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if『幼妖騒動』
陸
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―――襲い掛かってくる異形を、殺さない程度に斬り付ける。
直感的にもう元の姿に戻ることはないんだろうと思うが、それでもやはり気配が
人間であるため抵抗があった。
ちらりと誠と天狗さんを見ると、二人も同じことを考えているのか異形を殺さず
気絶させる程度に留めていた。
「甘い奴らじゃのう・・・」
男は俺達を見ると、下卑た笑みを浮かべる。男の元へ行きたいが、異形達が
邪魔で前へ進めない。
いっそ霧で視界を塞いでみるか?いや、それだと誠と天狗さんの視界も・・・
なんて考えていると、狗神の声が聞こえた。
「狼昂、食って良いぞ」
ハッとして狗神の方を見ると同時に、俺の横を何かが通り過ぎる。
「狗神?!」
天狗さんの驚く声が聞こえる。そちらを見ると狼昂が異形を狩り、その死骸を
食べていた。
「・・・主様、お言葉ですが」
口を真っ赤に染めた狼昂がそう言って狗神を見る。狗神が首を傾げると、狼昂は
骨をペッと吐き出して言った。
「この異形、かなり不味うございます」
「ニオイは人間寄りじゃのに・・・」
狗神はそう言って不服そうな顔をする。
「あ奴らしいというか、何というか・・・」
天狗さんがそう言って溜息を吐く。
呆れた様子の天狗さんとは裏腹に、男はわなわなと震えていた。
「わっ、我の下僕を食ったなあ?!なんっという狼藉!万死に値する!!」
汚らしく唾を飛ばしながら男は叫ぶ。隣で誠がうっわ・・・とドン引いていた。
「雨谷様。あのような者が、見てはいけない者ですよ」
「神にも変なのがいるんだねえ・・・」
雪華と雨谷の会話が聞こえる。
暴言を吐きながら唾を飛ばし続ける男を横目に、俺達は次々と異形を気絶させて
いく。
異形の数も残り少なくなり、まだ聞こえる暴言に俺が溜息を吐くと男は言った。
「・・・そこの人間。我の下僕になれ」
「はあ?」
何だ突然と俺が首を傾げると、男はニタリと笑う。
「我の下僕になれば、貴様の欲しいものをやろう。どうじゃ?ほれ、欲しいものを
言うてみい」
俺は男に一歩踏み出す。誠の困惑した声が聞こえるが、更にもう一歩踏み出す。
「欲しいものってのは、例えば何がある?」
「何でもやろう。何が欲しい?金か?地位か?名誉か?女か?」
俺の言葉に男は下卑た笑みを浮かべながら言う。俺は男にゆっくりと近付きながら
言った。
「生憎だが、金には困ってないし、『最強』なんて地位も貰ってる。名誉は別に
要らないし、女は・・・」
俺は刀を振り上げる。そして、言った。
「お前に与えてもらう必要はない。いるんだよ、好きな子」
刀を思いっ切り振り下ろす。男はそれを避けるが、俺の目的は男じゃない。
ガシャン!と音が鳴る。刀が砕いたのは、男の後ろにあった壺だった。
「なっ・・・?!」
男が焦ったような表情になる。その時、後ろから光が迸った。
振り返ると、そこには元の姿の狗神と雨谷が立っていて。キョトンとした顔の
狗神の隣で、雨谷がヘラヘラと笑っていた。
「結構記憶曖昧だけど、何となーく状況は分かるよ~」
雨谷がそう言って俺を見る。
「・・・何となくじゃが、何をすれば良いのかは分かる」
狗神がそう言って男に近付く。雨谷もその後ろから男に近付くと狗神の隣に立ち、
強張った顔で地面にへたり込む男を見下ろして言った。
「君がこんな状況にしたのかな~?」
「こ奴以外には考えられんじゃろう」
雨谷と狗神は笑う。・・・だが、その目は全く笑っていなかった。
「ひ、ひいい・・・」
男が情けない声を出す。雨谷が男の目をじっと見ると、男は動きを止める。
雨谷と狗神は拳を振り上げ、同時に言った。
「分を弁えろ、痴れ者が」
ガンッ!!と音がする。男は鼻血を噴き上げながら倒れると、ガクリと動かなく
なった。
「わあ・・・」
誠が顔を青くしながら呟く。天狗さんは溜息を吐き、雪華は安心したように笑って
いた。
「何か迷惑掛けたみたいでごめんね~?」
雨谷がそう言ってヘラヘラと笑う。
「天狗まで居るとは・・・何だか珍しいの」
狗神がそう言って天狗さんを見る。
「お主が小さくなっておったからじゃろうが」
天狗さんがそう言うと、狗神は足元にやって来た狼昂を撫でながら言った。
「どうも記憶が曖昧での。夢か現かはっきりせんというか・・・」
「分かる~。・・・ねえ雪華、何があったの?」
雨谷がそう言って雪華を見る。雪華は優しく微笑むと、雪華より身長の高くなった
雨谷に近付き頭を撫でて言った。
「幼い雨谷様と沢山お話をしました」
雨谷は雪華の目をじっと見る。そして顔を真っ赤にすると、雪華から数歩下がって
慌てたように言った。
「わっ、忘れて!すっごい恥ずかしいやつじゃんそれ!!」
