16 / 59
第二章 スローライフ希望のはずなのに、毎日それなりに忙しいのだが?
15.王宮お抱えの魔導士
しおりを挟む
一週間後―
トレーユの知り合いだという長いひげを生やし腰の曲がった魔道士がやって来た。
何でもこの卵は、何の卵か分からず調査の為この魔導士の元に持ち込まれたものだったのだそうだ。
しかし魔導士の研究室があまりに汚かった為、ゴミと間違えられうっかり廃棄されてしまい、魔導士は片手間にこれを探していたらしい。
研究室が汚すぎてうっかり廃棄。
片手間に捜索。
……なんともこの国の魔道研究の行く末が不安になる話である。
ドン引きしている俺などまったく意に介さず
「なんとあの卵は火竜の卵であったか。そうか、この色は溶岩に擬態しておったのか」
裏山の洞窟入り口、魔導士は卵の殻と火竜を見比べて一人興味深そうにウンウン頷いていた。
「それで? どうやって孵化させた??」
魔導士の問いに、アリアがあっけらかんと答える。
「タマゴサンド作ろうと思って茹でたの」
「茹でた?! これを食べるつもりだったのか???」
アリアの答えが予想外過ぎたのだろう。
トレーユはそんな叫ぶような声を思わず上げた後、こみ上げてくる嘔吐感を抑える様に口元を抑えた。
うん。
トレーユのリアクションを見るに、どうやら魔王討伐の際に喰うに窮して魔物を食べるような事態はなかったらしい。
ヨカッタ、ヨカッタ。
「茹でるかぁ! そうか火山の河口付近を好んで住んでいたと言われる魔物だもんね!!普通の温め方では温度がたりなかったのかぁ!」
えずくトレーユと、遠い目をする俺と、そんな俺達二人を見て不思議そうに首を傾げるアリア。
そんな俺達をまるっと無視して、魔導士がはしゃいだ声を出した。
うん?
はしゃぐ??
「なぁ、あんた、なんだか妙に声だけ若くないか??」
俺の指摘と、いぶかしむ視線に
「おっと、しまった」
そう言って魔導士が茶目っ気たっぷりに肩を竦めてみせる。
「老人の姿の方が何かと信用してもらいやすいからね、仕事で外に出る時はこの姿を多用してるんだ。別に害意あって騙そうとしたわけじゃないから許してくれ」
そう言って魔導士がパチンと指を鳴らすと、そこにはトレーユと瓜二つのイケメンが楽し気な顔をして立っていた。
「こっちがアナタの本当の姿? トレーユと双子なの??」
アリアの驚いた声に、トレーユが嫌そうに目元を引きつらせながら首を横に振り言った。
「僕に双子の兄弟などはいない。これの名はカルル。『変身』のスキルを持つ王宮お抱えの魔導士だ。それなりに長い付き合いなのだが、僕もこれの本当の年や姿は知らない」
長い付き合いにも関わらず、正体を明かしてもらえない事に少し拗ねているのだろうか。
つまらなさそうな声を出すトレーユにカルルは笑って言った。
「どんな姿をしていても何故かトレーユだけは私の事を見分けられるのだから不便は無いだろう?」
「見分けるのに不便はないが……。それよりも、僕の姿を使うのは止めろと言っているだろう。この姿をしている状態で無駄にいろんな人に笑いかけないでくれ。勘違いした令嬢方に詰め寄られて心底迷惑してるんだ」
トレーユの話を聞いて、トレーユの顔をしたままカルルが吹きだした。
確かに……。
いつも仏頂面のイケメン王子(偽者)が不意に見せた無邪気そうな笑顔の破壊力はすさまじかった。
令嬢方が
『滅多に笑わないトレーユ様が私にだけ微笑んでくださった』
と勘違いして鼻息荒く詰め寄ってくるのも納得だ。
そんな事を思いながらちらっと横目でアリアの様子を窺えば、アリアは王子様スマイルなどには全く興味なさげに火竜の首を掻いてやっていたのだった。
トレーユの知り合いだという長いひげを生やし腰の曲がった魔道士がやって来た。
何でもこの卵は、何の卵か分からず調査の為この魔導士の元に持ち込まれたものだったのだそうだ。
しかし魔導士の研究室があまりに汚かった為、ゴミと間違えられうっかり廃棄されてしまい、魔導士は片手間にこれを探していたらしい。
研究室が汚すぎてうっかり廃棄。
片手間に捜索。
……なんともこの国の魔道研究の行く末が不安になる話である。
ドン引きしている俺などまったく意に介さず
「なんとあの卵は火竜の卵であったか。そうか、この色は溶岩に擬態しておったのか」
裏山の洞窟入り口、魔導士は卵の殻と火竜を見比べて一人興味深そうにウンウン頷いていた。
「それで? どうやって孵化させた??」
魔導士の問いに、アリアがあっけらかんと答える。
「タマゴサンド作ろうと思って茹でたの」
「茹でた?! これを食べるつもりだったのか???」
アリアの答えが予想外過ぎたのだろう。
トレーユはそんな叫ぶような声を思わず上げた後、こみ上げてくる嘔吐感を抑える様に口元を抑えた。
うん。
トレーユのリアクションを見るに、どうやら魔王討伐の際に喰うに窮して魔物を食べるような事態はなかったらしい。
ヨカッタ、ヨカッタ。
「茹でるかぁ! そうか火山の河口付近を好んで住んでいたと言われる魔物だもんね!!普通の温め方では温度がたりなかったのかぁ!」
えずくトレーユと、遠い目をする俺と、そんな俺達二人を見て不思議そうに首を傾げるアリア。
そんな俺達をまるっと無視して、魔導士がはしゃいだ声を出した。
うん?
はしゃぐ??
「なぁ、あんた、なんだか妙に声だけ若くないか??」
俺の指摘と、いぶかしむ視線に
「おっと、しまった」
そう言って魔導士が茶目っ気たっぷりに肩を竦めてみせる。
「老人の姿の方が何かと信用してもらいやすいからね、仕事で外に出る時はこの姿を多用してるんだ。別に害意あって騙そうとしたわけじゃないから許してくれ」
そう言って魔導士がパチンと指を鳴らすと、そこにはトレーユと瓜二つのイケメンが楽し気な顔をして立っていた。
「こっちがアナタの本当の姿? トレーユと双子なの??」
アリアの驚いた声に、トレーユが嫌そうに目元を引きつらせながら首を横に振り言った。
「僕に双子の兄弟などはいない。これの名はカルル。『変身』のスキルを持つ王宮お抱えの魔導士だ。それなりに長い付き合いなのだが、僕もこれの本当の年や姿は知らない」
長い付き合いにも関わらず、正体を明かしてもらえない事に少し拗ねているのだろうか。
つまらなさそうな声を出すトレーユにカルルは笑って言った。
「どんな姿をしていても何故かトレーユだけは私の事を見分けられるのだから不便は無いだろう?」
「見分けるのに不便はないが……。それよりも、僕の姿を使うのは止めろと言っているだろう。この姿をしている状態で無駄にいろんな人に笑いかけないでくれ。勘違いした令嬢方に詰め寄られて心底迷惑してるんだ」
トレーユの話を聞いて、トレーユの顔をしたままカルルが吹きだした。
確かに……。
いつも仏頂面のイケメン王子(偽者)が不意に見せた無邪気そうな笑顔の破壊力はすさまじかった。
令嬢方が
『滅多に笑わないトレーユ様が私にだけ微笑んでくださった』
と勘違いして鼻息荒く詰め寄ってくるのも納得だ。
そんな事を思いながらちらっと横目でアリアの様子を窺えば、アリアは王子様スマイルなどには全く興味なさげに火竜の首を掻いてやっていたのだった。
0
お気に入りに追加
73
あなたにおすすめの小説
【完結】底辺冒険者の相続 〜昔、助けたお爺さんが、実はS級冒険者で、その遺言で七つの伝説級最強アイテムを相続しました〜
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
試験雇用中の冒険者パーティー【ブレイブソード】のリーダーに呼び出されたウィルは、クビを宣言されてしまう。その理由は同じ三ヶ月の試験雇用を受けていたコナーを雇うと決めたからだった。
ウィルは冒険者になって一年と一ヶ月、対してコナーは冒険者になって一ヶ月のド新人である。納得の出来ないウィルはコナーと一対一の決闘を申し込む。
その後、なんやかんやとあって、ウィルはシェフィールドの町を出て、実家の農家を継ぐ為に乗り合い馬車に乗ることになった。道中、魔物と遭遇するも、なんやかんやとあって、無事に生まれ故郷のサークス村に到着した。
無事に到着した村で農家として、再出発しようと考えるウィルの前に、両親は半年前にウィル宛てに届いた一通の手紙を渡してきた。
手紙内容は数年前にウィルが落とし物を探すのを手伝った、お爺さんが亡くなったことを知らせるものだった。そして、そのお爺さんの遺言でウィルに渡したい物があるから屋敷があるアポンタインの町に来て欲しいというものだった。
屋敷に到着したウィルだったが、彼はそこでお爺さんがS級冒険者だったことを知らされる。そんな驚く彼の前に、伝説級最強アイテムが次々と並べられていく。
【聖龍剣・死喰】【邪龍剣・命喰】【無限収納袋】【透明マント】【神速ブーツ】【賢者の壺】【神眼の指輪】
だが、ウィルはもう冒険者を辞めるつもりでいた。そんな彼の前に、お爺さんの孫娘であり、S級冒険者であるアシュリーが現れ、遺産の相続を放棄するように要求してきた。
【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-
ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!!
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。
しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。
え、鑑定サーチてなに?
ストレージで収納防御て?
お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。
スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。
※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。
またカクヨム様にも掲載しております。
異世界大日本帝国
暇人先生
ファンタジー
1959年1939年から始まった第二次世界大戦に勝利し大日本帝国は今ではナチス並ぶ超大国になりアジア、南アメリカ、北アメリカ大陸、ユーラシア大陸のほとんどを占領している、しかも技術も最先端で1948年には帝国主義を改めて国民が生活しやすいように民主化している、ある日、日本海の中心に巨大な霧が発生した、漁船や客船などが行方不明になった、そして霧の中は……
僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜
犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。
この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。
これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。
俺だけステータスが見える件~ゴミスキル【開く】持ちの俺はダンジョンに捨てられたが、【開く】はステータスオープンできるチートスキルでした~
平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人はクラスメイトたちと異世界へ召喚されてしまう。
異世界より召喚された者は神からスキルを授かるが、直人のスキルは『物を開け閉めする』だけのゴミスキルだと判明し、ダンジョンに廃棄されることになった。
途方にくれる直人は偶然、このゴミスキルの真の力に気づく。それは自分や他者のステータスを数値化して表示できるというものだった。
しかもそれだけでなくステータスを再分配することで無限に強くなることが可能で、更にはスキルまで再分配できる能力だと判明する。
その力を使い、ダンジョンから脱出した直人は、自分をバカにした連中を徹底的に蹂躙していくのであった。
死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~
未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。
待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。
シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。
アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。
死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。
彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。
そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。
洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。
さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。
持ち前のサバイバル能力で見敵必殺!
赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。
そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。
人々との出会い。
そして貴族や平民との格差社会。
ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。
牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。
うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい!
そんな人のための物語。
5/6_18:00完結!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる