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妖刀編
父母
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―――応接室と書かれた部屋に通されると、そこには既に晴樹が居た。
晴樹は僕の顔を見ると一瞬怯えた様子を見せるが、すぐに安心したような顔をする。
「な、何かあったら呼んでね・・・?」
小里先生がそう言って部屋から出て行く。僕が目の前に座る二人を見ると、二人は
にこやかな笑みを浮かべて言った。
「久しぶり」
「・・・誰だ、お前ら」
僕は二人を睨みつける。顔や声は父さんと母さんそのものだったが、僕の知って
いる気配じゃなかった。
「おいおい、忘れちゃったのか?父さんだぞー」
男がそう言ってニコニコと笑う。
「まあ、座って?」
女が優しい笑みを浮かべて僕を見る。
取り敢えず晴樹の隣に座ると、晴樹が震える手で僕の袖を掴んできた。
「静兄、どうしよう。違うって、分かってるのに・・・!」
今にも泣きだしそうな声で、晴樹が言う。
「静也も大きくなったな、今年で18か?」
男がそう言って僕を見る。
「晴樹、お兄ちゃんと仲良くしてる?」
女がそう言って晴樹を見る。
晴樹は俯いて小さく頷くと、僕の袖を握る手に力を込めた。
大丈夫と呟いて、僕は晴樹の頭を撫でる。そして、二人に向かって吐き捨てる
ように言った。
「何のつもりだ、用件を言え。でなければ今すぐに消えろ」
男と女は顔を見合わせると、困ったように笑って僕を見る。
「はーあ、やっぱ息子にはバレちゃうか」
「だから言ったでしょう、無理があると」
男と女はそう言うと、一瞬煙に包まれた。すぐさま煙が晴れ、そこには父さんと
母さんには全く似ていない若い男女が居た。
驚きつつも二人を見ていると、真っ黒な髪で光を映さない深淵のような黒い目を
した男性が、隣に居る髪も肌も目も白い女性に話し掛けた。
「やっぱさあ、タケちんの言うことテキトーだよね」
「奥様の方もノリノリでしたし、いけると思っていたのではないですか?」
「マジい?あの夫婦どうなってんだよ~」
先程とは全く声の違う男と女の会話を聞いていると、ふと男と目が合う。
僕が睨みつけると、男はヘラヘラと笑いながら言った。
「そうだそうだ、自己紹介しなきゃだね~。オイラは雨谷、分かりやすく言やあ
妖だ」
「私は雪華。雨谷様の従者でございます」
僕と晴樹は無言で二人を見る。すると男・・・雨谷が、僕を指さして言った。
「今の夜月の所有者、君なんだって?」
「・・・だったら何だ」
「そんな怖い顔するなって!ちょっと聞きたいことがあるだけさ」
雨谷はそう言って笑うと、じっと僕の目を見て言った。
「君が夜月を持つ理由って、何だい?」
「理由・・・?」
特に理由なんてない。父さんから譲り受けたから、持っているだけ。そんな事を
考えていると、女・・・雪華が言った。
「雨谷様、その質問の仕方ではこちらの真意が伝わらないかと」
「え~、じゃあ聞き方を変えようか。静也、君は妖刀を使って何がしたい?」
雨谷の問いに、僕は少し考える。
「・・・僕が守りたいものを、守る」
そう答えると、それだけ?と雨谷は言った。雨谷に見つめられていると、何だか
心を見透かされているような気分になる。
不快感を感じながらも、僕は頷く。すると、雨谷は晴樹に言った。
「オイラ陰陽師の銃は管轄外なんだけど・・・晴樹は、それを使って何がしたい?」
晴樹は俯いて、ボソリと言った。
「・・・・たい」
「ん?」
晴樹が何を言ったのか聞き取れず、僕だけでなく雨谷も首を傾げる。
晴樹は息を吸い込むと、今度は雨谷の目を見てはっきりと言った。
「お父さんとお母さんの、仇を討ちたい」
「へえ、立派な回答だ」
雨谷は満足そうな顔でそう言うと、僕を見る。
「ほら、守るだけかい?まだ隠してるだろ?本心」
雨谷の目に吸い込まれそうな気分になる。気付けば、僕は口を開いていた。
「・・・殺したい。父さんと母さんを殺したあの狐を、僕は殺したい」
