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本編
テオドール
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【Theodore】
母はエーヴェルトの侍女をしていたから、僕は同い年のエーヴェルトとは兄弟の様にして育てられた。
そんな僕にとってエーヴェルトは主人であり、ライバルであり、そして親友であった。
しかし僕には、そんなエーヴェルトにも言えない秘密があった。
僕は、竜人なのに『番の香り』というものがどういうものなのか全く分からなかったのだ。
自分の鼻がおかしいのか、自分の身体のどこか別の所に欠陥があるのか、それとも自分の番がまだこの世に存在していないからなのか、はたまた別に原因があるのか。
確かなところは正直今でも全く分からない。
しかし、エーヴェルトや他の友人達がいろんな女性から好意を寄せられる度、
「彼女は僕の番ではない」
と何故断言出来るのか不思議でたまらなかったから、きっと他の竜人には分かる香りが僕には分からないのだと気づいた。
そして僕はそんな自分を酷く恥じていたし、きっと誰とも恋に落ちる事なく一人で死んでいくのだろうとこの世界を諦めていた。
そんな時だった。
エーヴェルトが、彼の番としてレーアを連れて来た。
人見知りで内気ながらも、心を許した相手に対しては良く笑う少女だったレーアは、エーヴェルトが王としての責務に忙殺され彼から蔑ろにされる内に、あっという間にその顔から笑顔を消しやせ細ってしまった。
ずっと傍で彼女を心配し続けるうちに、妙な親近感を覚えて、思わずふと自分がずっと隠してきたその秘密を話してしまったことがあった。
するとレーアは僕を馬鹿にするでもなく、憐れむでもなく
「私も番の香りなんて分からないわ。私達一緒ね」
そう言って久しぶりに、いたずらっ子の様に楽しそうに笑って見せたから。
僕はその時初めて恋に落ちる瞬間というものを理解してしまった。
しかし、レーアがエーヴェルトの番である以上どうこう出来るはずもなく……。
僕は、この思いを死ぬまで胸に秘めるつもりだった。
******
無邪気だったレーアが心を病んでどんどん衰弱していくのを見ているのは胸を締め付けられる様に辛く苦しく、侍女や医者と一緒に必死になってエーヴェルトに彼女を国に戻すよう説得した。
番と引き離されるエーヴェルトの嘆きは血を吐く様に深く、こちらの胸まで痛くて痛くてたまらないような気にさせられたし、レーアと離れることは、僕にとっても半身を切り取られるように辛かったが、それでも彼女がまた幸せに笑える日がくるのであれば彼女を国に帰すのが一番だと思った。
だからこそ。
エーヴェルトが彼女を攫って戻って来た時にはエーヴェルトに対して心から失望した。
どう見てもこの国を離れたことにより、彼女はせっかく良くなりつつあったことは明らかだったのに。
『君がいない世界で僕は生きていけない。でも、僕はここを離れられない。君が死んだら僕も死ぬ。だから、死ぬまでここに居てよ』
エーヴェルトのあの身勝手な言葉を聞いた時、一国も早く彼女をここから逃がさないとと思った。
しかしそれが果たせぬまま、ついに恐れいてた事態が起きた。
冷たい氷水を纏った彼女の髪を見た時、僕は自分の不甲斐なさを呪った。
幸い今回彼女は一命を取り留めたが、このままではエーヴェルトの執着のせいで彼女は逃げ出すことも出来ぬまま囚われ、緩やかに死んでいくのだろう。
だから……。
僕は、主人であり、親友でもあったエーヴェルトに呪いをかけた。
番の香りを認識出来なくする呪い。
竜人にしか掛けられないこの呪いは、自らも番の香りが分からなくなることに加え、番に触れる事も出来なくなるため、未だかつて誰も用いたことはないと聞く。
その為、
「レーアの番の香りが消えてしまった!」
