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五章 奏歌くんとの五年目
4.やっちゃんの悩み事
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八月の夏休みの最中、私はやっちゃんに呼ばれて篠田家にお邪魔していた。稽古帰りの私にやっちゃんと奏歌くんと茉優ちゃんが晩御飯を出してくれる。奏歌くんと茉優ちゃんはもう食べたようだ。仕事から帰って来たばかりのやっちゃんも私とテーブルについて食べ始めている。
奏歌くんも大きなお口でご飯を食べるが、やっちゃんは大人の男のひとという感じで一口が多くてさっさと食べ終えてしまう。
先に食べ終えたやっちゃんはお茶を淹れて、奏歌くんと茉優ちゃんにも渡していた。
「食べるの遅くてごめんね」
「いや……俺の都合で呼んだんだから気にしないでくれ」
どこか落ち着かない様子のやっちゃんに早く食べてしまわないとと思うのだが、奏歌くんといつも食べている速度ではとても追い付けるはずもなかった。
「外で会うと、雑誌とかにまた嗅ぎつけられると面倒くさいから」
一度やっちゃんとカフェで会っていたのを雑誌に書かれたことがある。あのときはやっちゃんが劇団の専属のデザイナー兼ライターで、仕事の打ち合わせをしていただけということになって問題にはならなかった。
それでも二人きりで会うのはやっちゃんは気を付けてくれているようだ。
親友なのだし、こんなに気遣ってくれるやっちゃんの悩みがあるのならば、相談に乗りたい。
食べ終わってソファに移ると、やっちゃんが緑茶を淹れてくれる。湯呑を持って熱いお茶を吹き冷まして飲んでいると、やっちゃんが深刻な表情で告げた。
「俺、飛行機に乗ったことがないんだ」
やっちゃんは飛行機に乗ったことがない。
フランス行きの飛行機は十三時間ほどかかると津島さんは説明してくれていたから、飛行機初心者にとってはつらいのかもしれない。
「私も国外線に乗るのは初めてだよ。国内はあるけど」
答えるとやっちゃんは重々しい表情で額に手を当てた。
「鉄の塊が飛ぶんだよ?」
「へ?」
「あんなにデカい鉄の塊が、空を飛べるとか信じられるか?」
そこからだった。
やっちゃんは飛行機が怖いのではないだろうか。
「やっちゃん、飛行機での事故よりも交通事故の方がずっと多いんだよ?」
近くで話を聞いていた奏歌くんがパジャマ姿で小首を傾げる。とても可愛いので写真におさめておきたいが、ぐっと我慢する。今はやっちゃんの話を聞いているのだ。
「乗ったことが、本当はあるらしいんだよ。俺がまだ赤ん坊の頃」
気圧の変化で耳が痛くなったのか飛行機の中でずっと号泣していたという赤ちゃんのときのやっちゃん。その思い出がトラウマになっているのかもしれない。
「安彦さん、私、ずっと傍を離れないから」
「茉優ちゃん……」
「怖いなら、安彦さんは耳栓をして、アイマスクをしてればいいわ」
確かにそうなのだが、そうなるとお手洗いや食事はどうするのだろう。十三時間程度の飛行時間となると、お手洗いに行かない、食事も摂らないというわけにはいかないだろう。
「情けないところを見せてしまって悪いな、茉優ちゃん。俺が保護者なのに」
「ううん、そういう安彦さんも可愛いと思うわ」
可愛い!?
