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本編
ドラゴンスレイヤー
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「なぁーん」
子猫について洞窟に入る。
魔法の力で灯りをともししばらく歩けば、地下に続いていく坂道が見え、その手前は暗くて見えにくいが切り立った崖になっていた。
「なぁーん、なぁーん」
子猫が立ち止まる先を見れば、崖の一部が新しく崩れた形跡が見られた。
「まさか?!」
下を照らしのぞき込むが、漆黒の闇が続くばかりでレーアの姿は見えない。
『レーア!!』
その名を叫びそうになるのをグッと堪える。
ここには凶悪な魔物が出るとテオから聞いている。
レーアが下にいるかもしれないのに、それらをわざわざ刺激して起こすわけには行かない。
「行くぞ!」
再びカバンを開け短く声をかけると子猫は心得ていたようにカバンの中に飛び込んで来た。
そうして僕は足元に注意しながら、出来るだけ静かに、しかし最大限のスピードで転がるようにして坂道を駆け下りていった。
******
蔓延る魔物を極力音を立てずに倒しながら、螺旋状に続く坂道をグルグル下る。
どのくらい降りただろうか。
見上げると、果てしない闇が上に上に続いていた。
しかし、どれだけ降りてもレーアの姿が見つからない。
そもそも、こんな距離を落ちて無事であるはずがないのだ。
絶望でその場に膝を折りそうになった時だった。
カリカリと子猫がカバンの中を掻いた。
蓋を開けてやると
「なぁーん」
そう鳴きながら、また僕について来いという。
祈るように、闇に解けてしまいそうなその小さな姿を追えば…‥子猫が立ち止まった先にレーアが倒れているのが見えた。
震える足で駆け寄れば、あり得ない方向に足が曲がってしまっていたが、奇跡的にまだ息があった。
レーアに教えたものよりも強い強い回復の詠唱を行い手を翳せば、少しずつ少しずつ彼女の傷が治る。
致命傷を治した後で、彼女が目を覚ます前に痛むであろう足や手を向きを戻し、骨を繋いでいく。
どのくらい一心不乱に彼女に力を使っていたのだろう。
「なぁーん」
子猫に呼ばれ、はっとして治療の手を止める。
レーアのステータスを確認すれば、大きな怪我は粗方治せたようで、ホッとその場に座り込んだ。
それにしても……。
良くあの高さを落ちて息があったものだと感心する。
少し先には折れたレーアの剣の柄が転がっていたから、恐らく反射的にあれを壁面に刺して落下のスピードを緩めたのだろう。
剣の適正があるとは言え、器用な事をしたものだ。
とは言え、それだけで助かるような高さではもちろんない。
未開のスキル暴食でどうなるものでもないだろう。
そう思って一つの可能性に思いつく。
『ドラゴンスレイヤー』
人の国の神話では、竜殺しは神の加護を受けて初めてなされるのだと聞いたことがある。
もしかしたら、レーアが助かったのはその加護によるものが大きかったのではないだろうか。
「竜人のもと番に悪趣味な称号を付けるものだと半ば恨みに思っていたが……。僕は感謝しなければいけなかったのかもしれないな」
そう子猫に話掛ければ、子猫は否定とも肯定ともとれる声で
「なぁーん」
と小さく鳴いて、また自らカバンの中に戻り丸くなった。
それからどのくらい経っただろう――
レーアの瞼がピクリと動き、そしてついにゆっくりとその瞳が開いた。
子猫について洞窟に入る。
魔法の力で灯りをともししばらく歩けば、地下に続いていく坂道が見え、その手前は暗くて見えにくいが切り立った崖になっていた。
「なぁーん、なぁーん」
子猫が立ち止まる先を見れば、崖の一部が新しく崩れた形跡が見られた。
「まさか?!」
下を照らしのぞき込むが、漆黒の闇が続くばかりでレーアの姿は見えない。
『レーア!!』
その名を叫びそうになるのをグッと堪える。
ここには凶悪な魔物が出るとテオから聞いている。
レーアが下にいるかもしれないのに、それらをわざわざ刺激して起こすわけには行かない。
「行くぞ!」
再びカバンを開け短く声をかけると子猫は心得ていたようにカバンの中に飛び込んで来た。
そうして僕は足元に注意しながら、出来るだけ静かに、しかし最大限のスピードで転がるようにして坂道を駆け下りていった。
******
蔓延る魔物を極力音を立てずに倒しながら、螺旋状に続く坂道をグルグル下る。
どのくらい降りただろうか。
見上げると、果てしない闇が上に上に続いていた。
しかし、どれだけ降りてもレーアの姿が見つからない。
そもそも、こんな距離を落ちて無事であるはずがないのだ。
絶望でその場に膝を折りそうになった時だった。
カリカリと子猫がカバンの中を掻いた。
蓋を開けてやると
「なぁーん」
そう鳴きながら、また僕について来いという。
祈るように、闇に解けてしまいそうなその小さな姿を追えば…‥子猫が立ち止まった先にレーアが倒れているのが見えた。
震える足で駆け寄れば、あり得ない方向に足が曲がってしまっていたが、奇跡的にまだ息があった。
レーアに教えたものよりも強い強い回復の詠唱を行い手を翳せば、少しずつ少しずつ彼女の傷が治る。
致命傷を治した後で、彼女が目を覚ます前に痛むであろう足や手を向きを戻し、骨を繋いでいく。
どのくらい一心不乱に彼女に力を使っていたのだろう。
「なぁーん」
子猫に呼ばれ、はっとして治療の手を止める。
レーアのステータスを確認すれば、大きな怪我は粗方治せたようで、ホッとその場に座り込んだ。
それにしても……。
良くあの高さを落ちて息があったものだと感心する。
少し先には折れたレーアの剣の柄が転がっていたから、恐らく反射的にあれを壁面に刺して落下のスピードを緩めたのだろう。
剣の適正があるとは言え、器用な事をしたものだ。
とは言え、それだけで助かるような高さではもちろんない。
未開のスキル暴食でどうなるものでもないだろう。
そう思って一つの可能性に思いつく。
『ドラゴンスレイヤー』
人の国の神話では、竜殺しは神の加護を受けて初めてなされるのだと聞いたことがある。
もしかしたら、レーアが助かったのはその加護によるものが大きかったのではないだろうか。
「竜人のもと番に悪趣味な称号を付けるものだと半ば恨みに思っていたが……。僕は感謝しなければいけなかったのかもしれないな」
そう子猫に話掛ければ、子猫は否定とも肯定ともとれる声で
「なぁーん」
と小さく鳴いて、また自らカバンの中に戻り丸くなった。
それからどのくらい経っただろう――
レーアの瞼がピクリと動き、そしてついにゆっくりとその瞳が開いた。
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