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5.お腹の中の記憶
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何歳の頃か記憶にないが、ラーイに聞かれたことがある。
「リラ、うまれるまえのこと、おぼえてる?」
その問いかけにリラは答えた。
「ちょっとだけ」
「え? ほんとうに?」
生まれる前のことを覚えていると聞いてラーイはとても驚いていた。
リラには生まれる前の記憶がある。
アマリエのお腹の中にいた頃の記憶だ。
「うまれるまえ、どんなかんじだった?」
「おかあさんのおなかのなかで、おにいちゃんといっしょだった。おにいちゃんがさきにでていって、わたしはあとだった」
説明すると、ラーイは妙な顔をしていた気がする。ラーイはそうではない答えを求めていた気がするのだ。
「ぼくはそんなのぜんぜんおぼえてない」
「おかあさんのおなかからでたら、さむくて、まぶしくて、わたし、ないたの。そしたら、レイリさまがだっこしてくれて、おなかのなかにいたときみたいなあたたかいおゆにつけてくれて、だきしめてくれた」
ラーイが何か勘違いしているのではないかと思いながらリラは自分の経験を話す。ラーイはそれを聞いて目を輝かせていた。
「すごいね、リラ」
「これ、すごいことなの?」
「ずっとわすれないでいるといいよ。とてもだいじなきおくだから」
アマリエのお腹の中にいたときの記憶は、ラーイがそのときに聞いてくれたからリラが十歳になっても鮮明に覚えていた。
「ねぇ、レイリ様、お兄ちゃんって時々おかしくない?」
レイリの部屋で二人きりになってお乳を飲ませてもらってから、寝台に横になると、レイリが白虎の姿になる。お腹の上に乗ってリラは眠るのだが、ふとレイリの毛皮を撫でながらリラは呟いていた。
「ラーイは小さな頃からとても賢かったですからね」
「セイラン様と二人で、『前世が』とか話してる気がするのよね。レイリ様前世ってなにかしら?」
前世と言われてもピンと来ていないリラにレイリが説明してくれる。
「前世とは、輪廻転生があるという考えの元、今生きているのを今世として、生まれる前に過ごしていた人生を前世というのですよ」
「え!? お兄ちゃんは前世があるの!?」
「ラーイはセイラン兄上とそのようなことを話している気がしますね」
レイリもそのことには気付いていたようだ。
リラはラーイが妙に賢いことには気付いていたが、前世というものがあるという考え方はしたことがなかった。
「お兄ちゃん、私に聞いたことがあったのよ」
「何をですか?」
「生まれる前のことを覚えているか」
そのときにリラが答えたのはアマリエのお腹の中にいた記憶だったが、ラーイは別のことを考えていたのだろうか。ラーイを問い詰めるわけにはいかないので話はそれで終わって、リラはレイリのお腹の上に乗って眠っていた。
その年の冬の終わりごろには、高等学校の入学試験があった。
高等学校に入学を希望する生徒だけが受ける学力試験で、高等学校の進学を望む生徒にとっては難しくない内容で、不合格になるものはめったにいないということだった。
仲良しのナンシーも学力試験を受けていて、リラはナンシーが一緒で嬉しかった。
試験はすぐに終わって、アナが迎えに来てくれてリラとラーイは社に帰った。
「高等学校になったら自分たちで歩いて行かなきゃいけなくなるね」
「お兄ちゃんのことは私が守ってあげる」
「リラは強いもんな」
ラーイとリラで話していると、アナが心配そうな顔をしている。
「ラーイとリラだけで平気かしら?」
「高等学校になるんだから平気だよ」
「私、強いのよ」
「高等学校の生徒になると言っても、ラーイとリラはまだ十歳でしょう?」
誕生日の関係で二年飛び級して小学校に入学しているリラとラーイは、高等学校に入学するのにまだ十歳だった。十歳の二人が社から魔女の森まで歩いてくるのをアナは心配していた。
