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第三章 刺激的なスローライフ
51.【番外編 ローザとニコラス】ベリーとクリームのタルトより甘く⑤ 【side ローザ】
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「ローザ嬢?! どうしてこちらに?」
『お客様がお待ちだよ』
オーガスタ様はそうおっしゃったが、ニコラス自身は何も聞かされていなかったらしい。
事情を話せば、ニコラスはどこか気だるげに、しかし同時に酷く魅惑的に前髪をかき上げた後、
「それはそれは。お疲れのところ、および立てしてしまい申し訳ありませんでした」
ニコラスはそう言って、私の手を取り恭し気にその唇を私の右手の甲に押し付けた。
卿にされても何とも思わなかった、ただの挨拶。
それなのに、私の手に触れているのがニコラスの唇なのだと思うだけで、また胸がドキドキして止まらなくなる。
落ち着く為、必死になって別の事を考えたその時だった。
先程、私が思い人としてニコラスの名を告げた時の、レスコー卿の唖然とした顔を思い出してしまった。
……そうだった。
どれだけ私がニコラスに胸をときめかせようと、そうでなかろうと。
私は彼に相応しくないのだった。
彼には彼と同い年か年下の、小柄なかわいらしい女の子こそが似合う。
その事実に胸がツキリと痛み、思わず目を伏せ俯いた時だった。
「今日こちらへは、トレーユ殿下とオーガスタ様への取り立ての為伺ったんですよ」
ニコラスはそう言うなり楽しげに嗤った。
「取り立て? ……あぁ、そう言えば先日ハクタカと決闘した後でそんな約束をしていたな」
その嬉しそうな表情から察するに、ニコラスは随分破格の褒賞を得たらしい。
まぁ、ずっと探していたこの国の英雄とも誉れ高い辺境伯令嬢を見つけだしたうえ、ずっと結婚を拒んでいた第四王子の想い人を突き止めて見せたのだ。
王家としても、出し惜しみはしなかっただろう。
とは言え……。
「ニコラスは、そんなにも金を貯めて一体何を買うつもりなんだ?」
私はニコラスの考えが読めず首を捻った。
確かに金はあっても困るものでは無いが、金では買えないものが沢山ある事を、皆、先の魔王との戦いの中で痛感したばかりだ。
本当に大事なものは売っていないし、仮に欲しいのが金で買える物だったとしていくら元手があっても、売ってくれる人がいなければやはり購うことは叶わない。
それなのに、王都屈指の情報屋のニコラスが大金を集めて買いたいものとは、一体何なのだろう?
「殿下より賜ったのは、金ではありませんよ」
ニコラスがそう言って、また蠱惑的にクスリと笑った。
「金ではない? では一体何を??」
「私が賜ったのは爵位です」
「爵位???」
「子爵位を賜りました」
「子爵位??」
「ダメ元でもっと高位の爵位をねだったんですけどね。流石にそれは無理だと却下されました」
ニコラスはそう言って、
「まぁ、貴族社会といのは金さえあれば裏からいくらでも手を回せるので。子爵で妥協しました」
ぐいと私に向かって距離を詰めると、初めて私に向かい、ハクタカに見せていたような悪い顔をして嗤った。
「子爵位……」
酷く嫌な予感に、私の背を冷や汗がダラダラと流れる。
「そしてオーガスタ様には……変身の魔法をかけていただきました」
そう言ってニコラスがパチンと指を弾いた次の瞬間だ。
私の目の前にレスコー卿が姿を現した。
「イヤァァァァ!!!!」
王城に、私の悲鳴がこだまする。
私は……。
私は本人相手に何という事を言ってしまったのだろう。
叫びながら余りの恥ずかしさに悶絶すれば
「驚かせてすみません」
その大きくなった手で私の口を覆いながら、レスコー卿改めニコラスが、本当の悪い大人の顔をして楽し気に笑った。
「チビな姿では貴女に相手にされないと思い、オーガスタ様には年相応の、本来自分がなるべき姿に変えてもらったのですが……余計な小細工は不要だったようですね」
