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後日談

子犬と娘は魔王オメガを取り合う

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 リコスとルヴィニの間に、ザフィリという娘が生まれたのは、リコスが17歳になってからだった。色彩は黒髪に赤い目でルヴィニに似ていて、尻尾と耳はリコスに似ているザフィリは、産まれてすぐからルヴィニの母乳しか飲まなかった。
 女性でも母乳の出る出ないは体質があるようだが、男性のオメガは特にそれが顕著だ。アツァリが母乳が出ていたので、母乳で赤ん坊を育てたいと密かに思っていたルヴィニは、母乳が出て物凄く喜んでいた。
 ザフィリに片方の胸を吸わせると、もう片方に手を伸ばして触って放さない。くすぐったくも心地よい感覚に幸福感に満たされていると、リコスの呟きが耳に入った。

「おれのルヴィニ様の……ううん、おれ、お父さんになったんだから、大人にならなきゃ」

 捧げられてこの屋敷に来た頃から、リコスはルヴィニの胸に安らぎを得ていた。触ったり吸ったりして眠った記憶が蘇るのだろう。それが娘でも盗られた気分になるのかもしれない。
 産まれてみるまで不安はあったが、顔立ちや耳や尻尾がリコスと似ている娘は文句なく可愛い。同じようにリコスは結婚式で成長を止めたので、あの日のまま華奢で愛らしく可愛い。
 可愛いが二倍、しかもどっちもルヴィニのことしか考えていない。

「いやー、私、人気者過ぎて困っちゃうよ」
「赤ん坊がおっぱい好きなのは普通だろ」
「リコスも私のおっぱいを気にしてるみたいで。どうしよう、私、人気者だよ」

 リコス以外に愛されることなど望んでいないし、例え愛して来たとしても相手にしないルヴィニだが、娘は全くの別である。リコスとの愛の結晶であるし、リコスに似ているし、愛しくてたまらない。
 愛しい娘と、愛する夫のリコスがルヴィニに夢中であるこの状況は、ルヴィニにとっては天国だった。

「乳離れしたら変わって来るだろうけどな」
「そうなのかい……ずっと乳離れしないで欲しいな」

 育児の先輩のアツァリに話を聞く間も、膝の上にはザフィリが抱っこされている。ふええと甘えて泣くたびに、オムツを見て、乳を与えて、ルヴィニは有意義な育児休暇を過ごしていた。
 必死に我慢しているせいか、ベビーベッドにザフィリを寝かせた後で、眠るときにリコスは無意識にルヴィニの胸に触って来る。母乳パッドを付けているが、揉まれると母乳が出てしまいそうで、それでも拒めなくて、ルヴィニはにやけ顔が治らない。

「あぁん、リコス、ダメだよ」
「ごめんなさい……おれのルヴィニ様」
「リコスはザフィリのこと、可愛いでしょう? ザフィリの母乳がなくなっちゃったら困るよね」

 母乳を上げるとき以外は、なんでも自発的にしてくれるリコスはザフィリを愛しているし、ザフィリも父親であるリコスが大好きだった。ただ、胸に関してだけ、リコスはちょっと大人げなくなってしまうようだ。

「ルヴィニ様は、出産の負担があるから、まだ、ダメなんでしょう。おれ、我慢するよ」

 そんな可愛いことを言われると、発情期でもないのに後孔が濡れて、胎がきゅんきゅんと疼いてしまう。
 次の妊娠はまだ先にするように言われているが、ちょっとくらいリコスとイイコトをしてもいいのではないだろうか。幸い、魔術薬を飲んでいるのと、畑に拘束されているアルファから魔力が流れ込んでくるおかげで、ルヴィニは産後なのに艶々と健康で、元気が溢れていた。

「リコス、愛しているよ」
「おれも、ルヴィニ様」

 抱き合おうとしたところで、ベビーベッドで「ふぇぇぇ」と泣き声がする。駆け寄って胸をはだけて咥えさせると、ザフィリはちゅうちゅうと母乳を吸って飲んでいた。

「うぅ……おれのルヴィニ様」

 娘は可愛いのだが、良いところを邪魔されたリコスは涙目になっていた。お腹いっぱい母乳を飲ませ終えて、オムツも取り換えて、もう一度寝かせたところで、ルヴィニはリコスのふて寝するベッドに戻って来る。

「リコス、寝ちゃったの?」
「ルヴィニ様はザフィリの面倒も見なきゃいけないから、疲れさせちゃいけないもん」

 涙を堪えて必死に我慢する姿が可愛くて、ルヴィニは問答無用でリコスのパジャマを剥がして行った。自分のパジャマも脱いで、リコスの腰に跨ると、琥珀色の目にいっぱい涙がたまっている。

「ルヴィニ様を困らせちゃ、だめなのぉ」
「この状態でリコスを貰えない方が困るんだけど」
「お胸、触っても、いい?」

 おずおずと下から伸ばされた手に、ルヴィニは身体を屈めて胸をリコスに押し付けるようにする。その体勢のまま、そそり立つリコスを後孔に飲み込むと、久しぶりの快楽に恍惚としてしまう。
 胸を揉まれて、母乳が出ているのも気にならない。腰を振り立てて、リコスを搾り取るのがひたすらに気持ちいい。
 きゅうっと締め付けると、リコスの手に力が入って、ぴゅっと胸から母乳が吹き出す。

「ザフィリの、なのにぃ」
「今は、リコスのだよ」
「ルヴィニさまぁ……おれの、ルヴィニさまぁ」

 ルヴィニの腰の動きに合わせて、リコスも快感を追おうと、突き上げてくる。可愛い動きに合わせていると尚更気持ちよくて、ルヴィニは止まらなくなってしまう。
 翌日、母乳を上げようとして、ザフィリに咥えさせたら、出が悪かったのか泣かれてしまったので、気を付けようと思いつつも、ルヴィニはリコスに求められたらまた搾り取ってしまうのだろうと自覚していた。
 腰が立たなくてベッドから立ち上がれないリコスは、ザフィリにぺちぺちと愛らしい紅葉のお手手で叩かれて抗議されて、「ごめんね、おれ、お父さんなのに」と謝っていた。
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