異能力と妖と

彩茸

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夏季休暇編

母親

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―――焼き上がった食材を皿に取る間、皆は無言だった。時折心配そうに林の方を
見ては、視線を皿に戻す。
誠と晴樹が食べ始めたのを見て他の人達も食べ始めたのだが、和やかな空気は消えて
いた。

「ねえ静くん、このソーセージ貰って良い?」

「え、いやそれ和正のだから。僕の肉やるから置いとけよ」

「え、良いの?!ありがとう!」

 僕と誠のやり取りを見ていた彩音がクスリと笑う。それを見ていた清水さんが、
 彩音に言った。

「神宮さん、焼きナス食べないなら貰っちゃいますよ?」

「ええ?!違うわよ、好きだから後で食べるの!」

 彩音の言葉に、晴樹が静兄と同類・・・と呟く。それを聞いた誰かがクスリと
 笑い、その笑いは皆に伝播していった。
 元の空気に戻ったことに内心ほっとしていると、誠が小声で言った。

「・・・静くん、あの子」

 誠の指さした方を見ると、照真くんが林から出てきてキョロキョロと辺りを見回し
 ていた。
 そして僕達を見つけると駆け寄って来て、泣きそうな声で言った。

「おにーちゃん・・・助けて」

 僕と誠は顔を見合わせる。すると、晴樹が言った。

「・・・行ってきなよ。静兄達の分、残しておくから」

 僕と誠は頷くと、照真くんと共に林へ向かう。
 林に入る直前、照真くんが言った。

「あのね、おかーさんと話してる和正おにーちゃんがね、凄く、怖くて・・・」

「あー・・・何となく、想像できちゃったかも」

 誠の言葉に首を傾げると、誠は見たら分かるよと苦笑いを浮かべた。



―――林の中を進むと、女性と和正の声が聞こえた。僕達は茂みに隠れて様子を
見る。

「その後、照真が生まれて・・・。新しい人がね、とても良い人なの」

「へー、そうなんですか」

「あんな父親とは違って、とても優しくて・・・」

「良かったじゃないですか」

「だから、その・・・和正も、うちにっ」

「・・・この話、いつまで続くんですか?そろそろ戻って良いですかね」

 女性と話す和正の目は、とても冷ややかで。初めて見る和正の表情に、思わず
 息を呑む。
 小さく震える照真くんを撫でる誠は、とても悲しそうな顔をしていた。

「ごめんっ、本当にごめんね、和正・・・!」

 そう言って女性が伸ばした手を、和正は振り払う。
 そして、抑揚のない声で言った。

「何に対してのなんですか?殴ったこと?蹴ったこと?首を絞めたこと?
 食事を出さなかったこと?ベランダから突き落とそうとしたこと?
 ・・・それとも、産まなきゃ良かったって言ったことですかね?」

「そっ、それは・・・!」

「・・・俺を殺そうとした奴が、簡単に許されると思うなよ」

 そう言った和正の瞳には、暗い闇が広がっていた。
 声を上げて泣き出す女性に、和正は軽蔑の眼差しを向ける。その様子を見ていた
 照真くんも、声を上げて泣き出した。
 和正は隠れていた僕達に気付くと、見てたのかと呟く。すると誠が茂みから飛び
 出し、和正に抱き着いた。

「誠・・・?」

 首を傾げる和正に、誠は言った。

「和くん、こっち来て」

 誠は和正を連れて林のさらに奥へと消えて行く。
 残された僕は、泣き続ける照真くんをあやしていた。



―――泣き止んだ照真くんを撫でていると、申し訳なさそうな顔をして女性がやって
来た。

「・・・すみません、照真を見てくださってありがとうございます」

 そう言った女性に僕は気にしないでくださいと言うと、照真くんを見る。

「照真くん、あとは誠が何とかしてくれます。だから、安心してください」

 僕が微笑むと、照真くんはコクリと頷いて女性を見る。そして女性に抱き着くと、
 小さな声で言った。

「おかーさん、和正おにーちゃんって、おれのお兄ちゃんなの?」

 女性は照真くんを撫でながら、そうよと頷く。

「お母さん、悪いことしちゃってね。・・・いっぱい、お兄ちゃんを傷付けて
 しまった」

 泣きそうな顔でそう言った女性を、照真くんは心配そうな目で見つめる。
 さっきの和正の言葉を聞く限り、この女性は相当ひどいことをしたのだろう。

「・・・今のあなたは、和正をどうしたいんですか?」

 僕がそう聞くと、女性は目を伏せて言った。

「できることなら、うちに戻ってきてほしいです。あの子にしたことが許されるとは
 思っていません。だけど・・・私は、今度こそあの子を愛してあげたい」

 ・・・誠に、この声は聞こえているだろうか。
 あんな顔をした和正に、僕はどう接すれば良いのか分からない。だから、和正の
 ことを一番よく知っている誠に頼る以外の選択肢が無いんだ。



―――暫くすると、誠が和正を連れて戻って来る。よく見ると和正の目は腫れて
おり、僕の視線に気付いたのか和正は顔を逸らした。

「・・・まだ居たんですか」

 和正が女性にそう言うと、女性は気まずそうな顔をしつつも和正を見て言った。

「ごめんね、本当は私を見るのも嫌なはずなのに。・・・お話してくれて、
 ありがとう」

 和正に頭を下げた女性は、照真くんを連れて立ち去る。
 女性の姿が見えなくなった後、和正は苦笑いを浮かべて言った。

「・・・ごめんな、変なとこ見せちゃって」

 僕は首を横に振り、和正の頭を優しく撫でる。和正は驚いた顔をした後、
 ありがとうと笑みを浮かべた。

「戻ろう、もう皆食べ始めてるんだ」

「俺の分残ってるかな・・・」

 僕の言葉に和正は心配そうな顔をする。

「晴くんがボク達の分取っておいてくれるって言ってたよ!」

 誠が笑顔で言うと、なら安心だな!と和正も笑顔で言った。
 三人で皆の所へ戻る。心配そうな顔をしていた皆に、和正はいつもの笑顔で
 言った。

「悪い、心配掛けたな!」
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