スリーズに会いたかったし、魔女の森の入口にアマリエの家はあるので、帰りにはリラとラーイは必ず寄っていた。
スリーズはリラを「ねぇ」、ラーイを「にぃ」と呼べるようになっていた。
高等学校の採寸の話になって、ラーイとリラはアマリエにお願いしていた。
「お母さん、高等学校の制服の採寸に行かなきゃいけないんだけど、セイラン様と行っていい?」
「私も、レイリ様と行っていい?」
高等学校からお知らせが来ていて、セイランとレイリにそれを見せたら、二人はアマリエに相談した方がいいと言ったのだ。当然レイリと行く気だったリラはアマリエの答えにがっかりしてしまう。
「ラーイは土地神様と行っていいと思うけど、リラは私がいた方がいいかもしれないわ」
「なんでお兄ちゃんだけ!?」
「リラは女の子だから、女子の採寸の場所には女性しか入れないかもしれないのよ」
高等学校にもなると男女で採寸の場所が分かれてしまうようだ。
レイリと一緒に行きたかったが、リラは女の子でレイリは成人男性だ。レイリを女の子ばかりの場所に連れて行くわけにはいかない。
「ラーイは高等学校で初めての男の子になるはずだから、高等学校側も配慮してくれると思うのよね。女子とは多分別の採寸場所が用意されるわ」
「それなら、仕方ないよね、リラ」
「そうね。お兄ちゃんだけずるいけど」
「狡いも何も、リラは女の子で僕は男の子なんだから仕方ないよ」
不承不承納得して、リラはレイリと行くことを諦めた。
高等学校での採寸では、ラーイだけが別室の男子の採寸場所に入って、リラは女子がたくさんいる採寸場所に入った。
採寸してもらって、注文を聞かれる。
「制服はスラックスとスカートと選べますがどうしますか?」
動きやすいのはスラックスだが、スカートもプリーツスカートでデザインが可愛くてリラは迷ってしまった。
「どっちが似合う? うーん、似合うのより機能性かしら?」
悩んでいるリラにアマリエが言ってくれる。
「どっちも買っちゃいなさい。お金に困ってるわけじゃないし、汚したら次の日は洗濯が間に合わないかもしれないから、二着くらい持ってていいわよ」
「いいの!?」
「可愛いスカートもはきたいんでしょう? いいわよ」
アマリエに許されて、リラはスラックスとスカートの二着を注文した。
「お母さんがいいって言ったから、私、スカートとスラックス、どっちも注文しちゃった」
「リラはどっちも似合うと思うよ」
「制服ってみんな同じでつまらないけど、髪型は好きにしていいみたいだから、マオお姉ちゃんに編み込んでもらって、薔薇の飾りをつけていくわ」
灰色のチェックの上着に白いシャツ、黒いスラックスかスカートの制服。みんな同じでつまらないが、それも貧富の差が見えないようにするための配慮だと言われればリラもラーイも納得した。
制服は高等学校から基本の一着は無償で提供されるのだ。もう一着と増やしていくと追加料金がかかるが、一着だけは誰でも着られるようになっている。
リラとラーイには貧しさは無縁だったが、高等学校に入学してくる生徒の中には裕福な家庭ではない子どももいるので、無償で提供される制服を全員が着るというのはとても有意義なことだった。
小学校を卒業して、リラとラーイは高等学校に入学した。
高等学校に入学して新学期にはスリーズが一歳になった。
スリーズの誕生日にラーイはまたリラに聞いてきた。
「リラ、生まれる前のこと、覚えてる?」
「お母さんのお腹の中のこと? ちょっとだけ覚えてるわよ」
忘れないようにと言ったのはラーイで、リラはちゃんと覚えていたがラーイは妙な顔をしている。
「リラは本当に……の僕の妹なのかな……」
途中少し聞こえなかったが、ラーイが何か考えていることは察してリラは目を丸くした。リラがラーイの妹であることは確かなのに、今更何を言っているのだろう。
幼い頃から少し変わった兄だったが、ラーイが何を考えているのか分からない。
