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一章 龍王は王配と出会う
7.龍王の妹
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龍王は龍族としては早い時期に父を亡くしている。
前龍王だった父は、病気にもかかりにくく強いと言われている龍族なのに、二百歳になる前に病で亡くなった。早すぎる父の死は龍王にとって心に衝撃を与えたし、龍王として即位しなければならないという重責を負わせた。
周囲のものはみな、龍王が幼いころの病気で子種をなくしているのを知っていたので、王太子時代から無理に結婚をさせようとはしなかった。
龍王になってまで結婚をしないわけにはいかなかったので、一番利益のある国と政略結婚をしようと決めて、選ばれたのが魔術師の王国、ラバン王国だった。
自分に子種がないのは分かっていたので、嫁いできたものは子どもを産むことができないと確定している。それゆえに、男女を問わずと条件を付けて、褥も共にしないと宣言していたが、嫁いできたヨシュアと触れ合うにつれて龍王は心動かされていた。
純粋にヨシュアはとても整った顔立ちで、佇まいも美しくて、目を引いた。
最初に惹かれたのは外見からだったかもしれない。
その後に、食事を共にするようになって、ヨシュアの部屋の寝台で午睡までしてしまって、本格的に自分はヨシュアに惹かれているのではないかと思い始めた。
父を亡くしてから、血縁は妹と母だけで、その二人とも仲良くはしていたが、頼りになる年上の男性を求めていたのかもしれない。
戦場にも出るヨシュアは警護の兵士よりも余程頼りになって、龍王が眠っている間も警護の兵士は部屋の外で守らせて、部屋の中にはヨシュアと龍王二人きりにしてくれた。
そのおかげで龍王はゆっくりと寛いで眠ることができた。
夜もヨシュアの部屋で眠れば、ぐっすりと眠れるのではないだろうか。
そこまで考えてから龍王は頭を抱えた。
ヨシュアが嫁いできた条件として、男女を問わないこと、褥を共にしないことがある。
今更一緒に眠りたいと願ったとしても、前言を撤回するような事態になってしまう。
龍王は志龍王国の国王で、ヨシュアは王配なのだから共に寝てもおかしくはないはずである。
それでも、結婚の条件として出したものが龍王の心に重く圧し掛かっていた。
政務を終えて青陵殿に向かおうとする龍王に会いたいというものがいた。
龍王の妹の梓晴王女だ。
梓晴はまだ未婚だが、龍王に子どもができないのは分かっているので、いずれは梓晴の子どもが龍王になるであろうということで、各国から縁談の話が来ていた。
梓晴は国を出ることなく、志龍王国で婿を取って王宮で暮らしたいと願っているようだった。
「兄上、最近は王配殿下のところに頻繁に行っているようですね。お二人の仲が深まったというのは本当ですか?」
「あの方には親切にしていただいている。わたしはあの方を信頼している」
「本当なのですね! 兄上がそのように言われるとはめでたいです。わたくしも王配殿下にご挨拶したいのですが」
そういえば、結婚式の席に梓晴は参列していたが、王配であるヨシュアと親しく言葉を交わすようなことはできなかった。その後もヨシュアは忙しく国境の諍いを治めたり、統治が行き渡っていない土地に遠征と称して土地を治めに行っていたので、梓晴とはしっかりと顔合わせができていなかった。
「そのうちに場を設けよう」
「本日ではいけませんか? 兄上は今から青陵殿に行かれるのでしょう?」
性急なお願いだったが、一応ヨシュアの意見も聞いてみたかった。
ヨシュアに短い文を書いて送ると、紙を折った鳥が飛んでくる。鳥は龍王の手の平の上に落ちると解けて文になった。
「『夕餉をぜひご一緒いたしましょう。花茶を用意してお待ちしています』とのことだ」
「ありがとうございます、兄上」
