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第三章 魅了王子は嫌われたい イライアスとシュゼット

30.相性は悪くない(side イライアス)

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「それで? 自分の力の使い方は分かったか?」

リュシアンのそんな問いに頷き、化け物じみた……というよりも、化け物そのもののである本性を曝け出せば。

きっとリュシアンもボクを忌諱してボクから逃げていくと思ったのに。
そうなったら、怖がるシュゼットを無理やり攫って。
世界でたった一人彼女だけは逃げられないよう、ボクが囲う檻の中に閉じ込めてしまうつもりだったのに……。

リュシアンは

「まさか力の使い方を僕に教えてもらえただけで、僕に勝てるようになったとは思っていないよな?!」

全く思いがけず酷く楽しそうにその顔をパッと輝かせると、ボクが完全に操っていたはずの騎士の剣をボクに向けさせ、逃げるどころか正面から思いっきり立ち向かってきた。




事故で死んだことになっている魔術師の叔父が実はまだ生きている事を知っているのは、この国でもごくわずかな人間に限られる。
おまけに叔父は風のように自由で気まぐれだ。

そんな人物を担ぎ出してくるなんて、一体誰が思うだろう?


あぁ、やっぱりリュシアンは凄いな。
そう思いながら、結局何も成せぬまま、変われぬまま、その場に膝を突こうとした時だった。

突然、誰かがボクの腕を痛い程にグイと引いて、ボクを無理やり引きずり起こした。


何事かと驚いて掴まれた左右を見れば。
ボクの腕を掴むのは宰相のクリストファーと騎士団長のブライアンだった。

「陛下と妃殿下が甘やかしてばかりなので心配していましたが。ちゃんと陛下の血に違わず腹黒く成長されたようで大変結構」
「計画を穴だらけにするのが貴方の特技でしょう? いつまでもふざけてばかりいないで。いい加減本気を見せてさしあげたらどうです」


足は地面についているものの、首根っこを掴んで摘まみ上げられた猫の様に、ブランと引き上げられたまま、しばらくそんな二人の言葉を聞いてポカンとしていたら。

『貴方のその衝動的な行動も計算に入れているハズなのに、どうして貴方ったらこうも思いがけない事をやってのけるのかしら???』

ふと、クラリッサの困ったような、呆れた様な、それでいて驚いたように楽し気な、そんな声を思い出した。


ずっと、父やリュシアンの様になれぬ事に、勝手に強い劣等感を抱いていたのだけれど……。

『負ける戦いはしない』をモットーに、綿密な計画を立てる事を得意とするリュシアンとボクとの相性は、やはり悪くないのかもしれない。


楽しくなって、思わず心からの笑みを零せば。

これまでの、よそ行きの王子様の仮面はもうすっかり剥がれ落ちてしまっていたのだろう。
ボクを正面から見たリュシアンとシュゼットが、そろって一瞬、悪寒にブルっと体を震わせたのが分かった。




さて、仕切り直しだ。

そう思い立ち上がり、ゆっくり上からリュシアンを睥睨して見せた時だった。
リュシアンが実にウンザリとした表情を見せた後で、口の中で何かを小さく呟いた。


『しまった!』

そう思った時には既に手遅れで……。
気づいた時、シュゼットはリュシアンの手の中に囚われてしまっていた。

『相性は悪くない』どころか。
リュシアンは三年間を共に過ごしたクラリッサ以上にボクの行動を読むのが上手いらしい。

この勝負に早々に負けてしまったのは、正直悔しいけれど……。
ボクの事をこんなにも理解しようとしてくれる人が、分かってくれる人が、こんなに近くにいてくれたことが、同時にどうしようもなく嬉しい。


リュシアンが、クラリッサに代わりボクが計画を穴だらけにするのを防いでくれるのなら。
だったら……。

これからはチェスターに代わり、僕自身が誰かを救えるよう強くなろう。
そうして、ボクはボクの本性と欠点を上手く利用して、皆の期待するのとは少し異なるかもしれないけれど、ボクと同じ様に少しずつどこか歪んでいる、この国に暮らす皆を守る王になるんだ。

そんなすがすがしい気持ちで、真っすぐシュゼットの目を見つめた時だった。

全く思いがけず、視界の端にシュゼットが密かに突きの構えを取るのが映った。
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