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番外編
馬鹿にするな (side リュシアン) ざまぁされた元王太子のその後
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幼い時分に婚約者となったエリーズは従順で美しく、そして僕なんかよりもずば抜けて優秀だった。
そんな彼女を誰もが手放しで褒めたから、最初は僕もそんな婚約者が持てた事を誇らしく思った。
しかし十歳を過ぎた頃からであっただろうか。
僕は勝手に彼女への劣等感を徐々に募らせていった。
劣等感をこじらせて、つまらない思いのまま学園をおくっていた時だった。
廊下で一人の美しい少女とすれ違った。
この国には珍しい藍にも似た黒髪に、どこか神秘的で落ち着いた印象を見せる微かに紫がかった濃紺の瞳。
その造形は酷く華奢で、触れれば壊れてしまいそうに見えた。
思わず長い事見つめてしまい、目が合ったときだった。
きっと他の人間の様に恭しくその瞳を下げるのだろうと思っていた彼女が、臆することなく僕の目を真っすぐ見つめたまま、その煌めく瞳を微笑ませて見せた。
◇◆◇◆◇
美しいリディーは常に多くの信奉者に囲まれていた。
だからライバル達を蹴散らして、そんなリディーの一番に選ばれた時には、傷ついていた自尊心が大いに癒されるのを感じた。
リディーは自由気ままな猫の様でもあった。
エリーズなら相手を立て一歩引くところも、リディーは一切自分の意見を曲げない。
今にして思えばそれはただの我儘なのに、ずっと立派な王となる為に誰よりも正しく謙虚であれと教えられ窮屈な思いをしてきた当時の僕には妙に清々しく映った。
自分の世話を焼いてくれるエリーズと違い、我儘なリディーは自分がいないとダメで世話が焼けるところも新鮮で、愚かだった自分には可愛くて仕方がなく思われた。
しかし……。
時間が経つにつれて、彼女と共に取っていた言動の無責任さのツケが全て回ってくるようになって、僕は目を覚まさざるをえなくなった。
父王からも王太子としての任をしっかり果たすようくぎを刺されたため、リディーの我儘を諫める側に回れば、享楽的な生活や態度を一切改めない彼女とはあっという間に喧嘩が絶えなくなった。
そんな折。
リディーの養父である伯爵が投獄され、リディーも国外追放となった。
宰相の助言を受け、僕はホッとした気持ちでリディーに別れを告げ、エリーズを呼び戻すことにした。
◇◆◇◆◇
再会したエリーズは、少ししか離れていなかったはずなのに以前より大人びて更に美しくなっていた。
献身的に僕に尽くし、つつましやかに視線を下げるその所作はリディーとは違いあだっぽさが無くやはり洗練されていて心が落ち着く。
やはり彼女が王妃に相応しいと、彼女との結婚を改めて決めた。
それなのに……。
エリーズは僕ではなく、騎士崩れの貧乏子爵を選んだ。
そして、それに伴い父に見限られ、王太子の座までも追われることとなった。
リディーと出会ってからの半年間、自分が随分自堕落な生活をしてきた過ちは認める。
しかし、それ以前は自分なりに精一杯努力してきたつもりだった。
優秀なエリーズや弟のようにはなれず、常に失望の目を向けられてきてもなおだ。
それなのに……。
「いや、これで我が国も安泰ですな。なんせ真に恐れるべきは有能な敵ではなく無能な味方であるといいますから」
侯爵家に与する派閥の貴族があてこするように大声でそう周囲に話すのを聞き、悔しくて血が出る程唇を噛み締めた。
国を離れる間際の事だ。
信頼出来る侍女を通してエリーズから鎖帷子を渡され、怒りのままにそれを投げ捨て剣を佩いた。
「馬鹿にするな! 自分の身ぐらい自分で守って見せる!!」