「年……相応???」
ずっと年下だと思っていたのに。
聞けばニコラスは三十路に手が届く、私なんかよりずっと年上の大人の人だと言う……。
『お客様がお待ちだよ』
オーガスタ様はそうおっしゃったが、ニコラス自身は何も聞かされていなかったらしい。
事情を話せば、ニコラスはどこか気だるげに、しかし同時に酷く魅惑的に前髪をかき上げた後、
「それはそれは。お疲れのところ、および立てしてしまい申し訳ありませんでした」
ニコラスはそう言って、私の手を取り恭し気にその唇を私の右手の甲に押し付けた。
卿にされても何とも思わなかった、ただの挨拶。
それなのに、私の手に触れているのがニコラスの唇なのだと思うだけで、また胸がドキドキして止まらなくなる。
落ち着く為、必死になって別の事を考えたその時だった。
先程、私が思い人としてニコラスの名を告げた時の、レスコー卿の唖然とした顔を思い出してしまった。
……そうだった。
どれだけ私がニコラスに胸をときめかせようと、そうでなかろうと。
私は彼に相応しくないのだった。
彼には彼と同い年か年下の、小柄なかわいらしい女の子こそが似合う。
その事実に胸がツキリと痛み、思わず目を伏せ俯いた時だった。
「今日こちらへは、トレーユ殿下とオーガスタ様への取り立ての為伺ったんですよ」
ニコラスはそう言うなり楽しげに嗤った。
「取り立て? ……あぁ、そう言えば先日ハクタカと決闘した後でそんな約束をしていたな」
その嬉しそうな表情から察するに、ニコラスは随分破格の褒賞を得たらしい。
まぁ、ずっと探していたこの国の英雄とも誉れ高い辺境伯令嬢を見つけだしたうえ、ずっと結婚を拒んでいた第四王子の想い人を突き止めて見せたのだ。
王家としても、出し惜しみはしなかっただろう。
とは言え……。
「ニコラスは、そんなにも金を貯めて一体何を買うつもりなんだ?」
私はニコラスの考えが読めず首を捻った。
確かに金はあっても困るものでは無いが、金では買えないものが沢山ある事を、皆、先の魔王との戦いの中で痛感したばかりだ。
本当に大事なものは売っていないし、仮に欲しいのが金で買える物だったとしていくら元手があっても、売ってくれる人がいなければやはり購うことは叶わない。
それなのに、王都屈指の情報屋のニコラスが大金を集めて買いたいものとは、一体何なのだろう?
「殿下より賜ったのは、金ではありませんよ」
ニコラスがそう言って、また蠱惑的にクスリと笑った。
「金ではない? では一体何を??」
「私が賜ったのは爵位です」
「爵位???」
「子爵位を賜りました」
「子爵位??」
「ダメ元でもっと高位の爵位をねだったんですけどね。流石にそれは無理だと却下されました」
ニコラスはそう言って、
「まぁ、貴族社会といのは金さえあれば裏からいくらでも手を回せるので。子爵で妥協しました」
ぐいと私に向かって距離を詰めると、初めて私に向かい、ハクタカに見せていたような悪い顔をして嗤った。
「子爵位……」
酷く嫌な予感に、私の背を冷や汗がダラダラと流れる。
「そしてオーガスタ様には……変身の魔法をかけていただきました」
そう言ってニコラスがパチンと指を弾いた次の瞬間だ。
私の目の前にレスコー卿が姿を現した。
「イヤァァァァ!!!!」
王城に、私の悲鳴がこだまする。
私は……。
私は本人相手に何という事を言ってしまったのだろう。
叫びながら余りの恥ずかしさに悶絶すれば
「驚かせてすみません」
その大きくなった手で私の口を覆いながら、レスコー卿改めニコラスが、本当の悪い大人の顔をして楽し気に笑った。
「チビな姿では貴女に相手にされないと思い、オーガスタ様には年相応の、本来自分がなるべき姿に変えてもらったのですが……余計な小細工は不要だったようですね」
「年……相応???」
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