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八章 研究課程への入学
12.いちごちゃんとの話し合い
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わたくしが研究課程から帰ると、ダーヴィド様はマウリ様のお譲りのコートを着てお庭でいちごちゃんと遊んでいた。いちごちゃんと南瓜頭犬のボタンが逃げるのを追い駆けて、覆いかぶさるようにして捕まえるダーヴィド様。いちごちゃんは体が大きいので被さられても平気で尾羽をぴょこぴょこさせている。
話があるのでわたくしが近付いていくと、ダーヴィド様は大きな蜂蜜色のお目目をくりくりとさせてわたくしを見上げていた。
「ダーヴィド様、大事なお話があります」
「おはなち、なぁに?」
「いちごちゃんが大きくなりすぎると困るので、マンドラゴラの葉っぱはもう上げないようにしてください」
わたくしが話しかけるとダーヴィド様は立ち尽くし、白鳥のいちごちゃんはショックを受けているようだ。
「くわっ!?」
いちごちゃんには人間の言葉が分かるのだろうか。
普通の白鳥にはない賢さを持っているいちごちゃんは、ダーヴィド様からマンドラゴラの葉っぱをもらっているからかもしれない。
「まんどあごあ、めっ?」
「いちごちゃんが大きくなりすぎるとヘルレヴィ家で飼えなくなります。いちごちゃんとお別れはしたくないですよね?」
「ばいばい、やーの! まんどあごあ、ないない」
いちごちゃんが大きくなりすぎたから処分するようなことはわたくしもしたくなかった。真剣にお話をすると、ダーヴィド様の方は理解してくれたようである。ホッとしてわたくしは子ども部屋からエミリア様とライネ様を呼んで来た。
エミリア様とライネ様とダーヴィド様にいちごちゃんの首輪を見せる。
「なんてかいてあるの?」
「『ヘルレヴィ家の白鳥です』と書いてあります」
「わたちのいちごたん?」
「そうです。他のひとに連れ去られたり、魔物と間違えて退治されたりしないようになります」
「いちごたん、よかったねー」
バックルに刻印されている文字にエミリア様は興味を持ち、ダーヴィド様は首輪をつければヘルレヴィ家の白鳥になるのかを気にしていた。ライネ様は話を聞いてほっとしている。
ライネ様の抱き締める大根マンドラゴラのダイちゃんの葉っぱを狙おうとしているいちごちゃんに、わたくしはどうやって言い聞かせようか迷っていた。迷っている間にマウリ様とミルヴァ様とフローラ様とハンネス様も庭に出て来る。
「いちごちゃんの首輪ができたの?」
「わたくしも見たいわ」
「わたくしにも見せて」
「すぐに着けますね」
マウリ様とミルヴァ様とフローラ様に促されて、わたくしはいちごちゃんの首に首輪をつけた。長い首が革のベルトと苺型のチャームで飾られる。苦しくないように調整してつけると、いちごちゃんは誇らし気に胸の羽を膨らませている。
「マウリ様、いちごちゃんに、マンドラゴラの葉っぱはもうあげられないことを話してくれますか?」
「マンドラゴラの葉っぱを上げちゃダメなの?」
「これ以上大きくなったらヘルレヴィ家で飼えなくなってしまいます」
わたくしが説明すると、マウリ様が大根マンドラゴラのダイコンさんにお話ししていた。
「いちごちゃんに、もうマンドラゴラの葉っぱは食べないでって伝えて」
「びぎゃ! ぎょぎょえ! ぎょわ!」
「くわっ! くぇっ! がぁっ!」
「びょえ? びょわわわ?」
「え? 食べないとすごくつらいの……? どうしよう」
大根マンドラゴラのダイコンさんが通訳をしてくれたが、いちごちゃんはマンドラゴラの葉っぱを食べるのが習慣になっていて、今更食べないのはつらいと言って来る。
「どうしてもダメって言って! せっかく首輪もついてうちの子になったのに、ヘルレヴィ家にいられなくなっちゃうんだよ!」
