異能力と妖と短編集

彩茸

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神様の仰せのままにコラボ

刀刃読書

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―――これは、雨谷うこくがまだ《どっちつかず》であり、《刀の武神》として存在して
いた頃の話である。
彼の本来の名は刀谷とうこく。この頃はまだ、雨谷と名乗ることは少なかった。
刀谷は《どっちつかず》の神であるが故に他の《武神》と比べ圧倒的な強さを誇って
おり、《武神》の中で彼の名を知らない者は居ないとまでされていた。
・・・ただ、そんな彼と同等の力を持つ《武神》が一柱だけ存在していた。その名も
刃紗羅ばさら、《刃の武神》である。

「・・・・・・何だ」

 切り株に腰掛け本を読んでいた刃紗羅の隣に、刀谷が立つ。本から視線を横に
 向けた刃紗羅に、刀谷は言った。

「刃紗羅、何か面白いことない?オイラ暇でさ~」

 刃紗羅は溜息を吐く。《どっちつかず》であるが故に使命に囚われず、いつも
 フラフラしている刀谷。そんな彼に暇だと言われても、退屈しのぎになりそうな
 ものなど知らない訳で。

「暇なら、本でも読んだらどうだ」

 そう言って刃紗羅は、切り株の傍に積んである己の私物である本を指さす。

「えー、オイラ本とかそんなに興味ないんだけど。それに刃紗羅が読んでるのって、
 小難しいこと書いてありそうなんだよね~」

 刃紗羅クソ真面目じゃん?と刀谷が言うと、刃紗羅は怪訝な顔をして立ち上がる。
 殆どの《武神》の身長は、通常の人間の1.5倍はある。対して刀谷は《どっち
 つかず》故か、少し大きいながらも人間と同じような身長であった。
 かなり見上げる形になっている刀谷に対し、刃紗羅は積んである本の中から一冊
 取り出して刀谷に渡す。少し嫌そうな顔をした刀谷に、刃紗羅は言った。

「これならお前でも読みやすいだろう。人の子が書いた本だ、我の私物だが貸して
 やろう」

「人間が、ねえ・・・」

 刀谷は一瞬暗い顔をするが、すぐにニコニコと笑って言った。

「折角だ、読んでみるよ」



―――それから数ヶ月後、《武神》としての使命を果たし休憩を取っていた刃紗羅の
前に刀谷が現れる。

「刀谷、何故終わってから来るのだ・・・」

 刃紗羅が呆れた声で言うと、刀谷は豪快に笑う。

「あっはっはっは、オイラは君達と違って使命に固執していないからね~。あっ
 そうそう、これを返しに来たんだよ」

 そう言った刀谷は、懐から本を取り出す。ありがと~と本を差し出した刀谷に、
 刃紗羅は言った。

「どうだった」

「え?うーん・・・。人間って、やっぱりオイラとは感性が違うんだなーって
 思ったよ」

 刀谷の回答に、刃紗羅はそうかと言いながら本を受け取る。

「ねえ刃紗羅、他にも面白そうな本あったら貸し・・・」

「刃紗羅様、急ぎご報告が!!」

 刀谷の言葉を遮るようなタイミングで、他の《武神》が巫女と共に駆け寄って
 くる。

「何だ」

 そのまま《武神》や巫女と話し合いを始めてしまった刃紗羅に対し、刀谷は不満
 そうな顔をしながらその様子を眺める。

「・・・やっぱ良いや、オイラ帰るね」

 そう言って刀谷が立ち去ろうとすると、報告をしていた《武神》が言った。

「刀谷様、貴方にも関係のある話なのですから帰らないでください」

「えー・・・」

 明らかに嫌そうな顔をした刀谷に、《武神》と巫女、そして刃紗羅が溜息を吐く。

「刀谷、《どっちつかず》であるとはいえ、お前も《武神》だろう。使命を果たせ」

「纏め役ってどうしてそう真面目なのかな~、オイラいなくても良いじゃんかあ」

 刃紗羅の言葉に刀谷はそう言いつつも、渋々といった様子で話に混ざるのだった。



―――《武神》の使命、それは穢れた神を討伐することである。
別々の場所に現れた、複数体の穢れた神。先日あった《武神》と巫女の報告通りで
あるそれに、それぞれの場所で立ち向かう影が二つ。

『刀谷、お前なら大丈夫だろうが・・・』

『あっはっはっは、人の心配してる暇あるの~?・・・まあ、君なら大丈夫だろう
 けど』

 通信用の陣を通し会話する、刃紗羅と刀谷。互いの実力を信頼し合う二柱の神は、
 各々の武器を持ち穢れた神を見据える。

『・・・ああ、そうだ。刃紗羅、これ終わったら本貸して。面白そうなやつ』

『何故今言うのだ。・・・分かった、勝手に帰るなよ』

 切れた通信、迫る穢れた神々。刀谷は刀を構え、ボソリと呟いた。

「さて、どっちが早く終わるかな」



―――時は流れ、現代。運命には抗えず、妖に堕ちた刀谷。彼は名を捨て、雨谷と
名乗っていた。
彼が生業としている刀鍛冶の依頼も今日はなく、雨谷は自身の本棚を漁る。

「本増えたな~、また誰かにあげなきゃかな・・・」

 そんなことを呟きつつ、本棚の奥の方から一冊の古めかしい本を取り出す。
 その場に座った雨谷は、内容を全て覚えてしまったその本を読み始めた。
 慎重にページを捲り、時折小さく笑う。時間が経つのも忘れ、夢中でページを捲り
 続ける。

「雨谷様、昼食のご用意が・・・」

 そっと部屋の扉を開けた従者の雪華せつかが、雨谷の様子を見て優しく笑う。

「あ、もうそんな時間?ありがと~、今行くよ」

 顔を上げた雨谷はそう言って、そっと本を閉じる。

「久しぶりに見ました、その本。最近は読んでいらっしゃらなかったのですか?」

「まあね~。何百年も前の本だし、昔神通力で丈夫にしてもらったとはいえ、
 ちょくちょく読んでたらすーぐボロボロになっちゃうからさ。最近は控えて
 たんだよ~」

 雪華の問いに雨谷はそう答え、本を置いて立ち上がる。

「雨谷様が一番大切にしていらっしゃる本ですものね」

 そう言ってニコニコと笑った雪華に、雨谷は頷いて言った。

「オイラがよく本を読むようになったきっかけの本だからね~。貰い物だし、大切に
 しなきゃ」

 それに・・・と雨谷は部屋を出て歩きながら続ける。

「最初は理解できなかったけど、段々あれを書いた人間の心情っていうの?それが
 分かるようになってきてさ。それからは読む度に新しい発見がある気がして、
 楽しいんだ」

 何処となく嬉しそうな顔の雨谷に、そうですかと雪華も嬉しそうに笑う。
 ・・・昔々の、《武神》二柱。時は移ろえどその本は、彼らが確かに存在した証で
 ある。
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