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一章 王子と冒険者の出会い
4.ロヴィーサ嬢との交渉
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別荘での療養期間中は、ロヴィーサ嬢が仕留めてくださったワイバーンの肉で僕の食事は事足りた。
僕は肌艶もよく王城に帰ることができた。
王城に帰ると、隣国からヒルダ姉上が実家返りしていて、僕を待っていてくれた。
「エド、すっかり顔色がよくなって。冒険者ギルドの近くの別荘に行かせてもらったのですね。美味しいものをいっぱい食べましたか?」
「はい、ヒルダ姉上。行きにワイバーンが来て、馬車が襲われたのですが、冒険者が助けてくれました」
「ワイバーンに襲われたのですか? それは怖かったでしょう」
ぎゅうぎゅうとヒルダ姉上に抱き締められて、僕は息ができなくなりそうになる。ヒルダ姉上は胸が大きくて、腰が細くて、抱き締められると胸に顔を埋めてしまうのだ。
ロヴィーサ嬢はそんなことはなかった。
ヒルダ姉上よりもやや小柄で、抱き締められるといい香りがして、ふんわりと柔らかくて心地よかった。
「『赤毛のマティルダ』様という鬼の力の指輪を持ったSSランクの冒険者が助けてくれました」
僕がマティルダ様の名前を出すと、ヒルダ姉上が「まぁ」と声を上げる。
「エドの食事のために、モンスターを狩る依頼をしていたのは、『赤毛のマティルダ』様ですわ」
「ヒルダ姉上は契約を結んでいたのですね」
「そうなのです。そのことをエリアスとエルランドに伝え忘れていたことを思い出して、急遽帰国してきたのです」
ヒルダ姉上は『赤毛のマティルダ』様とモンスターの肉を僕のところに納品するという契約を結んでいて、僕にずっとモンスターの肉を食べさせ続けてくれていた。
結婚のどさくさで『赤毛のマティルダ』様のことをエリアス兄上とエルランド兄上に伝え忘れていたヒルダ姉上は、僕のために帰国してきてくれたのだ。
「エリアス兄上、エルランド兄上、『赤毛のマティルダ』様は、ヒルダ姉上も信頼なさった方です。どうか、僕の専属の冒険者になって下さるように交渉してくださいませんか?」
十二歳の僕では交渉が難しい。
エリアス兄上とエルランド兄上ならば、上手くことを運んでくれるだろう。
僕のお願いにエリアス兄上もエルランド兄上も、顔を見合わせている。
「その『赤毛のマティルダ』という冒険者の素性は分かっているのか?」
「ヒルダ姉上、どうなのでしょう?」
問いかけられてヒルダ姉上が豪奢な金色の髪を揺らしながら、顔を左右に振る。
「彼女の素性は誰も知りません。いつ現れるかも、どこから来たのかも、誰も知りません。分かっているのは、鬼の力の指輪を使って、どんな強いモンスターも倒してしまうということだけ」
そんな素性の分からない冒険者でも、縋らなければいけないくらい、僕には強いモンスターの肉が必要だった。成長期の僕はモンスターから魔力を得なければ、自分の魔力が枯渇して死んでしまう。
「エドの命には代えられないとわたくしは契約を結びました」
ヒルダ姉上の決意は固いものだった。
「可愛いエドの命には代えられない……」
「エドがこんなに健康で艶々して帰って来たんだからな」
エリアス兄上もエルランド兄上も、僕の頬をもちもちと揉んで僕の顔色を確かめている。
ワイバーン一匹食べ放題をしていた別荘での暮らしで、僕は少し体重が増えて背も伸びたようだった。
「冒険者ギルドに連絡を取ろう」
「『赤毛のマティルダ』殿を王城に呼び出すのだ」
エリアス兄上とエルランド兄上に、ヒルダ姉上も加わって、『赤毛のマティルダ』様との交渉が始まった。
