桜の朽木に虫の這うこと

朽木桜斎

文字の大きさ
上 下
148 / 199
第2作 アオハル・イン・チェインズ 桜の朽木に虫の這うこと(二)

第66話 それでも、人として

しおりを挟む
「わかりましたよ……その、アルトラ……能力の、正体が……!」

 星川皐月ほしかわ さつきの「手」で身を引き裂かれたウツロ。

 しかし彼はひかず、流れる血もしとどに言い放った。

「その、人差し指……指し示す方向の延長線上……アルトラの効力はおそらく、本体に近いほど、優先される……!」

「だから間に入ったっていうの? まあ、当たってるけど、なんで? あなたにここまでしたそのトカゲ女を、ウツロ、あなたは守るっていうこと?」

 星川皐月は目を細くしてたずねた。

「万城目日和は、改心しておりますれば……平に、平に……」

 ウツロは激痛に耐えながら、そう懇願した。

「だ~か~ら~、そういうことを言ってんじゃあ、ねえんだよおおおおおっ!」

「ごふっ――!」

 柳葉刀のサイドで、星川皐月はウツロを殴りつけた。

「そこのトカゲがっ、わたしの大事な雅ちゃんを傷つけやがった! この代償は、命をもってつぐなってもらうしかねえ! そう言ってるんだよおおおおおっ!」

 矢継ぎ早にボコられる。

 毒虫の体から大量に血がほとばしった。

 それでもウツロはしりぞかない。

 必死に歯を食いしばり、耐えた。

「このような、暴虐……許される、ことでは、ありません……」

 倒れないようにふんばり、眼前の女医をねめ上げる。

「暴虐? 暴虐だあ? 何抜かしてんだ? 薄汚い毒虫の分際で、あ?」

 女医は逆に、みずからの甥をにらみ返した。

「鏡月を倒してってえいうから、どんなタマかと思えば、はっ! やっぱりあのバカと同じ、貧弱なガキじゃあねえか。くだらねえこと、ぶつくさ唱えてよお。やれ人間がどうたらだとか、クソにたかるハエ以下の存在なんだよ、てめえは!」

 ぶん殴りながら罵詈雑言を浴びせかける。

 ウツロは覚悟した。

 ここで、死ぬことを――

「それでも、それでも……人として、人として、平に、平にっ……!」

 グシャグシャになった顔で、なおもにらみつける。

 星川皐月はその顔をなめるようにのぞきこみ、ニヤニヤとほほえんだ。

「けえっ、まだぬかしてんのか、この毒虫が。お似合いだな、あ? 親子ともどもよ? 毒虫の子は毒虫ってか? 鏡月のやつときたら、おとなしくわたしの人形であればよかったものを。あんなゴミ女と駆け落ちなんかしやがって。いいか、ウツロ? てめえの母親は、毒虫野郎にほれたクソ女よ。挙句にてめえみてえなゴミを生み落としやがった。ハエがウジを生み出すようにな。まさしくアクタ、ゴミだよなあ。あ、兄貴の名前もアクタなんだっけ? ゴミなんだよ、てめえの兄貴もなあっ!」

「――っ!」

 父・鏡月だけではあきたらず、まぶたの母であるアクタ、そしてついには、双子の実兄・アクタまでをも侮辱される。

 屈辱にはらわたが煮えくり返り、頭がどうにかなってしまいそうだった。

 だが――

「平に、平にっ……!」

 耐えた。

 ウツロは耐えた。

 星川皐月はいまいましく思った。

 何よりも、そのくもりのない、晴れわたったまなざしに――

「覚悟はできてる、ってか。いいぜ? ウツロおおおおおっ!」

「――っ!」

 柳葉刀が高らかに振りかざされ、剣尖が鋭く光った。

「あの世で家族と仲よくやりな、毒虫のガキがあああああっ――!」

 ウツロはグッと目を閉じる。

 父さん、母さん、兄さん……

 ウツロはいま、そちらへまいります……

「イージスっ――!」

「……は?」

 重く鈍い一撃が、ウツロの直前で、ゴムを叩いたように弾かれた――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

処理中です...