161 / 181
第2作 アオハル・イン・チェインズ 桜の朽木に虫の這うこと(二)
第79話 魔女は笑いが止まらない
しおりを挟む
「ウツロ……ミスター・キョウゲツの息子……まさかここまで成長してくれるとは、ふふっ……これはいよいよ、面白くなってきましたね」
実験機器に囲まれた部屋の中で、ひとりの女性が研究用の器具をいじりながらしゃべっている。
アメリカ・ハーフォード大学名誉教授、テオドラキア・スタッカー博士。
精神医学・脳神経科学の世界的権威であり、化学・物理学・生物学など、およそ学問に関しては全方位的に造詣が深い。
実母であるグレコマンドラ・ジョーンズ教授は、実験中に不慮の事故で他界した――と、世間的には認知されている。
しかしその正体は古代ギリシャの巫女・ディオティマであり、魔王桜の召喚に成功した、世界最古のアルトラ使いである。
その能力「ファントム・デバイス」によって、子孫の肉体を乗っ取りながら、何千年もの間、魔王桜の研究にいそしんでいる。
いまの体は、ウツロの父・似嵐鏡月を利用した実験の際、グレコマンドラの肉体が破損したため、急きょ娘であるテオドラキアに乗り移ったものだ。
「ミスター・キョウゲツ……あなたのおかげで、わがファントム・デバイスは進化を遂げ、召喚能力へとアップグレードすることができた……名づけて、ファントム・デバイス・ダーティー・ミックス……禍を転じて福と為す、日本のことわざだそうですね……これよってわたしは、きわめて短い時間とはいえ、魔王桜を部分的に呼び出すことが可能となった……その成果として、より効率的にアルトラ使いを生み出すことがかない、いまではすっかり、大きな軍団となりました……ふふっ、感謝の気持ちしかありませんよ? ミスター・キョウゲツ……」
その場には複数の陰があって、みな黙して彼女のする話を聞いていた。
「その恩人の息子を、今度は苦しめるというのかい?」
「そもそもそのキョウゲツにとってかけがえのない存在、あ~と、名前なんだっけ? そうだ、アクタだ。日本語でゴミの意味らしいが、闇医者に手を回してその女を秘密裏に始末せしめたのはディオティマ、ほかならぬおまえ自身だろうが? どのツラを下げて会うつもりだ? その、ウツロとやらに」
月桂樹をかぶった二人の青年が語りかける。
「ふふっ、アガトンにグラウコン、確かにそのとおりです。ミスター・キョウゲツの怒りを増幅し、魔王桜にとってよりよい食事となるよう、わたしが実験の前にしこんでおいたのです。しかし、保険をかけておいてよかった。その子どもたちを生かしておいて。実際にその息子、ウツロは劇的に成長したのです。人間としても、アルトラ使いとしても。まさに、わたしの実験に必要な材料として、これほどにないほどふさわしいくらいにね」
「日本へ行く理由のひとつはそれかい? ウツロを捕らえ、いつものように好き勝手こねくり回したいのだろう?」
「鬼畜であるな、ディオティマ。だが、それでこそおまえであるとも言えよう」
アガトンとグラウコンは順番に答えた。
「ふふっ、しかり。日本へ行く目的はいくつかありますが、メインはやはり、ウツロでしょう。父であるミスター・キョウゲツ同様、わたしに協力していただきますよ? ふふっ、ふはははははっ!」
おたけびのような魔女の笑い声が、しばらく研究室内にこだました。
「バニーハート、わたしといっしょにいらっしゃい。あなたの力が必要となります」
正面ななめ方向に座っている少年に声がかけられた。
青白い顔色をしていて、肩を出した服装、ラッパのように開いた袖をだらしなく揺らしている。
半ズボンから伸びた脚は外側へ曲がっていて、その手にはグロテスクなウサギのぬいぐるみがかかえられている。
頭からはやはりウサギの耳が生えており、レモンのような形の目も同じように、ウサギのように爛々と赤く光っている。
「ぎひひ……また、ディオティマさまの、オモチャが、増える……」
老人のようにしゃがれた低い声で、バニーハートと呼ばれる少年は答えた。
「そうですね、バニーハート。あわよくばウツロを、いや、そのお友達もついでに、わたしのコレクションに加わってもらいましょう?」
「モルモット、改造、洗脳、オモチャ、オモチャ、ぎひっ、ぎひひひ……」
バニーハートはかくかくと体を揺らしながら笑っている。
「もちろんあなたにも、おこぼれはあげますよ? ふふっ、ふふふ」
「ぼくの、エロトマニアは、無敵の、アルトラ……」
「そのとおりです、バニーハート。この世の果てまで標的を追いかけるその能力、ウツロ一味を生け捕りにするため、必ずや役に立つことでしょう」
「ぎひっ、ぎひひ……」
「楽しみですね、ウツロ・ボーイ? ふふっ、ふはははははっ!」
二人の姿はスッと、まるで最初から存在しなかったかのように、その場からすっかりと消え失せた――
実験機器に囲まれた部屋の中で、ひとりの女性が研究用の器具をいじりながらしゃべっている。
アメリカ・ハーフォード大学名誉教授、テオドラキア・スタッカー博士。
精神医学・脳神経科学の世界的権威であり、化学・物理学・生物学など、およそ学問に関しては全方位的に造詣が深い。
実母であるグレコマンドラ・ジョーンズ教授は、実験中に不慮の事故で他界した――と、世間的には認知されている。
しかしその正体は古代ギリシャの巫女・ディオティマであり、魔王桜の召喚に成功した、世界最古のアルトラ使いである。
その能力「ファントム・デバイス」によって、子孫の肉体を乗っ取りながら、何千年もの間、魔王桜の研究にいそしんでいる。
いまの体は、ウツロの父・似嵐鏡月を利用した実験の際、グレコマンドラの肉体が破損したため、急きょ娘であるテオドラキアに乗り移ったものだ。
「ミスター・キョウゲツ……あなたのおかげで、わがファントム・デバイスは進化を遂げ、召喚能力へとアップグレードすることができた……名づけて、ファントム・デバイス・ダーティー・ミックス……禍を転じて福と為す、日本のことわざだそうですね……これよってわたしは、きわめて短い時間とはいえ、魔王桜を部分的に呼び出すことが可能となった……その成果として、より効率的にアルトラ使いを生み出すことがかない、いまではすっかり、大きな軍団となりました……ふふっ、感謝の気持ちしかありませんよ? ミスター・キョウゲツ……」
その場には複数の陰があって、みな黙して彼女のする話を聞いていた。
「その恩人の息子を、今度は苦しめるというのかい?」
「そもそもそのキョウゲツにとってかけがえのない存在、あ~と、名前なんだっけ? そうだ、アクタだ。日本語でゴミの意味らしいが、闇医者に手を回してその女を秘密裏に始末せしめたのはディオティマ、ほかならぬおまえ自身だろうが? どのツラを下げて会うつもりだ? その、ウツロとやらに」
月桂樹をかぶった二人の青年が語りかける。
「ふふっ、アガトンにグラウコン、確かにそのとおりです。ミスター・キョウゲツの怒りを増幅し、魔王桜にとってよりよい食事となるよう、わたしが実験の前にしこんでおいたのです。しかし、保険をかけておいてよかった。その子どもたちを生かしておいて。実際にその息子、ウツロは劇的に成長したのです。人間としても、アルトラ使いとしても。まさに、わたしの実験に必要な材料として、これほどにないほどふさわしいくらいにね」
「日本へ行く理由のひとつはそれかい? ウツロを捕らえ、いつものように好き勝手こねくり回したいのだろう?」
「鬼畜であるな、ディオティマ。だが、それでこそおまえであるとも言えよう」
アガトンとグラウコンは順番に答えた。
「ふふっ、しかり。日本へ行く目的はいくつかありますが、メインはやはり、ウツロでしょう。父であるミスター・キョウゲツ同様、わたしに協力していただきますよ? ふふっ、ふはははははっ!」
おたけびのような魔女の笑い声が、しばらく研究室内にこだました。
「バニーハート、わたしといっしょにいらっしゃい。あなたの力が必要となります」
正面ななめ方向に座っている少年に声がかけられた。
青白い顔色をしていて、肩を出した服装、ラッパのように開いた袖をだらしなく揺らしている。
半ズボンから伸びた脚は外側へ曲がっていて、その手にはグロテスクなウサギのぬいぐるみがかかえられている。
頭からはやはりウサギの耳が生えており、レモンのような形の目も同じように、ウサギのように爛々と赤く光っている。
「ぎひひ……また、ディオティマさまの、オモチャが、増える……」
老人のようにしゃがれた低い声で、バニーハートと呼ばれる少年は答えた。
「そうですね、バニーハート。あわよくばウツロを、いや、そのお友達もついでに、わたしのコレクションに加わってもらいましょう?」
「モルモット、改造、洗脳、オモチャ、オモチャ、ぎひっ、ぎひひひ……」
バニーハートはかくかくと体を揺らしながら笑っている。
「もちろんあなたにも、おこぼれはあげますよ? ふふっ、ふふふ」
「ぼくの、エロトマニアは、無敵の、アルトラ……」
「そのとおりです、バニーハート。この世の果てまで標的を追いかけるその能力、ウツロ一味を生け捕りにするため、必ずや役に立つことでしょう」
「ぎひっ、ぎひひ……」
「楽しみですね、ウツロ・ボーイ? ふふっ、ふはははははっ!」
二人の姿はスッと、まるで最初から存在しなかったかのように、その場からすっかりと消え失せた――
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる