12 / 59
第二章 スローライフ希望のはずなのに、毎日それなりに忙しいのだが?
12.流れ星に願いを込めて 【side ハクタカ】
しおりを挟む
ある日、起きてきたアリアの元気がなかった。
その上、珍しく目の下に隈を作っている。
どうしたのかと尋ねると、一晩中流れ星を探していたのだという。
「そう言えば……」
暦を見て思う。
確かそろそろ王都では流星群が見られる頃だったな。
すぐそばの山頂からなら流星が良く見えるだろうか?
◇◆◇◆◇
後日、俺はアリアと一緒に山頂から流れ星を探そうと、朝から準備を始めた。
「どこかに遠出するの? 手伝おうか?」
アリアにそう尋ねられるが、アリアを驚かしてやりたくてその申し出は断った。
夕方前になって
「アリア、今からちょっと出かけられるか?」
そうアリアに声をかければ、
「こんな遅い時間に?」
とアリアが驚いてくれたから、計画がまだバレていないと分かり一人ニマニマしてしまう。
山道をのんびりと歩きながら、アリアと他愛もないことをしゃべる。
世間に疎いアリアは、最近では村の子ども達と共に一緒に過ごす事で、いろんな庶民の常識や人付き合いの方法等について学んでいるらしい。
流れ星に願いをかけるジンクスも、村の子ども達教えてもらったとのことだった。
アリアは勇者だったから。
子どもと言っていい時分から早々に戦いに駆り出され、きっと近所の子ども達とこうして遊んだり、くだらないおしゃべりをしたりして過ごすような時間は無かったのだろう。
失った時を取り戻すことはしてやれないが、せめてここの村で過ごす日々は、本来アリアが過ごすはずであった日々の何倍も暖かなものにしてやりたいと願わずにはいられない。
山頂につき、火を起こす準備をしていると、慣れた手つきでアリアが小枝を集めて火にくべた。
昔一緒に王都近くでローザやレイラと四人、火を囲んだ事を思い出す。
なんだかそれが無性に懐かしいなと無意識に相貌を崩せば、それにつられたのかアリアが愛らしく、そして一緒に旅をしていた頃には比べものにならないくらい柔らかく微笑むから。
アリアが笑うのは嬉しい筈なのに、胸のどこか奥の方が鈍く痛んで仕方がなかった。
小さく頭を振って気を取り直し、その辺にあった石を組んで即席のかまどを作り、リュックから鍋を出して火にかけた。
夕飯は暖が取りやすいクリームシチューだ。
「ハクタカは何でも出来るね」
アリアはそんな風に言うが、別にそんな事はない。
以前レイラにも言ったが、スキルが使えなくなった俺は、ただの不器用な男だ。
今は煮崩れているおかげで上手い事ごまかされているが、皮むきは相変わらず下手だ。
とてもスキルで母さんの力を使っていた時のようにはいかない。
「お水じゃなくて牛乳で煮込むの?」
アリアの驚きの声に頷きながら、そう言えばスキルが使えなくなり自分で一から考えてするようになった事で、色々自分なりにアレンジ出来る様になった事は良かった事だなと思う。
更なる俺オリジナルの隠し味に、贅沢にチーズとバターをたっぷり溶かし込めば、アリアがアンバーの瞳を期待に煌めかせるのが見て取れた。
「おいしー!!」
アリアがそう言ってスプーンを加えたまま幸せそうに天を仰いだ。
可愛らしい仕草と笑みに、胸の中が何か暖かい物で満たされていく。
もっとアリアに笑って欲しくて、まるで給餌する親鳥の様につぎつぎアリアの皿に食べ物をのせれば、そんな俺の行動が可笑しかったのだろう。
アリアが珍しくフフッと声を出して笑った。
そのアリアの表情があまりに無防備で……。
気を抜けばどこかに消えて行ってしまいそうで、思わずアリアに向かって手を伸ばしかけた時だった。
「流れ星!」
アリアが空を指さしそう言った。
つられて空を見上げれば、また一つ、銀色の尾を引いて星が流れていくのが見える。
◇◆◇◆◇
アリアが熱心に空を見上げて半刻程度が経った頃―
いろいろ準備はしたつもりだったが、流石に冬の夜の山の寒さは半端ではなく。
流石に底冷えがしてきた。
星が見やすい場所を選んだ為、風を遮る木立も無く寒風吹きすさぶ中座ってじっと空を見上げているのだから当然か。
「クシュン!」
思わずくしゃみをすれば、アリアが自分が使っていた毛布を半分俺に掛けてくれた。
そんな事したら、アリアが寒い思いをするのは分かっていたのだけれど。
アリアのその気持ちが嬉しくて、しばらく二人で肩をくっつけあって空を眺めた。
しかし、しばらくして今度はアリアがくしゃみをしたから再び毛布を掛け直してやれば、アリアがそれでは俺が風邪を引いてしまうと頭を振った。
どうしたものか。
アリアは意外と頑固だからな。
アリアに風邪を引かせるよりは、いっそ家に戻るか?
そう思って
「それで、願いは掛けられたか?」
そう尋ねてみた時だった。
アリアが目を逸らして
「うん」
小さな声で答えた。
声のトーンや視線のそらし方から、それが嘘であることはすぐに分かる。
きっと俺に風邪を引かさない為、流れ星に願いをかける事は諦めようと思ったのだろう。
……アリアは相変わらず不器用だな。
「おいで」
そういって毛布を広げれば、少し思案した後、子猫のようにアリアがするりと毛布の中に潜り込んできた。
アリアが凍えないよう、寒さから少しでも守れるようアリアごと毛布を深く抱き込む。
あぁ、俺がフカフカの毛皮を持った動物だったらよかったのに。
そうしたらもっとアリアを暖かくして守ってやれるのに。
少しでも体温を分けてやりたくて、アリアの冷たくなってしまった耳に自らの頬を当てた。
「アリアの願いは何だ?」
二人分の体温で暖かくなった毛布の中、アリアを手伝ってやろうと思ってそんな事を聞けば、何故かアリアに
「内緒」
そう言われてしまった。
まぁ、願いは口に出した方が叶うっていう説と、口に出すと叶わなくなるという説と両方あるもんな。
仕方がないので、俺は自分の願いを流れ星にかける事にした。
『どうか、この先アリアが幸せでありますよう』
その上、珍しく目の下に隈を作っている。
どうしたのかと尋ねると、一晩中流れ星を探していたのだという。
「そう言えば……」
暦を見て思う。
確かそろそろ王都では流星群が見られる頃だったな。
すぐそばの山頂からなら流星が良く見えるだろうか?
◇◆◇◆◇
後日、俺はアリアと一緒に山頂から流れ星を探そうと、朝から準備を始めた。
「どこかに遠出するの? 手伝おうか?」
アリアにそう尋ねられるが、アリアを驚かしてやりたくてその申し出は断った。
夕方前になって
「アリア、今からちょっと出かけられるか?」
そうアリアに声をかければ、
「こんな遅い時間に?」
とアリアが驚いてくれたから、計画がまだバレていないと分かり一人ニマニマしてしまう。
山道をのんびりと歩きながら、アリアと他愛もないことをしゃべる。
世間に疎いアリアは、最近では村の子ども達と共に一緒に過ごす事で、いろんな庶民の常識や人付き合いの方法等について学んでいるらしい。
流れ星に願いをかけるジンクスも、村の子ども達教えてもらったとのことだった。
アリアは勇者だったから。
子どもと言っていい時分から早々に戦いに駆り出され、きっと近所の子ども達とこうして遊んだり、くだらないおしゃべりをしたりして過ごすような時間は無かったのだろう。
失った時を取り戻すことはしてやれないが、せめてここの村で過ごす日々は、本来アリアが過ごすはずであった日々の何倍も暖かなものにしてやりたいと願わずにはいられない。
山頂につき、火を起こす準備をしていると、慣れた手つきでアリアが小枝を集めて火にくべた。
昔一緒に王都近くでローザやレイラと四人、火を囲んだ事を思い出す。
なんだかそれが無性に懐かしいなと無意識に相貌を崩せば、それにつられたのかアリアが愛らしく、そして一緒に旅をしていた頃には比べものにならないくらい柔らかく微笑むから。
アリアが笑うのは嬉しい筈なのに、胸のどこか奥の方が鈍く痛んで仕方がなかった。
小さく頭を振って気を取り直し、その辺にあった石を組んで即席のかまどを作り、リュックから鍋を出して火にかけた。
夕飯は暖が取りやすいクリームシチューだ。
「ハクタカは何でも出来るね」
アリアはそんな風に言うが、別にそんな事はない。
以前レイラにも言ったが、スキルが使えなくなった俺は、ただの不器用な男だ。