茉優ちゃんにとってやっちゃんは可愛い対象だった。
やっちゃんも私と同じ28歳。誕生日を迎えていないまだ11歳の女の子に可愛いと言われるのは不本意かもしれない。
「いや、可愛くないよ?」
「私が守ります。安彦さんは、私を助けてくれた大事なひとだから!」
女の子はこの年でもしっかりしているものである。奏歌くんもしっかりしているのだが、大人しくて引っ込み思案の茉優ちゃんがこんなにもはっきりと物を言うなんて思わなかった。
将来は茉優ちゃんはしっかりとやっちゃんのことを引っ張って行けるのではないだろうか。
「私に相談しなくても、茉優ちゃんがいれば大丈夫だったね」
「いや……まぁ」
恥ずかしがっているのかやっちゃんの返事は歯切れが悪い。奏歌くんとお茶をして、その日は大人しく部屋に戻って寝た。
次の日も稽古場で舞台の稽古である。
通し稽古に入っていて、演出家さんからの細かい指示も受けて、舞台は出来上がりつつあった。
「海瑠、化粧水とか持って行けない分は、現地で調達してくれるって津島さんが言ってたわよ」
「え? 本当?」
機内に持ち込める水分の量が決まっているので二週間分の化粧水や乳液を考えるとどうやって持って行こうか悩んでいたが、その悩みは解決しそうだった。どうしても譲れないものに関しては、津島さんが劇団の事務所を通してフランスに送ってくれるというのだ。
「シャンプーと、コンディショナーと、化粧水と、乳液……これは慣れてるのを使いたいな」
「早めに津島さんにお願いしてってよ」
津島さんは私にも言ってくれたようなのだが、私はあまりひとの話を聞かないために、百合がわざわざ教えに来てくれたのだ。
そこで私は思い付いた。
電子レンジで温めるだけのご飯やフリーズドライのお味噌汁なども送ってしまえばいいのではないだろうか。他にも鯖缶や鰯の缶詰も送ってしまえばいい。
いそいそと私は送る荷物を集め始めた。
劇団がお休みの日に奏歌くんに来てもらって、送る荷物を厳選する。
温めるだけのご飯、フリーズドライのお味噌汁、鯖缶、鰯缶、ツナ缶……それぞれある程度の日にちは食べられる分だけ買って揃えておく。
「フランスでも海瑠さんと美味しいご飯が食べられそうだね」
「缶詰、ちょっといい奴にしちゃったもんね」
デパートで買えるちょっと高級な缶詰を荷物には入れることに奏歌くんと決めた。せっかくフランスに行くのだから美味しいものが食べたい。
「フランスでは朝に甘いパンとコーヒーを飲むんだって。僕は紅茶しかダメだけど、そういう朝ご飯も悪くないよね」
「休みの日には優雅にそうしても良いよね」
やっちゃんにとっては飛行機に乗らなければいけない恐怖の日のようだが、私と奏歌くんにとってはフランスに行く日は楽しみになっている。
「母子家庭で、家にほとんどいない仕事だから、弟の出張に息子と娘を同行させなきゃいけないんだって、母さんが言われたんだ……」
美歌さんがシングルマザーであることには理由があって、他の家庭にもそれぞれ理由があるだろうに、想像力のないひとが美歌さんにそんなことを言った。その件に関して奏歌くんは心を痛めているようだった。
「美歌さんはやっちゃんと立派に奏歌くんと茉優ちゃんを育ててると思うわ」
「うん……母さんのこと、海香さんに言ったのかな?」
美歌さんの運命のひとがさくらであったことは、美歌さんと海香は仲が良いのでもう知られているはずだった。どっちからも何も言われていないから、海香は大らかにそれを受け入れたのであろう。
何も言われていないから大丈夫だと思うのは私だけで、美歌さんの息子の奏歌くんは心配なのかもしれない。
一応海香に連絡を入れると、『聞いたわよ。驚いたけど、美歌さんが幸せならいいわ。さくらはすっかり美歌さんに懐いてるし』と返って来た。
あの後もさくらはずっと美歌さんの抱っこから降りなかった。下ろそうとすると甘えて泣いて、ごしごしと顔を美歌さんの胸に擦り付けるのだから、猫の本能としてしっかりとマーキングしているのが私には分かっていた。
「奏歌くんは複雑じゃない?」
聞いてみると、奏歌くんの答えはあっさりしたものだった。
「さくらちゃんが妹みたいになるだろうし、母さんに運命のひとができるのは嬉しいよ」
父さんが荒れるだろうけど、自業自得。
真里さんのことに言及する奏歌くんの言葉は冷たかった。
「僕、母さんには言わないけど、本当は知ってた。父さんが、知らないひとと二人で部屋に入って行くの。三人のときもあった。父さんは、母さんに誠実じゃなかった」
怪しい雰囲気をさせながら、海外に連れて行った小さな奏歌くんが意味が分からないだろうと思って、別の部屋に残して毎晩のように違う相手と部屋に入って行ったという真里さん。小さいながらに奏歌くんはしっかりとその現場を目撃していた。
「母さんが愛してないなら、父さんとはお別れした方が良いと思うんだ。母さんは幸せになっていい」
ハニーブラウンの目を潤ませて呟く奏歌くんの肩を私は引き寄せて抱き締める。
「美歌さんは奏歌くんが生まれて幸せだったよ」
「……うん」
「それだけは間違いないよ。奏歌くんがいてくれて、私も本当に幸せ。真里さんのことは好きじゃないけど、奏歌くんが生まれてくれたことには感謝してる」
抱き締めるとほろりと奏歌くんの目から大粒の涙が零れた。
奏歌くんはまだ10歳だ。母親の美歌さんが責められることや、美歌さんに運命の相手ができたこと、美歌さんが真里さんを愛していなかったことなど、受け入れがたいことがたくさんだっただろう。
それを必死に受け入れようとする奏歌くんだが、ショックを受けていないわけはないと私は思っていた。抱きしめると奏歌くんがぎゅっとしがみ付いてくる。
「僕は海瑠さんを愛したい。一生、海瑠さんだけを愛したい」
両親に愛がなかったからこそ奏歌くんは強くそう思うのかもしれない。
「私も奏歌くんだけを一生愛したいな」
答えると奏歌くんがすんっと洟を啜る。奏歌くんの涙でじんわりと私の胸が濡れるのが分かった。
10歳にもなるとこんな静かな泣き方をするものなのか。
奏歌くんの成長を感じてしまう。
奏歌くんが泣き止むまで私はずっと抱き締め続けていた。
奏歌くんも大きなお口でご飯を食べるが、やっちゃんは大人の男のひとという感じで一口が多くてさっさと食べ終えてしまう。
先に食べ終えたやっちゃんはお茶を淹れて、奏歌くんと茉優ちゃんにも渡していた。
「食べるの遅くてごめんね」
「いや……俺の都合で呼んだんだから気にしないでくれ」
どこか落ち着かない様子のやっちゃんに早く食べてしまわないとと思うのだが、奏歌くんといつも食べている速度ではとても追い付けるはずもなかった。
「外で会うと、雑誌とかにまた嗅ぎつけられると面倒くさいから」
一度やっちゃんとカフェで会っていたのを雑誌に書かれたことがある。あのときはやっちゃんが劇団の専属のデザイナー兼ライターで、仕事の打ち合わせをしていただけということになって問題にはならなかった。
それでも二人きりで会うのはやっちゃんは気を付けてくれているようだ。
親友なのだし、こんなに気遣ってくれるやっちゃんの悩みがあるのならば、相談に乗りたい。
食べ終わってソファに移ると、やっちゃんが緑茶を淹れてくれる。湯呑を持って熱いお茶を吹き冷まして飲んでいると、やっちゃんが深刻な表情で告げた。
「俺、飛行機に乗ったことがないんだ」
やっちゃんは飛行機に乗ったことがない。
フランス行きの飛行機は十三時間ほどかかると津島さんは説明してくれていたから、飛行機初心者にとってはつらいのかもしれない。
「私も国外線に乗るのは初めてだよ。国内はあるけど」
答えるとやっちゃんは重々しい表情で額に手を当てた。
「鉄の塊が飛ぶんだよ?」
「へ?」
「あんなにデカい鉄の塊が、空を飛べるとか信じられるか?」
そこからだった。
やっちゃんは飛行機が怖いのではないだろうか。
「やっちゃん、飛行機での事故よりも交通事故の方がずっと多いんだよ?」
近くで話を聞いていた奏歌くんがパジャマ姿で小首を傾げる。とても可愛いので写真におさめておきたいが、ぐっと我慢する。今はやっちゃんの話を聞いているのだ。
「乗ったことが、本当はあるらしいんだよ。俺がまだ赤ん坊の頃」
気圧の変化で耳が痛くなったのか飛行機の中でずっと号泣していたという赤ちゃんのときのやっちゃん。その思い出がトラウマになっているのかもしれない。
「安彦さん、私、ずっと傍を離れないから」
「茉優ちゃん……」
「怖いなら、安彦さんは耳栓をして、アイマスクをしてればいいわ」
確かにそうなのだが、そうなるとお手洗いや食事はどうするのだろう。十三時間程度の飛行時間となると、お手洗いに行かない、食事も摂らないというわけにはいかないだろう。
「情けないところを見せてしまって悪いな、茉優ちゃん。俺が保護者なのに」
「ううん、そういう安彦さんも可愛いと思うわ」
可愛い!?
茉優ちゃんにとってやっちゃんは可愛い対象だった。
やっちゃんも私と同じ28歳。誕生日を迎えていないまだ11歳の女の子に可愛いと言われるのは不本意かもしれない。
「いや、可愛くないよ?」
「私が守ります。安彦さんは、私を助けてくれた大事なひとだから!」
女の子はこの年でもしっかりしているものである。奏歌くんもしっかりしているのだが、大人しくて引っ込み思案の茉優ちゃんがこんなにもはっきりと物を言うなんて思わなかった。
将来は茉優ちゃんはしっかりとやっちゃんのことを引っ張って行けるのではないだろうか。
「私に相談しなくても、茉優ちゃんがいれば大丈夫だったね」
「いや……まぁ」
恥ずかしがっているのかやっちゃんの返事は歯切れが悪い。奏歌くんとお茶をして、その日は大人しく部屋に戻って寝た。
次の日も稽古場で舞台の稽古である。
通し稽古に入っていて、演出家さんからの細かい指示も受けて、舞台は出来上がりつつあった。
「海瑠、化粧水とか持って行けない分は、現地で調達してくれるって津島さんが言ってたわよ」
「え? 本当?」
機内に持ち込める水分の量が決まっているので二週間分の化粧水や乳液を考えるとどうやって持って行こうか悩んでいたが、その悩みは解決しそうだった。どうしても譲れないものに関しては、津島さんが劇団の事務所を通してフランスに送ってくれるというのだ。
「シャンプーと、コンディショナーと、化粧水と、乳液……これは慣れてるのを使いたいな」
「早めに津島さんにお願いしてってよ」
津島さんは私にも言ってくれたようなのだが、私はあまりひとの話を聞かないために、百合がわざわざ教えに来てくれたのだ。
そこで私は思い付いた。
電子レンジで温めるだけのご飯やフリーズドライのお味噌汁なども送ってしまえばいいのではないだろうか。他にも鯖缶や鰯の缶詰も送ってしまえばいい。
いそいそと私は送る荷物を集め始めた。
劇団がお休みの日に奏歌くんに来てもらって、送る荷物を厳選する。
温めるだけのご飯、フリーズドライのお味噌汁、鯖缶、鰯缶、ツナ缶……それぞれある程度の日にちは食べられる分だけ買って揃えておく。
「フランスでも海瑠さんと美味しいご飯が食べられそうだね」
「缶詰、ちょっといい奴にしちゃったもんね」
デパートで買えるちょっと高級な缶詰を荷物には入れることに奏歌くんと決めた。せっかくフランスに行くのだから美味しいものが食べたい。
