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第二章 生き急ぐように去って行く美少年の背中を切なく見送りたい

奥手過ぎる女王様の、遅すぎる初恋の話①(side アーデ)

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目が覚めた時、隣で天使が眠っていました。

あれ?
私、いつの間にまた死んじゃったのでしょう??

美少年改め、生き急ぐことなく立派に大地を踏みしめ去って行く美青年の背中を切なく見送るはずが、むしろ見送看取らせてしまいましたか……。


ぼんやりそんな事を思いながら天使の寝顔を見守れば、天使がその長いまつげを微かに震わせた後、ゆっくり瞼を開きました。

現れた宝石と見紛うばかりに美しいアイスブルーの瞳に、我を忘れ思わず見入った時です。

目を覚ました天使が、その綺麗な声で言いました。

「おはようございます。昨晩はがっついてしまってすみませんでした。……体、辛いところはありませんか?」


天使じゃなかったぁぁぁぁ!!!

リュシアン、貴方そんな純真を絵にかいたように綺麗な顔で何て事を言うの!!


余りの事に思わずその場でビシッと音を立てて石化します。

すると。リュシアンはクスッと妖艶に笑って……。

何も纏っていない、ギリシャ彫刻のような美しいその上半身を少し気だるげに起こすと、私の頭をその胸に抱き寄せ、私の額に甘い甘いキスを落としたのでした。






◇◆◇◆◇

キャパオーバーのあまり……。

事もあろうにリュシアンの事をベッドから突き落とし、その場から逃走した事は猛省しています。

お詫びの品の準備と、ジャンピング土下座の練習は後でしておくとして。


まずはリュシアンと離れたところで気持ちを落ち着かせよう。

そう思い執務室に逃げ込んだ私は、目の前の意外な光景に首を捻りました。

昨日は某ハプニングにより仕事をリュシアンと二人、長時間にわたりサボってしまいましたからね?

執務室には大量の仕事に忙殺される宰相のレナルドが不機嫌そうに詰めていると思ったのですが??

意外なことに執務室には誰もおらず、それどころか山積みになっているであろうと思った書類の束も見当たりません。


キツネにつままれたような顔をして、突っ立っていた時でした。

真っ白なシャツを着崩たリュシアンが色気垂れ流しのままに部屋に入って来て言いました。

「しばらくハネムーンに入る休暇を取るからと、粗方仕事は仕分けて各部署に振り分けておきました」


リュシアン……。

努力の甲斐あって実に有能になりましたね。

やっぱりリュシアンはやれば出来る子です。
切なく見送ろうと、ずっと見守って来た私としては誇らしい限りです。

ですが!
ですが今ばかりはその有能さが憎い!!!


リュシアンは悠々こちらに歩いてくると、また思わず逃げようとした私を優しく背中側からその腕の中に抱き竦めました。

そうして、真っ赤になってしまっているであろう私の耳に、繰り返し繰り返し愛おし気にその唇を押し当ててきます。


なんですかこの激甘注意どちゃくそイケメンは?!

乙女ゲームのメインヒーローか何かですか???


綺麗な瞳で見つめられ、不意打ちでキスをされて……。

私の中のネバーがギブアップしたので、ついには息のしかたさえ分からなくなりました。


リュシアンの腕を三回タップして、降参の意を伝えます。

するとリュシアンはわざと意地悪そうに口の端を吊り上げて見せた後、しかしすぐに花がほころぶようにまた眩しく破顔して見せてくれたのでした。


その眩しい笑顔を見た時の事です。

突然胸の奥がギュッと痛くなりました。
合わせて呼吸が乱れ、上手く息が出来なくなります。


こんなの……

こんなの初めてです。

これはいったい何なのでしょう?


あれ??
もしかして……

これって……

これが噂で聞く……


若年性の心筋梗塞ってヤツでしょうか?


いやぁ、女王様業は以外とハードかつデスクワークですからね。
長時間の座りっぱなしが祟って、いつの間にか小さな血栓か何かが出来たのかもしれません。

三十前半だしと、まだまだ若いつもりでいましたが、着実に体は無理が効かないようになっているようです。

危ない危ない。
前世と同様、志半ばにて美少年の背を見送れぬまま、また過労死するところでした。

常日頃から、運動する習慣をつけて、なおかつこまめな水分補給を心掛けないと。


そんな事を考え、思わずその場で屈伸運動を始めれば

「はぁ……」

私のBBAっぽさに改めてゲンナリしたのでしょうか?

酷く残念なものを見るような目をこちらに向けて、リュシアンが深い深い溜息をつきました。
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