「はいはい、よくできました~!」
雨谷がニコニコと笑うと、体が軽くなった気がした。そして今になって、どうして
自分は見ず知らずのこいつらと話しているんだろうという気持ちになる。
「いや~、これで恨んでませんーなんて言われたら夜月へし折るところだったよ」
「そんなことをすればあの方に怒られてしまいますよ」
「あー、タケちん怒らせたら怖いんだよね~」
雪華の言葉に雨谷がそう言って苦笑いを浮かべる。すると、晴樹が言った。
「・・・ねえ。さっきも言ってたけど、タケちんって・・・誰?」
雨谷はキョトンとした顔をすると言った。
「え?タケちんはタケちんだよ」
「・・・雨谷様、おそらくそれでは伝わらないかと」
雪華はそう言うと、僕達を見て言った。
「雨谷様の仰っているタケちんとは、山霧 武様。お二人の御父上のことでござい
ます」
「父さんの知り合い?!」
僕が驚いて言うと、雨谷はヘラヘラと笑いながら言った。
「知り合いもなにも、オイラはずーっと前から山霧家の知り合いだぞー」
「え・・・?」
晴樹が困惑した表情を浮かべる。すると、雪華が補足するように言った。
「妖刀、夜月が山霧家に代々伝わる刀であるということはご存じでしょうか。
その夜月を作ったのが、雨谷様でございます。・・・千年以上も前になりますが、
雨谷様は山霧家当主の依頼で妖刀を作っておりました。しかし妖刀とは人間の身
には過ぎた物。ですから、雨谷様は夜月の所有者が変わる度にこうして質問をして
いらっしゃるのです」
「そういや所有者変わったって言ってたなーと思って、タケちんの家に行ったらさ?
死んでるんだもん、びっくりしたよね~。こっちに残ってたから良かったけどさ、
成仏してたらオイラ途方に暮れてたよ」
あはは~と暢気に笑いながら雨谷は言う。
情報を整理するために黙って聞いていたが、ふと気になった。
「こっち・・・?」
呟いた僕に、雨谷は頷く。
「現世って言うんだっけ?タケちんもタケちんの奥さんも、タケちんの家の庭にある
墓っぽい所で駄弁ってたよ~」
「それって、幽霊・・・?」
晴樹が聞くと、そんな感じ~と雨谷は頷く。
・・・そうか、父さんと母さんはまだあそこに居たんだ。そんな事を考えている
と、雨谷が言った。
「あーそうそう、タケちんが言ってたんだけどさあ。・・・静也、夜月でスイカ割り
したんだって?」
「あっ・・・」
確かに一昨年の夏、和正の提案で夜月を使ってスイカを斬った。
あの時誠が笑い声がどうとか言っていたが、もしや・・・。
「・・・見られてたね、静兄」
晴樹がボソリと言う。ヤバいと思ってちらりと雨谷を見ると、雨谷は楽しそうに
笑っていた。
「いや~、タケちんも意味不明な使い方してたけど、まさか息子もするとはね~」
他にはどんな使い方したの?と雨谷は僕の目を見る。また目に吸い込まれそうな
気分になり、直感的に嘘が吐けないやつだと感じる。
「えっと、その・・・妖の口が閉じないようにストッパーにしたり、避雷針代わりに
したり、とか・・・」
僕の言葉に、雨谷はタケちんと同じことしてるじゃーん!と腹を抱えて笑い出す。
僕と晴樹が顔を見合わせていると、雪華が言った。
「・・・雨谷様、そろそろお時間でございます」
「え、マジで?もうそんな時間か~」
雨谷は少し寂しそうな顔をすると、僕と晴樹を見て言った。
「そうだそうだ、タケちんから伝言預かってたんだった」
「伝言?」
僕と晴樹が首を傾げると、雨谷はコホンと咳払いをして言った。
「『静也、晴樹、辛い思い沢山させてごめんな。父さんも母さんも、ここで二人の
ことずっと見守ってるから。どんなに離れていても、一緒だ。・・・大好きだよ』
だってさ~」
雨谷から父さんの声で言われた伝言に、気付けば涙が溢れていた。
とめどなく溢れる涙を必死に拭っていると、雪華が僕と晴樹に言った。
「奥様からも伝言を預かっております。お伝えしてもよろしいでしょうか」
僕達が頷くと、雪華もコホンと咳払いをして言った。
「『静、晴、お母さんだよ~!ちゃんとご飯食べてる?お風呂も入ってる?
えっと・・・死んじゃってごめんね。でも安心して!お母さんもお父さんも
元気です!!』・・・以上です」
雪華が母さんの声で言った伝言に、思わず吹き出す。流石母さんだなあと思い
ながら晴樹を見ると、晴樹が事件以前と同じ笑顔で笑っていた。
晴樹の笑顔につられて、僕も笑う。涙を流しながらも笑っている僕達を見て、
雨谷が優しい笑みを浮かべている気がした。
晴樹は僕の顔を見ると一瞬怯えた様子を見せるが、すぐに安心したような顔をする。
「な、何かあったら呼んでね・・・?」
小里先生がそう言って部屋から出て行く。僕が目の前に座る二人を見ると、二人は
にこやかな笑みを浮かべて言った。
「久しぶり」
「・・・誰だ、お前ら」
僕は二人を睨みつける。顔や声は父さんと母さんそのものだったが、僕の知って
いる気配じゃなかった。
「おいおい、忘れちゃったのか?父さんだぞー」
男がそう言ってニコニコと笑う。
「まあ、座って?」
女が優しい笑みを浮かべて僕を見る。
取り敢えず晴樹の隣に座ると、晴樹が震える手で僕の袖を掴んできた。
「静兄、どうしよう。違うって、分かってるのに・・・!」
今にも泣きだしそうな声で、晴樹が言う。
「静也も大きくなったな、今年で18か?」
男がそう言って僕を見る。
「晴樹、お兄ちゃんと仲良くしてる?」
女がそう言って晴樹を見る。
晴樹は俯いて小さく頷くと、僕の袖を握る手に力を込めた。
大丈夫と呟いて、僕は晴樹の頭を撫でる。そして、二人に向かって吐き捨てる
ように言った。
「何のつもりだ、用件を言え。でなければ今すぐに消えろ」
男と女は顔を見合わせると、困ったように笑って僕を見る。
「はーあ、やっぱ息子にはバレちゃうか」
「だから言ったでしょう、無理があると」
男と女はそう言うと、一瞬煙に包まれた。すぐさま煙が晴れ、そこには父さんと
母さんには全く似ていない若い男女が居た。
驚きつつも二人を見ていると、真っ黒な髪で光を映さない深淵のような黒い目を
した男性が、隣に居る髪も肌も目も白い女性に話し掛けた。
「やっぱさあ、タケちんの言うことテキトーだよね」
「奥様の方もノリノリでしたし、いけると思っていたのではないですか?」
「マジい?あの夫婦どうなってんだよ~」
先程とは全く声の違う男と女の会話を聞いていると、ふと男と目が合う。
僕が睨みつけると、男はヘラヘラと笑いながら言った。
「そうだそうだ、自己紹介しなきゃだね~。オイラは雨谷、分かりやすく言やあ
妖だ」
「私は雪華。雨谷様の従者でございます」
僕と晴樹は無言で二人を見る。すると男・・・雨谷が、僕を指さして言った。
「今の夜月の所有者、君なんだって?」
「・・・だったら何だ」
「そんな怖い顔するなって!ちょっと聞きたいことがあるだけさ」
雨谷はそう言って笑うと、じっと僕の目を見て言った。
「君が夜月を持つ理由って、何だい?」
「理由・・・?」
特に理由なんてない。父さんから譲り受けたから、持っているだけ。そんな事を
考えていると、女・・・雪華が言った。
「雨谷様、その質問の仕方ではこちらの真意が伝わらないかと」
「え~、じゃあ聞き方を変えようか。静也、君は妖刀を使って何がしたい?」
雨谷の問いに、僕は少し考える。
「・・・僕が守りたいものを、守る」
そう答えると、それだけ?と雨谷は言った。雨谷に見つめられていると、何だか
心を見透かされているような気分になる。
不快感を感じながらも、僕は頷く。すると、雨谷は晴樹に言った。
「オイラ陰陽師の銃は管轄外なんだけど・・・晴樹は、それを使って何がしたい?」
晴樹は俯いて、ボソリと言った。
「・・・・たい」
「ん?」
晴樹が何を言ったのか聞き取れず、僕だけでなく雨谷も首を傾げる。
晴樹は息を吸い込むと、今度は雨谷の目を見てはっきりと言った。
「お父さんとお母さんの、仇を討ちたい」
「へえ、立派な回答だ」
雨谷は満足そうな顔でそう言うと、僕を見る。
「ほら、守るだけかい?まだ隠してるだろ?本心」
雨谷の目に吸い込まれそうな気分になる。気付けば、僕は口を開いていた。
「・・・殺したい。父さんと母さんを殺したあの狐を、僕は殺したい」
「はいはい、よくできました~!」
雨谷がニコニコと笑うと、体が軽くなった気がした。そして今になって、どうして
自分は見ず知らずのこいつらと話しているんだろうという気持ちになる。
