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二章 高等学校で魔法を学ぶ

39.王都の図書館と植物園へ

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 カールロ様はマウリ様とミルヴァ様を抱っこしたまま馬車に乗る。片方ずつ逞しいお膝に乗せられて、マウリ様とミルヴァ様はどことなく嬉しそうだった。スティーナ様の細腕では二人を一度に抱き締めることはできても抱き上げることはできない。細いお膝にも一人ずつしか乗ることができない。
 もう5歳になっているがマウリ様とミルヴァ様は甘えたい盛りである。カールロ様に受け止めてもらえるのが嬉しいのだろう。

「オスモ殿と正式に離婚したと聞きました。こんどこそ、俺のプロポーズを受けてもらいたい」
「わたくしは、再婚ですし、子どももおります。カールロ様より年上です」

 躊躇うスティーナ様にカールロ様は膝の上のマウリ様とミルヴァ様を抱き寄せる。ぎゅっと抱き締められて二人が嬉しそうに「きゃー!」と悲鳴を上げた。

「こんなに可愛い子どもがいるなら、尚更結婚したい。この二人に『お父様』と呼ばれて、俺がどれだけ嬉しいことか」
「おとうさま、うれしい?」
「おとうさま、わたくしたちがすき?」
「物凄く可愛いよ」

 目じりを下げて笑っているカールロ様は栗色の髪に青い目をしていた。マウリ様がお顔を覗き込んでカールロ様の耳に口を寄せてこそこそと囁く。

「おとうさまのおめめ、アイラさまにちょっとにてる。わたし、アイラさまがだいすきなんだ」
「アイラ様はマウリ様の婚約者だろう。大好きでよかったな」
「うん! だいすき!」

 マウリ様とカールロ様が内緒話をしている様子を見てミルヴァ様もカールロ様の耳に口を寄せて囁く。

「わたくし、クリスさま、だいすき。おとうさまのおめめ、クリスさまとちょっとにてるの」

 カールロ様は青でわたくしとクリスティアンは水色なので濃さは違うが色味は確かに似ている。何より宿している光が暖かく優しいもので、それが同じだとマウリ様とミルヴァ様は感じ取っているのかもしれない。

「お母様に言ってやってくれよ。お父様と結婚してって」
「けっこんしてなかったの?」
「おとうさま、おしごとでいなかっただけじゃないの?」

 オスモ殿のことはすっかり忘れているマウリ様とミルヴァ様の中では、今までカールロ様に会えなかったのはお仕事でいなかったからで、既にカールロ様とスティーナ様は結婚していることになっているようだ。

「そんな! いけません、マウリ、ミルヴァ!」
「なにがいけないの?」
「おかあさま、おとうさまがすきでしょ?」

 5歳児の素直な言葉にスティーナ様が真っ赤になる。真っ赤になったスティーナ様を見てカールロ様は目を細めていた。
 長身で逞しい体付きのお若いカールロ様。最初に声をかけた来たときにはスティーナ様に下心があるかと思ったが、紳士的だったし、プロポーズしてからも強引だがマウリ様やミルヴァ様を大事にしてくださっている。
 馬車が図書館に着くとわたくしたちはそれぞれの棚に向かった。わたくしは古代語の文法の棚、ハンネス様は農業の棚。マウリ様はわたくしに付いて来て、ミルヴァ様とクリスティアンはハンネス様についていく。
 スティーナ様とカールロ様は二人きりになった。
 エロラ先生に間違っていると指摘された部分の文法を詳しく調べると、辞書に載っていない表現が出てくる。やはり国立図書館の資料は頼りになる。調べ終えてハンネス様の方に行くと、マンドラゴラについて調べていた。

「やはりこんなに感情豊かでよく動くものは珍しいようですね」
「わたくしのニンジンさん、めずらしい!」
「ぼくのカブさんも!」

 誇らしげに抱き締めている人参マンドラゴラと蕪マンドラゴラを差し出すミルヴァ様とクリスティアン。
 図書館の中では煩くしてはいけないと言い聞かせてあるので、人参マンドラゴラも蕪マンドラゴラも両手で自分の口を押えていた。マウリ様も大根マンドラゴラを抱き締めてわたくしと手を繋いでいる。

