【完結】 悪役令嬢は『壁』になりたい

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第三章 魅了王子は嫌われたい イライアスとシュゼット

11.お茶会の思い出(side シュゼット)

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「いいこと? ちゃんとお行儀良くしているのよ」

伯母から、意地悪な従兄のジェレミーと共に何度もそう言い聞かされ。
どこかのお庭のお茶会に連れて行かれたのは、私が六歳になったばかりの頃でした。


母が亡くなって二年経つというのに。
未だ母の面影ばかりを恋しがって周囲に心開こうとせず、夢の中や空想の中で母の姿ばかりを追い求める私を、伯母なりに心配してくれたのでしょう。

「さぁ、そうやって夜の夢の中に住んでばかりいないで頑張って今日こそはお友達を作っていらっしゃい」

そう背を押されて多くの着飾ったかわいらしい女の子達の輪の中に押し込まれ……。
私は一人途方に暮れました。




「はじめまして、私はクラリッサ。貴方お名前は?」

長いこと誰ともしゃべらず一人ポツンと立ち尽くす私を見かねたのでしょう。
年上の女の子が私に向け優しく話しかけてくれました。

明るく微笑むその姿はまるで真昼に太陽に向かって真っすぐに咲く向日葵のようで。
私はそんな彼女を酷く眩しく感じました。

「わたしは…………」


彼女は長い事辛抱強く私の答えを待ってくれていましたが、

「ねぇクラリッサ、こっちに来て。綺麗なお菓子や絵本が沢山あるの! みんな貴女の事を待ってるわ」

やがてしびれを切らした他の子に強く手を引かれ、こちらを気にしつつもどこかに行ってしまいました。


せっかく話かけてもらえたのに。
私って、どうしてこうなんだろう。

そう思って落ち込んで。
多くの子供達が楽し気に集う場を離れ、お庭の隅でまた一人、自らの世界白昼夢に逃避しようとした時でした。


「つまらない?」

今度は一人の少し年上と思しき男の子がそう私に声をかけてくれました。
彼はキラキラと日差しの様に輝く金髪に晴れた空のような青い瞳をしていて、まるで暖かで明るいお日様の様です。

『どうせ彼も、わたしの答えを聞く前にどこかに行ってしまうに決まってる』

そう思ったのに……。
彼は気後れしてますます口が重くなる私を忍耐強く待った後、優しく笑って

「おいで。花冠を作ってあげる」

と、そんなことを言ってくれたのでした。






******


「ボクはね、この国が好きなんだ。皆少し歪んでるけど」

そう言って柔らかく微笑む彼の言葉に驚いて

「歪んでるのに?」

思わず躊躇う事も忘れ、そう聞き返せば

「そうだよ。歪みながら、それでも一生懸命生きてるこの国の人達が、ボクは好きなんだ」

そう言って、彼はくすぐったそうに笑いました。
その眩しい笑顔にどうしようもないくらい心を惹かれて

「じゃあ……じゃあ、『夜に住んでる』私の事も好きになってくれる??」

思わず泣きそうになりながらそう言えば、彼は一瞬不思議そうにその青い眼を丸くして首をかしげました。
しかしまたすぐ、屈託なく笑って

「あぁ、もちろん」

そう言ってみせてくれたのでした。




彼と共に過ごす時間はとても穏やかで暖かで。

「時間が止まればいいのに。そしたらずっと一緒に居られるのに……」

私が思わずそんなことを呟けば

「時は止めてあげられないけど……また会えるよ。キミが夜に住んでいるというなら、今度はボクが夜に会いに行く」

彼はそう言って、一番綺麗な薔薇の花を一輪そっと私の髪に挿してくれました。


薔薇を貰ったことではなく、ずっと孤独だった心を救ってもらったお礼に。
彼に会いに来てもらう対価に。
私に出来る事は何だろうかと、そんなことを思った時でした。

「イライアス様!!」

他の女の子達が彼に気づき走り寄って来ると、私の髪に挿した薔薇を見て

「何よ! 貴女なんてまだドレスも似合わない子どもの癖に!!」
「そうよ! まるで男の子がドレスを着ているみたい。せっかくの綺麗な薔薇が可哀そうだわ」

そんな意地悪を言いました。
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