俺は貴女に抱かれたい

秋月真鳥

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一部 玲と松利編

猫を助けたら美女に嫁に貰われた件 9

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 猫を助けた日から、松利に幸運が降ってきた。
 出会った美しい玲に一目惚れをして、叶わぬ恋だと逃げてしまったら、強引にも玲は松利の発情期に押しかけて、素直に強請ることのできない松利を抱いてくれた。発情期が終わったら玲の家に引っ越して、籍も入れて、会社を退職して夢だったアクセサリーや小物作りを仕事にできるようになった。次の発情期では、操を預けて、玲と溺れるほど愛し合った。
 その結果、告げられた妊娠に、あまりに順調すぎて松利は嬉しさ半分、怖さ半分だった。

「こんなに幸せでいいんでしょうか……」
「松利さんのことはうちが絶対に幸せにするって決めてたから、もっともっと幸せになってもらわなあかんのやで」

 割れた腹筋の下に赤ん坊がいる。お腹を撫でて感慨にふける松利の腰を、玲が抱き寄せた。
 赤ん坊ができたことで喜んでくれたのは玲だけではない。一緒に暮らしていて、玲が引き取っている操も大喜びだった。

「竹史くん、元気に生まれてくるのですよ」
「まだ性別は分かってないよ。バース性が分かるのは生まれて5年は経たないといけないし」
「みさおは松利さんを信じているのです」

 信じて、求めてくれる操に答えてやりたい気持ちはあるが、こればかりは松利の一存で決められることでもなかった。それに名前も松と竹で、松利由来で、玲の要素が全くないが、男の子だったらそれで構わないと玲は告げていた。

「良いんですか、玲さんの要素がないですよ」
「女の子やったら、別の名前を考えるし、うちの一番好きなひとの名前が由来やもん、反対できへんわ」

 優しく微笑んで松利のお腹を撫でてくれる玲の手に、松利もうっとりと目を細めた。
 男性のオメガの場合、体質によって出産が変わってくるという。男性的なオメガは女性器に相当する場所ができなかったり、骨盤が開かなくて自然分娩が難しかったりするのだが、女性的なオメガは骨格から違っていて、女性器に相当するものが、女性アルファが男性器に相当するものが生えるのと同じ原理でできて、自然分娩が可能だというのだ。
 男性のオメガなので専門の病院が少し遠くなるが、そこで詳しく調べてもらうと、松利は骨格的には骨盤が開く形になっているようで、問題がないということだった。

「パートナーの方は女性のアルファさんですよね?」
「そうです」
「それなら、ご理解があると思います。女性のアルファさんに男性器に相当するものが生えるように、男性器と肛門の間に、女性器に相当する出産のための産道が出産までにできると思いますので、驚かれないでくださいね」

 医師の説明では、望まない妊娠で無理やり孕まされた男性オメガが、産道ができて行くのを何かの病気と思い込んで、病院に飛び込むという事態も少なくはないらしい。その場合、オメガ男性専門の医師でなければ、それに対応できないので、緊急でこの病院に運ばれてくるということがある。
 妊娠、出産に備えるにも、知識は必要なのだと、松利は玲と一緒によく勉強した。

「お風呂で転んだりしたら危ないから、お願いや、うちと入ってください。妊娠してる松利さんに無体は働きません」

 発情期で操を預けていた間はずっと一緒に入っていたお風呂も、操の目があるので別々にしていたが、もうオープンで構わないと玲に土下座されそうになって、松利は膝を付く玲の手を取って立たせた。

「みさおも、師匠が一緒に入れないときは、松利さんと入ります」
「み、操ちゃんは、ちょっと、恥ずかしい、かな?」
「赤さんが生まれたら、みさお、一緒に入りますよ?」

 家族なのだし、恥じらうことはないと操も玲も受け入れてくれるので、生まれるまでは玲と一緒に、生まれてからは操にも赤ん坊の入浴を手伝ってもらうことを約束して、話は纏まった。

「みぃちゃん、うちとは入りたがらへんのに」
「師匠は、乱暴だから嫌です」
「うちをDV夫みたいに言わんといて!?」

 髪の洗い方や乾かし方が、玲は適当だから嫌だという操も年頃なのだろう。松利と番になってから、常時玲には男性器に相当するものが生えているような状態なので、それも気にならないはずはない。
 気にならないはずはないのだが。

「俺も、付いてるんだけどなぁ、一応」

 男性のオメガなので松利は当然男性器が付いているのだが、それは玲に抱かれるようになって完全に用をなさないようになっている。そのことを操が知っているはずがないのに、操は松利とならばお風呂に入っても平気だと言ってくれる。

「分かった、お母さんだ」
「松利さんがお母さん?」
「そうです、操ちゃんは玲さんにお父さん、俺にお母さんを求めているのかもしれませんよ」

 年頃の女の子は、父親を嫌がったりする。代わりに、弟や妹を妊娠している母親には優しかったりする。性別は逆だが、バース性としては合っているので、松利はそれで操の態度に納得した。

「そうですね、松利さんは理想のお義母さんなのです」
「なんや、微妙に発音が違うような気がするんやけど」

 実母として求めているのではなく、姑として理想と言われているのだということに、玲は気付いたが、発音が同じだったので松利が気付くはずもなかった。
 産道に相当する場所は慎ましやかに出来上がって、臨月までには松利の身体は自然分娩を行える準備が整っていた。
 男性は女性よりも出血や痛みに弱いというが、男性オメガでも男性的なものは弱く、女性的なものは比較的強いと医師は言っていた。

「どうしても陣痛に耐えきれなくなったら、麻酔薬を使いますが、赤ん坊の安全のために、強いものは使えませんので、できるだけ頑張ってくださいね」
「はい、我慢できるように頑張ります」
「我慢はしなくていいです。痛くて無理だったら、きちんと言ってください」