今は煮崩れているおかげで上手い事ごまかされているが、皮むきは相変わらず下手だ。
とてもスキルで母さんの力を使っていた時のようにはいかない。
「お水じゃなくて牛乳で煮込むの?」
アリアの驚きの声に頷きながら、そう言えばスキルが使えなくなり自分で一から考えてするようになった事で、色々自分なりにアレンジ出来る様になった事は良かった事だなと思う。
更なる俺オリジナルの隠し味に、贅沢にチーズとバターをたっぷり溶かし込めば、アリアがアンバーの瞳を期待に煌めかせるのが見て取れた。
「おいしー!!」
アリアがそう言ってスプーンを加えたまま幸せそうに天を仰いだ。
可愛らしい仕草と笑みに、胸の中が何か暖かい物で満たされていく。
もっとアリアに笑って欲しくて、まるで給餌する親鳥の様につぎつぎアリアの皿に食べ物をのせれば、そんな俺の行動が可笑しかったのだろう。
アリアが珍しくフフッと声を出して笑った。
そのアリアの表情があまりに無防備で……。
気を抜けばどこかに消えて行ってしまいそうで、思わずアリアに向かって手を伸ばしかけた時だった。
「流れ星!」
アリアが空を指さしそう言った。
つられて空を見上げれば、また一つ、銀色の尾を引いて星が流れていくのが見える。
◇◆◇◆◇
アリアが熱心に空を見上げて半刻程度が経った頃―
いろいろ準備はしたつもりだったが、流石に冬の夜の山の寒さは半端ではなく。
流石に底冷えがしてきた。
星が見やすい場所を選んだ為、風を遮る木立も無く寒風吹きすさぶ中座ってじっと空を見上げているのだから当然か。
「クシュン!」
思わずくしゃみをすれば、アリアが自分が使っていた毛布を半分俺に掛けてくれた。
そんな事したら、アリアが寒い思いをするのは分かっていたのだけれど。
アリアのその気持ちが嬉しくて、しばらく二人で肩をくっつけあって空を眺めた。
しかし、しばらくして今度はアリアがくしゃみをしたから再び毛布を掛け直してやれば、アリアがそれでは俺が風邪を引いてしまうと頭を振った。
どうしたものか。
アリアは意外と頑固だからな。
アリアに風邪を引かせるよりは、いっそ家に戻るか?
そう思って
「それで、願いは掛けられたか?」
そう尋ねてみた時だった。
アリアが目を逸らして
「うん」
小さな声で答えた。
声のトーンや視線のそらし方から、それが嘘であることはすぐに分かる。
きっと俺に風邪を引かさない為、流れ星に願いをかける事は諦めようと思ったのだろう。
……アリアは相変わらず不器用だな。
「おいで」
そういって毛布を広げれば、少し思案した後、子猫のようにアリアがするりと毛布の中に潜り込んできた。
アリアが凍えないよう、寒さから少しでも守れるようアリアごと毛布を深く抱き込む。
あぁ、俺がフカフカの毛皮を持った動物だったらよかったのに。
そうしたらもっとアリアを暖かくして守ってやれるのに。
少しでも体温を分けてやりたくて、アリアの冷たくなってしまった耳に自らの頬を当てた。
「アリアの願いは何だ?」
二人分の体温で暖かくなった毛布の中、アリアを手伝ってやろうと思ってそんな事を聞けば、何故かアリアに
「内緒」
そう言われてしまった。
まぁ、願いは口に出した方が叶うっていう説と、口に出すと叶わなくなるという説と両方あるもんな。
仕方がないので、俺は自分の願いを流れ星にかける事にした。
『どうか、この先アリアが幸せでありますよう』
0
お気に入りに追加
72
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる