異能力と妖と

彩茸

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決戦編

無痛

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―――田中さんと石田さんに置いてきた麗奈さんを任せ、俺達は雪華の妖術で
工房へと向かう。
煙で真っ白だった視界が晴れるとそこは工房の入口で、便利な妖術だななんて
考えていた。

「狗神呼んでくるから、部屋で待ってて」

 雨谷はそう言うと、雪華と共に姿を消す。
 落魅を先頭に部屋に入った俺達は、畳に寝っ転がった。

「途中からずっと見てただけなのに、何だか凄く疲れました・・・」

 清水さんがそう言ってゴロゴロと転がる。
 誠もそれにつられるようにゴロゴロと転がると、ボソリと言った。

「まさか、田中さんが石田さんと一緒に迷子になってるとは思わなかった
 よねー・・・」

「逆に才能だと思うわよ、石田さん・・・」

「まあ、巻き込まずに済んだし結果オーライかもな」

 彩音の言葉に和正はそう言うと、な?と俺を見る。

「え?ああ・・・」

 俺の反応に和正が一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐにいつもの表情に戻ると
 俺の頭をそっと撫でる。
 起き上がった俺が晴樹を見ると、晴樹は未だ眠ったままだった。

「落魅、ありがとな」

 晴樹を布団の上に寝かせた落魅に俺がそう言うと、落魅は無言で俺の元へ来て
 頬をつねった。
 俺が首を傾げると、落魅は溜息を吐いて悲しそうな顔をする。

「痛みは?」

「ないけど」

 落魅の言葉にそう返すと、落魅はそうですかいと言って立ち上がる。
 部屋を出て行こうとした落魅に、俺は聞いた。

「何処に行くんだ?」

「・・・包帯を探してくるんでさあ。あんたの腹に巻いちまいやしたからねい」

 落魅はそう言って、部屋を出る。
 足音が去っていった後、誠が俺の頬に手を当てて小さな声で何かを呟いた。

「・・・静くん、本当に痛くないの?」

 誠が不安そうな顔で俺を見る。
 俺が頷くと、誠は悲しそうな顔で呟くように言った。

「静くんの頬、凄く赤くなってたんだよ・・・?」



―――暫くして、雨谷と雪華が狗神を連れて戻って来る。
狗神の姿を見た誠は安心したのか、泣きそうな顔で狗神に抱き着いた。
誠の頭を撫でながら、狗神は俺達を見る。そして深く息を吐くと、優しく笑って
言った。

「よく頑張ったの」

 彩音と清水さんが泣きそうな顔になり、俯く。ちらりと和正を見ると、不安そうな
 顔で俺を見ていた。

「和正?」

 首を傾げた俺に、和正は首を小さく横に振る。

「狗神さん、取り敢えず静也と晴樹の治療お願いして良いですか」

 誠の力じゃ治しきれなかったんです。そう言った和正に同意するように、誠が
 コクリと頷く。
 狗神は俺をちらりと見た後、晴樹の体に手を当てて小さな声で何かを呟いた。
 晴樹の体が光った後、狗神は誠を見る。

「誠、前よりも治癒術が上手くなっておるな。応急手当としては完璧じゃ」

「・・・でも、ボクはお祖父ちゃんみたいに治せないんだ」

 俯いた誠に、その歳でワシ並じゃったらワシの出番がなくなるじゃろうがと狗神は
 笑う。

「山霧の、お主の弟は運が良いの。心臓をギリギリ避けて刺されとる」

 狗神がそう言って俺を見る。良かったと俺が笑うと、狗神は悲しそうな顔をして
 言った。

「だから、安心してお前さんは寝ろ。その状態のまま動き続けていたら死ぬぞ」

「え?でも俺、何処も痛くないし・・・」

「良いからさっさと寝なせえ」

 部屋の隅で俺達を眺めていた落魅が、語気を強めて言う。
 いつものように包帯を巻いているためしっかりとした表情は分からなかったが、
 何となく睨まれているような気がした。

「・・・分かった」

 俺はそう言うと、晴樹の隣に布団を敷いて潜り込む。
 突然襲ってきた眠気に意識が朦朧とする中、狗神の声が聞こえた。

「すまんが、皆は他の部屋へ移動してくれんか。・・・落魅と、話があるんじゃ」
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