冒険者ギルドから呼び出された『赤毛のマティルダ』様は、豪奢に巻いてある真っ赤な髪を翻し、王城にやってきた。
膝をついて頭を下げる『赤毛のマティルダ』様に、僕は声をかける。
「ロヴィーサ嬢!」
「え?」
僕の呼んだ名前に、エリアス兄上とエルランド兄上が呆気に取られている。ヒルダ姉上は何事かと身を乗り出している。
「この方は、ミエト侯爵の御令嬢、ロヴィーサ嬢なのです」
「ミエト侯爵の御令嬢が冒険者などという卑しい職に就いておりません!」
否定するロヴィーサ嬢に、僕はその顔を覗き込む。
海のように深い青い瞳。それは隠しようもないロヴィーサ嬢の色だった。
「冒険者は卑しくありません。人々の命を守っています。ロヴィーサ嬢、ここでは嘘を吐かなくていいのです。本当のことを話してください」
「わたくしはロヴィーサという名前ではありません」
「この髪飾り……失礼します」
豪奢な赤い髪を括っている髪飾りを僕が素早く取ってしまうと、ばらばらと巻き毛がロヴィーサ嬢の肩に落ちて来る。真っ赤だった髪は艶やかな黒に戻っていた。
「赤毛にして変装していたのですか?」
「お許しください……」
「ミエト侯爵家は財政が厳しいと聞いていました。冒険者としてロヴィーサ嬢が働きに出ることで、家計を支えていたのですね?」
「お恥ずかしいことです」
もう隠すことができなくなって、ロヴィーサ嬢はヒルダ姉上の問いかけに正直に答えていた。
「『赤毛のマティルダ』様がロヴィーサ・ミエト様だと分かれば、信頼ができるのではないですか?」
僕の問いかけにエリアス兄上とエルランド兄上が顔を見合わせる。
「侯爵令嬢ならば、王城に通ってきて、モンスターの肉を納品しても、素性の知れない冒険者よりは安心だ」
「弟のエドにはモンスターの肉が必要なのです。エドが成人するまでは、しっかりと食べさせてあげたい」
「エドが魔族として生まれたのは、エドが選んだことではありません。エドがモンスターの肉を欲するのならば、用意してやるのが兄としての義務と思っています」
「ロヴィーサ嬢、どうか、エドのためにモンスターの肉を調達して来てくださいませんか?」
エリアス兄上とエルランド兄上に頭を下げられて、ロヴィーサ嬢は戸惑っている。
「お願いがございます」
しばらくしてロヴィーサ嬢は口を開いた。
「わたくしは、エドヴァルド殿下のためにモンスターの肉を調達しましょう。その代わりに、ミエト侯爵家の所領を取り戻す方法を考えてはくださいませんか?」
ロヴィーサ嬢の交換条件は、決して簡単なものではなかった。国王の後継者であるエリアス兄上と、その補佐となるエルランド兄上でも、領地をすぐに動かすことは難しい。
「父は三年前に母が亡くなった混乱の中で、騙されてしまったことを悔いております。冷静に考えれば母が借金を作るはずがなかったのに。父と母の名誉を取り戻すためにも、ミエト侯爵家の所領を取り戻したいのです」
自分一人ではそれは難しく、冒険者として働いて家を潰さないことが精一杯のロヴィーサ嬢。
エリアス兄上とエルランド兄上にそれを託されて、二人は頷いた。
「できるだけのことを致しましょう」
「可愛い我らがエドのため」
僕には飛び切り甘いエリアス兄上とエルランド兄上の言葉に、僕は飛び上がって喜んでいた。
髪飾りを返すとロヴィーサ嬢はまた髪を括る。髪飾りにかけられた魔法が発動して、ロヴィーサ嬢の髪は真っ赤に染まった。
「エドヴァルド殿下に一目で見破られるとは思いませんでした」
ロヴィーサ嬢のため息に、ヒルダ姉上が笑っている。
「エドは魔族なのです。魔法を看破することなど簡単なのですよ」
「そうなのですね。魔族には気をつけねばなりませんね」
ロヴィーサ嬢はそう言っているが、魔族は自分の国から出て来ることがないので、そうそう会うこともなさそうだった。
