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本編

呪いと祝福

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エーヴェルトが新たに身分の釣り合った妃を迎える事に、ついに深い失意のなか同意した。

あぁ、これでようやくレーアを助けられる。
そう思いとホッとして、彼女の手に触れた時だった。

レーアに触れた指がまるで燃えた薪に触れたかの様に酷く痛み、火傷を負った時のように火ぶくれを起こすと皮がベロッと剥け落ちた。

幸いすぐに魔法で治療し、騎士の制服の手袋を付けるようにしたから、その事はレーアにも、他の誰にも気づかれはしなかった。


番の香りを分からなくする呪い。
それをエーヴェルトにかける時、その報いを受けることは怖くなかった。

そもそも番の香りも分からなければ、触れるべき番もいないのだ。
何も困りはしない、そう思っていた。

それなのに。
呪いが成就した時から、レーアに触れられなくなった。

その事は本来悲しむべき事なのだろう。
しかし僕にとってそれは、むしろ祝福だった。

詭弁だと分かっている。
それでも。

恋心だけは自覚出来たレーアに触れられない事で、彼女こそが生涯で会えないと諦めていた番だと呪いに認められたような、そんな気がした。




レーアと番の真似事をしたいとか、そんな大それた事は望んでいなかった。

だから一度、彼女の身分を保証する為に自分の妻にならないかと尋ねたことはあったが、彼女はその申し出をあっさり断ったから、それ以上言い募ることはしなかった。

もとより直に触れることが叶わぬのだ。
また彼女に孤独を感じさせないためにも、自身の恋心はおくびにも出さぬよう気を付けた。




エーヴェルトに対しては、レーアを深く傷つけた事を深く恨んではいたが、同時に番を手放さざるを得なくなった彼に多少同情もしていた。
しかし再びレーアの前に姿を現しレーアを苦しめるエーヴェルトの姿を見て、レーアの為にヤツは殺さねばならないと、そう思った。

エーヴェルトは

『もう二度と会わない』

と、今は悲壮な決意を固めているようだが。
きっとその誓いはまた十年もすればエーヴェルトの執着によりあっけなく覆されるに決まっている。
そしてその度その醜い執着がレーアを傷つけるに違いない。

人であるレーアは、エーヴェルトの加護を受け他の人間よりも年を取るのが遅いとは言え、元々儚い存在だ。
だからそんな繰り返しは、絶対に許してはならない。

そう思った。







******

エーヴェルトを殺す方法を考えていたとき、ふと西の洞窟の最下層に降る光の事を思い出した。

『記憶を消す光』の正体は『ステータスを初期化する光』だった。
この光はもともと、罪人への罰として使われていたものらしい。


近衛を辞する時、エーヴェルトと手合わせをしたことがあったが、悔しい事に全く歯がたたなかった。
王宮を去って十年が経った今でも日々の鍛錬を欠かした事など無いが、普通に戦えば今なおエーヴェルトとの実力差は明白だろう。

しかし、エーヴェルトのステータスを初期化さえしてしまえば……。
恐らく勝機は僕にあるはずだ。




エーヴェルトをその光の下におびき出す為、光の噂をレーアに教え、彼女がそこに向かうよう各方面に密かに根回しをおこなった。
レーアはエーヴェルトと一緒に向かうとばかり思っていたから。
エーヴェルトを広場で見かけた時には、危うく僕がレーアを殺してしまったのではと酷く肝が冷えた。
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