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第一章 愛が重め故、断罪されました

チョコレートのお値段

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重い女という悪癖は一向に治る兆しが見えませんが、それは日々精進して直していくとして。

そろそろ持参金の代わりにどうにかして一旗揚げねば……。
そう思い始めた時の事です。

リュシアン様の従者から戻ってきて欲しいと泣き付かれました。

何でも経営面やらなんやらで色々行き詰ってしまった為、リュシアン様が私の協力を求めているのだとか。

一度は暗殺されそうになった身故、警戒しないわけでもありませんでしたが。
流石にあちらもわざわざ殺す為に呼び寄せるような手間はかけないでしょう。

お手伝いすればお給金もいただける上、私の無罪も証明して下さるとのことで。
思い切ってジャン様の領地でのお仕事をお休みさせていただき、婚約者としてではなくコンサルタントとしてリュシアン様のお手伝いに上がる事にしました。





「どうした? さっさと机の上の資料を整理してくれ」

「礼状はまだか?」

「なぜいつも焼いて来ていたクッキーが無いんだ? 店のクッキーは甘すぎて口に合わない」

「早く次の夜会に来ていくジャケットとタイを見立ててくれ」

「どちらの案件を優先した方がいい?」

「予算の振り分けはどうすべきだ?」


執務室に着くや否や、リュシアン様から矢継ぎ早にそんなことを言われ混乱します。

「リュシアン様は、私にその様に口出しされる事がお嫌だったのでは??」

私の質問に、リュシアン様が盛大に不機嫌な顔をされました。

「『僕が間違っていた』と、君はまさかこの僕に泣いて縋れとでも言うつもりか?!」

「いえ……あの、大の大人の男の人に泣いて縋られて喜ぶような性癖は私には無いので、それはお断りしたいのですが……」

事情は全く分かりませんが、とりあえず今言われたことをすればいいのでしょうか??


資料を整理しつつ、侍女達にリュシアン様のジャケットとタイを一式持ってきてもらいます。

クッキーは自分で焼く時間はなさそうだったので、レシピを書いた紙を料理長に届けるよう手の空いている侍女に指示を出しました。

嘆願書に書かれていた内容を頭の中で精査しつつ

「リュシアン様にはこれがよくお似合いになるかと」

そう言って、細かな細工が美しい豪華な細身のシルエットの上着と上品なフリルがあしらわれたタイを渡せば、リュシアン様が何も言わずそれを羽織って見せられました。

上着の鮮やかな色がリュシアン様の美しい顔立ちと色素の薄いアイスブルーの瞳の色を引き立て、パッとその場が華やぎ、思わずリュシアン様を見慣れているはずの侍女達までもが頬を染めます。

一方で。
私は嘆願書を内容毎に日付順に整理しながら、ジャン様と孤児院の子ども達がちゃんとご飯を食べているか、またそんな事ばかりを考えていました。

すると、

「つまらん」

リュシアン様はそう呟くや否や

「視察に出る。エリーズ、同行しろ」

上着を脱ぎ捨て部屋を出ていかれてしまいました。


……つまらんって。

もっと奇抜な感じの衣装をお望みだったのでしょうか???

止めはしませんが、おススメはしませんよ??


思わずキョトンとして侍女達の方を振り向けば、皆が同情するようなあいまいな笑顔を浮かべて私を見ています。

相変わらずリュシアン様のお考えは読めませんが。
まぁとに角、予算の報告書と整理した嘆願書の束を引っ掴んで、私はかつての様にリュシアン様を追いかける事にしたのでした。






◇◆◇◆◇

「コレが視察ですか? ……いったい何の???」

訪れた高級チョコレート専門店の二階のカフェを貸し切った空間で、リュシアン様に呆れ声でそう尋ねれば

「庶民の暮らしを知る事も大切だと言ったのはお前だろう?」

リュシアン様はそう言って苦いコーヒーを不機嫌そうに、でもお手本のように綺麗な所作で飲まれました。

「庶民って……こんな高級店を貸し切りにしておいて……」

意味が分からな過ぎて思わず絶句すれば

「リディーなら喜んだ」

リュシアン様は苛立った様子でそう仰ると、フイとこちらから顔を背けてしまわれました。


リディー?
あぁ、私に代わりリュシアン様の婚約者となったこのゲームのヒロインちゃんのお名前でしたっけ?

そう言えば、ヒロインちゃんの姿が見えませんが?

「あれとは別れた」

私が尋ねる前にリュシアン様がまたつまらなさそうにそうおっしゃいます。

聞けば、リュシアン様と別れた後、ヒロインちゃんは私に濡れ衣を着せた罪で国外追放になったのだとか。


……リュシアン様は私がかつて追放される際に暗殺されかけた事をご存じないようですが。

ヒロインちゃんは無事ですよね?!

万が一の場合には攻略対象者の誰かが助けに行ったことを願うばかりです gkbr。


「えっと……そうだ! 庶民の暮らしがお知りになりたいのであれば、庶民とは少し境遇が異なりはしますが孤児院へ行ってみましょう!!」

なんとか気持ちを切り替えそう申し上げれば

「あそこは弟のマーカスの管轄だから僕は行かない。行くなら一人で行け」

これまでどうよう、やはり素気無く断られてしまいました。


しかし、そんな態度とは裏腹に……

リュシアン様は高級チョコレートを孤児院のお土産にと大量に持たせて下さいました。

そう、リュシアン様は別に悪い方ではないのです。

……ただ壮絶に世間知らずなだけで。


こういったリュシアン様の不器用で天邪鬼な優しさが、かつての私は大好きでした。
でも……。

このチョコレート一粒で、一人の子どもがお腹いっぱい食べられるし、これだけのお金があれば沢山本を買ってあげられるのになと、思わずため息を漏らしてしまった今の私は無粋でしょうか。

ジャン様にはこんな高級チョコレートを子ども達に配る甲斐性はありません。
でもきっとジャン様なら、一緒に孤児院を訪れ、子ども達の顔を見て何か困っている事は無いか、どうしたらそれが解決するか共に考え自ら率先して動いて下さる事でしょう。
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