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十章 ふーちゃんとまーちゃんの婚約

3.新年度の前に

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 春休みが終わるとわたくしとクリスタちゃんは学園の寮に戻る。
 ふーちゃんもまーちゃんも聞き分けがよくなっていて、わたくしとクリスタちゃんが王都に戻るときにも震えて我慢していたが、泣いたり、駄々を捏ねたりはしなかった。

「フランツ、マリア、行ってきますね」
「次は王都でハインリヒ殿下とノルベルト殿下のお誕生日のときに会いましょう」
「エリザベートおねえさま、クリスタおねえさま、いってらっしゃい」
「わたくし、なかない。いいこでまってます」

 ふーちゃんとまーちゃんが可愛くて、わたくしはふーちゃんを抱き締めて、クリスタちゃんがまーちゃんを抱き締めて、しばらく離れられなかった。
 ふーちゃんとまーちゃんに見送られて馬車に乗って、列車に乗り換えて、王都の学園の寮に戻った。
 寮に戻ると昼食の時間だったので、荷物を部屋に置くと食堂に行く。
 食堂にはレーニちゃんとミリヤムちゃんがいた。

「ミリヤム嬢をペオーニエ寮のテーブルにお招きしていたのです」
「ありがとうございます、レーニ様。ローゼン寮のテーブルではわたくし一人なので寂しかったですわ」
「ミリヤム嬢とはわたくしは友人ですからね」

 レーニちゃんとミリヤムちゃんと一緒に座って、わたくしとクリスタちゃんも食事をした。

「お茶の時間にはまた集まりましょう」
「今日はノエル殿下はいらっしゃいませんからね」

 わたくしが誘えば、レーニちゃんも答えてくれる。
 学園の授業が始まっていればノエル殿下のお茶会がペオーニエ寮の中庭のサンルームで行われるのだが、今日は授業がないのでノエル殿下は学園に登校していない。
 王族であるハインリヒ殿下とノルベルト殿下、隣国の王女でノルベルト殿下の婚約者であるノエル殿下は、寮には所属しているが、寮で暮らしてはおらず、王宮から学園に通っている。
 授業がない日は学園に通う必要がないので、ノエル殿下もノルベルト殿下もハインリヒ殿下もいない。サンルームをわたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんとミリヤムちゃんだけで使うのは難しかった。サンルームの鍵はノエル殿下やノルベルト殿下やハインリヒ殿下が出入りするので、厳重に管理されているのだ。

 そうなると、自然とお茶会は食堂で行うしかなくなってしまう。

 他にも食堂でお茶会をするグループがあるかもしれないが、食堂は全校生徒が入れるくらい広いので、距離を取ることができた。

「お茶会の時間に、春休みの宿題を見てくださいますか?」
「一緒に確認しましょう、ミリヤム嬢」
「レーニ嬢、わたくしたちも一緒に確認しませんか?」
「よろしくお願いします、クリスタ嬢」

 約束をして、お茶会の時間までわたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんはペオーニエ寮の部屋に、ミリヤムちゃんはローゼン寮の部屋に戻って行った。

 部屋に戻ると楽な格好に着替える。
 授業は明日から始まるので、今日までは制服を着て食堂に行く必要もない。

 寛いでいると、ドアがノックされた。

「エリザベート嬢、クリスタ嬢、わたくしです。レーニ・リリエンタールです」
「レーニちゃん、いらっしゃいませ」
「どうしたのですか、レーニちゃん?」

 レーニちゃんを部屋に入れると、レーニちゃんは持っていた手紙をわたくしとクリスタちゃんに見せて来た。

「ラルフ・ホルツマン……ホルツマン家の子息からではないですか」
「授業の後で教室に来るので、迷惑ですとお伝えしたら、手紙を送ってくるようになったのです」
「見せていただいていいですか?」
「見てくださいませ」

 手紙の中身を見れば、ラルフ殿が伯爵家の次男で、婿入り先を探していること、レーニちゃんとはいとこ同士なのでちょうどいいのではないかということが書かれている。

「ホルツマン家にはいい印象がないのでお断りしたいのですが、何度言っても聞いてくれないのです」
「レーニちゃんは公爵家の令嬢ではないですか。伯爵家のラルフ殿と釣り合いませんわ」
「何より、嫌がられているのが分かっていない様子ですね」

 手紙に目を通してわたくしもクリスタちゃんもしかめっ面になってしまう。レーニちゃんを困らせるとは許せない。

「ノエル殿下にも報告して、対処法を考えましょう」
「レーニちゃん、相談してくれてありがとうございます。このことはミリヤムちゃんにも話して、女子みんなで考えていきましょう」
「ありがとうございます。他にひとがいる場所では話しにくくて。ノエル殿下にもミリヤムちゃんにも相談に乗って欲しいです」

 ミリヤムちゃんは子爵家の令嬢なので、相談に乗ることはできても実際に行動に移すことは難しいだろう。それでも聞いてもらえるのと、聞いてもらえないのとでは全然違う。
 知っておいてもらうだけでレーニちゃんは安心するだろう。

「わたくしに婚約をする相手がいたらよかったのですが……」
「レーニちゃんはふーちゃんをどう思っていますか?」
「ふーちゃんですか? 婚約の約束はしていますが、まだ小さいので、婚約は無理だと思っております」
「ふーちゃんがレーニちゃんを大好きなことには気付いていますか?」
「それは……まだふーちゃんは六歳ですから」

 六歳のふーちゃんがレーニちゃんと結婚を考えていると言っても、誰も本気にはしないだろう。
 しかし、わたくしという前例があるし、レーニちゃんがそもそもリリエンタール家の後継者を降りたのは、ディッペル家に嫁ぐ準備をするためだった。

「わたくしは辺境伯領のためですが、八歳で婚約しましたわ。ふーちゃんもレーニちゃんのために、婚約ができたらいいのですが」

 レーニちゃんがふーちゃんを嫌っていないのであれば、まだ婚約はできないかもしれないが、その婚約の約束くらいは正式にしてもいいのではないだろうか。三つ子の魂百までというが、わたくしもふーちゃんより小さな時期からエクムント様が大好きだったし、ふーちゃんも今より小さい頃からレーニちゃんのことが好きで詩を読んでいた。
 お互いに想い合っているのならば、公爵家同士でつり合いも取れているし、年は離れているが、レーニちゃんのお母様とお父様も七歳年が離れているので、これくらいは許容範囲だと思われる。

 手紙の話と婚約の話はこれから考えることにして、時間になったのでわたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんは食堂に行った。
 食堂ではミリヤムちゃんが所在なさそうに端の方に立っていた。

「ミリヤム嬢、お待たせしましたか?」
「いえ、わたくしが早く来てしまったのです」
「ミリヤム嬢とも同じ寮だったら、一緒に過ごす時間が長くとれるのに」
「わたくしがペオーニエ寮に入れるわけがありませんわ」

 少し肩を落としているようなミリヤムちゃんとペオーニエ寮のテーブルに着いてお茶と軽食を注文する。
 紅茶を飲みながらサンドイッチとケーキを食べて、ミリヤムちゃんとわたくしが宿題を見合って、レーニちゃんとクリスタちゃんが宿題を見せ合っている。

「エリザベート様、失礼ですが、この問題、読み間違っておりませんか?」
「あ、そうかもしれません。もう一度見直してみますわ」

 去年一年わたくしがしっかりと教えたおかげなのか、わたくしの間違いを指摘できるようになってきている。わたくしも珍しく問題を読み間違って答えが違ってしまっていたようだ。
 もう一度読み直すと、自分の間違いに気付いて正しい答えを導き出すことができた。

「レーニ嬢、この問題を見てみてください」
「わたくし、間違っていますか?」

 クリスタちゃんもレーニちゃんに間違いを指摘していた。

 宿題の見直しが終わると、わたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんはペオーニエ寮に、ミリヤムちゃんはローゼン寮に戻っていく。
 来たときよりもミリヤムちゃんの表情が明るくなっているようで、わたくしは少し安心していた。

 残る問題はあるが、とりあえずは新年度に向けて準備ができた。
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