「びぎょわ! びょわわわ! びょえ!」
「くえー!?」
ショックのあまりいちごちゃんが嘴で自分の羽を抜き始めるのをわたくしは見てしまった。あれは毛引きといって、鳥がストレスを感じているときにする行動だ。それをしてしまうほどにいちごちゃんはマンドラゴラの葉っぱを求めていた。
「どうしましょう……時々のご褒美のご馳走であげるから、それで我慢してもらえるように言ってもらえますか?」
「うん、説得してみる。いちごちゃんがつらいのも、いちごちゃんがヘルレヴィ家の白鳥じゃなくなるのも嫌だからね」
「にぃに」
期待する目で縋って来るダーヴィド様を撫でながら、マウリ様は大根マンドラゴラのダイコンさんを見た。心得たとばかりにダイコンさんは頷いている。
「びゃー、びょえ、びょわ。びぎょえぎょわぎょえ」
「くわっ……くわっくわっ」
話はようやくまとまった様子だった。
「いちごちゃんは二週間に一度は葉っぱを食べたいって言ってる」
「それくらいの頻度ならば大丈夫でしょうね。マウリ様、ありがとうございます。それにしても、よくいちごちゃんの言葉が分かりますね」
「ダイコンさんが言ってた。マンドラゴラの葉っぱを食べたから、いちごちゃんはマンドラゴラの言葉が分かるくらい賢くなったんだよ。私はダイコンさんに通訳してもらってるだけ」
やはりマンドラゴラの葉っぱを食べていちごちゃんは賢くなっていた。無事に話し合いも終わったのでわたくしは安心してマウリ様とミルヴァ様とフローラ様とハンネス様とエミリア様とライネ様とダーヴィド様と、お屋敷の中に入っていった。外はすっかりと日が暮れて暗くなっていた。
お屋敷に入ると、手を洗って晩ご飯の席に着く。カールロ様とスティーナ様には、ダーヴィド様とエミリア様が今日の報告をしていた。
「いちごたん、まんどあごあ、はっぱ、めっ!」
「くびわをアイラさまがもらってきてくださったの。それをつけたのよ」
「にちゅうかんにいっかい、いーよ」
よく分からないダーヴィド様の会話もスティーナ様とカールロ様は理解している。
「いちごちゃんはマンドラゴラの葉っぱは食べられなくなったのか」
「二週間に一度だけ食べられるのですね」
「首輪もついて、いよいようちの白鳥だな」
「わたちのいちごたん」
「ダーヴィドはいちごちゃんを可愛がっているのですね」
「かわいー! すち!」
ダーヴィド様のいちごちゃんに対する愛情はカールロ様とスティーナ様にも伝わっているようだった。湖でミルヴァ様がマンドラゴラの葉っぱを上げてしまったがために巨大化して、野生では生きていけなくなったいちごちゃんも、ヘルレヴィ家に馴染んでいる。
「もうすぐ池が出来上がるけど、ダーヴィドもエミリアも入ったらダメだぞ?」
「夏場は少し水遊びするくらいはいいですけど、もう寒いですからね」
冷たい風が吹き始めて、わたくしの冬休みも近付いてきている。ダーヴィド様もエミリア様も今の時期に池に入ってしまうと風邪を引いてしまう。
「はいらにゃい!」
「わたくし、いけにははいらないわ」
「ヨハンナ様とオルガさんにも気を付けてくださるように言っておかなければいけませんね」
「わたち、へいち」
「ダーヴィドは、お外に行くときはオルガさんと一緒だからね」
ダーヴィド様は一人では靴も履けないし、玄関も開けられない。お庭で遊ぶときには必ずオルガさんかヨハンナ様の付き添いが必要だった。エミリア様は靴を履けるし、玄関も開けられるが、一人では出ないように言い聞かされている。
「私、いちごちゃんが来てくれてよかったって思うんだ」
「わたくしも思うわ。ダーヴィドにニンジンさんの葉っぱを毟られたのはびっくりしたけど」
「ダーヴィドがすごくいちごちゃんを可愛がってるからね」
「ダーヴィドのこと、乗せて飛んでくれたものね」
マウリ様とミルヴァ様も可愛い弟と白鳥のことを楽しそうに話していた。
