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第3作 ドラゴン・タトゥーの少年 桜の朽木に虫の這うこと(三)
第7話 ウツロ VS 姫神壱騎
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「姫神壱騎、参る――!」
「似嵐ウツロ、お相手つかまつる――!」
こうして二つの剣尖は激突した。
「くっ……!」
そのままつばぜり合いへとシフトする。
ここでは体躯の差で、ウツロのほうが不利である。
彼は感じた。
この男、俺を殺す気だ……
純粋な殺意。
しかしそれは、犯罪や殺人といったたぐいの性質ではなく、侍が立ち会う相手に対していだく特有の覇気であった。
まさしく真剣勝負。
いいね、たぎってくる……
ウツロは柄にもなく、心に火がついた。
それはやはり、彼もまた闘争の本質に肉薄する者である証左だった。
「はっ――!」
ウツロは体勢を変えて剣をいなし、低く跳躍して間合いを取った。
腕がビリビリする。
すごい、すごいぞ、この人は……
燃える……
眠っていた戦士の本能が目を覚ましはじめてくる。
「やるじゃん、ウツロくん?」
「あなたこそ、姫神さん……」
両者、かまえなおす。
「はあっ――!」
「甘いっ!」
「ふんっ――!」
「――っ!?」
再度激突するかと思いきや、ウツロは姫神壱騎の背後へ跳んでいく。
かく乱が狙いだ。
「八角八艘跳びっ!」
「これは……!」
杉林の中を縦横無尽にかけめぐる。
あまりの脚力に杉の表皮がはじけ飛ぶほどだ。
「そこおっ!」
背後を取る、しかし――
「見切ったり!」
長刀がぐるっと振りかぶられる。
「ぐっ!」
左手をそえて受け止めたが、ななめ後方へ吹き飛ばされる。
だが、その勢いで杉の大木を蹴った。
「まだまだあっ!」
何度目になるのか、二つの剣はぶつかり合った。
激突しては間合いを取り、状況は変わらないように見える。
しかし、二人はお互いのすきを常にうかがい、また体力や気力の消耗を狙っているのだ。
一瞬でも気を抜いたほうが、すなわち敗北する。
「ウツロくん、こんなのはどう?」
「……」
姫神壱騎が刀を垂直に高くかまえる。
いったいどんな攻撃が来るのかと、ウツロは警戒した。
「姫神一刀流、秘剣・枕返し」
「う……」
長刀の中心がぐにゃりとゆがんだように見え、次の瞬間、がくっと足から力が抜けた。
「すきありいっ!」
「くっ……!」
剣戟はなんとか受け止めた。
が、勢いに押され、そのまま地面へと倒れこむ。
「どう? けっこう難しいんだよ? この技」
「ううっ……」
切っ先がとっ伏したウツロを狙いすましている。
少しでも気を抜けば、すなわち……
「……」
姫神壱騎は驚いた。
ウツロは、笑っている……
「最高です、姫神さん……こんなに燃えたのは、はじめてだ……」
「で? 降参する? このままじゃ、俺は殺人犯になっちゃうよ?」
「降参、ですって? バカなことを……俺の降参は、すなわち、死ぬとき……」
「……最高だね、ウツロくん。君こそ正真正銘の、もののふ――っ!」
刀に入る力が一気に加速する。
「なめる、なあっ――!」
「ぬっ……!?」
あろうことか、ウツロは気合いでもって剣をはじき返した。
自覚はなかったが、その意志の強さが、姫神壱騎の術式を解除していたのだ。
「はあっ、はあっ……」
また間合いを取り合う。
「驚いたな……秘剣・枕返し、破られたのははじめてだ……」
「ここは俺にとって魂の場所。父や兄が力を貸してくれるのです……!」
「かっこいいね、ウツロくん。君、生まれる時代を間違えたんじゃない?」
「よく言われますよ。そして姫神さん、あなたもね?」
「いいね、素敵だよ。どうする? まだ続けるかい?」
「いま、この場で死んでも悔いはありません。それほどのお相手、あなたは、姫神壱騎という男は……!」
「偶然だな、俺もおんなじことを考えていたよ。じゃあ、ウツロくん……!」
「推して参る、姫神さん……!」
二つの影が起こりを放つ瞬間――
パチン!