皆はそんなエーヴェルトの言葉を鵜呑みにして、まさかエーヴェルト自身に欠陥が生じたのだとは今の今まで疑いもしなかった。
母はエーヴェルトの侍女をしていたから、僕は同い年のエーヴェルトとは兄弟の様にして育てられた。
そんな僕にとってエーヴェルトは主人であり、ライバルであり、そして親友であった。
しかし僕には、そんなエーヴェルトにも言えない秘密があった。
僕は、竜人なのに『番の香り』というものがどういうものなのか全く分からなかったのだ。
自分の鼻がおかしいのか、自分の身体のどこか別の所に欠陥があるのか、それとも自分の番がまだこの世に存在していないからなのか、はたまた別に原因があるのか。
確かなところは正直今でも全く分からない。
しかし、エーヴェルトや他の友人達がいろんな女性から好意を寄せられる度、
「彼女は僕の番ではない」
と何故断言出来るのか不思議でたまらなかったから、きっと他の竜人には分かる香りが僕には分からないのだと気づいた。
そして僕はそんな自分を酷く恥じていたし、きっと誰とも恋に落ちる事なく一人で死んでいくのだろうとこの世界を諦めていた。
そんな時だった。
エーヴェルトが、彼の番としてレーアを連れて来た。
人見知りで内気ながらも、心を許した相手に対しては良く笑う少女だったレーアは、エーヴェルトが王としての責務に忙殺され彼から蔑ろにされる内に、あっという間にその顔から笑顔を消しやせ細ってしまった。
ずっと傍で彼女を心配し続けるうちに、妙な親近感を覚えて、思わずふと自分がずっと隠してきたその秘密を話してしまったことがあった。
するとレーアは僕を馬鹿にするでもなく、憐れむでもなく
「私も番の香りなんて分からないわ。私達一緒ね」
そう言って久しぶりに、いたずらっ子の様に楽しそうに笑って見せたから。
僕はその時初めて恋に落ちる瞬間というものを理解してしまった。
しかし、レーアがエーヴェルトの番である以上どうこう出来るはずもなく……。
僕は、この思いを死ぬまで胸に秘めるつもりだった。
******
無邪気だったレーアが心を病んでどんどん衰弱していくのを見ているのは胸を締め付けられる様に辛く苦しく、侍女や医者と一緒に必死になってエーヴェルトに彼女を国に戻すよう説得した。
番と引き離されるエーヴェルトの嘆きは血を吐く様に深く、こちらの胸まで痛くて痛くてたまらないような気にさせられたし、レーアと離れることは、僕にとっても半身を切り取られるように辛かったが、それでも彼女がまた幸せに笑える日がくるのであれば彼女を国に帰すのが一番だと思った。
だからこそ。
エーヴェルトが彼女を攫って戻って来た時にはエーヴェルトに対して心から失望した。
どう見てもこの国を離れたことにより、彼女はせっかく良くなりつつあったことは明らかだったのに。
『君がいない世界で僕は生きていけない。でも、僕はここを離れられない。君が死んだら僕も死ぬ。だから、死ぬまでここに居てよ』
エーヴェルトのあの身勝手な言葉を聞いた時、一国も早く彼女をここから逃がさないとと思った。
しかしそれが果たせぬまま、ついに恐れいてた事態が起きた。
冷たい氷水を纏った彼女の髪を見た時、僕は自分の不甲斐なさを呪った。
幸い今回彼女は一命を取り留めたが、このままではエーヴェルトの執着のせいで彼女は逃げ出すことも出来ぬまま囚われ、緩やかに死んでいくのだろう。
だから……。
僕は、主人であり、親友でもあったエーヴェルトに呪いをかけた。
番の香りを認識出来なくする呪い。
竜人にしか掛けられないこの呪いは、自らも番の香りが分からなくなることに加え、番に触れる事も出来なくなるため、未だかつて誰も用いたことはないと聞く。
その為、
「レーアの番の香りが消えてしまった!」
皆はそんなエーヴェルトの言葉を鵜呑みにして、まさかエーヴェルト自身に欠陥が生じたのだとは今の今まで疑いもしなかった。
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