「レイリ様、お兄ちゃんって少し変じゃない?」
「ラーイは賢すぎるのかもしれませんね」
レイリに相談してみればそんな答えが返って来た。
「リラ、うまれるまえのこと、おぼえてる?」
その問いかけにリラは答えた。
「ちょっとだけ」
「え? ほんとうに?」
生まれる前のことを覚えていると聞いてラーイはとても驚いていた。
リラには生まれる前の記憶がある。
アマリエのお腹の中にいた頃の記憶だ。
「うまれるまえ、どんなかんじだった?」
「おかあさんのおなかのなかで、おにいちゃんといっしょだった。おにいちゃんがさきにでていって、わたしはあとだった」
説明すると、ラーイは妙な顔をしていた気がする。ラーイはそうではない答えを求めていた気がするのだ。
「ぼくはそんなのぜんぜんおぼえてない」
「おかあさんのおなかからでたら、さむくて、まぶしくて、わたし、ないたの。そしたら、レイリさまがだっこしてくれて、おなかのなかにいたときみたいなあたたかいおゆにつけてくれて、だきしめてくれた」
ラーイが何か勘違いしているのではないかと思いながらリラは自分の経験を話す。ラーイはそれを聞いて目を輝かせていた。
「すごいね、リラ」
「これ、すごいことなの?」
「ずっとわすれないでいるといいよ。とてもだいじなきおくだから」
アマリエのお腹の中にいたときの記憶は、ラーイがそのときに聞いてくれたからリラが十歳になっても鮮明に覚えていた。
「ねぇ、レイリ様、お兄ちゃんって時々おかしくない?」
レイリの部屋で二人きりになってお乳を飲ませてもらってから、寝台に横になると、レイリが白虎の姿になる。お腹の上に乗ってリラは眠るのだが、ふとレイリの毛皮を撫でながらリラは呟いていた。
「ラーイは小さな頃からとても賢かったですからね」
「セイラン様と二人で、『前世が』とか話してる気がするのよね。レイリ様前世ってなにかしら?」
前世と言われてもピンと来ていないリラにレイリが説明してくれる。
「前世とは、輪廻転生があるという考えの元、今生きているのを今世として、生まれる前に過ごしていた人生を前世というのですよ」
「え!? お兄ちゃんは前世があるの!?」
「ラーイはセイラン兄上とそのようなことを話している気がしますね」
レイリもそのことには気付いていたようだ。
リラはラーイが妙に賢いことには気付いていたが、前世というものがあるという考え方はしたことがなかった。
「お兄ちゃん、私に聞いたことがあったのよ」
「何をですか?」
「生まれる前のことを覚えているか」
そのときにリラが答えたのはアマリエのお腹の中にいた記憶だったが、ラーイは別のことを考えていたのだろうか。ラーイを問い詰めるわけにはいかないので話はそれで終わって、リラはレイリのお腹の上に乗って眠っていた。
その年の冬の終わりごろには、高等学校の入学試験があった。
高等学校に入学を希望する生徒だけが受ける学力試験で、高等学校の進学を望む生徒にとっては難しくない内容で、不合格になるものはめったにいないということだった。
仲良しのナンシーも学力試験を受けていて、リラはナンシーが一緒で嬉しかった。
試験はすぐに終わって、アナが迎えに来てくれてリラとラーイは社に帰った。
「高等学校になったら自分たちで歩いて行かなきゃいけなくなるね」
「お兄ちゃんのことは私が守ってあげる」
「リラは強いもんな」
ラーイとリラで話していると、アナが心配そうな顔をしている。
「ラーイとリラだけで平気かしら?」
「高等学校になるんだから平気だよ」
「私、強いのよ」
「高等学校の生徒になると言っても、ラーイとリラはまだ十歳でしょう?」
誕生日の関係で二年飛び級して小学校に入学しているリラとラーイは、高等学校に入学するのにまだ十歳だった。十歳の二人が社から魔女の森まで歩いてくるのをアナは心配していた。
スリーズに会いたかったし、魔女の森の入口にアマリエの家はあるので、帰りにはリラとラーイは必ず寄っていた。