「――っ!?」
破裂音がして、何事かと二人はそちらを向いた。
手をたたく音だった。
「おまえら、その辺にしときな」
緑がかった髪の毛の少女、万城目日和だ。
「日和、邪魔しないでくれ。いま、いいところなんだ」
「ここを殺人現場にしてえのか、ウツロ? 親父さんや兄貴が泣くぞ?」
「う……」
ウツロの気力が一気に落ちていく。
よく言えば冷静になっていったわけだが。
「たく、ひとりになるなってあれほど言ってただろ? つけておいてきてよかったぜ」
彼女は頭をかきながら二人のほうへとやってくる。
「姫神壱騎さん、だよな?」
「トカゲ少女の日和ちゃんか。いったいなんの真似? 君も一流の戦士ならわかるよね? いまがどういう状況だったか」
「ここで体力を消耗してる場合じゃあねえってことだよ。ウツロもだし、姫神さん、あんたにとってもな」
「どういう意味かな?」
「あんたに伝えてえことがある。親父、ああ、ウツロの親父・似嵐鏡月のことな。師匠って意味で俺はそう呼んでたんだ。その親父から伝言を預かってるんだ。姫神壱騎という男がもし姿を現したら、伝えておいてくれってな」
「それは……」
「あんたの敵、森花炉之介のことだよ」
「――っ!?」
ひょうひょうとしていた少年の表情が、たちまちのうちに鬼の形相へと変化していた――
「似嵐ウツロ、お相手つかまつる――!」
こうして二つの剣尖は激突した。
「くっ……!」
そのままつばぜり合いへとシフトする。
ここでは体躯の差で、ウツロのほうが不利である。
彼は感じた。
この男、俺を殺す気だ……
純粋な殺意。
しかしそれは、犯罪や殺人といったたぐいの性質ではなく、侍が立ち会う相手に対していだく特有の覇気であった。
まさしく真剣勝負。
いいね、たぎってくる……
ウツロは柄にもなく、心に火がついた。
それはやはり、彼もまた闘争の本質に肉薄する者である証左だった。
「はっ――!」
ウツロは体勢を変えて剣をいなし、低く跳躍して間合いを取った。
腕がビリビリする。
すごい、すごいぞ、この人は……
燃える……
眠っていた戦士の本能が目を覚ましはじめてくる。
「やるじゃん、ウツロくん?」
「あなたこそ、姫神さん……」
両者、かまえなおす。
「はあっ――!」
「甘いっ!」
「ふんっ――!」
「――っ!?」
再度激突するかと思いきや、ウツロは姫神壱騎の背後へ跳んでいく。
かく乱が狙いだ。
「八角八艘跳びっ!」
「これは……!」
杉林の中を縦横無尽にかけめぐる。
あまりの脚力に杉の表皮がはじけ飛ぶほどだ。
「そこおっ!」
背後を取る、しかし――
「見切ったり!」
長刀がぐるっと振りかぶられる。
「ぐっ!」
左手をそえて受け止めたが、ななめ後方へ吹き飛ばされる。
だが、その勢いで杉の大木を蹴った。
「まだまだあっ!」
何度目になるのか、二つの剣はぶつかり合った。
激突しては間合いを取り、状況は変わらないように見える。
しかし、二人はお互いのすきを常にうかがい、また体力や気力の消耗を狙っているのだ。
一瞬でも気を抜いたほうが、すなわち敗北する。
「ウツロくん、こんなのはどう?」
「……」
姫神壱騎が刀を垂直に高くかまえる。
いったいどんな攻撃が来るのかと、ウツロは警戒した。
「姫神一刀流、秘剣・枕返し」
「う……」
長刀の中心がぐにゃりとゆがんだように見え、次の瞬間、がくっと足から力が抜けた。
「すきありいっ!」
「くっ……!」
剣戟はなんとか受け止めた。
が、勢いに押され、そのまま地面へと倒れこむ。
「どう? けっこう難しいんだよ? この技」
「ううっ……」
切っ先がとっ伏したウツロを狙いすましている。
少しでも気を抜けば、すなわち……
「……」
姫神壱騎は驚いた。
ウツロは、笑っている……
「最高です、姫神さん……こんなに燃えたのは、はじめてだ……」
「で? 降参する? このままじゃ、俺は殺人犯になっちゃうよ?」
「降参、ですって? バカなことを……俺の降参は、すなわち、死ぬとき……」
「……最高だね、ウツロくん。君こそ正真正銘の、もののふ――っ!」
刀に入る力が一気に加速する。
「なめる、なあっ――!」
「ぬっ……!?」
あろうことか、ウツロは気合いでもって剣をはじき返した。
自覚はなかったが、その意志の強さが、姫神壱騎の術式を解除していたのだ。
「はあっ、はあっ……」
また間合いを取り合う。
「驚いたな……秘剣・枕返し、破られたのははじめてだ……」
「ここは俺にとって魂の場所。父や兄が力を貸してくれるのです……!」
「かっこいいね、ウツロくん。君、生まれる時代を間違えたんじゃない?」
「よく言われますよ。そして姫神さん、あなたもね?」
「いいね、素敵だよ。どうする? まだ続けるかい?」
「いま、この場で死んでも悔いはありません。それほどのお相手、あなたは、姫神壱騎という男は……!」
「偶然だな、俺もおんなじことを考えていたよ。じゃあ、ウツロくん……!」
「推して参る、姫神さん……!」
二つの影が起こりを放つ瞬間――
パチン!
「――っ!?」
破裂音がして、何事かと二人はそちらを向いた。
手をたたく音だった。
「おまえら、その辺にしときな」
緑がかった髪の毛の少女、万城目日和だ。
「日和、邪魔しないでくれ。いま、いいところなんだ」
「ここを殺人現場にしてえのか、ウツロ? 親父さんや兄貴が泣くぞ?」
「う……」
ウツロの気力が一気に落ちていく。
よく言えば冷静になっていったわけだが。
「たく、ひとりになるなってあれほど言ってただろ? つけておいてきてよかったぜ」
彼女は頭をかきながら二人のほうへとやってくる。
「姫神壱騎さん、だよな?」
「トカゲ少女の日和ちゃんか。いったいなんの真似? 君も一流の戦士ならわかるよね? いまがどういう状況だったか」
「ここで体力を消耗してる場合じゃあねえってことだよ。ウツロもだし、姫神さん、あんたにとってもな」
「どういう意味かな?」
「あんたに伝えてえことがある。親父、ああ、ウツロの親父・似嵐鏡月のことな。師匠って意味で俺はそう呼んでたんだ。その親父から伝言を預かってるんだ。姫神壱騎という男がもし姿を現したら、伝えておいてくれってな」
「それは……」
「あんたの敵、森花炉之介のことだよ」
「――っ!?」
ひょうひょうとしていた少年の表情が、たちまちのうちに鬼の形相へと変化していた――
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