125 / 199
第2作 アオハル・イン・チェインズ 桜の朽木に虫の這うこと(二)
第43話 帝王への意志
しおりを挟む
翌日午前8時、黒帝高校保健室
ウツロ、真田龍子、星川雅、南柾樹の四人は、朝から保健室に集合して、これからの自分たちの行動について確認をしていた。
「ウツロは龍子と、わたしと柾樹がペアになる。大切なのは絶対にひとりにはならないということ。いいね? ま、組み合わせはともかく」
「なんだよ、俺といっしょじゃやなのかよ?」
「配慮でしょ? 察してよね?」
「わかってるって。冗談だよ」
「ふん、腹立つ」
これからの動きを確認する星川雅に、南柾樹はどこか不服そうだ。
「みんなの端末には、わたしが作ったGPSアプリをインストールしておいたから。もし何かあったら、位置はそれで確認できる。言うまでもないけれど、くれぐれも軽率な行動は慎んでよね?」
「何が言いたいんだ、雅?」
「はん、しらじらしい。すきあらば龍子といちゃつこうとするくせに」
「なんだと!?」
「はいはい、わかったから。落ち着けよ、二人とも」
いきり立ったウツロを、南柾樹が制した。
ウツロと真田龍子は連れ立って保健室を退出した。
「おまえ、ウツロのことになるとムキになるよな? そういうことなんじゃねえの?」
だしぬけにつぶやいた南柾樹に、星川雅はあきれた顔をした。
「はあ? どういう意味? わけわかんないんですけど?」
「龍子なんて八つ裂きにしてよ、自分のものにしちまったらどうだ?」
「うわあ、こわ~。なになに、あんたって、そういうやつだったの、柾樹?」
「いや、気を使ってるんだぜ、雅?」
南柾樹は口角を緩めている。
「あんたさ、柾樹、閣下のご子息だったんだね。お母さまから聞いて驚いたよ。ぜんぶ筋書きどおりだったみたいじゃない」
星川雅は遠慮気味に答えた。
「どうする、雅? 俺につくか? この国を影で支配する組織、俺は龍影会の総帥の息子だ。この意味、お前なら言わなくてもわかるよな?」
「ふん、あんたごときがあのお方の後釜にでもなれると思ってるの? 身のほど知らずもいいところだよ」
「俺は本気だぜ、って言ったら?」
「……」
南柾樹は立ち上がり、星川雅に迫った。
「もしかしたら、お前は龍影会の総帥夫人になるのかもな。いや、俺なら龍影会を、世界を支配する組織に作り変えてやるけどな」
これまでに見たことのないその表情に、彼女は戦慄した。
「本気で言っているとしても、このわたしがあんたなんかにベットするとでも?」
「さあな。ただ、いまにわかるさ。ベットするのは、そのときになってからだっていい」
「バカなんじゃないの? 勝てるとでも思ってるの? あのお方に――」
南柾樹は、星川雅の唇を奪った。
「……」
彼女は気づいた。
これまでの「味」ではないと。
支配者になろうとする確かな決意。
それが怖気の走るほど伝わってくる。
溶ける。
体も、心も。
まるで別人だ。
本当に柾樹なのか?
いったい何があったのか?
父親の存在を意識し、あろうことかそれが、自分の人生を踏みにじったはずの人物であるというのに。
いくら闇の組織のボスとはいえ、それを知ったというだけで、人間とはこんなにも変化するものなのか……
彼女は口の中への蹂躙を受け入れ、みずからの存在が掌握されていく感覚に酔いしれた。
いままで自分が鎖をはめ込んでいたと思ったのに。
立場が逆になってしまった。
屈辱だ、なんという屈辱だ。
でも、その屈辱が、快楽へ、悦楽へと変換される。
ああ、柾樹……
わたしをめちゃくちゃにして……
なりたい、あなたの人形に……
「……っ」
彼はそっと、口を放した。
「柾樹、どうして……」
彼は笑顔だ。
「あせらず、ゆっくり、じらして、じらして、飼いならす。そうだったな、雅?」
「あ……」
自分はいま、どんな顔をしているのだろう?
