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第三章 魅了王子は嫌われたい イライアスとシュゼット

18.いらっしゃいました、ね(side シュゼット)

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「分かったらその手を離せ。シュゼット嬢、どうぞこちらへ」

まるで、

『かつての恨み、今ここで晴らしたり!!!』

とでもいったご様子で。

これまでのアダルトな落ち着いた雰囲気から一変、リュシアン様が僅かにその形の良い小鼻を膨らませながらドヤァ! と胸を張ってみせられました。

リュシアン様とされてはそれに続く、悔し気に鼻白むイライアス様のリアクションを心より期待されていたのでしょうが……

「あぁ、リュシアン。いたのか」

イライアス様のリアクションは、そんな実に軽~いものでした。


「いたのか……だと?」

イライアス様のそんなお言葉を聞かれた次の瞬間、リュシアン様のそのお美しいこめかみに、再びピキッ!と青筋が浮かんだのが見えます。

「……あぁ、いたさ、いたとも!!」

押し殺したような低く、底冷えのする声でそう呟かれたリュシアン様の握りしめた拳がわななくのが見えた瞬間。
周囲の貴族達が

『あぁ、この国も終わったな……』

と、色を完全に無くしたのが分かりました。


「イライアス……お前、もしかして。そもそも僕が何でこんな所にいるのか忘れたのか?! だったら何で僕が身重の妻を置いてまでわざわざこんなところまで来る嵌めになったのか改めて教えてやる! 貴様が! 僕を!! 名指しで呼びつけたからだ!!!」

リュシアン様の絶叫が夜の広場にこだまします。


「それが言うに事欠いて『いたのか』だと??! 大体今日だって、主賓が僕で、お前は僕を持て成すホストの側だろう。それなのに、何度も何度も接待をすっぽかしやがって!!!!!」

『イライアス様! もう遅いかもしれませんが、それでも! それでも、どうか。誠実に謝罪してください!!』

そんな私達の思い虚しく

「やだなぁ。我が隣国の王配殿下を迎えるのは建前上同列にある父だ。父ならちゃんと向こうの主賓席にいただろう?」

顔を真っ赤にされ激高されているリュシアン様を、イライアス様が楽し気に笑い飛ばされたすぐ後の事です。

「何が楽しくて、互いに興味も関心もない、破滅主義者のお前の父親と並んでオレが花火を見にゃならんのだ!!!!」

リュシアン様のそんな言葉を受け、イライアス様がピタッと笑うのを止められました。

『もしかしてイライアス様、国王陛下の事を悪く言われ酷く気分を害されたのでしょうか?!』

更に強まった緊張感に、周囲の人間がゴクッと唾を飲めば。


「え? リュシアン、まさかボクに放っておかれて寂しかった??」

イライアス様がそんな私達の想像の斜め上の事をおっしゃりながら、ヘラッとまた楽し気に笑われ

「僕は一刻も早く身重の妻の待つ自国に帰りたいんだ!!!!!!!」

リュシアン様が、ドン! と音を立てて大輪の花を咲かせた花火よりも更に大きな声で、夜空に向かい激高されたのでした。




「もう限界だ!!!! シュゼット嬢、これ以上此奴の相手をしていたらバカが移ります。行きましょう!」

そう言って、リュシアン様がイライアス様とは反対側の、私の手をとられた時でした。

「っ!!」

リュシアン様は決して乱暴に私の手を取られたわけではなかったのですが。
リュシアン様が触れたのは、さっきジェレミーにきつく握られ微かに痣になってしまっていたところで、私は痛みに思わず小さく呻き声を漏らしてしまいました。

その瞬間です。

「リュシアン! その手を離せ!!」

これまでのふわふわした雰囲気から一変。
イライアス様が初めて声を荒げられました。

『誤解です!!』

慌ててそう口を開こうとしたのですが?
私に向かい、リュシアン様が何故か黙っているようにと合図を出されました。


「お前に命令される筋合いはない」

そう短く答えて不敵に笑うリュシアン様に、イライアス様が半ば無意識になのでしょう、そのロイヤルブルーの瞳に魔力を込められたのが分かりました。

しかし……。


私同様魅了の効かないリュシアン様が、私の手を離される事はありませんでした。

「バカなヤツだとは思っていたが。お前は本当に馬鹿だな。ギフトの本当の使い方を何も分かっていない」

そう呆れた様におっしゃった後。

リュシアン様が、私達とイライアス様の間に立ちふさがるように、ご自身の護衛騎士を呼ばれました。
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