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それからは医者がセシリアの体をみて、カレンができるだけセシリアに無理をさせないように日常生活を手伝い、夜にブルーノが少しの時間だけ話をしに来るといった毎日を送っていた。
ブルーノは何も知らずにセシリアを糾弾した自責の念から、話をする時には魔法で体を治癒していってくれた。本人曰く、治癒は苦手らしくあまり効果がないとのことだったが、セシリアは自分のために魔法を使ってくれることが嬉しかった。少なくとも心の傷は癒えていった。
部屋の中にずっと籠っているのは体に悪いからと外に出るために車椅子を使って移動をするセシリアは、アルフォンス家の使用人にとって鬱陶しいものとなった。車椅子を使ってでしか移動ができない夫人はアルフォンス公爵家の人間として相応しくないと、毎日ブルーノに文句をぶつけていた。
「どうしてあのような魔力なしを家に置いておくのですか!」
「魔力なしのくせに他人に世話をされて当然のように振舞って!」
「私たちがわざわざ話しかけても使用人になど話す価値はないなどというのか、返答も何もしないのです!」
「あのような魔力なしではなく違う方を夫人にしてくださいませ!アルフォンス公爵家にはもっとふさわしい方がいらっしゃいます!」
ブルーノにはもう使用人の鬱憤を受け止めきれなくなっていた。病気だからと何度説き伏せても、それがなんだと言うのですかと返される。自分の勘違いで彼女を悪い気にさせてしまったから償いとして今治癒を施している途中だと言っても、魔力なしに貴重な大事なアルフォンス公爵家の魔法を使うなと責められた。どうすればいいのかブルーノにも分からないのだ。セシリアは悪くないと分かってはいても、使用人からの不満を聞く度に自然とブルーノの足はセシリアからだんだん遠のいていった。完全に来なくなるまで時間はかからなかった。
「最近旦那様はいらっしゃっていますか?」
カレンがそう尋ねてもセシリアは困った顔で笑うだけだった。
セシリアがブルーノを毎日密かに楽しみに待っていることなど見ていたらすぐに分かることだ。毎日は来ないが、2日に1度は必ず部屋に来る度にセシリアは笑みを深くするのだ。きっと、ブルーノがセシリアに歩み寄った結果、心を通じ合わせることが出来たのだろうと考えて、ブルーノが来る時には席を外していた。それがどうだろう。今日のセシリアはなんとなく悲しそうな顔をしている気がした。
カレンが見ていないときにブルーノが来ている様子は感じられない。
2日に1度が3日に1度、1週間に1度とブルーノの足は遠のいていき、ついには1度も来なかった週も少なくなくなって、来なくなった。少なくともこの何ヶ月かは会っていない。比例してなのかセシリアの笑顔は、ブルーノが来なくなる度に輝きを失っていき、笑わなくなっていった。
「奥様、少し気分転換に庭園に出ましょうか。」
ある日の朝、笑顔で提案をするカレンに頷き、痛み止めを飲んでから車椅子に乗ると、庭園へ向かった。車椅子に乗れるようになってから幾度も足を運んだ庭園だったが、暗い心がなんとなく明るくなるような気がした。
「見てください奥様!もうあんなにサザンクロスが花を咲かせていますよ!」
カレンは声色を明るくしてセシリアが元気になればいいとアルフォンス家の庭園を案内した。日が強くなったのでとガゼボに向かうと信じられない光景が目の前に広がった。
可愛らしい令嬢とブルーノが共にガゼボで茶を飲んでいた。
カレンはセシリアにどうにか見せてはいけないと目の前に立ったが、手遅れだった。
ブルーノを見開いた灰色の瞳に映してしまっていた。
セシリアはなんとも言えない心臓の痛みに車椅子から倒れそうになった。自分に一切見せてくれない笑顔は可愛らしい令嬢の前には屈託なく見せていた。優しい声も、気遣うような瞳も、自分だけのものではなかった。
心臓の痛みに、嗚呼……私は、私如きがブルーノ様をお慕いしていたのか……と初めて自覚することとなった。
ブルーノのセシリアに対する一面を、少なからずも自分のものだと思ってしまっていた自分に嫌気がさした。どうして私には見せてはくれない笑顔を見せているのかと嫉妬してしまった自分がいたことに何よりも嫌気がさした。
最近来なくなったのは、あの令嬢がいたからなのか。
自分とは違って輝くような金髪はまるでブルーノの銀髪と二つで一つかのように太陽の光を反射していた。優しそうに細められる薄緑色の瞳、笑う度にうかぶえくぼは妖精のように可愛らしさを増長させていた。
自分とは全く違う。
