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第二章 スローライフ希望のはずなのに、毎日それなりに忙しいのだが?

26.ずっと一緒④ 【side ハクタカ】

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「アリア!」

いい気分で手招きし隣に座らせ、詳しい説明も無しに魚を取り分けたものをアリアに持たせる。
するとそれを一口食べたアリアが

「美味しい!!」

と期待に外れず幸せそうに頬を抑えた。

いい気分になって。
いつものようにアリアの頭を撫でる振りをして、アリアの長くなった髪に触れれば。
そんな俺の下心に気づいたカルルが、これ見よがしにやれやれと肩を竦めるのが見えた。






◇◆◇◆◇

気のいい船員のくだらない話に腹を抱えて笑った時だった。

「アリア、探したよ。夏とは言え、甲板は冷えるだろう? もう遅い時間だ、部屋に戻ろう」

突然姿を現したミストラルが、そう言って脱いだ自身の上着をアリアの肩にかけると、躊躇うことなくアリアの手に触れ立ち上がらせた。

せっかく楽しくやっていたというのに。
忘れていたムカムカ感が一気に再燃する。

だがまぁ、ミストラルの言う事ももっともだ。

『お休み』

そう言って離れないとと思ったのに……


「行くな」

気が付けば思考とは反対に体が勝手に動いて。
ミストラルに手を引かれ、背を向けようとしたアリアの手を強く掴んで強引に俺の胸元に引き込んでいた。

そうなると酔いも手伝ってかもうどうにも自分を止められなくて。
醜い嫉妬を露わにアリアを腕の中に隠したまま、アリアにかけられたヤツの上着を思い切り投げ返した。


一触即発。

そう感じた周囲が、俺とミストラルを見てゴクッと固唾を飲んだその時だった。

「やれやれ」

そんな風に呆れ顔を装いつつミストラルがその口角をニヤッと上げて見せた。

この嗤い方……。

はっとして周りを見渡せば先ほどまでカルルが化けて居た水夫の姿はやはりどこにも無かった。


「……嵌めたな」

そうカルルを睨みつけ小さい声で言えば、

「お礼はまた今度でいいよ」

ミストラルの恰好をしたまま、カルルはヘラヘラッと嗤って手を振り他の皆を連れて船室へと引き上げていった。






◇◆◇◆◇

さて、どうしたものか。

アリアのを離せぬまま途方に暮れ溜息をつけば、アリアが俺の腕の中で小さく藻掻いた後、子猫の様にスポっと顔を出した。

「ハクタカ?」

俺の醜い思いなど、気づきもしないのだろう。
いつもの通り愛らしい声で無邪気に名前を呼ばれ気まずく何も答えらえない。


「……酔ってる?」

そう尋ねられ

『あぁ、そうかも』

そう答えて逃げてしまおうかと思った時だ。

『本気になれていない奴ほど後で辛い目を見るぞ?』

そう言ったカルルの声と、アリアの手の甲に口付けたミストラルの姿が浮かんで来て

「酔ってない」

精一杯の勇気を振り絞ってそう答えた。


それが悪かった。

声に出してそう宣言してしまった瞬間、自分の気持ちを改めて自覚してしまい、思いが溢れてどうしようもなくなってしまうのが分かった。

その苦しい思いを少しでもいいからアリアに分かって欲しくて、でもアリアを怖がらせたりしないよう気を付けてゆっくりその頬に触れれば、アリアの頬に触れた指が、自分の意思を持ってしまったかのように勝手に動いた。

自分の親指がその汚れない唇を無遠慮になぞる様は信じられないくらい卑猥で

「アリア……好きだよ。俺、アリアを守れるようもっと強くなるって誓うから。絶対もう逃げないって誓うから。だから……これからもずっと俺の傍に居てよ」

醜い思いを隠したそんな綺麗事で、今はもうただ触れたいのだと懇願した。






◇◆◇◆◇

いつか絶対カルルに、こんな場所で煽った制裁を科お礼をしてやる。

触れ合うだけのキスをした後で、そんな事を努めて考え必死に理性を呼び戻していたら、アリアが不意に目を閉じ俺の胸にその身を預け言った。

「ずっとずっと一緒にいてね」


昔パーティーに居た時、同じような事をアリアから言われた時のほろ苦い記憶が蘇る。

その時の俺は色々な事から逃げてばかりいたから、アリアからそう言われた時、本当はそう言ってもらえたことが嬉しくて仕方がなかった癖にそれに応える事は出来なかった。

でも、今違う。

「あぁ、約束する」

改めて強くアリアの事を抱きしめそう誓えば、無意識なのだろうか?
アリアがほんの少し無邪気さを抑えたあの時より少し大人になった顔で綺麗に笑って見せてくれたから。

俺はアリアに気づかれぬよう、こんなところで煽ったカルルを再度心の底から呪うのだった。
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