「アイラさま、おとうさまとおかあさまはへいきかな?」
「わたくしも気になっておりました」

 邪魔をしないように近付くと二人は談話スペースで話をしていた。

「わたくしのことよりも、子どもたちを大事にしてくださる方、領地を共にお様てくださる方を求めているのです。わたくし一人で領地を治めておりますが、限界を感じておりまして」
「マウリ様もミルヴァ様も領地も、そして、スティーナ様も、全て大事にする」
「カールロ様……」
「今はまだ勉強不足ですぐにはなんでもできないかもしれないが、スティーナ様に並べるようにどれだけでも勉強する。砂浜で一人寂し気に立っているあなたに恋をした。あなたがヘルレヴィ家でどれだけ苦労をしたかを聞き、支えになりたいと思った。あなたと共に生きたい」

 情熱的にカールロ様はスティーナ様を口説いていた。
 声をかけられずにいると、マウリ様とミルヴァ様が駆けてくる。

「おとうさまー! おかあさまー!」
「マンドラゴラのことをしらべたの。しょくぶつえんで、マンドラゴラがみたい」

 五歳児に空気を読むなんてことはできない。突撃して行った二人に、カールロ様とスティーナ様の話は一時中断された。
 図書館から出て、前の公園になっているスペースでお昼ご飯を食べる。水筒の蓋に入れたお茶をカールロ様に渡そうとしたマウリ様が、転びそうになってカールロ様に抱き留められた。マウリ様は転ばずに無事だったが、カールロ様のスーツのスラックスにお茶が零れてしまう。

「ごめんなさい!」
「マウリが申し訳ありません。シミにならないようにしないと」
「気にしないで。マウリ様のしたことだから。マウリ様、怪我はないか?」
「うん、へいき」

 お茶を零されても怒るどころかマウリ様の怪我の方を心配してくれるカールロ様に、わたくしは言葉上だけでないマウリ様とミルヴァ様への愛情を感じた。
 国立植物園では管理人さんにわたくしはお礼を言いに行った。

「試しに送ってくださった種のおかげで、スティーナ様を助けることが出来ました」
「わたくしが健康になったのもマンドラゴラのおかげです」
「びぎゃ!」
「びょえ!」
「ぎょわ!」

 お礼を言うわたくしとスティーナ様の足元で人参マンドラゴラと蕪マンドラゴラと大根マンドラゴラが胸を張っている。

「品種改良した種だったのに、こんなに立派に育てられて。これはあなた様の育て方がよかったのですよ。増やした種も同じように育ててもっと国中にマンドラゴラが広がるようにしてください」

 驚いた管理人さんはわたくしを励ましてくださった。国中にマンドラゴラが行き渡るようになれば、病気で苦しむひとたちに救いの手を差し伸べることができるかもしれない。
 マンドラゴラ栽培はラント領とヘルレヴィ領の大きな収入源になる可能性を持っていた。
 植物園を歩いていくと、温度管理された温室の中で様々な草花が栽培されている。その中でも一番わたくしたちが興味があったのはマンドラゴラの温室だった。
 土の中から半分だけ顔を出しているマンドラゴラは、マウリ様の大根マンドラゴラ、ミルヴァ様の人参マンドラゴラ、クリスティアンの蕪マンドラゴラに反応して葉っぱがゆさゆさと揺れている。
 じっと見ていると、ハンネス様が管理人さんに何か話しかけられていた。

「アイラ様、大根と人参と蕪以外のものも育ててみないかと種を渡されました」
「他の種類のマンドラゴラも、ですか?」

 マンドラゴラの畝のプレートを見ると、ジャガイモ、ゴボウ、玉ねぎなど、他の種類もある。まだまだわたくしたちには未知のマンドラゴラがいるようだった。
 昼食後で眠くなっているマウリ様とミルヴァ様は頭がぐらぐらし始めている。クリスティアンもどこか目が虚ろだ。
 夕方には列車に乗らなくてはいけないが、その前に少し休まないとマウリ様もミルヴァ様もクリスティアンも途中で眠ってしまいそうだった。困っているとカールロ様から提案がある。

「おやつに俺の実家に招かれてくれないか?」
「よろしいのですか?」
「実は、惚れた相手をどうやってでも口説いて連れてくると大見得を切ってしまったんだ。頼む、来てくれ」

 お願いされてスティーナ様はぐにゃぐにゃになっているマウリ様とミルヴァ様、目が虚ろなクリスティアンを見た。休まないと帰ることもままならないだろう。

「それでは、失礼してお邪魔させていただきます」

 決めたスティーナ様にカールロ様がガッツポーズをして喜び、マウリ様とミルヴァ様を抱き上げた。
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