僕が魔族に生まれたことをヒルダ姉上もエリアス兄上もエルランド兄上も、差別したりしない。僕が魔族であることは、母上が魔族であったことのように、当然のことなのだ。
父上は魔族の国との友好関係のために魔族である母上と結婚したが、母上は父上を尊敬し、愛していた。父上も、母上が亡き後には、もう再婚はしないと誓うくらいに母上を愛していた。
そもそもが、魔族の国に留学していた父上が、魔族の姫である母上を見初めての結婚なのだから、それも当然だ。
僕も父上と母上のような結婚がしたいと願っていた。
それが一歩近づいた気がする。
ロヴィーサ嬢が帰った後で、僕はヒルダ姉上とエリアス兄上とエルランド兄上に聞いてみた。
「僕が侯爵家のロヴィーサ嬢と結婚するのは難しいですか?」
十二歳の僕の口から結婚という言葉が出て、ヒルダ姉上とエリアス兄上とエルランド兄上は驚いているようだった。
「エドが結婚ですって!?」
「侯爵家に臣籍降下するとなると、父上の説得も必要だろうな」
「ロヴィーサ殿はおいくつだ?」
慌てるヒルダ姉上とエリアス兄上とエルランド兄上に、爺やが答える。
「ロヴィーサ嬢は十八歳です。高等学校を卒業されて、研究課程に進みたいと仰っていたのが、家にお金がないためにできなくなったとか」
この国では六歳から十二歳まで、義務教育として幼年学校に通う。
十二歳からは高等学校に通うのだが、僕は体が弱くて家庭教師に勉強を教えてもらっている。
高等学校に通いたいという気持ちはあるのだが、体がついて来てくれないもどかしさに僕は苦しんでいた。
ロヴィーサ嬢は研究課程に進みたかったのに、家にお金がないせいで進めなかった。
僕はロヴィーサ嬢の気持ちが分かるような気がした。
「ロヴィーサ嬢を研究課程に進ませてあげたい。僕は高等学校に行きたい」
そのどちらも叶う方法があるのではないだろうか。
安定的にモンスターの血肉を手に入れられれば、僕の体調は落ち着く。
ロヴィーサ嬢はモンスターを調達して、僕に納めれば、お金が手に入る。
これは悪い取引ではないと僕は思っていた。
僕は肌艶もよく王城に帰ることができた。
王城に帰ると、隣国からヒルダ姉上が実家返りしていて、僕を待っていてくれた。
「エド、すっかり顔色がよくなって。冒険者ギルドの近くの別荘に行かせてもらったのですね。美味しいものをいっぱい食べましたか?」
「はい、ヒルダ姉上。行きにワイバーンが来て、馬車が襲われたのですが、冒険者が助けてくれました」
「ワイバーンに襲われたのですか? それは怖かったでしょう」
ぎゅうぎゅうとヒルダ姉上に抱き締められて、僕は息ができなくなりそうになる。ヒルダ姉上は胸が大きくて、腰が細くて、抱き締められると胸に顔を埋めてしまうのだ。
ロヴィーサ嬢はそんなことはなかった。
ヒルダ姉上よりもやや小柄で、抱き締められるといい香りがして、ふんわりと柔らかくて心地よかった。
「『赤毛のマティルダ』様という鬼の力の指輪を持ったSSランクの冒険者が助けてくれました」
僕がマティルダ様の名前を出すと、ヒルダ姉上が「まぁ」と声を上げる。
「エドの食事のために、モンスターを狩る依頼をしていたのは、『赤毛のマティルダ』様ですわ」
「ヒルダ姉上は契約を結んでいたのですね」
「そうなのです。そのことをエリアスとエルランドに伝え忘れていたことを思い出して、急遽帰国してきたのです」
ヒルダ姉上は『赤毛のマティルダ』様とモンスターの肉を僕のところに納品するという契約を結んでいて、僕にずっとモンスターの肉を食べさせ続けてくれていた。
結婚のどさくさで『赤毛のマティルダ』様のことをエリアス兄上とエルランド兄上に伝え忘れていたヒルダ姉上は、僕のために帰国してきてくれたのだ。
「エリアス兄上、エルランド兄上、『赤毛のマティルダ』様は、ヒルダ姉上も信頼なさった方です。どうか、僕の専属の冒険者になって下さるように交渉してくださいませんか?」
