桜の朽木に虫の這うこと

朽木桜斎

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第2作 アオハル・イン・チェインズ 桜の朽木に虫の這うこと(二)

第15話 五月雨影月

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「ば、バカな……これは、この技・・・は……あのお方・・・・の……」

 星川雅ほしかわ みやび分身ぶんしんが、体育倉庫中に増殖ぞうしょくした。

五月雨影月さみだれえいげつ……!」

 分身は一様いちようにほほえんで、そう言い放った。

 大ムカデと化している刀子朱利かたなご しゅりの周りを、それらは目まぐるしくい、う。

 彼女はしとどに脂汗あぶらあせらした。

「なっ、なんでこの技をあなたが、雅っ……!」

「うふ、一度だけ見たことがあるんだよ。あのお方・・・・が使うところをね。それを『コピー』したってわけ。まあしょせん、『劣化れっかコピー』、だけれどね?」

「てめえ、雅……こんなことして、許されるとでも思ってんのか……!?」

「さあ? ここで朱利、あなたの口をふうじてしまえばいいだけのことじゃない?」

閣下かっか奥義おうぎをパクるだなんて、万死ばんしあたいする! この場でわたしが、処刑しょけいしてやるよ!」

「やってごらん。できるのなら、ね……!」

 分身が一斉いっせいおそいかかる。

 刀子朱利はムカデの足でそれらを次々とはらう。

 しかしすべては幻影げんえい――

 打ったそばからけむりのように消え失せるだけだ。

 彼女は苛立いらだちと同時にあせりを禁じえなかった。

「く、くそっ、なめやがって……『本体ほんたい』はどれだ……!?」

 刀子朱利は半分われをわすれ、広い体育倉庫の空間を縦横無尽じゅうおうむじんあばれまくった。

「そこかっ……!」

 一瞬感じた生気せいきねらいすまし、彼女はそこへ突進した。

「当ったりー、だけどね……」

「ぐっ……!?」

 『本体』の目前もくぜんで、ムカデの巨体きょたいはピタリと止まった。

「なっ……」

 自身の背後はいごを見ると、その長い体が『固結かたむすび』になっているではないか。

 ニヤリ――

 星川雅は笑った。

「ふふっ、ははっ……何度も言っちゃって申し訳ないけれど朱利、あんたって本当に頭悪いよね?」

 すべては彼女の策略さくりゃくの内だった。

 分身をたくみに利用してかくらんし、みずからがみずからの動きを封じるよう、誘導ゆうどうしたのだ。

「ぐっ、くそっ……!」

 大ムカデは必死にもがくが、勢いよくめつけてしまったため、『むす』をほどくことがかなわない。

「くそっ、くそ……てめえ雅いいいいい、ぶっ殺してやるうううううっ!」

 刀子朱利の顔はいかりあまってになっている。

「だからきたって」

 星川雅はとどめを差すべく、二竪にじゅをかまえた。

「さよなら、朱利」

 真田龍子さなだ りょうこはハッとなった。

 確かに自分は彼女からひどい仕打ちを受けた。

 それに雅は、知られてはならない技を使ったらしい。

 だけど、だけど……

 命を奪うことだけは……

「やめて、雅……!」

 彼女はさけんだが、刀子朱利の脳天のうてんろされる大刀だいとうは加速を増す。

 思わず両手で顔をおおったとき――

 体育倉庫のバカでかいとびらが、ガラガラという大きな音を立てて、勢いよくはなたれた。

「龍子っ……!」

(『第16話 いたけ』へ続く)
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