冠も脱いで楽な格好になって向かおうと考えていたのに、梓晴が一緒だとそういうわけにもいかない。ヨシュアには何度も「重くないのですか?」と真顔で聞かれている黒地に赤の宝石や刺繍の施された衣装もそのままに青陵殿に向かうと、ヨシュアの部屋は花の香りのする香が焚かれていた。
入り口で梓晴が膝をつき、龍王がヨシュアに紹介する。
「妹の梓晴だ。結婚式の宴で顔は合わせたかもしれないが、話すのは初めてだと思う」
「ヨシュアと申します。よろしくお願いします、ズーチン殿下」
「梓晴です。梓に晴ると書きます。よく晴れた日に生まれたので、父がそう名付けてくれました」
「梓晴殿下ですね。お名前の文字、教えていただきありがとうございます。志龍王国の文字は数が多くて全部は覚えていないのですが、梓晴殿下のお名前の文字は覚えました」
ヨシュアの口から梓晴の名前が出ている。
龍王は即位したときから龍王としか呼ばれなくなるので、個人名を呼ばれることはほぼない。あるとすれば伴侶に二人きりのときに読んでもらうくらいなのだが、龍王が自分の名前を告げる前に、梓晴の方が自分の名前を告げてヨシュアに呼んでもらっている。
自分の妹とヨシュアが何かあるはずはないのに、胸の中が複雑になる龍王に気付かず、ヨシュアは龍王と梓晴に椅子を勧めている。
「志龍王国の民が王配殿下を見て、妖精のように美しいと言っていると噂を聞きましたが、お噂にたがわない美しさで驚きました」
「この金色の髪と青い目が珍しいのでしょう。ラバン王国でもこれだけ派手な金色の髪のものは少なかったのです」
「冠を被るよりも髪を解かれていた方がお似合いですね」
和やかに梓晴とヨシュアが話しているのを見ても、龍王はなぜか胸がもやもやしてしまう。
無言のままでいる龍王に、ヨシュアがさりげなく料理を取り分けてくれる。
「龍王陛下はこの野菜と魚の蒸し物がお好きでしたよね。今日も作らせましたので、存分に味わってください」
「ありがとう……」
「王配殿下は兄上の好みまでご存じなのですね。兄上は好き嫌いが多くて、王宮の厨房の料理長が苦労しているのですよ」
「こちらではなんでもお召し上がりになっていますよ。量は多くはないですが」
「王配殿下と食事をなさるようになってから、兄上は少し肉が付いた気がします。元が痩せすぎだったので、ちょうどよくなってきた気がいたしますわ」
わたくしも失礼していただきます。
そう言って、箸を持ち上げた梓晴は見たこともない料理に興味津々で食べてみている。
汁物も、あんかけも、羹も、果物すらこれまで食べていたものと全く違う。王宮の凝った料理ではなくて、どちらかといえば素朴ともいえる味付けの方がヨシュアの好みには合うようだ。
王宮の外で平民達も食べているものを口にすると、龍王も安心するような気がする。
食後には香りのいい花茶が出された。
花の香りのするお茶は、苦みや渋みはなく、すっきりとしていて美味しい。
食後の薬草茶は梓晴も龍王も飲まされていたが、口直しに花茶はぴったりだった。
「楽しいひと時をありがとうございました。わたくしは先に失礼いたしますね」
龍王と王配の時間を邪魔しないように、花茶を飲み終わると梓晴が立ち上がる。
「またいつでもどうぞ」
ヨシュアが梓晴に向ける笑顔が慈愛に満ちているような気がして、龍王は自分の妹なのに何か面白くなかった。
警備の兵士も部屋の外で待っているようで、龍王とヨシュア二人きりになって、龍王はヨシュアに詰め寄る。
「わたしの名前は星宇だ。星に宇宙の宇で星宇と書く」
「龍王陛下のお名前は初めて聞きました」
「二人きりのときには、わたしのことは星宇と呼んでくれないか?」
「遠慮します」
はっきりと断られて、龍王は一瞬何を言われているか分からなかった。
親愛の情を込めて自分の名前を告げて、それを呼んでいいと伝えたはずなのに、あっさりと断られてしまっている。
「な、なにゆえ?」
「龍王陛下とわたしの間に、そのようなことは必要ないでしょう?」