晩ご飯を食べ終わると、わたくしたちはお風呂に入って、子ども部屋でクリスティアンに通信で話をする。クリスティアンにもいちごちゃんの話はしていたが、今日の話し合いの結果など、伝えたいことはたくさんあった。
話があるのでわたくしが近付いていくと、ダーヴィド様は大きな蜂蜜色のお目目をくりくりとさせてわたくしを見上げていた。
「ダーヴィド様、大事なお話があります」
「おはなち、なぁに?」
「いちごちゃんが大きくなりすぎると困るので、マンドラゴラの葉っぱはもう上げないようにしてください」
わたくしが話しかけるとダーヴィド様は立ち尽くし、白鳥のいちごちゃんはショックを受けているようだ。
「くわっ!?」
いちごちゃんには人間の言葉が分かるのだろうか。
普通の白鳥にはない賢さを持っているいちごちゃんは、ダーヴィド様からマンドラゴラの葉っぱをもらっているからかもしれない。
「まんどあごあ、めっ?」
「いちごちゃんが大きくなりすぎるとヘルレヴィ家で飼えなくなります。いちごちゃんとお別れはしたくないですよね?」
「ばいばい、やーの! まんどあごあ、ないない」
いちごちゃんが大きくなりすぎたから処分するようなことはわたくしもしたくなかった。真剣にお話をすると、ダーヴィド様の方は理解してくれたようである。ホッとしてわたくしは子ども部屋からエミリア様とライネ様を呼んで来た。
エミリア様とライネ様とダーヴィド様にいちごちゃんの首輪を見せる。
「なんてかいてあるの?」
「『ヘルレヴィ家の白鳥です』と書いてあります」
「わたちのいちごたん?」
「そうです。他のひとに連れ去られたり、魔物と間違えて退治されたりしないようになります」
「いちごたん、よかったねー」
バックルに刻印されている文字にエミリア様は興味を持ち、ダーヴィド様は首輪をつければヘルレヴィ家の白鳥になるのかを気にしていた。ライネ様は話を聞いてほっとしている。
ライネ様の抱き締める大根マンドラゴラのダイちゃんの葉っぱを狙おうとしているいちごちゃんに、わたくしはどうやって言い聞かせようか迷っていた。迷っている間にマウリ様とミルヴァ様とフローラ様とハンネス様も庭に出て来る。
「いちごちゃんの首輪ができたの?」
「わたくしも見たいわ」
「わたくしにも見せて」
「すぐに着けますね」
マウリ様とミルヴァ様とフローラ様に促されて、わたくしはいちごちゃんの首に首輪をつけた。長い首が革のベルトと苺型のチャームで飾られる。苦しくないように調整してつけると、いちごちゃんは誇らし気に胸の羽を膨らませている。
「マウリ様、いちごちゃんに、マンドラゴラの葉っぱはもうあげられないことを話してくれますか?」
「マンドラゴラの葉っぱを上げちゃダメなの?」
「これ以上大きくなったらヘルレヴィ家で飼えなくなってしまいます」
わたくしが説明すると、マウリ様が大根マンドラゴラのダイコンさんにお話ししていた。
「いちごちゃんに、もうマンドラゴラの葉っぱは食べないでって伝えて」
「びぎゃ! ぎょぎょえ! ぎょわ!」
「くわっ! くぇっ! がぁっ!」
「びょえ? びょわわわ?」
「え? 食べないとすごくつらいの……? どうしよう」
大根マンドラゴラのダイコンさんが通訳をしてくれたが、いちごちゃんはマンドラゴラの葉っぱを食べるのが習慣になっていて、今更食べないのはつらいと言って来る。
「どうしてもダメって言って! せっかく首輪もついてうちの子になったのに、ヘルレヴィ家にいられなくなっちゃうんだよ!」
「びぎょわ! びょわわわ! びょえ!」
「くえー!?」
ショックのあまりいちごちゃんが嘴で自分の羽を抜き始めるのをわたくしは見てしまった。あれは毛引きといって、鳥がストレスを感じているときにする行動だ。それをしてしまうほどにいちごちゃんはマンドラゴラの葉っぱを求めていた。
