも困ってしまう。
「好きなのが伝わってないのか」
「そう。だから首輪を贈ったら伝わるかと思ったんだけど、彼、嫌いそうなんだよね」
普通のSubとは少し違う感性を持っているアリスターは首輪をつけることをよしとしないイメージがあった。首輪を贈れれば話は早いのだが、相手に嫌がられてしまえばどうしようもない。
「こういうときってどうすればいいんだろうね」
「リシャールがDomじゃなくて、相手がSubじゃないなら、指輪を贈って結婚っていうのもあるんだろうけど」
「結婚かぁ」
DomとSubの間ではクレイムという首輪を贈る正式なパートナーになるという契約が結婚と同等に扱われている。プロポーズして結婚したとしても、クレイムが成立していないならば、リシャールとアリスターは正式なパートナーではないのではないだろうか。
結婚で話が済まないのがDomとSubの複雑なところなのだ。
「リシャールの調子がいいのは確かだし、相手とは相性がよさそうだし、フランスにも来てくれるっていうんだから、嫌われてはないんじゃないか」
「そうだといいんだけど」
美しく外見を保つためにリシャールは常に努力しているが、外見以外で自分に取り得はないという劣等感も抱えていた。アリスターがリシャールを愛してくれないのはリシャールの方に原因があるのではないだろうか。
考え出すと落ち込んでしまいそうだったので、リシャールは首を振って仕事に集中した。
仕事を終えてマンションに戻ると、エントランスの入り口に誰か立っているのに気付く。
ストーカーになった元マネージャーだ。前に部屋に入られてから、接近禁止命令が出ていて、リシャールの前に現れなくなったと思っていたのに、諦められていないようだ。
素早く警察に連絡して駐車場の車の中で待っていると、アリスターが来てくれた。
「逃げられたけど、中にまでは入られてなかったみたいだな」
「アリスター、仕事は?」
「これが俺の仕事だよ」
「そうだった」
科学捜査班ではあるがアリスターも刑事の資格は持っている。リシャールのことを心配して駆け付けてくれたのだろう。
「実際には、これからが仕事かな」
ストーカーになった元マネージャーがどこに逃げたか、残された手掛かりでそれを突き止めるのが仕事だとアリスターは言っている。
「来てくれてありがとう。好きだよ」
「す、好き!? い、いや、仕事中だからな」
お礼を言っただけなのに、アリスターは慌ててリシャールから離れていく。
アリスターを追いかけてリシャールは警察官の中に入って行った。
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