カッとなってそう侍女を怒鳴りつければ、見送りという名の監視に来ていたエリーズの父親である侯爵が、何とも言えない顔をして深い溜息をついた。
そんな彼女を誰もが手放しで褒めたから、最初は僕もそんな婚約者が持てた事を誇らしく思った。
しかし十歳を過ぎた頃からであっただろうか。
僕は勝手に彼女への劣等感を徐々に募らせていった。
劣等感をこじらせて、つまらない思いのまま学園をおくっていた時だった。
廊下で一人の美しい少女とすれ違った。
この国には珍しい藍にも似た黒髪に、どこか神秘的で落ち着いた印象を見せる微かに紫がかった濃紺の瞳。
その造形は酷く華奢で、触れれば壊れてしまいそうに見えた。
思わず長い事見つめてしまい、目が合ったときだった。
きっと他の人間の様に恭しくその瞳を下げるのだろうと思っていた彼女が、臆することなく僕の目を真っすぐ見つめたまま、その煌めく瞳を微笑ませて見せた。
◇◆◇◆◇
美しいリディーは常に多くの信奉者に囲まれていた。
だからライバル達を蹴散らして、そんなリディーの一番に選ばれた時には、傷ついていた自尊心が大いに癒されるのを感じた。
リディーは自由気ままな猫の様でもあった。
エリーズなら相手を立て一歩引くところも、リディーは一切自分の意見を曲げない。
今にして思えばそれはただの我儘なのに、ずっと立派な王となる為に誰よりも正しく謙虚であれと教えられ窮屈な思いをしてきた当時の僕には妙に清々しく映った。
自分の世話を焼いてくれるエリーズと違い、我儘なリディーは自分がいないとダメで世話が焼けるところも新鮮で、愚かだった自分には可愛くて仕方がなく思われた。
しかし……。
時間が経つにつれて、彼女と共に取っていた言動の無責任さのツケが全て回ってくるようになって、僕は目を覚まさざるをえなくなった。
父王からも王太子としての任をしっかり果たすようくぎを刺されたため、リディーの我儘を諫める側に回れば、享楽的な生活や態度を一切改めない彼女とはあっという間に喧嘩が絶えなくなった。
そんな折。
リディーの養父である伯爵が投獄され、リディーも国外追放となった。
宰相の助言を受け、僕はホッとした気持ちでリディーに別れを告げ、エリーズを呼び戻すことにした。
◇◆◇◆◇
再会したエリーズは、少ししか離れていなかったはずなのに以前より大人びて更に美しくなっていた。
献身的に僕に尽くし、つつましやかに視線を下げるその所作はリディーとは違いあだっぽさが無くやはり洗練されていて心が落ち着く。
やはり彼女が王妃に相応しいと、彼女との結婚を改めて決めた。
それなのに……。
エリーズは僕ではなく、騎士崩れの貧乏子爵を選んだ。
そして、それに伴い父に見限られ、王太子の座までも追われることとなった。
リディーと出会ってからの半年間、自分が随分自堕落な生活をしてきた過ちは認める。
しかし、それ以前は自分なりに精一杯努力してきたつもりだった。
優秀なエリーズや弟のようにはなれず、常に失望の目を向けられてきてもなおだ。
それなのに……。
「いや、これで我が国も安泰ですな。なんせ真に恐れるべきは有能な敵ではなく無能な味方であるといいますから」
侯爵家に与する派閥の貴族があてこするように大声でそう周囲に話すのを聞き、悔しくて血が出る程唇を噛み締めた。
国を離れる間際の事だ。
信頼出来る侍女を通してエリーズから鎖帷子を渡され、怒りのままにそれを投げ捨て剣を佩いた。
「馬鹿にするな! 自分の身ぐらい自分で守って見せる!!」
カッとなってそう侍女を怒鳴りつければ、見送りという名の監視に来ていたエリーズの父親である侯爵が、何とも言えない顔をして深い溜息をついた。
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