【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

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番外編 永遠の迷宮探索者 ~新月の伝承と竜のつがい~

8.僕を呼ぶ声(sideテオドール)

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「テオ」

そう柔らかな声で親し気に名を呼ばれたのなんて、一体どれくらいぶりのことだろう。

どこか切なくなって声のした方を振り向けば、そこにはバスケットを持ったレリアがいた。
何でも先日の礼として、パイを焼いてきてくれたらしい。

受け取って二人でベンチに並んで掛け、それに口をつければ、レリアの作ってくれたパイは素朴で暖かな、懐かしい味がするような。
そんな気がした。






******

そんなある日、教会で祈るレリアを見つけた。
なんでも弟がまたまた熱を出したのだが、容態が悪化し、この街にある薬では治せないと薬師に匙を投げられたらしい。

『この街の迷宮の最深部に育つ珍しい薬草であればもしかしたら』

と薬師に言われレリアの両親は金策に走ったが、そんな効果な薬草を買える程の金は用立てられなかったのだという。
自分の持つ薬草の中にそれらしきものが無いか確認してもらったが、残念ながら僕の持ち物の中には見つけられなかった。

「だったら、僕が今すぐ潜って取って来よう」

そう言えば、レリアがパッとその顔を綻ばせた。


念のため、彼女にこの街の迷宮の中と外の時間の流れる速さの違いについて尋ねる。
せっかく彼女の弟の為、薬草を取りに潜ったところで、出て来たら何十年も経ってしまっていたとしたら、それはもう目も当てられない。

するとやはりこの街の物は迷宮と呼べる程のものではないらしく。
彼女は不思議そうに首を傾げた末、洞穴と外とで時間の流れが異なるなんてそんな話聞いた事がないと答えた。


「リターを返すようにして探せばすぐ見つかるって聞いたわ」

レリアにそう言われ、今度は僕が首を傾げた。
『リター』とは何だろう?
子供の頃より、騎士になる訓練は受けて来たが、森で薬草や山菜を探すような訓練は受けていない。

結局、レリアも僕と共に潜る事になった。




食料等の装備を整える為に、レリアとの待ち合わせ場所に向かう前に携帯食を扱う店に寄る。
ついでに今から向かう洞穴について尋ねれば、ブロンズランクの探索者であっても、二日もあれば往復が可能らしいことを教えてもらえた。

聞いた話によると、生息する魔獣も僕からすれば、害獣と大差ないらしい。






******

「何があっても絶対に守って見せると誓うけど。でも、出来るだけ離れないで」

そう言て自らレリアの手を取れば、また彼女に触れた部分が酷く痛んだ。


少し歩いてみて、事前に聞いていたとおりに洞穴の中は、火山の火口のような大きな縦穴があって、道は火口に続く細い登山道のようにグルグルと縦穴の周りを旋回しているらしい事が自分の目でも分かった。

「少しでも早い方がいいだろうから、近道しようか」

そう言いながら道の淵に立ち下を指させば、そんなの無茶だとレリアが顔を青くした。
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