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九章 オクサラ辺境伯とヴァンニ家の動向
29.今年もマイヤラ家の別荘に
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ヘルレヴィ家の一行が王都に行くときには、ヴァンニ家の一行もお誘いして、移転の魔法で一気に王都の駅まで飛んだ。駅からはそれぞれ目的地が違うので馬車で移動する。
一時期シルヴェン家と繋がりがないことを悩んでいたハンネス様も、もうそのことは気にしていないようだった。
「わたくし、お祖父様とお祖母様にたくさんお話をするのよ。ヴァンニ家を取り戻した話をするわ」
「わたくしはミッコネン伯夫婦のお屋敷を瓦礫にした話をするわ」
元気よく手を振ってフローラ様とミルヴァ様が別々の馬車に乗り込んで行く。
「今年もフローラのお誕生日はシルヴェン家でお祝いしてもらいます。アイラ様、ピアノをありがとうございました」
「わたくしは頼んだだけで、作ってくださったのはエリーサ様達ですわ」
「アイラ様が頼んでくださらなかったら、あんな綺麗な白いピアノは作ってもらえませんでした。ありがとうございます」
馬車に乗る前にサロモン先生とヨハンナ様にお礼を言われてしまってわたくしは、自分の手柄でもないのに申し訳ないような、それでも少し誇らしいような気分になっていた。馬車の中からマウリ様とミルヴァ様が手を振って、フローラ様とハンネス様も手を振り返している。
馬車から身を乗り出すと危ないので、ダーヴィド様とエミリア様はスティーナ様とカールロ様のお膝に抱っこされていた。
マイヤラ家のお屋敷に着くと、大公夫妻が迎えてくれる。
「今年もよく来てくれましたね」
「マウリもミルヴァもエミリアもダーヴィドも大きくなって」
「わたくし、高等学校の制服を注文したのよ」
「私も秋から高等学校に通うよ!」
「わたくし、ようねんがっこうにかようとしになりました」
誇らしげに語るミルヴァ様とマウリ様とエミリア様に、ダーヴィド様のお口がへの字になって眉毛が八の字になっている。
「わたち、みっちゅ……」
「ダーヴィドは3歳になったのですか」
「立派な3歳ですね。背が高くなって」
「わたち、せがたかい!」
自分だけ報告することがないとしょんぼりしていたダーヴィド様も大公夫妻に手放しで褒められて誇らし気に指を三本立てて、3歳というのをアピールしていた。
「抱っこしてもいいですか?」
「いーよ!」
「ダーヴィドは重くなりましたね」
「エミリアは、抱っこはもう嫌ですか?」
「すこしだけならいいわよ」
ダーヴィド様が抱っこされている様子を見て、エミリア様も照れながらも抱っこされていた。
夏休みの間はマイヤラ大公の王都にある別荘で過ごすことになった。当然のようにマウリ様と同じ部屋で寝るつもりのダーヴィド様に、今回は誰も反対しなかった。
わたくしとミルヴァ様とエミリア様が同じ部屋、マウリ様とダーヴィド様が同じ部屋になる。カールロ様とスティーナ様はお二人でマイヤラ大公夫妻の部屋を使うようだった。
晩ご飯は大公夫妻のお屋敷で一緒に食べる。食事時の話題は、国王陛下のことだった。
「国王陛下は高齢で退位したがっているようですね」
「孫のヒルダ殿下が成人なさるまで、残り二年ですか」
国王陛下のことに関しては、わたくしも話は聞いていた。国王陛下の息子に当たる王太子殿下が、非常に女癖が悪く、王太子妃殿下以外の相手と結婚するために王太子妃殿下を追い出して離婚したというのだ。しかも結婚相手は人妻で、相手の方も結婚するために離婚しているという。
王太子殿下の行動はあまりにも倫理観のないもので、国中で批判されて、国王陛下は王太子殿下に王位を譲らないことを決めていた。そうなると、孫のヒルダ殿下が成人するまでは高齢だが国王陛下は王位についておかなければいけない。
早く退位したいのだが、ヒルダ殿下はまだ16歳で成人までに二年かかる。宰相家のソフィア様が家庭教師について、将来は宰相になってヒルダ殿下を支えるはずなのだが、ヒルダ殿下にもソフィア様にも反対する貴族がいるという。
「ヒルダ様は女性だから王位につけてはいけないとか、ソフィア様は女性だから宰相になるべきではないとか、そういう話が聞かれます」
「私たちはこの国が女性の活躍できる国になることを願っているのですが……」
マイヤラ大公殿下は王太子殿下の兄にあたる。ただし、王太子殿下とは母親が違う。国王陛下が最初に結婚した王妃様がマイヤラ大公殿下を産んですぐに亡くなったので、国王陛下は次の王妃様と結婚した。そして生まれたのが王太子殿下である。
元々王位に興味がなかったのと、王位を弟と争うのが嫌で、早々に王位継承権は放棄して大公になっているマイヤラ大公殿下だが、ヒルダ殿下とソフィア様の女王と女宰相の誕生を厭う貴族に担ぎ出されそうになっているようだった。
「私は国王になるつもりはないのですが、それを望む少数派もいるようで、周囲が騒がしいのです」
「もう夫は大公になって、王位継承権は返上したはずなのに」
わたくしからしてみれば、王太子殿下の方が王位継承権を返上して、ヒルダ殿下にお譲りするべきだと思うのだが、王太子殿下はその地位を諦めきれないでいるようだ。
「国王陛下の健康が心配です」
ヒルダ殿下が成人する前に国王陛下が亡くなってしまうようなことになれば、王太子殿下がこの国を継ぐだろう。王太子殿下にその器はないと考えているからこそ、国王陛下はヒルダ殿下が成人するまでの期間を待っていらっしゃる。
わたくしの呟きに沈黙が落ちた。
国王陛下もご高齢でいつ何が起きてもおかしくない。
後二年間は国王陛下が無事でいてくれないと、この国はどうなってしまうか分からなくなる。
「いざとなれば、私が立つしかないのでしょうが」
マイヤラ大公殿下が言っている最悪の事態にならないことを、わたくしは祈ることしかできなかった。
フローラ様のお誕生日にはわたくしたちはシルヴェン家に招かれた。家族のように過ごしてきたフローラ様のお誕生日を祝うのは当然のことなので、喜んでシルヴェン家にお邪魔する。
シルヴェン家のサロモン先生のご両親は、ハンネス様とフローラ様とライネ様を分け隔てなく可愛がっているようだった。
「ライネがお祖父様とお祖母様にお話があるんですって」
「おじいさま、おばあさま、わたし、だーちゃんとけっこんするの」
「わたち、らいたんとけこんちる!」
ダーヴィド様の腕を引いてサロモン先生のご両親の前に連れてきたライネ様が、堂々と宣言している。
「ヘルレヴィ家の御子息と結婚なんて、素晴らしいですね」
「ライネはもう結婚したい相手が決まっているのですね」
サロモン先生のご両親はライネ様とダーヴィド様が同性であることを嫌がったりしていない様子だった。
「まだ小さい子の言うことですから、父上、母上」
「小さい子の言うことだからと馬鹿にはできませんよ」
「カールロ様、スティーナ様、もう少しライネとダーヴィド様が大きくなったら、婚約を致しましょう」
サロモン先生のご両親から申し入れられて、カールロ様もスティーナ様も驚いている。
「マウリとミルヴァも2歳で婚約しましたが、ダーヴィドはまだ3歳です」
「ですから、もう少し大きくなってからです」
「そうですね。もう少し大きくなっても二人の気持ちが変わらないのならば、婚約を考えましょう」
「どうぞよろしくお願いします」
スティーナ様とカールロ様もダーヴィド様とライネ様が思い合っているのならば婚約をしても構わないと思っているようだ。数年後にはダーヴィド様とライネ様の婚約の発表が行われるかもしれない。
「ハンネスとフローラが婚約したと聞いて驚きましたが、二人ともとても仲がいいのでめでたいことだと思っています」
「わたくし、絶対ハンネス様と結婚するって決めてたの。初めて会ったときからよ」
フローラ様がハンネス様に初めて会ったのは2歳のときなので、そのときからずっと想っていたというのはすごいことだ。ヘルレヴィ家のお屋敷に捨てるように置き去りにされたフローラ様に親切にしていたのは、初めはハンネス様だけだったかもしれない。
「フローラ、9歳のお誕生日おめでとうございます」
「ありがとう、ハンネス様。ハンネス様と結婚できるまで、残り九年ね!」
今日で9歳になったフローラ様は成人までの年の半分に来ていた。
ケーキが運ばれて来る。葡萄とマスカットを飾ったケーキでフローラ様のお誕生日は祝われた。
一時期シルヴェン家と繋がりがないことを悩んでいたハンネス様も、もうそのことは気にしていないようだった。
「わたくし、お祖父様とお祖母様にたくさんお話をするのよ。ヴァンニ家を取り戻した話をするわ」
「わたくしはミッコネン伯夫婦のお屋敷を瓦礫にした話をするわ」
元気よく手を振ってフローラ様とミルヴァ様が別々の馬車に乗り込んで行く。
「今年もフローラのお誕生日はシルヴェン家でお祝いしてもらいます。アイラ様、ピアノをありがとうございました」
「わたくしは頼んだだけで、作ってくださったのはエリーサ様達ですわ」
「アイラ様が頼んでくださらなかったら、あんな綺麗な白いピアノは作ってもらえませんでした。ありがとうございます」
馬車に乗る前にサロモン先生とヨハンナ様にお礼を言われてしまってわたくしは、自分の手柄でもないのに申し訳ないような、それでも少し誇らしいような気分になっていた。馬車の中からマウリ様とミルヴァ様が手を振って、フローラ様とハンネス様も手を振り返している。
馬車から身を乗り出すと危ないので、ダーヴィド様とエミリア様はスティーナ様とカールロ様のお膝に抱っこされていた。
マイヤラ家のお屋敷に着くと、大公夫妻が迎えてくれる。
「今年もよく来てくれましたね」
「マウリもミルヴァもエミリアもダーヴィドも大きくなって」
「わたくし、高等学校の制服を注文したのよ」
「私も秋から高等学校に通うよ!」
「わたくし、ようねんがっこうにかようとしになりました」
誇らしげに語るミルヴァ様とマウリ様とエミリア様に、ダーヴィド様のお口がへの字になって眉毛が八の字になっている。
「わたち、みっちゅ……」
「ダーヴィドは3歳になったのですか」
「立派な3歳ですね。背が高くなって」
「わたち、せがたかい!」
自分だけ報告することがないとしょんぼりしていたダーヴィド様も大公夫妻に手放しで褒められて誇らし気に指を三本立てて、3歳というのをアピールしていた。
「抱っこしてもいいですか?」
「いーよ!」
「ダーヴィドは重くなりましたね」
「エミリアは、抱っこはもう嫌ですか?」
「すこしだけならいいわよ」
ダーヴィド様が抱っこされている様子を見て、エミリア様も照れながらも抱っこされていた。
夏休みの間はマイヤラ大公の王都にある別荘で過ごすことになった。当然のようにマウリ様と同じ部屋で寝るつもりのダーヴィド様に、今回は誰も反対しなかった。
わたくしとミルヴァ様とエミリア様が同じ部屋、マウリ様とダーヴィド様が同じ部屋になる。カールロ様とスティーナ様はお二人でマイヤラ大公夫妻の部屋を使うようだった。
晩ご飯は大公夫妻のお屋敷で一緒に食べる。食事時の話題は、国王陛下のことだった。
「国王陛下は高齢で退位したがっているようですね」
「孫のヒルダ殿下が成人なさるまで、残り二年ですか」
国王陛下のことに関しては、わたくしも話は聞いていた。国王陛下の息子に当たる王太子殿下が、非常に女癖が悪く、王太子妃殿下以外の相手と結婚するために王太子妃殿下を追い出して離婚したというのだ。しかも結婚相手は人妻で、相手の方も結婚するために離婚しているという。
王太子殿下の行動はあまりにも倫理観のないもので、国中で批判されて、国王陛下は王太子殿下に王位を譲らないことを決めていた。そうなると、孫のヒルダ殿下が成人するまでは高齢だが国王陛下は王位についておかなければいけない。
早く退位したいのだが、ヒルダ殿下はまだ16歳で成人までに二年かかる。宰相家のソフィア様が家庭教師について、将来は宰相になってヒルダ殿下を支えるはずなのだが、ヒルダ殿下にもソフィア様にも反対する貴族がいるという。
「ヒルダ様は女性だから王位につけてはいけないとか、ソフィア様は女性だから宰相になるべきではないとか、そういう話が聞かれます」
「私たちはこの国が女性の活躍できる国になることを願っているのですが……」
