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偽りの運命 ~運命だと一目で分かった~
運命だと一目で分かった 1
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喉が渇いて、お腹が空いて仕方がなかった。部屋の中は冷蔵庫のように冷え切っていたし、熱量が足りない小さな体は震えてもうすぐ身動きがとれなくなる。そうなったら、後は死ぬだけだった。
死にたくない。
イギリスと日本を行き来する両親は、家にいるときは理人に気紛れに食べ物をくれたりするが、それ以外ではほとんど放置して、虫の居所が悪いと殴る蹴るの暴行を加える。怖くて理人がベッドの下やクローゼットに隠れてしまうと、食べ物をチラつかせて甘い声で誘い出そうとする。
数日前から少しの食べ物を置いていなくなってしまった両親に、3歳の理人は愛着を抱くどころか、恐怖しか持っていなかった。幼いながらに、このままでは殺されてしまうと察して、遂に窓から理人は逃げ出した。
靴を履く知恵も、靴下を履く器用さもない3歳の幼児。大人の声に両親ではないかと怯えて隠れながら、迷い込んだ先は、見事なイングリッシュガーデンだった。寒さから逃れるために茂みに入った理人は、近付いてくる足音に怯えて逃げようとした。
そして、運命に出会った。
足は傷だらけで血が滲んでいて、下半身は排泄物で汚れている、体もずっと洗っていないので脂じみて臭くて汚い理人を、そのひとは躊躇わずに抱き上げてくれる。落ちないようにしっかりと抱き締められたことなど初めてで、暖かさに安堵して涙が出そうになった。
お風呂でも、排泄物と脂まみれの理人を、優しく手で洗ってくれたそのひとは、暖かいお湯に理人を浸からせてくれる。触れたことのない暖かなお湯が不思議で、ぽちゃぽちゃと手で掬う理人を、そのひとは宝物のように大事に抱え上げて、バスタオルで拭いて、ドライヤーで髪を乾かして、かなり大きかったが清潔な服を着せてくれた。
熱いスープに手を突っ込んで火傷をして号泣する理人を、すぐに手当てしてくれて、手ずからスープを飲ませてパンを食べさせてくれる。心も体もお腹もぽかぽかして、このひとのそばなら安心だろうと眠気が襲ってきて、理人は眠ってしまった。いつ叩き起こされて、恐怖に怯えるか分からない浅い眠りしか経験したことのない理人は、初めてぐっすりと深く眠った。
黒い髪に青い目の大きくて穏やかで優しいひと。
このひとが運命だと、理人は出会ったときから分かっていた。
運命のひと、ラクランが理人を運命の相手だと言ってくれて、ハワード家の一員となってから、幸せなことばかり。年の近いエルドレッドは兄のように仲良くしてくれるし、スコットとヘイミッシュも絶対に理人に手をあげるようなことはなく、丁重に扱ってくれる。一番心を許しているラクランは、理人をお風呂に入れてくれて、ご飯を食べさせてくれて、抱っこして眠ってくれる。
夜には時折両親に殴られたり蹴られたり、冷蔵庫のように寒い部屋に閉じ込められたりしたことを思い出して、悪夢に魘されて泣いてしまうのだが、その度にラクランは理人の髪を撫でて抱きしめてくれる。胸に顔を埋めると、ラクランの匂いがして、暖かくて、心臓の鼓動が聞こえて、安心する。
洟が垂れても、泣いてぐしゃぐしゃの顔でも、ラクランは嫌がったりせずに拭いて、理人を抱き締めてくれた。
死にたくない。
イギリスと日本を行き来する両親は、家にいるときは理人に気紛れに食べ物をくれたりするが、それ以外ではほとんど放置して、虫の居所が悪いと殴る蹴るの暴行を加える。怖くて理人がベッドの下やクローゼットに隠れてしまうと、食べ物をチラつかせて甘い声で誘い出そうとする。
数日前から少しの食べ物を置いていなくなってしまった両親に、3歳の理人は愛着を抱くどころか、恐怖しか持っていなかった。幼いながらに、このままでは殺されてしまうと察して、遂に窓から理人は逃げ出した。
靴を履く知恵も、靴下を履く器用さもない3歳の幼児。大人の声に両親ではないかと怯えて隠れながら、迷い込んだ先は、見事なイングリッシュガーデンだった。寒さから逃れるために茂みに入った理人は、近付いてくる足音に怯えて逃げようとした。
そして、運命に出会った。
足は傷だらけで血が滲んでいて、下半身は排泄物で汚れている、体もずっと洗っていないので脂じみて臭くて汚い理人を、そのひとは躊躇わずに抱き上げてくれる。落ちないようにしっかりと抱き締められたことなど初めてで、暖かさに安堵して涙が出そうになった。
お風呂でも、排泄物と脂まみれの理人を、優しく手で洗ってくれたそのひとは、暖かいお湯に理人を浸からせてくれる。触れたことのない暖かなお湯が不思議で、ぽちゃぽちゃと手で掬う理人を、そのひとは宝物のように大事に抱え上げて、バスタオルで拭いて、ドライヤーで髪を乾かして、かなり大きかったが清潔な服を着せてくれた。
熱いスープに手を突っ込んで火傷をして号泣する理人を、すぐに手当てしてくれて、手ずからスープを飲ませてパンを食べさせてくれる。心も体もお腹もぽかぽかして、このひとのそばなら安心だろうと眠気が襲ってきて、理人は眠ってしまった。いつ叩き起こされて、恐怖に怯えるか分からない浅い眠りしか経験したことのない理人は、初めてぐっすりと深く眠った。
黒い髪に青い目の大きくて穏やかで優しいひと。
このひとが運命だと、理人は出会ったときから分かっていた。
運命のひと、ラクランが理人を運命の相手だと言ってくれて、ハワード家の一員となってから、幸せなことばかり。年の近いエルドレッドは兄のように仲良くしてくれるし、スコットとヘイミッシュも絶対に理人に手をあげるようなことはなく、丁重に扱ってくれる。一番心を許しているラクランは、理人をお風呂に入れてくれて、ご飯を食べさせてくれて、抱っこして眠ってくれる。
夜には時折両親に殴られたり蹴られたり、冷蔵庫のように寒い部屋に閉じ込められたりしたことを思い出して、悪夢に魘されて泣いてしまうのだが、その度にラクランは理人の髪を撫でて抱きしめてくれる。胸に顔を埋めると、ラクランの匂いがして、暖かくて、心臓の鼓動が聞こえて、安心する。
洟が垂れても、泣いてぐしゃぐしゃの顔でも、ラクランは嫌がったりせずに拭いて、理人を抱き締めてくれた。
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