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第二章 俺の幼馴染は御曹司でポンコツで

九話

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「おうおう兎山、新人研修ご苦労さま」


 麗音と共にオフィスに戻ると、同僚の黒須(くろす)が話しかけてきた。

 俺のデスクには、先程までは無かった書類が山積みになっている。


「お疲れのところ悪いんだけどよお~、俺今からシラサギホールディングスとの打ち合わせで出なきゃいけなくてさあ~、しかも先方さん俺のこといたく気に入ってるからさあ~、もしかしたら直帰かも?って感じでさあ~、それ、お前でもできる見積もり、今日中に頼んだぜ」


 そう言って黒須は俺の肩を叩いたあと、俺が何か言う間も与えずカバンを持って出ていった。


「……え、と」


 やばい。

 頭が混乱する。

 俺は今から麗音にパソコンの使い方を教えないといけなくて、でも見積もりが、どっちを優先したら。


「兎山先輩」

「っうえ!?」


 麗音に話しかけられて飛び上がる。


「俺、スマホでパソコンの使い方調べて自分で頑張るんで、見積もり?進めてください!」


 麗音は胸の前で両手をぐっと握る。

 やばい。

 情けなくて泣きそうだ。


「……悪い、それで頼む」

「はい!あ、でも、パソコンの電源?ってどこにあるんですか?」

「あ!そうか、それは教えるわ」


 俺はわたわたとしながらも麗音のパソコンを起動し、ログインし(単純なパスワードが机上に貼られていた)、ホーム画面までは用意した。


「ありがとうございます!じゃあお互い頑張りましょう!」

「……おう!」


 不思議だ。

 麗音のまっすぐな笑顔を見ると、なぜか心が温かくなる。

 こんな気持ち、雄介と出会った時以来かも……


(俺、女の子が好きだわ)


 ……いや、思い出しちゃいけない。

 今はこの見積書を作成しないと。

 麗音がスマホとPCを交互に眺めている隣で、俺も作業を始めた。



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