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十二章 研究院入学と辺境伯領再建

18.新年のパーティーで子ども劇団のお披露目

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 新年のパーティーについて、カールロ様とスティーナ様から提案があった。

「子ども劇団の演目が素晴らしいから、新年のパーティーでも演じたらどうだろう?」
「親馬鹿と思われるかもしれませんが、わたくしの息子や娘たちが辺境伯領で予防接種の大切さを伝えてくるというのは名誉なことです」
「辺境伯領との交流の在り方もヘルレヴィ領の貴族たちに見せられるだろう」

 その提案に関して、サロモン先生もヨハンナ様も大賛成だった。

「せっかくハンネスが全員を纏めて、フローラとライネが頑張っている子ども劇団を、一回だけの公演で終わらせてしまうのは惜しいですよね」
「フローラとライネの演技をティーアと見ておきますよ」

 ヨウシア様に相談したところ、音楽隊を出してくださると協力の意を示してくれた。

「ヘルレヴィ領でもまだ予防接種をしない主義のひとたちがいるようですから、僕の作った脚本がお役に立てば嬉しいです」

 新年のパーティーでも演技を見せることになったマウリ様とミルヴァ様とフローラ様とエミリア様とライネ様とダーヴィド様は、その日を楽しみにしているようだった。
 エミリア様とダーヴィド様の興味は、誰が主役かについてだった。

「わたくしが主役だと思うのよ」
「ちがうよ、えーねえさま。わたしがしゅやくだよ」
「でも、わたくし、一番台詞が多いのよ、だーちゃん」
「それは、わたしがちいさいから、ヨウシアせんせいはえんりょしちゃったんだよ。ぜったいにわたしがしゅやく!」

 言い合うエミリア様とダーヴィド様を見て、ハンネス様とライネ様が間に入る。

「エミリアの役もダーヴィドの役も主役のように思えますね」
「はー兄上はどっちが主役だと思うの?」
「わたしがしゅやくだよね?」
「だーちゃん、このお話に、誰が主役っていうのはないんだと思うよ」

 はっきりと答えたライネ様にエミリア様とダーヴィド様とハンネス様の視線が集まる。

「ヨウシア先生は誰が主役とも言っていないよね。みんなが主役で、みんなが活躍する脚本を作ってくれたんだよ」
「みんなが主役……」
「わたしも、えーねえさまも、らいちゃんも、ふーねえさまも、みんなしゅやく」
「だーちゃん、まー兄上とみー姉上を忘れてない?」
「あ、さいごにしかでてこないから」

 マイペースなダーヴィド様だが、ライネ様の言葉には納得しているようだった。エミリア様ももう少しでダーヴィド様と喧嘩になってしまいそうだったところが落ち着いている。

「ライネはハンネスによく似ていますね。周囲をよく見て気遣うことができる」
「ハンネスとの血の繋がりを感じますね」

 一部始終を見ていたサロモン先生とヨハンナ様が目を細めてライネ様を褒めていた。
 年が明けて新年のパーティーでは子ども劇団の演目が演じられた。

「ヘルレヴィ領から歌劇団が辺境伯領に慰問に行くことになりました。それに合わせて子ども劇団も結成されました」
「子ども劇団の演目をご覧ください」

 カールロ様とスティーナ様が紹介をして、フローラ様とエミリア様とライネ様とダーヴィド様が壇上に上がってくる。感染症で苦しむライネ様と、隔離されるダーヴィド様。感染症にダーヴィド様や自分たちが罹らないために勉強を始めるフローラ様とエミリア様。
 予防接種のワクチンに辿り着いたところで、二匹のドラゴンが子どもたちの家に予防接種のワクチンを届けに来る。

「ありがとうございます、ドラゴンさん」
「これでわたしたちはかからずにすみます」
「ライネのお熱も下がって来たみたいだわ」

 ドラゴンのマウリ様とミルヴァ様はフローラ様とエミリア様とダーヴィド様に、ライネ様のための栄養のある食事も渡して去っていく。本当の演出では飛び立つのだが、お屋敷の大広間は狭いので歩いて去っていくドラゴンのマウリ様とミルヴァ様を、フローラ様とエミリア様とダーヴィド様が感謝して見送って演目は終わった。
 演目が終わると拍手がわき起こる。人間の姿に戻ったマウリ様とミルヴァ様も壇上に上がって、フローラ様とエミリア様とライネ様とダーヴィド様と一緒に頭を下げていた。

「新年からドラゴンの姿を拝めるなんてめでたいですね」
「ドラゴンは国の吉兆ですからね」

 ヒルダ女王陛下の即位の式典でマウリ様とミルヴァ様が王城の上を飛んだのはまだ貴族たちにも記憶に新しいのだろう。マウリ様とミルヴァ様はすっかりと国の吉兆としての地位を確立していた。
 マウリ様とミルヴァ様が国の吉兆なので、マウリ様に乗せてもらっているわたくしまで『ドラゴンの聖女』などという仰々しい呼び名をもらっているが、それにわたくしが相応しいのかどうかは分からない。
 分からないのだが、辺境伯領の復興の旗印として、『ドラゴンの聖女』というシンボルが扱いやすいものだったのでわたくしはそれを利用している形になっている。

「ヘルレヴィ家のマウリ様の婚約者のアイラ様は、『ドラゴンの聖女』として辺境伯領を援助しているのだとか」
「ヘルレヴィ領も豊かになりましたからね」

 ヘルレヴィ領がオスモ殿の圧政から救われてからもう十年以上の月日が経つ。その間にヘルレヴィ領はマンドラゴラや南瓜頭犬やスイカ猫の栽培をして、特産品のヘルレヴィ・スィニネンの生産も順調で、調合室を持つ工房も幾つも建てられて魔法薬を作れるようにもなっていた。ヘルレヴィ領は確かに豊かになっている。
 この豊かさをヘルレヴィ領だけではなく、貧困に喘いでいる辺境伯領にまで届けるのがわたくしの役目と思っていた。
 カールロ様とスティーナ様がわたくしとイルミ様を壇上に呼ぶ。

「ヘルレヴィ家の次期後継者のマウリの婚約者、アイラ・ラント様と、アンティラ家の当主、イルミ様が辺境伯領との交流を担ってくださっています」
「辺境伯領は他国と接するこの国の防衛線です。そこが豊かでなければ、この国が守られることもないと思っております」

 カールロ様とスティーナ様に紹介されてわたくしとイルミ様は頭を下げる。

「アイラ・ラントです。ヘルレヴィ領と辺境伯領は一番近い位置にあります。辺境伯領を助けることが、ヘルレヴィ領を富ませることにもなるのだとわたくしは信じております」
「イルミ・アンティラです。今辺境伯領を治めているのはわたくしの従弟のトゥーレ様とその伴侶のアルベルト様です。わたくしたちは、これから医療面と文化面でヘルレヴィ領から辺境伯領に援助をしていきたいと思っています。」
「歌劇団の慰問も辺境伯領に予防接種の大切さを伝える大事な意味のあるものです。それと共に、貧しさに苦しめられている辺境伯領の方々の心の癒しとなればいいと思っております」
「これからアイラ様と力を合わせて辺境伯領とヘルレヴィ領との間を繋いでいきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします」
「イルミ様共々よろしくお願いいたします」

 わたくしとイルミ様が頭を下げると、貴族の中から拍手が起きた。マウリ様もミルヴァ様もハンネス様もフローラ様もエミリア様もライネ様もダーヴィド様も手を叩いてくれている。手を叩く貴族の中にはサイロ・メリカント村の統治者としてエロラ先生とエリーサ様とハールス先生とヨウシア様の姿もあった。
 ヘルレヴィ領でわたくしたちはこれだけ暖かく見守られているのだと実感して、心強い限りだった。
 挨拶が終わると音楽隊が踊りの音楽を奏でる。
 マウリ様がやってきてわたくしに手を差し出した。

「踊りましょう、アイラ様」
「マウリ様、よろしくお願いします」

 マウリ様の手を握って踊りの輪に入るときに、イルミ様が若い男性から踊りに誘われているのをわたくしは見てしまった。イルミ様は頬を染めて差し出された手を取っている。
 イルミ様にも新しい出会いがあるのかもしれない。
 アルベルト様とトゥーレ様の結婚式もあるし、今年はお祝い事が増えるかもしれない気配に、わたくしは期待していた。
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