おそろしく間抜けな顔に違いない。
見られているのに、この男に。
でも、かまわない。
柾樹、もっと、もっと……
おそらく生まれてはじめて、星川雅の心は解放された。
「いい女、いや、いいやつだよな、雅は」
「う……」
南柾樹は背中を向けた。
「このことは内緒だぜ? 特にウツロにはな。あと、勘違いするなよ。俺はねじ曲がったんじゃねえ、ウツロと同じく、アップグレードしたんだぜ?」
「……」
背中が遠くなっていく。
まさかの「放置プレイ」に、星川雅は一気に興ざめした。
だが、ひとつの確信をいだいていた。
それは南柾樹から感じ取った「意志」
帝王になろうとしている、確かな意志だった。
「ふふっ、ふふふ……」
彼女は笑った。
おそるべき「チャンス」
それがいともたやすく、自分に転がり込んできた。
「せいぜい利用させてもらうよ、ま~さき?」
お互いさま。
それが現実だった。
ただひとつ確実に言えるのは、このとき、「次の帝王」はすでに誕生していたということだった――
ウツロ、真田龍子、星川雅、南柾樹の四人は、朝から保健室に集合して、これからの自分たちの行動について確認をしていた。
「ウツロは龍子と、わたしと柾樹がペアになる。大切なのは絶対にひとりにはならないということ。いいね? ま、組み合わせはともかく」
「なんだよ、俺といっしょじゃやなのかよ?」
「配慮でしょ? 察してよね?」
「わかってるって。冗談だよ」
「ふん、腹立つ」
これからの動きを確認する星川雅に、南柾樹はどこか不服そうだ。
「みんなの端末には、わたしが作ったGPSアプリをインストールしておいたから。もし何かあったら、位置はそれで確認できる。言うまでもないけれど、くれぐれも軽率な行動は慎んでよね?」
「何が言いたいんだ、雅?」
「はん、しらじらしい。すきあらば龍子といちゃつこうとするくせに」
「なんだと!?」
「はいはい、わかったから。落ち着けよ、二人とも」
いきり立ったウツロを、南柾樹が制した。
ウツロと真田龍子は連れ立って保健室を退出した。
「おまえ、ウツロのことになるとムキになるよな? そういうことなんじゃねえの?」
だしぬけにつぶやいた南柾樹に、星川雅はあきれた顔をした。
「はあ? どういう意味? わけわかんないんですけど?」
「龍子なんて八つ裂きにしてよ、自分のものにしちまったらどうだ?」
「うわあ、こわ~。なになに、あんたって、そういうやつだったの、柾樹?」
「いや、気を使ってるんだぜ、雅?」
南柾樹は口角を緩めている。
「あんたさ、柾樹、閣下のご子息だったんだね。お母さまから聞いて驚いたよ。ぜんぶ筋書きどおりだったみたいじゃない」
星川雅は遠慮気味に答えた。
「どうする、雅? 俺につくか? この国を影で支配する組織、俺は龍影会の総帥の息子だ。この意味、お前なら言わなくてもわかるよな?」
「ふん、あんたごときがあのお方の後釜にでもなれると思ってるの? 身のほど知らずもいいところだよ」
「俺は本気だぜ、って言ったら?」
「……」
南柾樹は立ち上がり、星川雅に迫った。
「もしかしたら、お前は龍影会の総帥夫人になるのかもな。いや、俺なら龍影会を、世界を支配する組織に作り変えてやるけどな」
これまでに見たことのないその表情に、彼女は戦慄した。
「本気で言っているとしても、このわたしがあんたなんかにベットするとでも?」
「さあな。ただ、いまにわかるさ。ベットするのは、そのときになってからだっていい」
「バカなんじゃないの? 勝てるとでも思ってるの? あのお方に――」
南柾樹は、星川雅の唇を奪った。
「……」
彼女は気づいた。
これまでの「味」ではないと。
支配者になろうとする確かな決意。
それが怖気の走るほど伝わってくる。
溶ける。
体も、心も。
まるで別人だ。
本当に柾樹なのか?
いったい何があったのか?
父親の存在を意識し、あろうことかそれが、自分の人生を踏みにじったはずの人物であるというのに。
いくら闇の組織のボスとはいえ、それを知ったというだけで、人間とはこんなにも変化するものなのか……
彼女は口の中への蹂躙を受け入れ、みずからの存在が掌握されていく感覚に酔いしれた。
いままで自分が鎖をはめ込んでいたと思ったのに。
立場が逆になってしまった。
屈辱だ、なんという屈辱だ。
でも、その屈辱が、快楽へ、悦楽へと変換される。
ああ、柾樹……
わたしをめちゃくちゃにして……
なりたい、あなたの人形に……
「……っ」
彼はそっと、口を放した。
「柾樹、どうして……」
彼は笑顔だ。
「あせらず、ゆっくり、じらして、じらして、飼いならす。そうだったな、雅?」
「あ……」
自分はいま、どんな顔をしているのだろう?
おそろしく間抜けな顔に違いない。
見られているのに、この男に。
でも、かまわない。
柾樹、もっと、もっと……
おそらく生まれてはじめて、星川雅の心は解放された。
「いい女、いや、いいやつだよな、雅は」
「う……」
南柾樹は背中を向けた。
「このことは内緒だぜ? 特にウツロにはな。あと、勘違いするなよ。俺はねじ曲がったんじゃねえ、ウツロと同じく、アップグレードしたんだぜ?」
「……」
背中が遠くなっていく。
まさかの「放置プレイ」に、星川雅は一気に興ざめした。
だが、ひとつの確信をいだいていた。
それは南柾樹から感じ取った「意志」
帝王になろうとしている、確かな意志だった。
「ふふっ、ふふふ……」
彼女は笑った。
おそるべき「チャンス」
それがいともたやすく、自分に転がり込んできた。
「せいぜい利用させてもらうよ、ま~さき?」
お互いさま。
それが現実だった。
ただひとつ確実に言えるのは、このとき、「次の帝王」はすでに誕生していたということだった――
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる