桜の朽木に虫の這うこと

朽木桜斎

文字の大きさ
上 下
95 / 139
第2作 アオハル・イン・チェインズ 桜の朽木に虫の這うこと(二)

第13話 万城目日和からの手紙

しおりを挟む
 星川雅ほしかわ みやび刀子朱利かたなご しゅりが体育倉庫で激闘をひろげているころ、思索部しさくぶの部室をあとにしたウツロは、待っているはずの真田龍子さなだ りょうこと落ち合うため、昇降口しょうこうぐちへと向かっていた。

「龍子……」

 姿は、ない。

 それどころか、ほかの人影すら。

 日が落ちてきている中、玄関には遠くから、運動部とおぼしき部員たちの声が、わずかに拾える程度だ。

「まだ、来てないのかな」

 とりあえず外履そとばきにきかえようと、ウツロは自分の革靴かわぐつが入っている靴棚くつだなへと手を伸ばした。

「……!?」

 強烈な殺意、靴棚のとびらの奥からだ。

 何かが、入れられている……

 ウツロはおそるおそる、その扉を開けた。

「これは……」

 白い封筒ふうとうが一つ。

「手紙、か……?」

 『ファン・レター』をもらったことは過去にもあったが、その封筒からただよう異様な殺気さっきは、そんなものではないであろうことを示していた。

 ウツロは生唾なまつばをのみつつ、その封筒を開いた。

 ふうはされていなかった。

「これは……」

 そこには便箋びんせんが一枚、どこでも手に入るような代物しろものだ。

 古風こふうにも新聞や雑誌を切り抜いた文字で、次のように記されていた。

   ウツロ、お前を見ているぞ
   いますぐ体育倉庫に来い
   真田龍子は預かっている

   万城目日和

「まきめ、ひより……」

 万城目日和まきめ ひより――

 かつてウツロの父・似嵐鏡月にがらし きょうげつが殺害した悪徳政治家の娘。

 父が死の寸前、明かしていた――

 万城目日和は生きている。

 ウツロやアクタと同じように、ひそかに育て、その技を教えていた、と。

「万城目日和、ついに動いたか……そして……」

 真田龍子は預かっている――

 その部分がウツロを極限まで焦燥しょうそうさせた。

「龍子……くそっ、急がなければ……!」

 ウツロは手紙を握りしめ、急いで指定された場所、体育倉庫へ向かおうと、革靴をひったくった。

「いつっ……!?」

 するどい痛みが走り、彼は手を引っこめた。

 指から血のしずくがぽたぽたとれる。

「これは……」

 革靴の中に何か入っている。

 泥のようににごった色の『何か』が、そこにのぞいているのが見える。

「なんだ、これは……」

 拳大こぶしだいもあろうかという鋭利えいりな『つめ』――

 形からおそらく爬虫類はちゅうるいのそれであることが推測されるが、いくらなんでもその大きさは異常だった。

「トカゲ……?」

 正体はまったくわからない。

 だが、何かとてつもなくおそろしいことが起こっているのではないか?

 ウツロはますますあせった。

 想像はしたくないが、もしかしたら……

 万城目日和もアルトラ使い……

 この『爪』は、それを示唆しさするものではないのか……?

 ウツロは『爪』をブレザーのポケットにそっと忍ばせ、革靴に履きかえると、体育倉庫へ向け、ダッシュした――

(『第14話 デーモン・ペダル』へ続く)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

処理中です...