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最終章 奏歌くんとの結婚
17.やっちゃんの車の行く末
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バレンタインチョコ代わりにヌテラの瓶を渡すと、百合も美鳥さんも真月さんも蘭ちゃんも雪乃ちゃんも興味津々だった。輸入品のようで瓶にはイタリア語しか書いていないので、私が説明する。
「イタリアのヘーゼルナッツペーストに砂糖とココアを入れたチョコレート風味のスプレッドみたいよ。パンに塗って食べたり、アイスクリームにかけたりしたらいいって店員さんは言ってたわ」
「ヘーゼルナッツのペーストに砂糖とココアを入れてるとか罪深いわね」
「罪深いってどういうこと?」
「ナッツ系はカロリーがものすごく高いんですよ。そこに砂糖とココアなんて、絶対に美味しいじゃないですか」
百合の「罪深い」という言葉に反応した私に、美鳥さんがその意味を教えてくれる。
「カロリーなんて考えたこともなかったわ」
「海瑠はそうでしょうね」
「羨ましい! 私は代謝が落ちて来て太らないようにするのに必死なのに!」
「美鳥さんはそれでも普通に食べてるじゃないですか」
「食べてるけど、間食は控えてるんです」
カロリーのことを考えたことがないどころか、栄養のあるものを食べた方が体調がよくなるので奏歌くんと食べるご飯ではお代わりをすることもある私は、百合や美鳥さんや真月さんの話が信じられなかった。食べることに関して私は我慢をしたことがない。
「カロリーは気になりますよね」
「衣装が入らなくなったらどうしようっていつも思っています」
若い雪乃ちゃんや蘭ちゃんからもそんな言葉が出て、私は普通ではないのかと気付いてしまう。ワーキャットだから年齢で代謝が落ちるようなことはなく、二十代半ばの姿を保っている私は、普通の人間とは少し違うのかもしれない。
「私は食べても動いて減らすけどね!」
「百合さんはそれができるのがすごいですよね」
「私は妖精さんだから」
幻想の世界を見せる劇団の夢を壊さない女役トップスターとして、百合は自分を妖精さんと言っているのだろう。それを崇めるような美鳥さんに、真月さんと蘭ちゃんと雪乃ちゃんも倣っている。
どれだけ食べても体重に変化のない私と違って、普通の人間である百合や美鳥さんや真月さんや蘭ちゃんや雪乃ちゃんは努力しているようである。その点に関しては、自分でもずるいのかもしれないと思ってしまった。
バレンタインチョコを毎年恒例で渡すことができて安心して、私は稽古に挑む。春公演の脚本は配られたばかりで立ち稽古に入っていなかったが、バレンタインのお茶会とディナーショーは既に稽古も大詰めに入っていた。
私と百合の合同のバレンタインのお茶会とディナーショーなので、規模もかなり大きい。組み込まれている演目も多かった。
「懐かしいわ、『バー・ブルーバード』」
「これをやらされたときは腑に落ちなかったけど、今になってはいい思い出ね」
演目の中にはクリスマスの特別公演で私と百合の二人で演じた『バー・ブルーバード』も入っていた。バーのママの私と新人の百合が、来る客の話を聞いて悩みを解決していく。客は出演しなくて、想像で補う形だったのだが、今回はそれが大幅に変えられていた。
美鳥さんと真月さんと蘭ちゃんと雪乃ちゃんが客として来るのだ。
初めて演じたときには、バーのママと新人の台詞から客を想像して演技をしていた答え合わせができることになる。
「やっぱり、この客は男性だったのよ」
「このお客の『可愛いひと』も男性だったのね」
数年越しの答え合わせに私と百合は盛り上がっていた。
バレンタインのディナーショーに奏歌くんを招いていたが、公演時間が長いので帰りが遅くなって、奏歌くんと晩ご飯をマンションで食べられないことは確定していたので、それだけが私にとっては寂しい点だった。それを掬い上げてくれたのは、奏歌くんの提案だった。
「バレンタインのディナーショーの後、百合さんと兄さんを誘って、一緒にどこかで食事をして帰らない?」
「遅くなっちゃうけどいいの?」
「母さんが車を使っていいって言ってくれたんだ」
奏歌くんは18歳でもう車の免許を習得している。これまでは奏歌くんの移動手段は自転車だったから、帰り道が危ないので早く帰るように奏歌くんも自制していたが、移動手段が車になるとそれも軽減される。
「夜道を走るのは危ないから、あまり使っちゃいけないとは言われてるんだけど、今回は特別に許してもらえたよ」
実は、と奏歌くんが話してくれる。
「やっちゃんの車があったでしょう? あれ、売りに出してたけど、売れなくて廃車にするか悩んでたらしいんだよ。それを母さんが買い取って、駐車場を借りて保管してくれてたみたいなんだ」
イギリスに行く前にやっちゃんは自分のマンションも車も売ってしまうと言っていた。マンションは買い手がついたようなのだが、車にはイギリスに行くまでに買い手がつかなくて、廃車にするか迷っていたら、美歌さんがそれをやっちゃんから買ってくれていた。
「僕が18歳になったら免許を取るだろうからって、取っててくれて、僕、やっちゃんの車をもらっちゃったんだよ」
「私の部屋に来るのも車で来られるようになるってこと?」
「駐車場を借りないといけないんだけど、車で来られるようになるよ」
そこからの私の行動は早かった。このマンションには立体駐車場がついていて、十人は手続きをすればそこを使うことができたはずなのだ。車に全然興味がなかったから駐車場のことを考えたことはなかったけれど、使えるものは使った方がいい。
マンションの管理人さんに連絡をすると、私の部屋にもマンションの立体駐車場を使う権利があったようだ。申込用紙をポストに入れておくので、それに記入して出せば立体駐車場はすぐに使えるようになるという回答が返って来た。
「奏歌くん、車で通うならもっと長時間私の部屋にいられるようになるんじゃない?」
「自転車と移動速度が違うからね。海瑠さんと一緒にいられるのは嬉しいな」
奏歌くんの言葉に私は浮かれてくる。休みの前の日は日付が変わるくらいまで奏歌くんと一緒に過ごして、それから奏歌くんを見送る日々が来るかもしれない。
それは想像するだけで私の胸を高鳴らせる出来事だった。
二日後、マンションの立体駐車場を借りる手続きが済んだ後から、奏歌くんは車で私のマンションに通ってくるようになった。高校に行くときには車では通えないので、早朝に私にお弁当を渡す奏歌くんは自転車で来ているが、高校から帰ると車でマンションまでやってきて、これまでよりも遅い時間まで部屋にいるようになった。
奏歌くんがいる時間が長くなって、奏歌くんに血を吸われた後も紅茶を淹れてもらって話をしたり、ソファで猫の姿になって撫でてもらったりする。至福の時間を過ごしているはずなのに、私は不満がないわけではなかった。
首筋から血を吸われるとぞくぞくするほど気持ちよくて、奏歌くんとその先に進んでもいいと考えるのに、奏歌くんの方はあっさりとしていて私が顔を赤らめていても、普通に体を離してソファの隣りに座って話をしたり、猫になった私を撫でたりして、平然としているのだ。
私の方は心の準備はできているのに、もどかしい。
「海瑠さん……」
時々口付けはしてくれる。それも触れるだけのもので、それだけでは物足りなくなってしまっている自分に気付く。
もっと強引に奏歌くんに迫られたい。
「奏歌くんは……私のことどう思ってるの?」
「好きだよ?」
「私も好きだけど……」
強く抱き締められたいとか、求められたいとか思っているのは私だけなのだろうか。それを言葉にできなくて、私は結局奏歌くんが帰るのを見送ることになる。
シャワーを浴びてベットの上でごろごろと寝返りを打ちながら、私は奏歌くんのことを思って眠れない夜をすごしていた。
「イタリアのヘーゼルナッツペーストに砂糖とココアを入れたチョコレート風味のスプレッドみたいよ。パンに塗って食べたり、アイスクリームにかけたりしたらいいって店員さんは言ってたわ」
「ヘーゼルナッツのペーストに砂糖とココアを入れてるとか罪深いわね」
「罪深いってどういうこと?」
「ナッツ系はカロリーがものすごく高いんですよ。そこに砂糖とココアなんて、絶対に美味しいじゃないですか」
百合の「罪深い」という言葉に反応した私に、美鳥さんがその意味を教えてくれる。
「カロリーなんて考えたこともなかったわ」
「海瑠はそうでしょうね」
「羨ましい! 私は代謝が落ちて来て太らないようにするのに必死なのに!」
「美鳥さんはそれでも普通に食べてるじゃないですか」
「食べてるけど、間食は控えてるんです」
カロリーのことを考えたことがないどころか、栄養のあるものを食べた方が体調がよくなるので奏歌くんと食べるご飯ではお代わりをすることもある私は、百合や美鳥さんや真月さんの話が信じられなかった。食べることに関して私は我慢をしたことがない。
「カロリーは気になりますよね」
「衣装が入らなくなったらどうしようっていつも思っています」
若い雪乃ちゃんや蘭ちゃんからもそんな言葉が出て、私は普通ではないのかと気付いてしまう。ワーキャットだから年齢で代謝が落ちるようなことはなく、二十代半ばの姿を保っている私は、普通の人間とは少し違うのかもしれない。
「私は食べても動いて減らすけどね!」
「百合さんはそれができるのがすごいですよね」
「私は妖精さんだから」
幻想の世界を見せる劇団の夢を壊さない女役トップスターとして、百合は自分を妖精さんと言っているのだろう。それを崇めるような美鳥さんに、真月さんと蘭ちゃんと雪乃ちゃんも倣っている。
どれだけ食べても体重に変化のない私と違って、普通の人間である百合や美鳥さんや真月さんや蘭ちゃんや雪乃ちゃんは努力しているようである。その点に関しては、自分でもずるいのかもしれないと思ってしまった。
バレンタインチョコを毎年恒例で渡すことができて安心して、私は稽古に挑む。春公演の脚本は配られたばかりで立ち稽古に入っていなかったが、バレンタインのお茶会とディナーショーは既に稽古も大詰めに入っていた。
私と百合の合同のバレンタインのお茶会とディナーショーなので、規模もかなり大きい。組み込まれている演目も多かった。
「懐かしいわ、『バー・ブルーバード』」
「これをやらされたときは腑に落ちなかったけど、今になってはいい思い出ね」
演目の中にはクリスマスの特別公演で私と百合の二人で演じた『バー・ブルーバード』も入っていた。バーのママの私と新人の百合が、来る客の話を聞いて悩みを解決していく。客は出演しなくて、想像で補う形だったのだが、今回はそれが大幅に変えられていた。
美鳥さんと真月さんと蘭ちゃんと雪乃ちゃんが客として来るのだ。
初めて演じたときには、バーのママと新人の台詞から客を想像して演技をしていた答え合わせができることになる。
「やっぱり、この客は男性だったのよ」
「このお客の『可愛いひと』も男性だったのね」
数年越しの答え合わせに私と百合は盛り上がっていた。
バレンタインのディナーショーに奏歌くんを招いていたが、公演時間が長いので帰りが遅くなって、奏歌くんと晩ご飯をマンションで食べられないことは確定していたので、それだけが私にとっては寂しい点だった。それを掬い上げてくれたのは、奏歌くんの提案だった。
「バレンタインのディナーショーの後、百合さんと兄さんを誘って、一緒にどこかで食事をして帰らない?」
「遅くなっちゃうけどいいの?」