「フランスでは朝に甘いパンとコーヒーを飲むんだって。僕は紅茶しかダメだけど、そういう朝ご飯も悪くないよね」
「休みの日には優雅にそうしても良いよね」
やっちゃんにとっては飛行機に乗らなければいけない恐怖の日のようだが、私と奏歌くんにとってはフランスに行く日は楽しみになっている。
「母子家庭で、家にほとんどいない仕事だから、弟の出張に息子と娘を同行させなきゃいけないんだって、母さんが言われたんだ……」
美歌さんがシングルマザーであることには理由があって、他の家庭にもそれぞれ理由があるだろうに、想像力のないひとが美歌さんにそんなことを言った。その件に関して奏歌くんは心を痛めているようだった。
「美歌さんはやっちゃんと立派に奏歌くんと茉優ちゃんを育ててると思うわ」
「うん……母さんのこと、海香さんに言ったのかな?」
美歌さんの運命のひとがさくらであったことは、美歌さんと海香は仲が良いのでもう知られているはずだった。どっちからも何も言われていないから、海香は大らかにそれを受け入れたのであろう。
何も言われていないから大丈夫だと思うのは私だけで、美歌さんの息子の奏歌くんは心配なのかもしれない。
一応海香に連絡を入れると、『聞いたわよ。驚いたけど、美歌さんが幸せならいいわ。さくらはすっかり美歌さんに懐いてるし』と返って来た。
あの後もさくらはずっと美歌さんの抱っこから降りなかった。下ろそうとすると甘えて泣いて、ごしごしと顔を美歌さんの胸に擦り付けるのだから、猫の本能としてしっかりとマーキングしているのが私には分かっていた。
「奏歌くんは複雑じゃない?」
聞いてみると、奏歌くんの答えはあっさりしたものだった。
「さくらちゃんが妹みたいになるだろうし、母さんに運命のひとができるのは嬉しいよ」
父さんが荒れるだろうけど、自業自得。
真里さんのことに言及する奏歌くんの言葉は冷たかった。
「僕、母さんには言わないけど、本当は知ってた。父さんが、知らないひとと二人で部屋に入って行くの。三人のときもあった。父さんは、母さんに誠実じゃなかった」
怪しい雰囲気をさせながら、海外に連れて行った小さな奏歌くんが意味が分からないだろうと思って、別の部屋に残して毎晩のように違う相手と部屋に入って行ったという真里さん。小さいながらに奏歌くんはしっかりとその現場を目撃していた。
「母さんが愛してないなら、父さんとはお別れした方が良いと思うんだ。母さんは幸せになっていい」
ハニーブラウンの目を潤ませて呟く奏歌くんの肩を私は引き寄せて抱き締める。
「美歌さんは奏歌くんが生まれて幸せだったよ」
「……うん」
「それだけは間違いないよ。奏歌くんがいてくれて、私も本当に幸せ。真里さんのことは好きじゃないけど、奏歌くんが生まれてくれたことには感謝してる」
抱き締めるとほろりと奏歌くんの目から大粒の涙が零れた。
奏歌くんはまだ10歳だ。母親の美歌さんが責められることや、美歌さんに運命の相手ができたこと、美歌さんが真里さんを愛していなかったことなど、受け入れがたいことがたくさんだっただろう。
それを必死に受け入れようとする奏歌くんだが、ショックを受けていないわけはないと私は思っていた。抱きしめると奏歌くんがぎゅっとしがみ付いてくる。
「僕は海瑠さんを愛したい。一生、海瑠さんだけを愛したい」
両親に愛がなかったからこそ奏歌くんは強くそう思うのかもしれない。
「私も奏歌くんだけを一生愛したいな」
答えると奏歌くんがすんっと洟を啜る。奏歌くんの涙でじんわりと私の胸が濡れるのが分かった。
10歳にもなるとこんな静かな泣き方をするものなのか。
奏歌くんの成長を感じてしまう。
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