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第二章 生き急ぐように去って行く美少年の背中を切なく見送りたい

リュシアンとチョコレート④(side アーデ)

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どうしたらいいのでしょう。
途方にくれていたら、私に散々絡まれウンザリした宰相が一冊の本をくれました。

その本のタイトルはズバリ
『新しい子猫の迎え方』

「…………」

最近リュシアンが綺麗な猫っぽく見えるのは、どうやら私だけではなかった様です。


一応ページをめくれば、こんな事が書かれていました。

『猫ちゃん同士が仲良く出来るポイント①
 意識的に先住猫を新入り猫より優先してあげましょう
 食事やブラッシングなど何をするにも先住猫を優先させましょう
 新入り猫に対する不満が減少して、慣れやすくなります』

イライアス様はお客様なので、タイミングが被ってしまったときにはいつだってリュシアンには待ってもらわざるを得ないのですが……。

さて、どうしましょう?






◇◆◇◆◇

「リュシアン、ブラッシング……してもいい?」

「へ???」

余りに想定外の提案だったせいでしょう。

リュシアンの執務室を訪れそんな声を掛ければ、リュシアンがリュシアンらしからぬ少し間の抜けたリアクションをとりました。

「ブラッシング??? ……すみません、よく聞き取れなかったみたいで。もう一度言っていただけませんか?」

やや強引に自分の聞き間違いと納得しようとしたリュシアンに、新しく用意した美しい飾りが彫られた櫛を見せます。
するとリュシアンは酷く途惑いながら、しかし大人しく彼お気に入りのソファーに座ってくれました。


ソファーに座ったリュシアンの背後に立ちその煌めくの髪に櫛を通せば、何の抵抗も無く形の良い後頭部を黄金色の髪がサラサラと流れていきます。

……コレ、なんか意味あるのかな?
換毛期の猫だったらね、猫一匹分くらいの毛がブラッシングで取れるのでやりがいもあるのですが。

そう思った時です、意外にもリュシアンが気持ち良さげに目を閉じて、コテンとその頭を私の胸元に預けて来ました。

ほうほう!!
意外と悪くないみたいです!


その後、何となくご機嫌も治ったみたいだったので

『この本を参考にもっと色々やってみよう!』

そう調子に乗り自室でその本を開いてみた時でした。
その本を見つけたリュシアンが

「新しい夫を迎えるつもりですか?!」

と変な勘違いをして、ブラッシングする前以上に拗ねてしまいました。






◇◆◇◆◇

「リュシアンに何て言えば許してもらえると思う?」

溜まりに溜まってしまった書類の上に、お行儀悪く頬杖をついて深い溜息をついた時です。
ジト目の宰相から

「冗談を真に受けた挙句状態を悪化させる人がいますか。仕事する気がないならさっさと仲直りして来て下さい。でないとあの人、『そっちがそのつもりなら実家母国に戻ってこの国を攻め落としてアーデを僕のものにする。大丈夫、僕は負ける戦いはしない!』ってずっと地図とにらめっこしてますよ?」

と、部屋を追い出されてしまいました。

リュシアン、あれから自室に引きこもったまま姿を見せないから、私が部屋に訪れている時以外は寝込んでいるのではないかと心配していましたが……
意外と元気そうでとりあえず良かったです。




「リュシアン……ごめんなさい」

結局いい手は思いつかなかったので。
リュシアンの私室を訪れ誠心誠意、謝る事にしました。

どうしていいか分からなくなったからとは言え、猫扱いするなんてホント失礼でしたね。

そう思ったのですが?


「本当に悪いと思って下さったなら、ちゃんとこの本の通り僕を優先して下さい」

思いもかけずリュシアンから付箋を挟んだあの本を渡されました。

あれ?
猫扱いした事は怒ってはないのでしょうか??


金の細やかな細工が美しい付箋が挟まれたページを開けば

『猫ちゃん同士が仲良く出来るポイント②
 先住猫がやきもちや嫉妬をした時に有効な対処法は、とにかく先住猫に構ってあげることです。
 生活環境がいつもと違う時こそ、今まで以上に猫とスキンシップをとったり、遊んであげたりしましょう。

 もし家の部屋数に余裕がある場合は、先住猫と二人だけでゆっくり遊べる部屋を用意し、しばらくの間その部屋の中で猫に構ってあげることも非常に有効です』

そう書かれています。


……先住猫と二人でゆっくり遊べる部屋。

何となく。
本当に何となくその部分を頭の中で反芻した時です。

リュシアンがカチャリと部屋のカギをかけた音が聞こえました。

「遊んでくださいますよね?」

リュシアンの美しくも黒い顔の圧にタジタジになりながら

「えっと……遊ぶなら猫じゃらしの準備がまだ……かな?」

そう往生際悪く視線を彷徨わせれば

「猫じゃらし? あぁ、ご心配なく。僕はコレで十分です」

そう言ってリュシアンが三度シュッと私のドレスのリボンを手際良く解くと、私の目の前でそれをひらひらと揺すって見せました。
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