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九章 クリスタちゃんの婚約と学園入学

53.ふーちゃんとクリスタちゃんのお誕生日

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 ディッペル公爵領に帰ると、子ども部屋の前でふーちゃんとまーちゃんが立ち尽くして震えていた。
 何かあったのかと様子を見ていると、ふーちゃんとまーちゃんが言う。

「もうわたしはおおきいから、エリザベートおねえさまにとびついたら、おねえさまがころんでしまうかもしれないから、がまんしているのです」
「わたくしもおおきいから、クリスタおねえさまがころんだらたいへんなのです」

 飛び付くのを我慢してくれたのだと思うと嬉しくて、わたくしからふーちゃんを抱き締めに行く。クリスタちゃんはまーちゃんを抱き締めていた。

「勢いよく飛び付かれたらこけてしまうかもしれませんね。配慮してくれてありがとうございます」
「よく我慢ができましたね。まーちゃん、大好きですよ」
「わたしもエリザベートおねえさまとクリスタおねえさまがだいすき!」
「わたくしも!」

 大きな声で返事をしてくれるふーちゃんとまーちゃんに自然と笑顔が零れる。
 微笑み合っていると、両親がわたくしとクリスタちゃんが帰ってきたことを聞いて来てくれる。

「お帰りなさい、エリザベート、クリスタ」
「クリスタのお誕生日はどうしようか?」

 父に問いかけられて、クリスタちゃんがはっきり答える。

「フランツと一緒に祝って欲しいのです。わたくしはフランツが大好きだし、お父様とお母様のお誕生日は一緒に祝っているでしょう? ハインリヒ殿下も幼い頃はノルベルト殿下と一緒にお誕生日を祝っていました。あんな風にわたくしもフランツと一緒にお誕生日を祝って欲しいと思っています」
「フランツはそれでいいかな?」
「クリスタおねえさまといっしょにおいわいしてもらえるのはうれしいです!」

 ふーちゃんの同意でクリスタちゃんとふーちゃんのお誕生日が合同になることが決定した。

 お誕生日のお茶会はクリスタちゃんよりふーちゃんの方がお誕生日が早いので、ふーちゃんのお誕生日に開かれることになった。

 クリスタちゃんはお誕生日の髪型を迷っているようだった。

「どうしましょう。わたくし、ずっと一つの三つ編みにしていましたが、そろそろ髪をアップにした方がいいでしょうか?」
「クリスタちゃんの三つ編みは可愛いから、まだそのままでいいと思いますよ。わたくしも髪は完全にアップにせずに、ハーフアップにしていますからね」

 わたくしの部屋に来て相談するクリスタちゃんに、わたくしはそのままでも充分可愛いし、公の場でも平気だろうとクリスタちゃんに答えていた。

「お姉様がそう仰るなら、わたくし三つ編みにします」

 髪型を決めて部屋に戻っていくクリスタちゃんは、薄っすらとお化粧をしていた。
 わたくしも母から白粉や口紅を買ってもらっているが、使うのは口紅を少しくらいだった。白粉はつけていると何となく落ち着かないのだ。

 クリスタちゃんとふーちゃんのお誕生日のお茶会には、まーちゃんもドレスを着て参加していた。

「おねえさまのおゆずりなのです。ドレスがクリスタおねえさまのおゆずりで、かみかざりがエリザベートおねえさまのおゆずりなのです」
「確かにそのドレスも髪飾りも記憶にあります」
「とてもよくお似合いですよ。クリスタ嬢とエリザベート嬢が小さかった頃のことを思い出します」

 ハインリヒ殿下とノルベルト殿下に褒められてまーちゃんは胸を張って喜んでいた。
 ハインリヒ殿下はクリスタちゃんの婚約者として主催側で参加してくれるつもりで、早くから会場に来ていた。ノルベルト殿下もハインリヒ殿下と一緒に来ている。

 クリスタちゃんとハインリヒ殿下とふーちゃんが並んでいるところに、レーニちゃんが挨拶に来てくれた。

「クリスタ嬢、フランツ殿、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます、レーニ嬢」
「レーニじょう、おたんじょうびをおいわいしにきてくれてありがとうございます」
「クリスタ嬢もフランツ殿も、辺境伯領の布を纏っているのですね。クリスタ嬢のドレスは可憐で、フランツ殿のスーツは格好いいですわ」
「レーニ嬢のオレンジ色のドレスもお似合いです」
「レーニじょうはかわいいです」
「フランツ殿に可愛いと言われると照れますね」