「母さんが車を使っていいって言ってくれたんだ」
奏歌くんは18歳でもう車の免許を習得している。これまでは奏歌くんの移動手段は自転車だったから、帰り道が危ないので早く帰るように奏歌くんも自制していたが、移動手段が車になるとそれも軽減される。
「夜道を走るのは危ないから、あまり使っちゃいけないとは言われてるんだけど、今回は特別に許してもらえたよ」
実は、と奏歌くんが話してくれる。
「やっちゃんの車があったでしょう? あれ、売りに出してたけど、売れなくて廃車にするか悩んでたらしいんだよ。それを母さんが買い取って、駐車場を借りて保管してくれてたみたいなんだ」
イギリスに行く前にやっちゃんは自分のマンションも車も売ってしまうと言っていた。マンションは買い手がついたようなのだが、車にはイギリスに行くまでに買い手がつかなくて、廃車にするか迷っていたら、美歌さんがそれをやっちゃんから買ってくれていた。
「僕が18歳になったら免許を取るだろうからって、取っててくれて、僕、やっちゃんの車をもらっちゃったんだよ」
「私の部屋に来るのも車で来られるようになるってこと?」
「駐車場を借りないといけないんだけど、車で来られるようになるよ」
そこからの私の行動は早かった。このマンションには立体駐車場がついていて、十人は手続きをすればそこを使うことができたはずなのだ。車に全然興味がなかったから駐車場のことを考えたことはなかったけれど、使えるものは使った方がいい。
マンションの管理人さんに連絡をすると、私の部屋にもマンションの立体駐車場を使う権利があったようだ。申込用紙をポストに入れておくので、それに記入して出せば立体駐車場はすぐに使えるようになるという回答が返って来た。
「奏歌くん、車で通うならもっと長時間私の部屋にいられるようになるんじゃない?」
「自転車と移動速度が違うからね。海瑠さんと一緒にいられるのは嬉しいな」
奏歌くんの言葉に私は浮かれてくる。休みの前の日は日付が変わるくらいまで奏歌くんと一緒に過ごして、それから奏歌くんを見送る日々が来るかもしれない。
それは想像するだけで私の胸を高鳴らせる出来事だった。
二日後、マンションの立体駐車場を借りる手続きが済んだ後から、奏歌くんは車で私のマンションに通ってくるようになった。高校に行くときには車では通えないので、早朝に私にお弁当を渡す奏歌くんは自転車で来ているが、高校から帰ると車でマンションまでやってきて、これまでよりも遅い時間まで部屋にいるようになった。
奏歌くんがいる時間が長くなって、奏歌くんに血を吸われた後も紅茶を淹れてもらって話をしたり、ソファで猫の姿になって撫でてもらったりする。至福の時間を過ごしているはずなのに、私は不満がないわけではなかった。
首筋から血を吸われるとぞくぞくするほど気持ちよくて、奏歌くんとその先に進んでもいいと考えるのに、奏歌くんの方はあっさりとしていて私が顔を赤らめていても、普通に体を離してソファの隣りに座って話をしたり、猫になった私を撫でたりして、平然としているのだ。
私の方は心の準備はできているのに、もどかしい。
「海瑠さん……」
時々口付けはしてくれる。それも触れるだけのもので、それだけでは物足りなくなってしまっている自分に気付く。
もっと強引に奏歌くんに迫られたい。
「奏歌くんは……私のことどう思ってるの?」
「好きだよ?」
「私も好きだけど……」
強く抱き締められたいとか、求められたいとか思っているのは私だけなのだろうか。それを言葉にできなくて、私は結局奏歌くんが帰るのを見送ることになる。
シャワーを浴びてベットの上でごろごろと寝返りを打ちながら、私は奏歌くんのことを思って眠れない夜をすごしていた。
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