「どうしましょう……時々のご褒美のご馳走であげるから、それで我慢してもらえるように言ってもらえますか?」
「うん、説得してみる。いちごちゃんがつらいのも、いちごちゃんがヘルレヴィ家の白鳥じゃなくなるのも嫌だからね」
「にぃに」
期待する目で縋って来るダーヴィド様を撫でながら、マウリ様は大根マンドラゴラのダイコンさんを見た。心得たとばかりにダイコンさんは頷いている。
「びゃー、びょえ、びょわ。びぎょえぎょわぎょえ」
「くわっ……くわっくわっ」
話はようやくまとまった様子だった。
「いちごちゃんは二週間に一度は葉っぱを食べたいって言ってる」
「それくらいの頻度ならば大丈夫でしょうね。マウリ様、ありがとうございます。それにしても、よくいちごちゃんの言葉が分かりますね」
「ダイコンさんが言ってた。マンドラゴラの葉っぱを食べたから、いちごちゃんはマンドラゴラの言葉が分かるくらい賢くなったんだよ。私はダイコンさんに通訳してもらってるだけ」
やはりマンドラゴラの葉っぱを食べていちごちゃんは賢くなっていた。無事に話し合いも終わったのでわたくしは安心してマウリ様とミルヴァ様とフローラ様とハンネス様とエミリア様とライネ様とダーヴィド様と、お屋敷の中に入っていった。外はすっかりと日が暮れて暗くなっていた。
お屋敷に入ると、手を洗って晩ご飯の席に着く。カールロ様とスティーナ様には、ダーヴィド様とエミリア様が今日の報告をしていた。
「いちごたん、まんどあごあ、はっぱ、めっ!」
「くびわをアイラさまがもらってきてくださったの。それをつけたのよ」
「にちゅうかんにいっかい、いーよ」
よく分からないダーヴィド様の会話もスティーナ様とカールロ様は理解している。
「いちごちゃんはマンドラゴラの葉っぱは食べられなくなったのか」
「二週間に一度だけ食べられるのですね」
「首輪もついて、いよいようちの白鳥だな」
「わたちのいちごたん」
「ダーヴィドはいちごちゃんを可愛がっているのですね」
「かわいー! すち!」
ダーヴィド様のいちごちゃんに対する愛情はカールロ様とスティーナ様にも伝わっているようだった。湖でミルヴァ様がマンドラゴラの葉っぱを上げてしまったがために巨大化して、野生では生きていけなくなったいちごちゃんも、ヘルレヴィ家に馴染んでいる。
「もうすぐ池が出来上がるけど、ダーヴィドもエミリアも入ったらダメだぞ?」
「夏場は少し水遊びするくらいはいいですけど、もう寒いですからね」
冷たい風が吹き始めて、わたくしの冬休みも近付いてきている。ダーヴィド様もエミリア様も今の時期に池に入ってしまうと風邪を引いてしまう。
「はいらにゃい!」
「わたくし、いけにははいらないわ」
「ヨハンナ様とオルガさんにも気を付けてくださるように言っておかなければいけませんね」
「わたち、へいち」
「ダーヴィドは、お外に行くときはオルガさんと一緒だからね」
ダーヴィド様は一人では靴も履けないし、玄関も開けられない。お庭で遊ぶときには必ずオルガさんかヨハンナ様の付き添いが必要だった。エミリア様は靴を履けるし、玄関も開けられるが、一人では出ないように言い聞かされている。
「私、いちごちゃんが来てくれてよかったって思うんだ」
「わたくしも思うわ。ダーヴィドにニンジンさんの葉っぱを毟られたのはびっくりしたけど」
「ダーヴィドがすごくいちごちゃんを可愛がってるからね」
「ダーヴィドのこと、乗せて飛んでくれたものね」
マウリ様とミルヴァ様も可愛い弟と白鳥のことを楽しそうに話していた。
晩ご飯を食べ終わると、わたくしたちはお風呂に入って、子ども部屋でクリスティアンに通信で話をする。クリスティアンにもいちごちゃんの話はしていたが、今日の話し合いの結果など、伝えたいことはたくさんあった。
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