マイヤラ大公殿下は王太子殿下の兄にあたる。ただし、王太子殿下とは母親が違う。国王陛下が最初に結婚した王妃様がマイヤラ大公殿下を産んですぐに亡くなったので、国王陛下は次の王妃様と結婚した。そして生まれたのが王太子殿下である。
元々王位に興味がなかったのと、王位を弟と争うのが嫌で、早々に王位継承権は放棄して大公になっているマイヤラ大公殿下だが、ヒルダ殿下とソフィア様の女王と女宰相の誕生を厭う貴族に担ぎ出されそうになっているようだった。
「私は国王になるつもりはないのですが、それを望む少数派もいるようで、周囲が騒がしいのです」
「もう夫は大公になって、王位継承権は返上したはずなのに」
わたくしからしてみれば、王太子殿下の方が王位継承権を返上して、ヒルダ殿下にお譲りするべきだと思うのだが、王太子殿下はその地位を諦めきれないでいるようだ。
「国王陛下の健康が心配です」
ヒルダ殿下が成人する前に国王陛下が亡くなってしまうようなことになれば、王太子殿下がこの国を継ぐだろう。王太子殿下にその器はないと考えているからこそ、国王陛下はヒルダ殿下が成人するまでの期間を待っていらっしゃる。
わたくしの呟きに沈黙が落ちた。
国王陛下もご高齢でいつ何が起きてもおかしくない。
後二年間は国王陛下が無事でいてくれないと、この国はどうなってしまうか分からなくなる。
「いざとなれば、私が立つしかないのでしょうが」
マイヤラ大公殿下が言っている最悪の事態にならないことを、わたくしは祈ることしかできなかった。
フローラ様のお誕生日にはわたくしたちはシルヴェン家に招かれた。家族のように過ごしてきたフローラ様のお誕生日を祝うのは当然のことなので、喜んでシルヴェン家にお邪魔する。
シルヴェン家のサロモン先生のご両親は、ハンネス様とフローラ様とライネ様を分け隔てなく可愛がっているようだった。
「ライネがお祖父様とお祖母様にお話があるんですって」
「おじいさま、おばあさま、わたし、だーちゃんとけっこんするの」
「わたち、らいたんとけこんちる!」
ダーヴィド様の腕を引いてサロモン先生のご両親の前に連れてきたライネ様が、堂々と宣言している。
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「ライネはもう結婚したい相手が決まっているのですね」
サロモン先生のご両親はライネ様とダーヴィド様が同性であることを嫌がったりしていない様子だった。
「まだ小さい子の言うことですから、父上、母上」
「小さい子の言うことだからと馬鹿にはできませんよ」
「カールロ様、スティーナ様、もう少しライネとダーヴィド様が大きくなったら、婚約を致しましょう」
サロモン先生のご両親から申し入れられて、カールロ様もスティーナ様も驚いている。
「マウリとミルヴァも2歳で婚約しましたが、ダーヴィドはまだ3歳です」
「ですから、もう少し大きくなってからです」
「そうですね。もう少し大きくなっても二人の気持ちが変わらないのならば、婚約を考えましょう」
「どうぞよろしくお願いします」
スティーナ様とカールロ様もダーヴィド様とライネ様が思い合っているのならば婚約をしても構わないと思っているようだ。数年後にはダーヴィド様とライネ様の婚約の発表が行われるかもしれない。
「ハンネスとフローラが婚約したと聞いて驚きましたが、二人ともとても仲がいいのでめでたいことだと思っています」
「わたくし、絶対ハンネス様と結婚するって決めてたの。初めて会ったときからよ」
フローラ様がハンネス様に初めて会ったのは2歳のときなので、そのときからずっと想っていたというのはすごいことだ。ヘルレヴィ家のお屋敷に捨てるように置き去りにされたフローラ様に親切にしていたのは、初めはハンネス様だけだったかもしれない。
「フローラ、9歳のお誕生日おめでとうございます」
「ありがとう、ハンネス様。ハンネス様と結婚できるまで、残り九年ね!」
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