14 / 236
第1作 桜の朽木に虫の這うこと
第13話 タイガー&ドラゴン
しおりを挟む
気絶したウツロは、再び悪夢にうなされていた。
似嵐鏡月とアクタが、遠くのほうに並んで、こちらを見つめている。
彼らはどこか悲しそうな視線を送っていた。
「お師匠様、アクタっ!」
ウツロが呼びかけると、二人はくるっと背を向け、去りはじめる。
「なん、で……」
ゆっくりとした動きのはずなのに、彼らはどんどん遠ざかっていく。
「お師匠様、アクタっ! 行かないで!」
二人の姿はとうとう、豆粒のように小さくなってしまった。
「どうして……お師匠様……アクタ……」
ウツロは彼らを必死に追いかけているつもりなのに、その距離は限りなく広がっていく。
「俺を……ひとりに、しないで……」
二つの影はついに消えてしまった。
「なんで……なんで……」
*
「お」
「虎太郎?」
「姉さん、目を覚まされました」
落涙とともにウツロが目を覚ましたとき、かたわらには真田虎太郎がよりそっていて、すぐさま姉・龍子にその事実を報告した。
もっとも、すぐ報告できるよう、ずっと彼によりそっていたのだけれど。
「ん……」
「大丈夫? ウツロくん」
「うん……」
「さっきはごめんね。勢いとはいえ、柾樹や雅がひどいことをしてしまって……」
「いや、謝るのは俺のほうだよ。ごめん、あんなふうに暴れてしまって」
「あ、いえ……」
ウツロの気づかいに、真田龍子は彼のやさしさを感じた。
その上でなんとか彼の気を紛らわそうと、場をなごませることを考えた。
「改めて紹介するね。わたしは真田龍子。『りょう』は『龍』、『ドラゴン』の『龍』だね。変わった書き方でしょ? で、弟の虎太郎だよ。『こ』は『虎』、『タイガー』の『虎』だね。龍と虎の姉弟なんだ。ちょっと面白くない?」
彼女はウツロを元気づけるため、少しおどけた調子で自己紹介をしてみせた。
「『タイガー』の虎太郎です。ウツロさん、よろしくお願いします」
真田虎太郎のほうも、姉の意思をくみ取り、流れに乗ってみせる。
「うん、なんだか素敵だね……」
ウツロは彼女たちの気づかいを理解してはいたものの、どこかぎこちない返しをしてしまい、不器用な自分をもどかしく思った。
「ごめん、二人とも気を使ってくれているのに……」
「いや、いいんだよ。こっちこそ、ちょっとおせっかいだったね……」
真田龍子はまた言葉に詰まってしまった。
真田虎太郎も同様に萎縮してしまっている。
ウツロは気まずくなり、何か話を切りだして、雰囲気を変えようと思った。
「さっきの男……南柾樹だっけ? なんだか、俺と同じ感じがしたんだ……」
真田龍子は息をのんだ。
彼はまた、何かとんでもないことを言おうとしているのではないか?
「俺が何者なのか、伝えておきたいんだけど……その、話してもいいかな?」
やはりと彼女は思った。
そんなことをしたら、この子はさらに苦しむのではないのか?
せめてこの場はやりすごさなければ……
「ウツロくん、とても傷ついていると思うし……あ、無理して話さなくたっていいんだよ……?」
「いや、さっきあんなことをしてしまったし……誤解があったら、いろいろ困ると思うんだ……」
「あ、うん……ほんとに、いいの……?」
「聴いてほしいんだ……俺はいったい何者で、どこから来たのかを……」
真田姉弟はお互いに視線を合わせて確認し、黙ったままうなずいた。
(『第14話 慟哭』へ続く)
似嵐鏡月とアクタが、遠くのほうに並んで、こちらを見つめている。
彼らはどこか悲しそうな視線を送っていた。
「お師匠様、アクタっ!」
ウツロが呼びかけると、二人はくるっと背を向け、去りはじめる。
「なん、で……」
ゆっくりとした動きのはずなのに、彼らはどんどん遠ざかっていく。
「お師匠様、アクタっ! 行かないで!」
二人の姿はとうとう、豆粒のように小さくなってしまった。
「どうして……お師匠様……アクタ……」
ウツロは彼らを必死に追いかけているつもりなのに、その距離は限りなく広がっていく。
「俺を……ひとりに、しないで……」
二つの影はついに消えてしまった。
「なんで……なんで……」
*
「お」
「虎太郎?」
「姉さん、目を覚まされました」
落涙とともにウツロが目を覚ましたとき、かたわらには真田虎太郎がよりそっていて、すぐさま姉・龍子にその事実を報告した。
もっとも、すぐ報告できるよう、ずっと彼によりそっていたのだけれど。
「ん……」
「大丈夫? ウツロくん」
「うん……」
「さっきはごめんね。勢いとはいえ、柾樹や雅がひどいことをしてしまって……」
「いや、謝るのは俺のほうだよ。ごめん、あんなふうに暴れてしまって」
「あ、いえ……」
ウツロの気づかいに、真田龍子は彼のやさしさを感じた。
その上でなんとか彼の気を紛らわそうと、場をなごませることを考えた。
「改めて紹介するね。わたしは真田龍子。『りょう』は『龍』、『ドラゴン』の『龍』だね。変わった書き方でしょ? で、弟の虎太郎だよ。『こ』は『虎』、『タイガー』の『虎』だね。龍と虎の姉弟なんだ。ちょっと面白くない?」
彼女はウツロを元気づけるため、少しおどけた調子で自己紹介をしてみせた。
「『タイガー』の虎太郎です。ウツロさん、よろしくお願いします」
真田虎太郎のほうも、姉の意思をくみ取り、流れに乗ってみせる。
「うん、なんだか素敵だね……」
ウツロは彼女たちの気づかいを理解してはいたものの、どこかぎこちない返しをしてしまい、不器用な自分をもどかしく思った。
「ごめん、二人とも気を使ってくれているのに……」
「いや、いいんだよ。こっちこそ、ちょっとおせっかいだったね……」
真田龍子はまた言葉に詰まってしまった。
真田虎太郎も同様に萎縮してしまっている。
ウツロは気まずくなり、何か話を切りだして、雰囲気を変えようと思った。
「さっきの男……南柾樹だっけ? なんだか、俺と同じ感じがしたんだ……」
真田龍子は息をのんだ。
彼はまた、何かとんでもないことを言おうとしているのではないか?
「俺が何者なのか、伝えておきたいんだけど……その、話してもいいかな?」
やはりと彼女は思った。
そんなことをしたら、この子はさらに苦しむのではないのか?
せめてこの場はやりすごさなければ……
「ウツロくん、とても傷ついていると思うし……あ、無理して話さなくたっていいんだよ……?」
「いや、さっきあんなことをしてしまったし……誤解があったら、いろいろ困ると思うんだ……」
「あ、うん……ほんとに、いいの……?」
「聴いてほしいんだ……俺はいったい何者で、どこから来たのかを……」
真田姉弟はお互いに視線を合わせて確認し、黙ったままうなずいた。
(『第14話 慟哭』へ続く)
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる