上 下
11 / 57
第一章 悪役令嬢は『壁』になりたい

11.一番守りたいもの(side ウィル)

しおりを挟む
十三でリリーと共に学園に入り、更にそれから一年が経った頃のことだった。

ゼイムスから

「リリーと縁を切れ。そうでなければリリーをお前と同じ目に遭わせてやる」

そう言われた。


僕は四年前よりも背が伸びて力も強くなった。
リリーのおかげで魔術を習い、人を害する方法も、呪う方法も覚えた。

だからもうゼイムスと双子達になど負けはしないと思って正面切って歯向かったのだが……。

王太子であるゼイムスには強力な守護の魔術がかけられていて、僕のまだ未熟な魔力ではかすり傷一つ付けることが出来なかった。




背後から羽交い絞めにされ、魔術で吹っ飛ばしたお返しにとばかりに双子の一方からこれまで以上に強く鳩尾を膝で蹴り上げられ。
もう一方から眉間を強く殴られたところで、散々覚え込まされていた無力感に囚われた。

体からズルズルと力が抜けてしまい、そのまま深く項垂れる。

魔術を覚えた今、体の傷はすぐさま治せる。
しかし、心の傷は長い時間が経ってもそう簡単に癒えたりなどしない事をすぐさま思い出させられた。


「どうか彼女にだけは酷い事をしないで」

初めて自らゼイムスの足に縋り、そう懇願した。

情けない。
情けなさ過ぎて涙が出てしまいそうなくらい悔しい。

けれど、これがリリーを守る為に今の僕に出来る全てだった。

そんな僕を見下ろすゼイムスは酷く気を良くしたようで

「いいだろう。お前がオレに逆らわない限り、リリーの前では理想の王子様のフリを続けてやるよ」

そう言ってさも楽しくて仕方がないと言った様に、最後に一度強く僕の顔を蹴り上げた後で声を上げて嗤った。




「どうしたの? 顔が真っ青よ??」

その日の昼休み、リリーがそう言っていつもの様に僕の頬に触れ僕の目を覗き込んだ。

先程ゼイムス達に殴られた傷や痣は、リリーに心配かけないように魔法でとっくに治していたが、その陽だまりの様に温かな手が触れてくれた部分は痛みの記憶さえ消してしまうようだった。

リリーの綺麗なエメラルドの瞳と目が合えば、さっき感じた絶望感も、悔しさも全て忘れられるような気がする。

だからこそ余計に

『あぁ、僕はこれを失うのか』

そう思えば悲しみに胸が押しつぶされてしまいそうだった。






******



リリーを守る為、早く彼女を僕から遠ざけなければと思うのだけれど、どうすればいいのかが分からない。
心に嘘をついて酷い事を言えば、リリーはいつか見た悪夢のように、僕を置いてどこか遠く離れて行くのだろうか?

リリーを守る為、急がないといけない事は分かっている。
それでも彼女を遠ざける方法など全く思いつかないような振りをして、彼女と他愛もない話をしていた時だった。




「リリーはローザの事を誤解している。君にいったい僕たちの何が分かる!? 知ったような口を利かないでくれ!!」

心の中がぐちゃぐちゃなせいで、思わず強い口調でそんな事を言ってしまった。
声を荒げるつもりなんてこれっぽっちもなかったのに。

はっとしてリリーを見れば、彼女は悲し気に瞳を揺らしていた。

すぐにリリーを傷つける気はなかったのだと謝ってしまいたかった。

しかし、教室の窓からじっとこちらを見ていたゼイムスと思いがけず目が合ってしまったから。
僕にはそうする事が許されなかった。


走り去っていく彼女の足音を俯き聞いた後、ゼイムスがいた窓の方を向けば、既にヤツの姿はなかった。
泣いて去って行く彼女を追って行ったのであろうゼイムスは、さも偶然出くわした振りをして彼女を理想の王子様のフリをして慰めて見せるのだろう。






******


それから僕はリリーを守る為、ゼイムスの守護さえも打ち破れる程強くなる事をただひたすらに求めた。


しかし、リリーをゼイムスから守る為、彼女との距離を置き続ければその溝は日に日に深くなって、何時しか彼女と目が合うことさえ珍しくなってしまった。
そしてそれと反するように、ゼイムスの婚約者として楽し気に笑うリリーを目にする事は増えていった。


彼女が楽し気に笑ってくれているのならそれに安堵すべきなのに……。
やはり彼女がいるのが僕の隣でない事は苦しくて仕方がなかった。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

踏み台令嬢はへこたれない

三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

【完結】捨てられた悪役令嬢は大公殿下との新たな恋に夢を見る

花草青依
恋愛
卒業パーティで婚約破棄を言い渡されたエレノア。それから間もなく、アーサー大公から縁談の申込みが来たことを知る。新たな恋の始まりにエレノアは戸惑いを隠せないものの、少しずつ二人の距離は縮まって行く。/王道の恋愛物(のつもり)

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

光の王太子殿下は愛したい

葵川真衣
恋愛
王太子アドレーには、婚約者がいる。公爵令嬢のクリスティンだ。 わがままな婚約者に、アドレーは元々関心をもっていなかった。 だが、彼女はあるときを境に変わる。 アドレーはそんなクリスティンに惹かれていくのだった。しかし彼女は変わりはじめたときから、よそよそしい。 どうやら、他の少女にアドレーが惹かれると思い込んでいるようである。 目移りなどしないのに。 果たしてアドレーは、乙女ゲームの悪役令嬢に転生している婚約者を、振り向かせることができるのか……!? ラブラブを望む王太子と、未来を恐れる悪役令嬢の攻防のラブ(?)コメディ。 ☆完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

第一王子は私(醜女姫)と婚姻解消したいらしい

麻竹
恋愛
第一王子は病に倒れた父王の命令で、隣国の第一王女と結婚させられることになっていた。 しかし第一王子には、幼馴染で将来を誓い合った恋人である侯爵令嬢がいた。 しかし父親である国王は、王子に「侯爵令嬢と、どうしても結婚したければ側妃にしろ」と突っぱねられてしまう。 第一王子は渋々この婚姻を承諾するのだが……しかし隣国から来た王女は、そんな王子の決断を後悔させるほどの人物だった。

処理中です...