 臨月の最後の検診で医師から説明を受けて、破水をしたらすぐに病院に連れてくるようにと玲は言われていた。帰ってから、操に玲が説明する。

「出産予定日近くなって、松利さんがうちを呼んでって言うたら、うちが何しとっても、引きずってきてくれるか?」
「殴ってでも連れてきますね!」
「……みぃちゃん、頼りになるわぁ」

 道場の師範代はいつ生まれるか分からない状態では休めないので、破水と陣痛が始まるまでの期間は、玲と操が交代で松利のそばにいてくれるようになった。

「携帯電話で呼べますよ。いざとなれば、タクシーで病院に行きますし」
「あかん! うちは、赤さんの父親なんや。松利さんに無責任なことはしたくないし、道場で教えてる間は携帯電話はすぐに出られんかもしれへん」

 組み手をしていたりすると、携帯電話を持っているわけにはいかない。家から道場までは渡り廊下で繋がっているので、操が走れば3分もかからなかった。

「みさおがそばにいます。やっぱり、家族の大事なときだから、みさお、担任の先生を説得して、お休みをもらいます」
「やーめーてー!? そこまで大事おおごとにしないで!?」

 自分で思っているよりも松利も赤ん坊も大事にされているのだと実感する日々だった。
 出産予定日を一日過ぎて、松利のお腹に違和感があった。破水したようで、下着とパジャマのズボンが濡れている。

「れい、さん……きた、みたいです」

 時刻は夜で、二人で寝ようとしていたときだった。

「歩けそうか?」
「いたい、いたい、いたい、いたい……少ししたら、おさまるって。そのときに」

 陣痛は波があって、その感覚が徐々に短くなって赤ん坊が生まれると教えられていた。松利が動けるようになるまでに、玲は操を起こして着替えさせて、玲も着替えて松利の入院用の用意していたバッグを車に積み込んで、操も車に乗せていた。

「うごけそう、かも……」
「うちに掴まって。大丈夫やで、これから時間計らなあかんな」
「みさおに任せてください!」

 メモ帳と腕時計をしっかりと用意していた操が、車の後部座席で時間をチェックしている。
 病院に着くころには、陣痛は五分間隔になっていた。

「耐えられるか?」
「なん、とか……れいさん、こし、いたい」
「摩ったる」
「みさおも、立ち会いたいです!」
「だいじな、べんきょうになるから」

 当然操も家族であるし、出産の場面に立ち会うのは大事な性教育にもなる。特に問題のある難しい出産でもなく、出産日も一日しか過ぎていないような状態だったので、医師に許可を取って、操と玲の二人が分娩台に上がった松利に付き添ってくれた。
 痛みが来るたびに脂汗を流して苦しむ松利の腰を摩り、汗を拭き、玲が応援してくれる。操も小さな手で松利の手を握り締めていた。
 陣痛の感覚が短くなって、激しい痛みと共に意識が遠くなりながら、必死にいきんだ結果、生まれてきたのは3000グラムに少し足りない健康な男の子だった。産声からして大きく、松利は安堵して涙が止まらなかった。

「れい、さん、あかちゃん、だっこして」
「うん、松利さん、頑張ったなぁ。可愛い男の子やわ」
「竹史くん、初めまして。みさおですよ」

 産着に包まれてうごうごと動いている赤ん坊は、真っ赤でしわしわでどちらに似ているか分からないが、こんな可愛い生き物がいたのかと感動するほどに可愛かった。意外に力強い声で泣いているのも、健康な証拠のようで安心する。

「赤ちゃんは新生児室でお預かりしますので、お母さんはゆっくりと休んでくださいね」

 医師に言われて連れて行かれた病室が、豪華なホテルの個室のようで、松利は驚く。診察している間は気付かなかったが、アルファの番のオメガというのは、大抵地位のある相手の嫁なので、病院の入院施設もお値段はするが豪華仕様のものも用意されていて、玲はそこを予約してくれていたらしい。
 広いベッドで、付き添いの玲も寝られるようになっていて、ソファベッドでは操も眠れる。

「付き添いが泊まれるのは今夜だけやけど、明日からも毎日お見舞いにくるからな」
「ありがとうございます……」
「食欲なかったら食べんでええけど、食事も美味しいって有名らしいから、しっかりと体休めてな」

 入院期間は家事もなにも考えず、眠っている間は新生児室に赤ん坊は預けてゆっくりと母体の回復を図る。それがこの部屋のコンセプトらしかった。妊娠出産は命がけの大変なものだから、玲が松利を精一杯ねぎらってくれているようで嬉しく、松利は完全にそれに甘えることにした。
 その夜は玲に抱き締められてぐっすりと眠り、朝に帰って行った玲と操を見送って、豪華な和食の朝ご飯を頂いて、新生児室まで赤ん坊を迎えに行く。動けるならば少しでも動いた方が良いとは言われているので、よたよたと歩いて行って看護師に声をかけると、ベッドごと赤ん坊を移動させてくれた。
 ミルクの作り方を習って、オムツの替え方も習って、準備万端のはずだったが、練習とは違うのが実践というもので、ミルクが熱すぎたりして看護師に指導を受け、オムツは外した瞬間におしっこをかけられたが、徐々にそれにも慣れて行けばいいと慰められた。
 生まれてすぐは飲む力が弱いので、あまり上手にミルクを飲めないと言われていたが、竹史はしっかりと新生児用の哺乳瓶を空にして、満足そうに眠ってしまった。
 玲と松利と操と竹史。
 退院すれば四人と二匹の暮らしが始まる。
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