初めて見る雨谷の表情に、俺だけでなく狗神も驚いた顔をする。
雪華だけは、嬉しそうにニコニコと笑っていた。
直感的にもう元の姿に戻ることはないんだろうと思うが、それでもやはり気配が
人間であるため抵抗があった。
ちらりと誠と天狗さんを見ると、二人も同じことを考えているのか異形を殺さず
気絶させる程度に留めていた。
「甘い奴らじゃのう・・・」
男は俺達を見ると、下卑た笑みを浮かべる。男の元へ行きたいが、異形達が
邪魔で前へ進めない。
いっそ霧で視界を塞いでみるか?いや、それだと誠と天狗さんの視界も・・・
なんて考えていると、狗神の声が聞こえた。
「狼昂、食って良いぞ」
ハッとして狗神の方を見ると同時に、俺の横を何かが通り過ぎる。
「狗神?!」
天狗さんの驚く声が聞こえる。そちらを見ると狼昂が異形を狩り、その死骸を
食べていた。
「・・・主様、お言葉ですが」
口を真っ赤に染めた狼昂がそう言って狗神を見る。狗神が首を傾げると、狼昂は
骨をペッと吐き出して言った。
「この異形、かなり不味うございます」
「ニオイは人間寄りじゃのに・・・」
狗神はそう言って不服そうな顔をする。
「あ奴らしいというか、何というか・・・」
天狗さんがそう言って溜息を吐く。
呆れた様子の天狗さんとは裏腹に、男はわなわなと震えていた。
「わっ、我の下僕を食ったなあ?!なんっという狼藉!万死に値する!!」
汚らしく唾を飛ばしながら男は叫ぶ。隣で誠がうっわ・・・とドン引いていた。
「雨谷様。あのような者が、見てはいけない者ですよ」
「神にも変なのがいるんだねえ・・・」
雪華と雨谷の会話が聞こえる。
暴言を吐きながら唾を飛ばし続ける男を横目に、俺達は次々と異形を気絶させて
いく。
異形の数も残り少なくなり、まだ聞こえる暴言に俺が溜息を吐くと男は言った。
「・・・そこの人間。我の下僕になれ」
「はあ?」
何だ突然と俺が首を傾げると、男はニタリと笑う。
「我の下僕になれば、貴様の欲しいものをやろう。どうじゃ?ほれ、欲しいものを
言うてみい」
俺は男に一歩踏み出す。誠の困惑した声が聞こえるが、更にもう一歩踏み出す。
「欲しいものってのは、例えば何がある?」
「何でもやろう。何が欲しい?金か?地位か?名誉か?女か?」
俺の言葉に男は下卑た笑みを浮かべながら言う。俺は男にゆっくりと近付きながら
言った。
「生憎だが、金には困ってないし、『最強』なんて地位も貰ってる。名誉は別に
要らないし、女は・・・」
俺は刀を振り上げる。そして、言った。
「お前に与えてもらう必要はない。いるんだよ、好きな子」
刀を思いっ切り振り下ろす。男はそれを避けるが、俺の目的は男じゃない。
ガシャン!と音が鳴る。刀が砕いたのは、男の後ろにあった壺だった。
「なっ・・・?!」
男が焦ったような表情になる。その時、後ろから光が迸った。
振り返ると、そこには元の姿の狗神と雨谷が立っていて。キョトンとした顔の
狗神の隣で、雨谷がヘラヘラと笑っていた。
「結構記憶曖昧だけど、何となーく状況は分かるよ~」
雨谷がそう言って俺を見る。
「・・・何となくじゃが、何をすれば良いのかは分かる」
狗神がそう言って男に近付く。雨谷もその後ろから男に近付くと狗神の隣に立ち、
強張った顔で地面にへたり込む男を見下ろして言った。
「君がこんな状況にしたのかな~?」
「こ奴以外には考えられんじゃろう」
雨谷と狗神は笑う。・・・だが、その目は全く笑っていなかった。
「ひ、ひいい・・・」
男が情けない声を出す。雨谷が男の目をじっと見ると、男は動きを止める。
雨谷と狗神は拳を振り上げ、同時に言った。
「分を弁えろ、痴れ者が」
ガンッ!!と音がする。男は鼻血を噴き上げながら倒れると、ガクリと動かなく
なった。
「わあ・・・」
誠が顔を青くしながら呟く。天狗さんは溜息を吐き、雪華は安心したように笑って
いた。
「何か迷惑掛けたみたいでごめんね~?」
雨谷がそう言ってヘラヘラと笑う。
「天狗まで居るとは・・・何だか珍しいの」
狗神がそう言って天狗さんを見る。
「お主が小さくなっておったからじゃろうが」
天狗さんがそう言うと、狗神は足元にやって来た狼昂を撫でながら言った。
「どうも記憶が曖昧での。夢か現かはっきりせんというか・・・」
「分かる~。・・・ねえ雪華、何があったの?」
雨谷がそう言って雪華を見る。雪華は優しく微笑むと、雪華より身長の高くなった
雨谷に近付き頭を撫でて言った。
「幼い雨谷様と沢山お話をしました」
雨谷は雪華の目をじっと見る。そして顔を真っ赤にすると、雪華から数歩下がって
慌てたように言った。
「わっ、忘れて!すっごい恥ずかしいやつじゃんそれ!!」
初めて見る雨谷の表情に、俺だけでなく狗神も驚いた顔をする。
雪華だけは、嬉しそうにニコニコと笑っていた。
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