十二歳の僕では交渉が難しい。
エリアス兄上とエルランド兄上ならば、上手くことを運んでくれるだろう。
僕のお願いにエリアス兄上もエルランド兄上も、顔を見合わせている。
「その『赤毛のマティルダ』という冒険者の素性は分かっているのか?」
「ヒルダ姉上、どうなのでしょう?」
問いかけられてヒルダ姉上が豪奢な金色の髪を揺らしながら、顔を左右に振る。
「彼女の素性は誰も知りません。いつ現れるかも、どこから来たのかも、誰も知りません。分かっているのは、鬼の力の指輪を使って、どんな強いモンスターも倒してしまうということだけ」
そんな素性の分からない冒険者でも、縋らなければいけないくらい、僕には強いモンスターの肉が必要だった。成長期の僕はモンスターから魔力を得なければ、自分の魔力が枯渇して死んでしまう。
「エドの命には代えられないとわたくしは契約を結びました」
ヒルダ姉上の決意は固いものだった。
「可愛いエドの命には代えられない……」
「エドがこんなに健康で艶々して帰って来たんだからな」
エリアス兄上もエルランド兄上も、僕の頬をもちもちと揉んで僕の顔色を確かめている。
ワイバーン一匹食べ放題をしていた別荘での暮らしで、僕は少し体重が増えて背も伸びたようだった。
「冒険者ギルドに連絡を取ろう」
「『赤毛のマティルダ』殿を王城に呼び出すのだ」
エリアス兄上とエルランド兄上に、ヒルダ姉上も加わって、『赤毛のマティルダ』様との交渉が始まった。
冒険者ギルドから呼び出された『赤毛のマティルダ』様は、豪奢に巻いてある真っ赤な髪を翻し、王城にやってきた。
膝をついて頭を下げる『赤毛のマティルダ』様に、僕は声をかける。
「ロヴィーサ嬢!」
「え?」
僕の呼んだ名前に、エリアス兄上とエルランド兄上が呆気に取られている。ヒルダ姉上は何事かと身を乗り出している。
「この方は、ミエト侯爵の御令嬢、ロヴィーサ嬢なのです」
「ミエト侯爵の御令嬢が冒険者などという卑しい職に就いておりません!」
否定するロヴィーサ嬢に、僕はその顔を覗き込む。
海のように深い青い瞳。それは隠しようもないロヴィーサ嬢の色だった。
「冒険者は卑しくありません。人々の命を守っています。ロヴィーサ嬢、ここでは嘘を吐かなくていいのです。本当のことを話してください」
「わたくしはロヴィーサという名前ではありません」
「この髪飾り……失礼します」
豪奢な赤い髪を括っている髪飾りを僕が素早く取ってしまうと、ばらばらと巻き毛がロヴィーサ嬢の肩に落ちて来る。真っ赤だった髪は艶やかな黒に戻っていた。
「赤毛にして変装していたのですか?」
「お許しください……」
「ミエト侯爵家は財政が厳しいと聞いていました。冒険者としてロヴィーサ嬢が働きに出ることで、家計を支えていたのですね?」
「お恥ずかしいことです」
もう隠すことができなくなって、ロヴィーサ嬢はヒルダ姉上の問いかけに正直に答えていた。
「『赤毛のマティルダ』様がロヴィーサ・ミエト様だと分かれば、信頼ができるのではないですか?」
僕の問いかけにエリアス兄上とエルランド兄上が顔を見合わせる。
「侯爵令嬢ならば、王城に通ってきて、モンスターの肉を納品しても、素性の知れない冒険者よりは安心だ」
「弟のエドにはモンスターの肉が必要なのです。エドが成人するまでは、しっかりと食べさせてあげたい」
「エドが魔族として生まれたのは、エドが選んだことではありません。エドがモンスターの肉を欲するのならば、用意してやるのが兄としての義務と思っています」
「ロヴィーサ嬢、どうか、エドのためにモンスターの肉を調達して来てくださいませんか?」
エリアス兄上とエルランド兄上に頭を下げられて、ロヴィーサ嬢は戸惑っている。