 和やかに話が進んでいてわたくしもほっこりとする。

「クリスタ嬢、フランツ殿、お誕生日おめでとうございます」
「ノエル殿下、お越しいただきありがとうございます」
「ノエルでんかのしが、がくえんできょうかしょにのるとききました。すばらしいことです」
「フランツ殿はわたくしの詩を褒めてくださるのですね。フランツ殿の詩も素晴らしいですよ」

 詩の話はあまりよく分からないので、わたくしが困惑していると、わたくしの隣りにエクムント様が来ていた。エクムント様はわたくしと一緒に挨拶に行きたそうにしている。

「エクムント様、わたくしの弟妹のお誕生日にお越しくださってありがとうございます」
「大事な婚約者の妹君と弟君です。お祝いをしなければ」
「クリスタは辺境伯領のコスチュームジュエリーをとても気に入っていますわ」
「それは、ハインリヒ殿下の注文がよかったのですよ。デザインを私に伝えてくれましたから」

 エクムント様と話しながらわたくしはクリスタちゃんとハインリヒ殿下とふーちゃんの前に来た。

「エクムント様、辺境伯領よりはるばるお越しくださってありがとうございます」
「エクムントさまは、エリザベートおねえさまにあいにきたのではないのですか?」
「フランツ!?」
「それもありますよ。辺境伯領とディッペル領や王都では、エリザベート嬢となかなか会う機会がありませんからね」

 肯定されてしまった。
 エクムント様の率直な言葉にわたくしは頬が熱くなる。エクムント様は無自覚でこのような言葉を発するからとても困ってしまう。

「フランツ殿は何歳になられましたか?」
「わたしは、ろくさいです」
「私の姪のガブリエラも六歳でお茶会を始めて開きました。マリア嬢はもっと早くになりそうですね」
「マリアはおとうさまとおかあさまが、さびしくないように、わたしといっしょにおちゃかいにさんかするようにしてくださったのです」
「ディッペル家のご兄弟は仲がいいですからね」

 膝を曲げて視線を合わせてふーちゃんと話しているエクムント様を見ると、わたくしの小さい頃を思い出す。わたくしが小さかった頃、エクムント様はわたくしの視線に必ず合わせてくださった。
 とても背が高いので、視線を合わせるのは大変だったに違いないのだが、エクムント様はそういう努力を惜しまない方だった。

「来て下さったのですね、ミリヤム嬢!」
「クリスタ様、フランツ様、お招きいただきありがとうございます」
「エリザベートおねえさまとクリスタおねえさまのおともだちですね」
「そうですよ。わたくしとお姉様の友人のミリヤム・アレンス嬢です」
「ミリヤム・アレンスと申します」 

 ふーちゃんはミリヤムちゃんとあまり話をしたことがないので、ミリヤムちゃんはクリスタちゃんに紹介されてふーちゃんに挨拶をしていた。

「フランツ・ディッペルです。よろしくおねがいします」
「こちらこそよろしくお願いします」

 ミリヤムちゃんはふーちゃんを見てにこにこと微笑んでいる。

「マリア・ディッペルです」
「マリア様、よろしくお願いします」
「わたくしのドレスとかみかざり、おねえさまからのおゆずりなのです。かわいいですか?」
「とてもお似合いです」
「ありがとうございます。うれしいです」

 まーちゃんは褒められてますます嬉しそうに胸を張っていた。

 座れる場所でふーちゃんとまーちゃんを交えてお茶会をするのも、両親のお茶会のときと同じなので、初めてという感じはしない。ふーちゃんとまーちゃんも慣れた様子で椅子に座っている。

 ケーキや軽食を取り分けるのはできないので、部屋の隅で控えていたヘルマンさんとレギーナがそっと取り分けてテーブルに置いて、また部屋の隅に戻って行った。

「フランツ殿とマリア嬢は飲み物はどうしますか?」
「ミルクティーがいいです」
「わたくしもミルクティー」
「それでは、給仕に持って来させましょうね」

 エクムント様がスマートにふーちゃんとまーちゃんの分も給仕に飲み物を頼んでくれている。こういうことができるからエクムント様は格好いいのだと実感する。

 クリスタちゃんはお誕生日が来ていないが、お誕生日が来れば十三歳、ふーちゃんは今日がお誕生日で六歳。
 二人が合同でお誕生日のお茶会を楽しんでいるのをわたくしは幸福な気分で眺めていた。
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