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第二章 スローライフ希望のはずなのに、毎日それなりに忙しいのだが?
23.ずっと一緒① 【side アリア】
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帰りは西の港町に向かい、そこから船で戻る事になった。
今回の事件が無くても、もともとトレーユ達はその予定だったのだろう。
街に着けば、以前旅した時にも使ったトレーユの船が既に停泊していた。
「アリア!」
魔王討伐の際に一緒に旅したミストラルが出迎えてくれ、再会を喜び合った。
ミストラルは伯爵家の三男で海軍に所属している。
切れ長で涼やかな目元と黒髪が印象的な青年で、王都では随分貴族令嬢から人気なのだと聞く。
しかし本人は、あの貴族令嬢達特有の、扇で表情を隠した笑い方やキツイ白粉の匂いが苦手なので、こうして王都を離れる任ばかり率先して引き受けているのだという。
その癖、本人は完璧な礼儀作法で、まるで貴族のお嬢様に対してするように私の手を取って小さく口付けて見せたものだから、言っていることとやっている事の差に二人して思わず笑ってしまった。
◇◆◇◆◇
皆で夕食を取った後、先に自室に戻ったはずのハクタカの部屋の前を通ると灯りが消えていた。
疲れて早々に眠ってしまったのだろうか?
何となく気になってドアをノックするが返事はなく、思い切ってドアを開けてみればそこはものけの空だった。
何となく気になってその姿を探せば、ハクタカは甲板の上、他の乗組員達とお酒を飲んで何やら楽し気に笑い合っていた。
ハクタカは、やっぱりどこでもあっという間に人気者になってしまうのだなと思う。
何となく自分が入り込む余地などないような気がして、声をかけそびれたまま自室に戻ろうとした時だった。
「アリア、おいで」
私に気づいてくれたハクタカが、そう言ってハクタカの横のスペースを指して手招きしてくれた。
気づいてもらえた事が嬉しくて、よくしつけられた犬の様に駆け寄ってしまえば、やっぱりハクタカも同じ様に思ったのだろう。
「よしよし」
ハクタカはそう言いながら、やっぱり犬にするように目線を合わせて私の頭を撫でたのだった。
◇◆◇◆◇
ハクタカの隣に座り、ハクタカの楽し気な笑い声と話声にどこか夢見心地で耳を傾け続けてから、一時間くらいがたった頃だっただろうか。
「アリア? 探したよ。夏とは言え、甲板は冷えるだろう? もう遅い時間だ、部屋に戻ろう」
私に気づいたミストラルが、そう言って脱いだ自身の上着を私の肩にかけると、私の手を引いて立ち上がらせた。
ミストラルの登場を機に、何人かは持ち場や寝に戻って行った。
しかし、何人かはまだその場に残る事に決めたようで
「おやすみ」
そうほろ酔いで私に向かって手を振った。
ハクタカを見れば、彼もまだ部屋に戻る気はないようで、まだ手にお酒の入ったカップを持ち片膝を立て座り込んだままだった。
何となく、またその事を寂しく思った時だった。
不意に私の手を掴んでハクタカが言った。
「行くな」
酔っているのだろうか?
触れられたハクタカの手が、いつもより熱い。
「アリア、ずっと一緒に居よう。もっとこっちにおいで」
そう言ってハクタカが、また私に向かってトパーズの瞳を柔らかに細めてその腕を広げて見せるから……。
気が付けば、私はミストラルの手を振り解いて、ハクタカの腕の中に飛び込んでしまった。
今回の事件が無くても、もともとトレーユ達はその予定だったのだろう。
街に着けば、以前旅した時にも使ったトレーユの船が既に停泊していた。
「アリア!」
魔王討伐の際に一緒に旅したミストラルが出迎えてくれ、再会を喜び合った。
ミストラルは伯爵家の三男で海軍に所属している。
切れ長で涼やかな目元と黒髪が印象的な青年で、王都では随分貴族令嬢から人気なのだと聞く。
しかし本人は、あの貴族令嬢達特有の、扇で表情を隠した笑い方やキツイ白粉の匂いが苦手なので、こうして王都を離れる任ばかり率先して引き受けているのだという。
その癖、本人は完璧な礼儀作法で、まるで貴族のお嬢様に対してするように私の手を取って小さく口付けて見せたものだから、言っていることとやっている事の差に二人して思わず笑ってしまった。
◇◆◇◆◇
皆で夕食を取った後、先に自室に戻ったはずのハクタカの部屋の前を通ると灯りが消えていた。
疲れて早々に眠ってしまったのだろうか?
何となく気になってドアをノックするが返事はなく、思い切ってドアを開けてみればそこはものけの空だった。
何となく気になってその姿を探せば、ハクタカは甲板の上、他の乗組員達とお酒を飲んで何やら楽し気に笑い合っていた。
ハクタカは、やっぱりどこでもあっという間に人気者になってしまうのだなと思う。
何となく自分が入り込む余地などないような気がして、声をかけそびれたまま自室に戻ろうとした時だった。
「アリア、おいで」
私に気づいてくれたハクタカが、そう言ってハクタカの横のスペースを指して手招きしてくれた。
気づいてもらえた事が嬉しくて、よくしつけられた犬の様に駆け寄ってしまえば、やっぱりハクタカも同じ様に思ったのだろう。
「よしよし」
ハクタカはそう言いながら、やっぱり犬にするように目線を合わせて私の頭を撫でたのだった。
◇◆◇◆◇
ハクタカの隣に座り、ハクタカの楽し気な笑い声と話声にどこか夢見心地で耳を傾け続けてから、一時間くらいがたった頃だっただろうか。
「アリア? 探したよ。夏とは言え、甲板は冷えるだろう? もう遅い時間だ、部屋に戻ろう」
私に気づいたミストラルが、そう言って脱いだ自身の上着を私の肩にかけると、私の手を引いて立ち上がらせた。
ミストラルの登場を機に、何人かは持ち場や寝に戻って行った。
しかし、何人かはまだその場に残る事に決めたようで
「おやすみ」
そうほろ酔いで私に向かって手を振った。
ハクタカを見れば、彼もまだ部屋に戻る気はないようで、まだ手にお酒の入ったカップを持ち片膝を立て座り込んだままだった。
何となく、またその事を寂しく思った時だった。
不意に私の手を掴んでハクタカが言った。
「行くな」
酔っているのだろうか?
触れられたハクタカの手が、いつもより熱い。
「アリア、ずっと一緒に居よう。もっとこっちにおいで」
そう言ってハクタカが、また私に向かってトパーズの瞳を柔らかに細めてその腕を広げて見せるから……。
気が付けば、私はミストラルの手を振り解いて、ハクタカの腕の中に飛び込んでしまった。
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