「梓晴の名前は呼んでいたではないか!」
「では、梓晴殿下のことも王女殿下と呼べばよろしいですか?」
全く気持ちが伝わっていない。
愕然としながらも龍王は縋るようにヨシュアに言う。
「それならば、あなたのことを『ヨシュア』と呼んでもいいか?」
「その必要はないかと思われます」
「わたしが呼びたいのだ!」
「それでしたら、ご自由に。わたしは龍王陛下の伴侶ですから」
名前を呼んでほしいと願えば拒否されて、名前を呼びたいと言えば必要ないと言われる。
一緒に食事をするようになって、少しはヨシュアの心が近くなったような気がしていたのだが、ヨシュアは最初に会ったときと変わらないようだった。
翻弄されているのは自分ばかり。
「こ、今夜はここで寝たいと言ったら?」
「褥を共にしないという条件でわたしはこの国に嫁いでいます。龍王陛下がこの部屋を使いたいのならば、わたしは別の部屋で眠ります」
「それでは意味がない。ヨシュア殿がいてくれたら、警備の兵士が部屋にいなくてもよくて、わたしはぐっすり眠れる」
「わたしに長椅子で休めと仰るのですか? それが命令なら、仕方がないですが」
あくまでも同衾はしないと告げるヨシュアに龍王は最初に自分で「褥は共にしない」と言ったことを後悔し始めていた。
「あなたを長椅子で休ませるわけにはいかない……今日は自分の部屋に戻る。わたしがあなたと一緒に寝たいと思うことはそんなにおかしいのか?」
「龍王陛下、褥を共にしたいなら、女性を呼ぶことをお勧めします」
「あなたとならば、安眠できると言っているのだ。何もしない。ただ、一緒に寝るだけだ」
「それならば、ますます意味が分かりません。護衛としてわたしを必要とするなら、この部屋にもう一台寝台を運び込ませて、そちらでわたしは寝ますが」
そこまで譲歩してもらわなければ、同じ空間で眠ることすら龍王とヨシュアには難しいのだろうか。
王配なのだから共に寝てもおかしくはないはずなのに。
最初からあんなことを言わなければよかったと龍王は後悔していた。
前龍王だった父は、病気にもかかりにくく強いと言われている龍族なのに、二百歳になる前に病で亡くなった。早すぎる父の死は龍王にとって心に衝撃を与えたし、龍王として即位しなければならないという重責を負わせた。
周囲のものはみな、龍王が幼いころの病気で子種をなくしているのを知っていたので、王太子時代から無理に結婚をさせようとはしなかった。
龍王になってまで結婚をしないわけにはいかなかったので、一番利益のある国と政略結婚をしようと決めて、選ばれたのが魔術師の王国、ラバン王国だった。
自分に子種がないのは分かっていたので、嫁いできたものは子どもを産むことができないと確定している。それゆえに、男女を問わずと条件を付けて、褥も共にしないと宣言していたが、嫁いできたヨシュアと触れ合うにつれて龍王は心動かされていた。
純粋にヨシュアはとても整った顔立ちで、佇まいも美しくて、目を引いた。
最初に惹かれたのは外見からだったかもしれない。
その後に、食事を共にするようになって、ヨシュアの部屋の寝台で午睡までしてしまって、本格的に自分はヨシュアに惹かれているのではないかと思い始めた。
父を亡くしてから、血縁は妹と母だけで、その二人とも仲良くはしていたが、頼りになる年上の男性を求めていたのかもしれない。
戦場にも出るヨシュアは警護の兵士よりも余程頼りになって、龍王が眠っている間も警護の兵士は部屋の外で守らせて、部屋の中にはヨシュアと龍王二人きりにしてくれた。
そのおかげで龍王はゆっくりと寛いで眠ることができた。
夜もヨシュアの部屋で眠れば、ぐっすりと眠れるのではないだろうか。
そこまで考えてから龍王は頭を抱えた。
ヨシュアが嫁いできた条件として、男女を問わないこと、褥を共にしないことがある。
今更一緒に眠りたいと願ったとしても、前言を撤回するような事態になってしまう。
龍王は志龍王国の国王で、ヨシュアは王配なのだから共に寝てもおかしくはないはずである。
それでも、結婚の条件として出したものが龍王の心に重く圧し掛かっていた。
政務を終えて青陵殿に向かおうとする龍王に会いたいというものがいた。
龍王の妹の梓晴王女だ。
梓晴はまだ未婚だが、龍王に子どもができないのは分かっているので、いずれは梓晴の子どもが龍王になるであろうということで、各国から縁談の話が来ていた。
梓晴は国を出ることなく、志龍王国で婿を取って王宮で暮らしたいと願っているようだった。
「兄上、最近は王配殿下のところに頻繁に行っているようですね。お二人の仲が深まったというのは本当ですか?」
「あの方には親切にしていただいている。わたしはあの方を信頼している」
「本当なのですね! 兄上がそのように言われるとはめでたいです。わたくしも王配殿下にご挨拶したいのですが」
そういえば、結婚式の席に梓晴は参列していたが、王配であるヨシュアと親しく言葉を交わすようなことはできなかった。その後もヨシュアは忙しく国境の諍いを治めたり、統治が行き渡っていない土地に遠征と称して土地を治めに行っていたので、梓晴とはしっかりと顔合わせができていなかった。
「そのうちに場を設けよう」
「本日ではいけませんか? 兄上は今から青陵殿に行かれるのでしょう?」
性急なお願いだったが、一応ヨシュアの意見も聞いてみたかった。
ヨシュアに短い文を書いて送ると、紙を折った鳥が飛んでくる。鳥は龍王の手の平の上に落ちると解けて文になった。
「『夕餉をぜひご一緒いたしましょう。花茶を用意してお待ちしています』とのことだ」
「ありがとうございます、兄上」
冠も脱いで楽な格好になって向かおうと考えていたのに、梓晴が一緒だとそういうわけにもいかない。ヨシュアには何度も「重くないのですか?」と真顔で聞かれている黒地に赤の宝石や刺繍の施された衣装もそのままに青陵殿に向かうと、ヨシュアの部屋は花の香りのする香が焚かれていた。
入り口で梓晴が膝をつき、龍王がヨシュアに紹介する。
「妹の梓晴だ。結婚式の宴で顔は合わせたかもしれないが、話すのは初めてだと思う」
「ヨシュアと申します。よろしくお願いします、ズーチン殿下」
「梓晴です。梓に晴ると書きます。よく晴れた日に生まれたので、父がそう名付けてくれました」
「梓晴殿下ですね。お名前の文字、教えていただきありがとうございます。志龍王国の文字は数が多くて全部は覚えていないのですが、梓晴殿下のお名前の文字は覚えました」
ヨシュアの口から梓晴の名前が出ている。
龍王は即位したときから龍王としか呼ばれなくなるので、個人名を呼ばれることはほぼない。あるとすれば伴侶に二人きりのときに読んでもらうくらいなのだが、龍王が自分の名前を告げる前に、梓晴の方が自分の名前を告げてヨシュアに呼んでもらっている。
自分の妹とヨシュアが何かあるはずはないのに、胸の中が複雑になる龍王に気付かず、ヨシュアは龍王と梓晴に椅子を勧めている。
「志龍王国の民が王配殿下を見て、妖精のように美しいと言っていると噂を聞きましたが、お噂にたがわない美しさで驚きました」
「この金色の髪と青い目が珍しいのでしょう。ラバン王国でもこれだけ派手な金色の髪のものは少なかったのです」
「冠を被るよりも髪を解かれていた方がお似合いですね」
和やかに梓晴とヨシュアが話しているのを見ても、龍王はなぜか胸がもやもやしてしまう。
無言のままでいる龍王に、ヨシュアがさりげなく料理を取り分けてくれる。
「龍王陛下はこの野菜と魚の蒸し物がお好きでしたよね。今日も作らせましたので、存分に味わってください」
「ありがとう……」
「王配殿下は兄上の好みまでご存じなのですね。兄上は好き嫌いが多くて、王宮の厨房の料理長が苦労しているのですよ」
「こちらではなんでもお召し上がりになっていますよ。量は多くはないですが」