目を見開いたまま固まっているセシリアの近くを通った使用人に鼻で笑われた時に、今自分はあの令嬢と見比べられたと察した。
ブルーノは何も知らずにセシリアを糾弾した自責の念から、話をする時には魔法で体を治癒していってくれた。本人曰く、治癒は苦手らしくあまり効果がないとのことだったが、セシリアは自分のために魔法を使ってくれることが嬉しかった。少なくとも心の傷は癒えていった。
部屋の中にずっと籠っているのは体に悪いからと外に出るために車椅子を使って移動をするセシリアは、アルフォンス家の使用人にとって鬱陶しいものとなった。車椅子を使ってでしか移動ができない夫人はアルフォンス公爵家の人間として相応しくないと、毎日ブルーノに文句をぶつけていた。
「どうしてあのような魔力なしを家に置いておくのですか!」
「魔力なしのくせに他人に世話をされて当然のように振舞って!」
「私たちがわざわざ話しかけても使用人になど話す価値はないなどというのか、返答も何もしないのです!」
「あのような魔力なしではなく違う方を夫人にしてくださいませ!アルフォンス公爵家にはもっとふさわしい方がいらっしゃいます!」
ブルーノにはもう使用人の鬱憤を受け止めきれなくなっていた。病気だからと何度説き伏せても、それがなんだと言うのですかと返される。自分の勘違いで彼女を悪い気にさせてしまったから償いとして今治癒を施している途中だと言っても、魔力なしに貴重な大事なアルフォンス公爵家の魔法を使うなと責められた。どうすればいいのかブルーノにも分からないのだ。セシリアは悪くないと分かってはいても、使用人からの不満を聞く度に自然とブルーノの足はセシリアからだんだん遠のいていった。完全に来なくなるまで時間はかからなかった。
「最近旦那様はいらっしゃっていますか?」
カレンがそう尋ねてもセシリアは困った顔で笑うだけだった。
セシリアがブルーノを毎日密かに楽しみに待っていることなど見ていたらすぐに分かることだ。毎日は来ないが、2日に1度は必ず部屋に来る度にセシリアは笑みを深くするのだ。きっと、ブルーノがセシリアに歩み寄った結果、心を通じ合わせることが出来たのだろうと考えて、ブルーノが来る時には席を外していた。それがどうだろう。今日のセシリアはなんとなく悲しそうな顔をしている気がした。
カレンが見ていないときにブルーノが来ている様子は感じられない。
2日に1度が3日に1度、1週間に1度とブルーノの足は遠のいていき、ついには1度も来なかった週も少なくなくなって、来なくなった。少なくともこの何ヶ月かは会っていない。比例してなのかセシリアの笑顔は、ブルーノが来なくなる度に輝きを失っていき、笑わなくなっていった。
「奥様、少し気分転換に庭園に出ましょうか。」
ある日の朝、笑顔で提案をするカレンに頷き、痛み止めを飲んでから車椅子に乗ると、庭園へ向かった。車椅子に乗れるようになってから幾度も足を運んだ庭園だったが、暗い心がなんとなく明るくなるような気がした。
「見てください奥様!もうあんなにサザンクロスが花を咲かせていますよ!」
カレンは声色を明るくしてセシリアが元気になればいいとアルフォンス家の庭園を案内した。日が強くなったのでとガゼボに向かうと信じられない光景が目の前に広がった。
可愛らしい令嬢とブルーノが共にガゼボで茶を飲んでいた。
カレンはセシリアにどうにか見せてはいけないと目の前に立ったが、手遅れだった。
ブルーノを見開いた灰色の瞳に映してしまっていた。
セシリアはなんとも言えない心臓の痛みに車椅子から倒れそうになった。自分に一切見せてくれない笑顔は可愛らしい令嬢の前には屈託なく見せていた。優しい声も、気遣うような瞳も、自分だけのものではなかった。
心臓の痛みに、嗚呼……私は、私如きがブルーノ様をお慕いしていたのか……と初めて自覚することとなった。
ブルーノのセシリアに対する一面を、少なからずも自分のものだと思ってしまっていた自分に嫌気がさした。どうして私には見せてはくれない笑顔を見せているのかと嫉妬してしまった自分がいたことに何よりも嫌気がさした。
最近来なくなったのは、あの令嬢がいたからなのか。
自分とは違って輝くような金髪はまるでブルーノの銀髪と二つで一つかのように太陽の光を反射していた。優しそうに細められる薄緑色の瞳、笑う度にうかぶえくぼは妖精のように可愛らしさを増長させていた。
自分とは全く違う。
目を見開いたまま固まっているセシリアの近くを通った使用人に鼻で笑われた時に、今自分はあの令嬢と見比べられたと察した。
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