スリーズはリラを「ねぇ」、ラーイを「にぃ」と呼べるようになっていた。
高等学校の採寸の話になって、ラーイとリラはアマリエにお願いしていた。
「お母さん、高等学校の制服の採寸に行かなきゃいけないんだけど、セイラン様と行っていい?」
「私も、レイリ様と行っていい?」
高等学校からお知らせが来ていて、セイランとレイリにそれを見せたら、二人はアマリエに相談した方がいいと言ったのだ。当然レイリと行く気だったリラはアマリエの答えにがっかりしてしまう。
「ラーイは土地神様と行っていいと思うけど、リラは私がいた方がいいかもしれないわ」
「なんでお兄ちゃんだけ!?」
「リラは女の子だから、女子の採寸の場所には女性しか入れないかもしれないのよ」
高等学校にもなると男女で採寸の場所が分かれてしまうようだ。
レイリと一緒に行きたかったが、リラは女の子でレイリは成人男性だ。レイリを女の子ばかりの場所に連れて行くわけにはいかない。
「ラーイは高等学校で初めての男の子になるはずだから、高等学校側も配慮してくれると思うのよね。女子とは多分別の採寸場所が用意されるわ」
「それなら、仕方ないよね、リラ」
「そうね。お兄ちゃんだけずるいけど」
「狡いも何も、リラは女の子で僕は男の子なんだから仕方ないよ」
不承不承納得して、リラはレイリと行くことを諦めた。
高等学校での採寸では、ラーイだけが別室の男子の採寸場所に入って、リラは女子がたくさんいる採寸場所に入った。
採寸してもらって、注文を聞かれる。
「制服はスラックスとスカートと選べますがどうしますか?」
動きやすいのはスラックスだが、スカートもプリーツスカートでデザインが可愛くてリラは迷ってしまった。
「どっちが似合う? うーん、似合うのより機能性かしら?」
悩んでいるリラにアマリエが言ってくれる。
「どっちも買っちゃいなさい。お金に困ってるわけじゃないし、汚したら次の日は洗濯が間に合わないかもしれないから、二着くらい持ってていいわよ」
「いいの!?」
「可愛いスカートもはきたいんでしょう? いいわよ」
アマリエに許されて、リラはスラックスとスカートの二着を注文した。
「お母さんがいいって言ったから、私、スカートとスラックス、どっちも注文しちゃった」
「リラはどっちも似合うと思うよ」
「制服ってみんな同じでつまらないけど、髪型は好きにしていいみたいだから、マオお姉ちゃんに編み込んでもらって、薔薇の飾りをつけていくわ」
灰色のチェックの上着に白いシャツ、黒いスラックスかスカートの制服。みんな同じでつまらないが、それも貧富の差が見えないようにするための配慮だと言われればリラもラーイも納得した。
制服は高等学校から基本の一着は無償で提供されるのだ。もう一着と増やしていくと追加料金がかかるが、一着だけは誰でも着られるようになっている。
リラとラーイには貧しさは無縁だったが、高等学校に入学してくる生徒の中には裕福な家庭ではない子どももいるので、無償で提供される制服を全員が着るというのはとても有意義なことだった。
小学校を卒業して、リラとラーイは高等学校に入学した。
高等学校に入学して新学期にはスリーズが一歳になった。
スリーズの誕生日にラーイはまたリラに聞いてきた。
「リラ、生まれる前のこと、覚えてる?」
「お母さんのお腹の中のこと? ちょっとだけ覚えてるわよ」
忘れないようにと言ったのはラーイで、リラはちゃんと覚えていたがラーイは妙な顔をしている。
「リラは本当に……の僕の妹なのかな……」
途中少し聞こえなかったが、ラーイが何か考えていることは察してリラは目を丸くした。リラがラーイの妹であることは確かなのに、今更何を言っているのだろう。
幼い頃から少し変わった兄だったが、ラーイが何を考えているのか分からない。
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