「王配殿下と食事をなさるようになってから、兄上は少し肉が付いた気がします。元が痩せすぎだったので、ちょうどよくなってきた気がいたしますわ」
わたくしも失礼していただきます。
そう言って、箸を持ち上げた梓晴は見たこともない料理に興味津々で食べてみている。
汁物も、あんかけも、羹も、果物すらこれまで食べていたものと全く違う。王宮の凝った料理ではなくて、どちらかといえば素朴ともいえる味付けの方がヨシュアの好みには合うようだ。
王宮の外で平民達も食べているものを口にすると、龍王も安心するような気がする。
食後には香りのいい花茶が出された。
花の香りのするお茶は、苦みや渋みはなく、すっきりとしていて美味しい。
食後の薬草茶は梓晴も龍王も飲まされていたが、口直しに花茶はぴったりだった。
「楽しいひと時をありがとうございました。わたくしは先に失礼いたしますね」
龍王と王配の時間を邪魔しないように、花茶を飲み終わると梓晴が立ち上がる。
「またいつでもどうぞ」
ヨシュアが梓晴に向ける笑顔が慈愛に満ちているような気がして、龍王は自分の妹なのに何か面白くなかった。
警備の兵士も部屋の外で待っているようで、龍王とヨシュア二人きりになって、龍王はヨシュアに詰め寄る。
「わたしの名前は星宇だ。星に宇宙の宇で星宇と書く」
「龍王陛下のお名前は初めて聞きました」
「二人きりのときには、わたしのことは星宇と呼んでくれないか?」
「遠慮します」
はっきりと断られて、龍王は一瞬何を言われているか分からなかった。
親愛の情を込めて自分の名前を告げて、それを呼んでいいと伝えたはずなのに、あっさりと断られてしまっている。
「な、なにゆえ?」
「龍王陛下とわたしの間に、そのようなことは必要ないでしょう?」
「梓晴の名前は呼んでいたではないか!」
「では、梓晴殿下のことも王女殿下と呼べばよろしいですか?」
全く気持ちが伝わっていない。
愕然としながらも龍王は縋るようにヨシュアに言う。
「それならば、あなたのことを『ヨシュア』と呼んでもいいか?」
「その必要はないかと思われます」
「わたしが呼びたいのだ!」
「それでしたら、ご自由に。わたしは龍王陛下の伴侶ですから」
名前を呼んでほしいと願えば拒否されて、名前を呼びたいと言えば必要ないと言われる。
一緒に食事をするようになって、少しはヨシュアの心が近くなったような気がしていたのだが、ヨシュアは最初に会ったときと変わらないようだった。
翻弄されているのは自分ばかり。
「こ、今夜はここで寝たいと言ったら?」
「褥を共にしないという条件でわたしはこの国に嫁いでいます。龍王陛下がこの部屋を使いたいのならば、わたしは別の部屋で眠ります」
「それでは意味がない。ヨシュア殿がいてくれたら、警備の兵士が部屋にいなくてもよくて、わたしはぐっすり眠れる」
「わたしに長椅子で休めと仰るのですか? それが命令なら、仕方がないですが」
あくまでも同衾はしないと告げるヨシュアに龍王は最初に自分で「褥は共にしない」と言ったことを後悔し始めていた。
「あなたを長椅子で休ませるわけにはいかない……今日は自分の部屋に戻る。わたしがあなたと一緒に寝たいと思うことはそんなにおかしいのか?」
「龍王陛下、褥を共にしたいなら、女性を呼ぶことをお勧めします」
「あなたとならば、安眠できると言っているのだ。何もしない。ただ、一緒に寝るだけだ」
「それならば、ますます意味が分かりません。護衛としてわたしを必要とするなら、この部屋にもう一台寝台を運び込ませて、そちらでわたしは寝ますが」
そこまで譲歩してもらわなければ、同じ空間で眠ることすら龍王とヨシュアには難しいのだろうか。
王配なのだから共に寝てもおかしくはないはずなのに。
最初からあんなことを言わなければよかったと龍王は後悔していた。
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