「いや~、これで恨んでませんーなんて言われたら夜月へし折るところだったよ」
「そんなことをすればあの方に怒られてしまいますよ」
「あー、タケちん怒らせたら怖いんだよね~」
雪華の言葉に雨谷がそう言って苦笑いを浮かべる。すると、晴樹が言った。
「・・・ねえ。さっきも言ってたけど、タケちんって・・・誰?」
雨谷はキョトンとした顔をすると言った。
「え?タケちんはタケちんだよ」
「・・・雨谷様、おそらくそれでは伝わらないかと」
雪華はそう言うと、僕達を見て言った。
「雨谷様の仰っているタケちんとは、山霧 武様。お二人の御父上のことでござい
ます」
「父さんの知り合い?!」
僕が驚いて言うと、雨谷はヘラヘラと笑いながら言った。
「知り合いもなにも、オイラはずーっと前から山霧家の知り合いだぞー」
「え・・・?」
晴樹が困惑した表情を浮かべる。すると、雪華が補足するように言った。
「妖刀、夜月が山霧家に代々伝わる刀であるということはご存じでしょうか。
その夜月を作ったのが、雨谷様でございます。・・・千年以上も前になりますが、
雨谷様は山霧家当主の依頼で妖刀を作っておりました。しかし妖刀とは人間の身
には過ぎた物。ですから、雨谷様は夜月の所有者が変わる度にこうして質問をして
いらっしゃるのです」
「そういや所有者変わったって言ってたなーと思って、タケちんの家に行ったらさ?
死んでるんだもん、びっくりしたよね~。こっちに残ってたから良かったけどさ、
成仏してたらオイラ途方に暮れてたよ」
あはは~と暢気に笑いながら雨谷は言う。
情報を整理するために黙って聞いていたが、ふと気になった。
「こっち・・・?」
呟いた僕に、雨谷は頷く。
「現世って言うんだっけ?タケちんもタケちんの奥さんも、タケちんの家の庭にある
墓っぽい所で駄弁ってたよ~」
「それって、幽霊・・・?」
晴樹が聞くと、そんな感じ~と雨谷は頷く。
・・・そうか、父さんと母さんはまだあそこに居たんだ。そんな事を考えている
と、雨谷が言った。
「あーそうそう、タケちんが言ってたんだけどさあ。・・・静也、夜月でスイカ割り
したんだって?」
「あっ・・・」
確かに一昨年の夏、和正の提案で夜月を使ってスイカを斬った。
あの時誠が笑い声がどうとか言っていたが、もしや・・・。
「・・・見られてたね、静兄」
晴樹がボソリと言う。ヤバいと思ってちらりと雨谷を見ると、雨谷は楽しそうに
笑っていた。
「いや~、タケちんも意味不明な使い方してたけど、まさか息子もするとはね~」
他にはどんな使い方したの?と雨谷は僕の目を見る。また目に吸い込まれそうな
気分になり、直感的に嘘が吐けないやつだと感じる。
「えっと、その・・・妖の口が閉じないようにストッパーにしたり、避雷針代わりに
したり、とか・・・」
僕の言葉に、雨谷はタケちんと同じことしてるじゃーん!と腹を抱えて笑い出す。
僕と晴樹が顔を見合わせていると、雪華が言った。
「・・・雨谷様、そろそろお時間でございます」
「え、マジで?もうそんな時間か~」
雨谷は少し寂しそうな顔をすると、僕と晴樹を見て言った。
「そうだそうだ、タケちんから伝言預かってたんだった」
「伝言?」
僕と晴樹が首を傾げると、雨谷はコホンと咳払いをして言った。
「『静也、晴樹、辛い思い沢山させてごめんな。父さんも母さんも、ここで二人の
ことずっと見守ってるから。どんなに離れていても、一緒だ。・・・大好きだよ』
だってさ~」
雨谷から父さんの声で言われた伝言に、気付けば涙が溢れていた。
とめどなく溢れる涙を必死に拭っていると、雪華が僕と晴樹に言った。
「奥様からも伝言を預かっております。お伝えしてもよろしいでしょうか」
僕達が頷くと、雪華もコホンと咳払いをして言った。
「『静、晴、お母さんだよ~!ちゃんとご飯食べてる?お風呂も入ってる?
えっと・・・死んじゃってごめんね。でも安心して!お母さんもお父さんも
元気です!!』・・・以上です」
雪華が母さんの声で言った伝言に、思わず吹き出す。流石母さんだなあと思い
ながら晴樹を見ると、晴樹が事件以前と同じ笑顔で笑っていた。
晴樹の笑顔につられて、僕も笑う。涙を流しながらも笑っている僕達を見て、
雨谷が優しい笑みを浮かべている気がした。
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