「お願いがございます」
しばらくしてロヴィーサ嬢は口を開いた。
「わたくしは、エドヴァルド殿下のためにモンスターの肉を調達しましょう。その代わりに、ミエト侯爵家の所領を取り戻す方法を考えてはくださいませんか?」
ロヴィーサ嬢の交換条件は、決して簡単なものではなかった。国王の後継者であるエリアス兄上と、その補佐となるエルランド兄上でも、領地をすぐに動かすことは難しい。
「父は三年前に母が亡くなった混乱の中で、騙されてしまったことを悔いております。冷静に考えれば母が借金を作るはずがなかったのに。父と母の名誉を取り戻すためにも、ミエト侯爵家の所領を取り戻したいのです」
自分一人ではそれは難しく、冒険者として働いて家を潰さないことが精一杯のロヴィーサ嬢。
エリアス兄上とエルランド兄上にそれを託されて、二人は頷いた。
「できるだけのことを致しましょう」
「可愛い我らがエドのため」
僕には飛び切り甘いエリアス兄上とエルランド兄上の言葉に、僕は飛び上がって喜んでいた。
髪飾りを返すとロヴィーサ嬢はまた髪を括る。髪飾りにかけられた魔法が発動して、ロヴィーサ嬢の髪は真っ赤に染まった。
「エドヴァルド殿下に一目で見破られるとは思いませんでした」
ロヴィーサ嬢のため息に、ヒルダ姉上が笑っている。
「エドは魔族なのです。魔法を看破することなど簡単なのですよ」
「そうなのですね。魔族には気をつけねばなりませんね」
ロヴィーサ嬢はそう言っているが、魔族は自分の国から出て来ることがないので、そうそう会うこともなさそうだった。
僕が魔族に生まれたことをヒルダ姉上もエリアス兄上もエルランド兄上も、差別したりしない。僕が魔族であることは、母上が魔族であったことのように、当然のことなのだ。
父上は魔族の国との友好関係のために魔族である母上と結婚したが、母上は父上を尊敬し、愛していた。父上も、母上が亡き後には、もう再婚はしないと誓うくらいに母上を愛していた。
そもそもが、魔族の国に留学していた父上が、魔族の姫である母上を見初めての結婚なのだから、それも当然だ。
僕も父上と母上のような結婚がしたいと願っていた。
それが一歩近づいた気がする。
ロヴィーサ嬢が帰った後で、僕はヒルダ姉上とエリアス兄上とエルランド兄上に聞いてみた。
「僕が侯爵家のロヴィーサ嬢と結婚するのは難しいですか?」
十二歳の僕の口から結婚という言葉が出て、ヒルダ姉上とエリアス兄上とエルランド兄上は驚いているようだった。
「エドが結婚ですって!?」
「侯爵家に臣籍降下するとなると、父上の説得も必要だろうな」
「ロヴィーサ殿はおいくつだ?」
慌てるヒルダ姉上とエリアス兄上とエルランド兄上に、爺やが答える。
「ロヴィーサ嬢は十八歳です。高等学校を卒業されて、研究課程に進みたいと仰っていたのが、家にお金がないためにできなくなったとか」
この国では六歳から十二歳まで、義務教育として幼年学校に通う。
十二歳からは高等学校に通うのだが、僕は体が弱くて家庭教師に勉強を教えてもらっている。
高等学校に通いたいという気持ちはあるのだが、体がついて来てくれないもどかしさに僕は苦しんでいた。
ロヴィーサ嬢は研究課程に進みたかったのに、家にお金がないせいで進めなかった。
僕はロヴィーサ嬢の気持ちが分かるような気がした。
「ロヴィーサ嬢を研究課程に進ませてあげたい。僕は高等学校に行きたい」
そのどちらも叶う方法があるのではないだろうか。
安定的にモンスターの血肉を手に入れられれば、僕の体調は落ち着く。
ロヴィーサ嬢はモンスターを調達して、僕に納めれば、お金が手に入る。
これは悪い取引ではないと僕は思っていた。
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